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☆☆☆☆☆☆

「!? 」


「なんだ貴様? いつからそこにいた? 」


 突然の闖入者に慌てるカルマとリアル。


「嫌だなぁ。僕のことは気にせず話を進めてよ」


 いつの間にか、そこにいたのは紫のコピペ悪魔。アスモだった。


「ナマの使い魔か。いったい何の用だ? 」


 俺とリアルをしばらく傍観していたトンスコンが、久しぶりに口を開いた。


「なんか面白いことやってるなと思って見に来ただけだよ。そんなことよりトンスコン様、この二人ってちょっと似すぎてない? 僕の気のせいかな? 」


 なんだこいつ。この機に乗じてカマセを陥れる気か?

 俺は冷や汗をかく。さすがに二人並べてよく見れば似ていることがバレバレかもしれない。


「どこがだ? 」


 しかしトンスコンは眉をひそめた。


「さすがに似ても似つかないんじゃないか? 」


 今は敵対しているはずのリアルまで同意してくれる。


「…」


 カルマだけ顔色が悪くいが、イセリナもポケーっとしている。


「へぇ、これでも駄目なのか」


 アスモはつまらなそうに舌打ちした。


「これもう自然に気が付くのは無理なんじゃない? ねぇ、お父さん? 」


 唯一反応しているカルマの方をぽんと叩くアスモだったが、カルマは押し黙るだけだった。


 どうやらカマセとカルマが似ているのは、カルマとアスモしか分からないらしい。

 やはり認識疎外の魔法でもかかっているのだろうか?


 カルマの話だと、トンスコンの子供100人を殺した可能性が高いのはアスモだと言う。

 カマセは正の子供だから手は出せなかったが、この機に乗じて潰そうと思ってでてきたってところか。抜け目のない奴だ。


 けどどうせ出てきたんだからなんとか利用できないかと考える。全部こいつのせいにできれば一番良心も傷まないし。


 …なんだか唐突に思い出しましたが、僕が階段から落ちたとき紫の髪を見た気がします!


 さすがにこんなこと言ってら嘘だとバレバレだよなぁ…

 問題は誰が本当のことを言っているかではなく、どこを落としどころにするかだ。だとしたら言ってみるのは有りなのかもしれないが、いくらなんでも無謀な気がする。

 何より俺が言ってて棒読みになりそうだ。明らかに嘘すぎて言ってて恥ずかしくなりそう。


 それに下手に目立って目を付けられるとカマセが時期領主になるという正史が変わってしまうかもしれない。というか殺されるかもしれない。確かにメイド達は助けたいが1番の目的は自分の世界に戻ることだ。そのために危険な行動はすべきではない。とるべきではないが…


「それじゃあね。お邪魔みたいだから僕は帰るよ」


 考えているうちにアスモはこの場から去ろうとする。不味い。


「僕を階段から突き落としたのは貴方ではありませんか? 」


 結局、リスクを承知でアスモも巻き込むことにした。

 子供殺しの犯人が公然の秘密であれば指摘しても問題ないのではないかと思ったからだ。

 アスモは何らかの方法で今まで誤魔化してたんだから今回も誤魔化せばいいんじゃないか? そのついでにちょっと俺を突き落としたかもしれないという罪をかぶってもらおう。さっきカマセとカルマの子供ではないかと告発しようとしていたのだし、それくらいの借りは返してもらってもいいんじゃないだろうか?


 この場に☆3の存在が少なくとも二人はいるのも大きい。トンスコンとシャマン。特にシャマンはチュートリアルの黒幕だし。余り便りたい存在ではないが使えるものは何でも使おう。やつらは俺がカマセなら守らないといけないはずだ。


 しかしなんとか呼び止めなくてはと思った結果、ド直球の質問になってしまった。でもまぁ俺の見た目5歳児なんだからあんまり小賢しくないという点では許容範囲かなとは思うのだが。


「どうしてそう思うの? 」


 一応興味はひけたらしい。アスモは面白そうに聞く。


「他の兄弟を殺したのが貴方なんでしょう? なら僕の命を狙ったのも貴方でないかと」


 最初にあった時は自分でそう匂わせてたし、別に指摘してもいいよな?

 そう思いつつも地雷じゃないかを注意深く観察する。


「え~僕は殺してないよ」


 相変わらず軽い感じで答える明日も。今のところ逆鱗に触れたということはなさそうだが?


「ナマお兄様は人とは違う異形の形をしていて、人を喰らうと聞いています」


「誰がそんなこと言ったのさ。そんなの真っ赤な嘘だよ。ねぇ、トンスコン様? 」


「…」


 じっと目を閉じるトンスコン。


 トンスコンはナマの奇行を黙認している可能性があるという話だった。

 例えトンスコンの子供たちを殺しているのがアスモでもトンスコンが黙認している以上それに意見できるものはいない。ここはトンスコンの国なのだから。面と向かって反抗できるものはいない。

 でもそれを俺たちに明確に認めることはまずいはずだ。トンスコンにも恥も外聞もある。だから女たちとの情事を見られて気まずくなってシャマンを連れてきたわけだし。


 ここまでは予定通りだ。後はその弱みにつけ込んでメイド達を返してもらうように譲歩させる。


「そうだヨ。嘘だヨ。だってナマお姉ちゃん、だもん」


 ところが変わりに質問に応えたのは女の声だった。


「? 」


 しかし声はすれども姿は見えない。


「ナマ様来ちゃったの? 」


「だってナマのことお兄ちゃんていうかラ」


 アスモは虚空を見つめながら声と話をし始める。

 普通ならただの危ないやつだが、ここはゲームの世界だからテレパシー的ななにかで話しているのだろう。

 腹話術、ではない。女の声とアスモの声は明らかに違う。

 俺たちの事など無視して楽しげに談笑し始める。彼らの会話から察するにこの声がナマらしいのだが…


 一体何のつもりだ? これは何かのパフォーマンスか? 俺たちはやべー奴らだぞっていう?


 他のみんなも戸惑っているんじゃないかと思い周りを見るが、トンスコンは視点の定まらない瞳でぼんやりと前を眺めている。隣のシャマンも。いや…2人だけではない。リアルもイセリナもカルマもメイドも全員目がとろんとして心ここにあらずと言う感じだ。以前アスモが門番にやったように操られているみたいだ。俺以外。


 あれ? これってもしかしてやばい状況なのでは?


 トンスコンもシャマンも☆3の強さがあるのに簡単に操られている。シャマンなんてチュートリアルの黒幕なのに。


 そんなにアスモの力は強力なのか?


 シャマンより強い力を持つならチュートリアルの黒幕はアスモでないと可笑しいのでは? アスモとナマの脅威を見誤ったか?


「それにナマおなかすいちゃった。もっとたくさん☆がほしい。そうしないとナマ、人間になれないヨ」


「でももう同じ血族の子供たちは彼らくらいしか残ってないんだよね」


 アスモはちらっと俺たちの方を見る。

 とっさに周りの真似をして操られているふりをする。俺が操られていることがばれてないのならここは目立たずに操られているふりをしてやり過ごしたほうがいいだろう。

 トンスコンの子供たちを殺したのはこいつらだとほのめかしているし。むしろ食べたとか言ってるし。操られていないとわかったら口封じに何をされるかわからない。


「さすがに彼らを食べさせちゃうとあいつに怒られちゃうよ。ここはひとつトンスコン様にもっと励んでもらわないとダメかなぁ」


 俺はなぜ操られていないのだろう?

 何か意味があって放置されてるのかと思ったがそういうわけでもないらしい。異世界から来たからだろうか?


「ところでキミどうして正気なノ? 」


「!」


 ふいに目の前に少女が現れた。

 アスモと同じ紫色の髪。目の色は金色で猛禽類のように縦に線がはいっている。人間の容姿ではない。

 驚いて後ずさるが、驚いた理由はそれだけではなかった。


 ノーレア?


 俺は思わずその名前を口にしそうになるがなんとか飲み込んだ。その顔には見覚えがあった。リセマラしたときでたキャラクター。それも最高ランクの☆6の。


 方舟を燃やす邪神ノーレア。それが彼女の名前だったはずだ。


 なぜ彼女がナマを名乗っているのか? リセマラの☆6確定ガチャのキャラは300年前に亡くなったという設定のはず。なぜ今存在できているのか? 

 別人、ということはないだろう。アスモみたいな☆3じゃあるまいし。最高ランクの☆6キャラを使いまわししたら誰も課金してもらえなくなる。


 疑問はいろいろあったが、分かっているのはこの状況が非常に不味いということだった。


 彼女が本当にノーレアだった場合そのレアリティは当然☆6ということになる。キャラの強さはだいたいレアリティによって変わってくる。


 ☆1で一般人☆2で一般兵士☆3でエリート兵士


 そして☆4で達人☆5で英雄☆6は神話クラスだ。彼女が本当にノーレアなら神話クラスの力を持っているということになる。


 だいたい二つ名が方舟を燃やす邪神だし。方舟というのはたぶんノアの方舟の事だろう。それだけで神話クラスの力を持っていると示唆されている。


 ノアの方舟というのはいろんな創作物によく出てくるので今更なんだが、大洪水から逃れるためノアと動物たちが乗り込んだという方舟のことだ。大洪水後他の生物たちは死に絶え、船で生き残った動物たちが現在の生物たちの祖先になったという。


 一応ノーレアっていうのはそのときの登場人物として本当に存在する。有名なノアの方舟は実は2隻目で1隻目は彼女が燃やしたらしい。ノアが方舟に乗せないって言ったからだから本当に邪悪かというと?なきがするけど。


「どうやらカマセ様は中身が違うみたいなんだ。カマセ様の持つ星は1つだけのはずなのに。中身の魂はもっと複数の星を持っている。だからうまくなじめていないみたいだけど」


「星いっぱいアルの? だったら美味しいネ? 」


「僕は3つまでしか見れないけどそれ以上はあるよ。ナマ様と同じだね」


「同じなんダ」


 目を輝かせて俺を見る彼女。そしてヨダレをふく。おいおい…


 星がどうのとか言っているのはひょっとしてレアリティのことだろうか? アスモにそんな能力があるのは初耳だったが、カマセは☆1だったと言っているし、☆3のアスモは☆3までしか見れないと言うのも妥当な気がする。

 俺が宿ったことでカマセのレアリティが変化して、だからカマセに別人が宿ったとばれたということか?

 それならイセリナの次女が俺のことを一目で転生者と見破ったのも説明が付く。イセリナの次女ということはカマセにも何度か会っていたはずだし。

 そうすると俺にもレアリティが付与されていて☆4以上ということになるが…


「食べちゃ駄目だよ…と言いたいところだけど、中身が違うなら別にいいかな。「あいつ」は異世界からの来訪者が嫌いだからね」


「ヤッタ! 」


 ナマは満面の笑みを浮かべるとひょこひょこと俺の方に走ってくる。


 会話の流れからして俺を食いに来たらしい。

 馬鹿な。俺はカマセで正史だと時期領主でこんなところでなくなるキャラじゃない。


 俺は逃げ出そうと振り返るが、振り向いた先にナマがいた。


「なっ!」


 口がありえない大きさに広がる。


「いただきマス! 」


 食べられる?

 非現実的な光景に、身体がすくむ。

 俺が死んだら俺はどうなるのだろう?というと紛らわしいな。ここでカマセの肉体がしんだら俺の精神はどうなるのだろう? ということだ。都合よく元の世界に戻れたりは、しないだろうな。

 なら俺は死に。元の世界の俺も当然死に、俺の殺人の証拠が明るみに。

 家族は後ろ指刺され、妹はいじめにあい…


「そうは、いくか! 」


 俺は思いっきり右手をナマの口に突き出した。熊に食べられそうなとき、手をわざと突き出して攻撃するのが効果的だと聞いたことがある。いや、やっぱりサメだったかもしれない。よく覚えてない。でも確かにそういう話を聞いたことがあった。化け物に効果的なのかどうかはわからないが、避ける時間はなかった。そうするしか方法がなかった。


「危ない! 」


 しかし俺の右手がナマの口に突き出されることはなかった。いきなり誰かに首根っこをつかまれて後ろにほおり投げられたからだ。


「?」


 宙を舞い、地面にたたきつけられ、はしなかった。

 誰かが俺を抱きとめる。


 …ぐきっ


「大丈夫ですか? 」


 それは長髪の美男子。きゃしゃな体だが、思いっきり投げ飛ばされた俺を抱きとめられるなんて意外に力強い。抱き留められたときなんかぐきっとか聞こえたけど。


「カミュ…兄さん? 」


「よかった無事で」


 にっこりと笑う。


「よか…ごふっ」


 そして盛大に血を吐いた。


「兄さんが大丈夫ですか? 」


 吐血で俺の胸が真っ赤に染まるが、ま、まぁ助けてもらったし文句を言っても仕方ない。


 カミュがここにいるということは俺を投げ飛ばしたのは…


「いきなり魔物の口に手を突っ込むなどいったい何を考えているのですか? 」


 やはり。

 ユーリが呆れたように俺に視線を送る。

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