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一応の決着

 ユーリはバックステップを踏むと軽やかに飛び上がり、カミュと俺を守るように降り立つ。

 右手には折れた槍を持っている。


「うああ、いたいいたいたいいたい」


 ナマは口から折れた槍を吐き出し転げまわっている。

 俺の腕の代わりに槍を突っ込んだということか。


 ユーリはバルキリーアーマーを着ている。ヴァルキリーアーマーのレアリティは☆3だが、もしヴァルキリーアーマーと契約して昇級しているならレアリティは☆4ということになる。それならアスモの術も効かない。この中では一番強い。ナマがノーレアでなければの話だが。


「悪いですが、腰の袋からポーションをとってくれませんか? 抱きとめたとき腕が折れたらしく」


 やはり、さっきのぐきっという音はカミュの腕が折れた音だったらしい。

 病弱なのに体をはらしてしまい申し訳ない。俺は腰の袋からポーションを取り出すとカミュの飲ませた。

 ちなみに腰の袋にはポーションが3つ入っており既に2つは空だった。ここに来るまでに2つ飲んだのだろう。どんだけ病弱なんだ。

 そして最後のポーションを飲んだということはこれ以上カミュは無理させられないということでもあった。


「ついに、実行現場を押さえましたアスモ。あなたが私たちの兄弟を殺していた犯人ですね? 」


 しかしカミュはそういうとぐいっと前に出ていこうとする。


 いやいや、それはやめた方がいいんじゃないか? 興奮するだけで吐血するのに。思わずカミュの袖を引っ張る。


「心配しなくて大丈夫です。カマセは私が守ります」


 にっこりと笑うカミュ。

 でも心配してるのはカミュの体なんだが? 助けを求めてユーリを見るとユーリもそう思ったのか静かにうなづく。


「ここは私にお任せください」


「でもユーリは交渉とか苦手だろう? 」


「その心配は無用です。なぜなら」


 ユーリは振り向きざまに折れた槍をノマに放った。


「ギャー!!! 」


 折れていたはずの槍が再生してノマを串刺しにする。


「もう交渉の段階は過ぎているからです。奴らが兄弟を殺したのは明白。ならば排除するのみです」


 いつの間にかユーリの手にはカミュの空になったポーションの瓶が握られている。

 ユーリはポーションの口の部分にキスをするとポーションの瓶は槍へと変化する。


「へぇ、面白いね。それが君の、いや、その魔道具の能力かい? ただのエッチな鎧じゃないんだね? 」


 槍を引き抜こうともがくナマを横目にアスモがちゃかす。

 ナマが串刺しになっているのに余裕の笑みを崩そうとはしない。ナマがノーレアならこの程度で死ぬわけないからだろうか? 


「カ、ラダ、わたしのカラダこわれル」


 それにしてはナマは本気でもがき苦しんでいるように見えるが。


「…」


 ユーリはアスモの質問には答えず、無言でアスモに襲い掛かった。

 一瞬で間を詰めると首を狙って槍を一閃する。


「ちょっとちょっと、話は最後まで聞こうよ? 」


 簡単に避けるアスモだがユーリの狙いは別にあった。


「ぎゃ!? 」


 一閃された槍の間合いにはノマも入っていた。最初からノマ狙いだったのか、あるいは一度に二人の首を狙っていたのか。ノマの首が空に飛ぶ。


「あららぁ」


 転がる首を眺めて嘆くアスモ。


「メがめわルルルル」


 ノマは首をはねられて生きているらしく。のんきなことを言っている。


「体がなくなったカラ、もう刺されたところ痛くナイ」


 なんか意味不明なことも言っている。


「ちっ、化け物が」


 ユーリがナマの頭をつぶそうと槍をたたきつけるが、たたきつけられた先でナマの頭は肉塊に変化する。


「!?」


 肉塊に変化したナマの頭はいくつかに分裂すると、ミミズのようにはいつくばって自身の体に戻ろうとする。


「させるか! 」


 ユーリはもう一度ナマの身体へ槍を放つ。槍もろともナマの身体を肉塊から遠ざけようとした。しかし、的中したナマの身体は頭と同じように肉塊に変化すると、頭の肉塊と合流してうごめく。


「これは一体」


 カミュが愕然とつぶやく。


「くっ」


 予期せぬ事態に、ナマを始末するよりカミュを守ることを優先したか、ユーリは俺たちの方に戻ってくる。2つ目のポーション瓶を槍に変える。


「主人を守ることを優先したか。正しい判断だね。君の力ではナマ様を倒すことはできないから」


 アスモは苦笑いしてナマを見る。


「でもまぁ、君たちが思っているほど絶望的な状況じゃないよ。たんにナマ様が人間の姿を保てなくなっただけだからね。引き分けってところじゃないかな? 」


「モドレナイもとにモドレナイヨ? 」


 ナマだった肉塊がぐにょぐにょと蠢く。


「ああ、せっかく今まで頑張ってここまで育てたのに台無しだよ。やっぱり☆が増えるのは一人2つまでなのかな。それ以上は全く増えなかったし。ねぇ? 」


☆というのはやはりレアリティのことをさしているらしい。レアリティも基本的に2つまでしか上がらない。そのことを言っているのだとすれば俺に対して鎌をかけているのか? そう思ったがアスモが見つめているのはユーリだった。


「君は元々☆は一つしか持っていなかったよね? なのに今はどうして…まぁ、なんとなくからくりは分かったけどね」


アスモは半裸のユーリの身体を見つめる。いや、見ているのはヴァルキリーアーマーの方か。

基本的に星の昇級は2つまでだが魔道具を使えばそれ以上になる。そのからくりがアスモにも勘づかれたということだろうか?


なぜ、彼らが星の昇級を目指すのか?

理由は何となくわかる。ゲーム通りの理由なら、ノーレアを転生させるためだ。

転生は同レアリティのキャラでしかできない。今回ノーレアの強さがものすごく微妙なのも器となるノマのレアリティが不足しているからではないだろうか?

それが正しいのかどうかは分からない。転生はゲームではナビ子しかできないはずだった。

だが、仮にそれが正しいのならナマもまたアスモに利用されているのかもしれない。


「お互い、自分たちの目的のために頑張ろうじゃないか」


 アスモは肩をすくめる。


「仕方ない帰ろうナマ様」


 瞬間、アスモとナマの姿は消えていた。



「カミュ様? いったいいつからそこに? 」


 シャマンの戸惑う声。

 見ればアスモに操られていたみんなが正気を取り戻している。彼らから一瞬にしてカミュとユーリが現れたように見えただろう。


「これはいったいどうしたことか? 」


 トンスコンが説明を求める。


「賊が侵入し、それを撃退しました。」


 カミュが跪き、答える。


「賊? 」


「お父様の良く知っている人物かと」


 心当たりがあるのか押し黙るトンスコン。アスモがいなくなってるし大体の察しはつくだろう。

 ここでアスモとナマを糾弾しないのはやはりトンスコンが彼らの行動を黙認しているからと、それを踏まえて証拠を出せないからか。

 カミュとユーリ、そしてカマセという目撃者はいるがそれだけでも足りないということみたいだ。

 トンスコンは目をさらし傍らのユーリに目をつける。


「ユーリか。久しいな」


「うっ」


 マントで身を隠し蹲るユーリ。さっきまでの毅然とした態度が嘘のように顔色が悪く縮こまってしまう。


「どうした? 何か申してみろ」


「私は…」


「父上、聞けばカマセは自身のメイドを戻してもらえるよう訴えに来たとか」


 見かねたカミュが割り込む。


「メイド達はカマセに怪我をさせた罪で奴隷に落とされたとのことですが、カマセが階段から落ちたのは自身の不注意からということですね。それならばメイド達にそのような罰を与えるのは過ぎた処置かと思います」


「出過ぎたことを申すな。カマセは子供なのだ。至らぬこともある。それを守るのがメイドたちの役目だ。それを怠った以上、責任は問わなくてはならぬ」


「もしそれが、メイド達では手に負えぬ者の仕業でも、ですか? 」


「どういうことだ? 」


「私は先ほどここに賊が現れたと申し上げました。しかし父上はそれに気づきもしなかった。その族のせいで我々兄弟のうちの何人もが命を落としているといのに。ならば、カマセが怪我をしたのもその賊のせいであるとは考えられませんか? 」


「そんなことはありえぬ」


「どうしてありえないと言い切れるのですか? 」


「それは…」


 ノマ達の犯行はトンスコンに黙認されているとはいえ、一応のルールがあるみたいだった。おそらく、本命の世継ぎ候補の俺たちには手出ししないという。

 しかしそれを話せばトンスコンが黙認していることを認めることになるからいうことはできない。


「まぁよいでしょう。どちらにしろメイド達は返すという話になっていたようですし。それならば私とて深入りする必要も感じません。どうしてそうなったのかはわかりませんが、カマセとリアルとでメイド達を2対2で折半することになったのでしょう? 」


「…」


 トンスコンが反論できないことをいいことに既成事実を作ろうとするカミュ。

 トンスコンは押し黙るしかないようだ。

 これは、なんだかんだで全部ナマたちのせいにする作戦成功か。正確にはナマがやっていることを黙っている代わりに有耶無耶にする、という状況だが。

 トンスコンからの反論が無ければなし崩し的にそれが認められることになる。傍らのシャマンも特に異を唱えることはなさそうだ。ではこれで決まりか?


「カミュ…あなた勝手に出てきて何を話をまとめようとしているのです? 」


 ところが異を唱える者がいた。イセリナだ。いい感じに落ち着きそうなのに邪魔してくる。理由は何となく気にくわないからか、イセリナは赤メイドを使ってリアルをはめようとしていたんだから大人しくしていたほうが賢明だと思うのだが。


「イセリナ様も災難でしたね。こんなことに巻き込まれてしまって」


「え? 」


「どうやらそのメイドは族に暗示に掛けられていた様子。族も高貴な貴族に術をかけることはできませんが、平民を操るのはわけがないと見えます」


 けれどイセリナなどカミュの敵ではなかった。貴族のコンプレックスを刺激しつつ上手くかわされる。


「イセリナ様も被害者だったということでしょう」


「そ、そう私は被害者なのよ」


 どういう思考回路化は謀らないがイセリナの中ではそういうことで落ち着いたようだ。

 カミュは全部賊、というかナマのせいということにして丸く収めてくれたみたいだ。


 リアルは特に文句もなくそれを傍観している。アスモが出てくるまでは有利に話を展開していたから一番反論があるのはリアルかと思ったのだが、特に不満はないらしい。


 そしてトンスコンへの直談判は幕を下ろした。


 …


 トンスコンの部屋からでるとユーリがよろめく。


「ユーリ大丈夫か?」


「すみませんカミュ様。あの男とは決別したはず。ですが体をさらすことはやはり怖いのです。決別したのならば肌をさらすくらいなんでもないはずなのに」


「ユーリは真面目だね。別になんでもかんでも克服しなくてよいよ。僕が君を支える部分がなくなってしまうからね」


「カミュ様」


「ぐふっ」


 吐血するカミュ。


「カミュ様!? 」


「最後の最後でしまらないね。ごめん。私はもうポーションを持っていないんだ。ポーションのあるところまで連れて行ってくれないか? 」


「それなら大丈夫です。予備のポーションなら私が」


 ユーリはそう言ってポーションを取り出すと口に含む。


「別に口移しじゃなくても自分で飲め・・・うぐぐ」


 有無を言わさずポーションを流し込んでいる。

 そういえば、ユーリは最初にポーション瓶を武器に変えたときは口にキスしていたけど、2回目は何もせずに武器に変えていた。あれは単に間接キスしたかっただけかもしれない。

 ユーリがカミュにポーションを飲ませていたはずなのに、なぜか今はユーリがカミュの唇を吸っている。


「カマセ、後からお前の部屋に行く。その時俺のメイドも連れていこう。最も俺のところにはメイドはいないから使用人ということになるがな。」


 呆然とカミュとユーリを眺めていると、リアルがポンと頭に手を置く。

 なんか先の提案が通ったことになっている。さっきはあれほど反対していたのにリアルは本当にこれでいいのだろうか?

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