表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

敵の敵は味方じゃなかった

「彼女を切れば、残りのメイドは帰していただけますか? 」


 リアルが余裕の笑みを浮かべて問う。勝者の余裕というやつだ。


「約束通り情婦ともう1人は返そう。残りはならぬ」


「ならこのメイドを許す代わりに最後のメイドを頂きたい」


「なんだと? 」


「このメイドを生かすのですから代わりに貰うはずだったこのメイドの命の代わりに3人目のメイドを頂きたいといっているのです。私はこのメイドの生検与奪の権利を持っているのですから」


 リアルはまた妙なロジックを持ちだしてトンスコンを丸め込もうとしている。

 これが通るなら実質4人すべてのメイドの命を助けたことになる。3人のメイドの身柄を確保してナナリーの命も助けているからだ。ナナリーの命は風前の灯火だが。

 ということは俺も最初の目的は達してはいるということだ。何かカルマを世継ぎにしたい陣営にものすごいダメージを与えた代償として。

 現にリアルは「借りは返したぞ? 」みたいなまなざしで俺を見つめてくる。どや顔である。


 メイド達を助けるという意味では上手くはいったのかもしれない。上手くいったかもしれないがカマセのトンスコンの世継ぎとしての立場的には不味かった気がする。イセリナが今回の事でどんな罰を受けるかは分からないがそれがカマセにも少なからず影響するだろう。

 権力争いは興味はなかったが、俺が元の世界に戻るためにできれば正史は変えないでおきたい。


「恐れながら父上」


 俺は一瞬で解決策をまとめて提案することにする。

 俺は人より早く行動することで人より優れた行動をとってきた。

 臨機応変な対応は苦手だ。それが今回の事態をまねいてもいる。これは俺の得意とする分野ではない。手を出さないほうが無難だ。もしかしたら事態はさらに悪化するかもしれない。だが…


「まだ何かあるのか?」


 トンスコンはもううんざりだ、みたいな感じで俺を見た。

 最初に大物ぶってリアルに2人目のメイドを与えたせいで3人も取られる羽目になりそうだしな。

 その分最後まで残ったナナリーがひどい目に合いそうだけど。


「それだと僕はメイド3人をただ奪われたことになります。階段から落ちたという非は僕にあるとは思いますが、いくらなんでもそれでその仕打ちはあんまりではないでしょうか?」


「メイドはお前の所有物ではない。いらぬ考えを持つではない」


 メイドを奪われるのはイセリナがリアルをはめようとしたからその代償として、と切り捨てられると不味かったのだがトンスコンは俺を子供と見てそこまでは言わなかった。それならまだ付け入る隙がある。


「お父様はそう考えでしょうが、周りの者がそう考えるでしょうか?」


「なに?」


「お父様は既に私のメイドの1人の首をはねて、残りのメイドを奴隷に落としております。そのメイドの内の3人がお兄様の手に渡れば皆はどう思うでしょうか?」


「3人目を渡すことを認めた覚えはない」


 はぁそうですか。まぁどっちでもいいけどね。むしろそっちの方が都合がよい。


「では2人ですか。なんらかの駆け引きによってメイド2人を得たと考えるでしょう。そして結果的にメイド2人を得ているお兄様はその駆け引きに勝利したと。それは不味いのではないでしょうか。ねぇお母様?」


「え?」


 トンスコンに怒鳴られ放心していたイセリナがきょとんとする。

 にぶいな。そういうのには得意そうなのに。

 もしかしたらこの後トンスコンに恐ろしい罰を受けるのではないかと怯えていたのかもしれないが。何せ前の妻たちはトンスコンのハードなプレイに耐えきれず命を落としたと言うし。


「僕はこの国の世継ぎ候補なのでしょう? その僕からお兄様がなんらかの駆け引きに勝って僕のメイド2人をとりあげるんですよ? 」


 最初はぽかんとしていたが何を言いたいのか理解して顔がみるみる真っ赤になるイセリア。


「いけません! そんなこと! そんなこと絶対に! 」


 よかった。まだ覇気は残っていたか。

 なんらかの駆け引きに勝ったということはつまり、世継ぎ争いをそれだけリードしていると勘ぐられるかもしれないということだ。そういう事実があれば本人をは関係なくそういう話が進んでいくかもしれない。それはイセリアにとってはよくないことだ。もしトンスコンが俺を本当に世継ぎと考えているのならトンスコンにとっても良く無いことだ。


 今回のイセリナの行動でカマセが見限られる可能性はある。でもリアルは平民との間の子供で所詮はスペアだ。貴族との間の子供がいるうちは本命にはなれないはずだ。

 まずはイセリナが妃の座から追われて別の妃が連れてこられ新たな子供を作り、子供ができて初めてカマセが干されるはず。ならその間にカマセにはまだ挽回のチャンスがあるはずだ。例えイセリナな見限られようともカマセ個人の世継ぎとしての立場が。


 どうせならそこらへんどをイセリナにつっこんでもらってイセリナ自身の汚名返上につなげてもらいたかったのだが彼女には荷が重すぎたみたいだ。

 何と言っても自分で世継ぎ候補だのなんだの主張するのは自己主張が激しすぎるからな。カマセがトンスコンに愛されているならそれもまた好ましく映るかもしれないがそうともいいきれないし、目障りな奴ととらえられてしまうかもしれない。

 まぁイセリナが言ったって、リアルをはめようとしていたのにどの口がってなるから仕方ないか。


「駆け引きに勝利したも何も、実際母上の卑劣なたくらみを退けたのだから事実ではないか? 」


 敵の敵は味方というが現実はそうはいかないらしい。

 共通の目標がなくなったリアルが今度は敵として立ちはだかる。今度はリアルを上手く丸め込まないといけない。

 目標はナナリー含む全員を助けつつ、イセリナの名誉も回復させて、俺が相変わらず世継ぎの第一候補であると知らしめることだ。難易度高え。


「まずはメイドを2対2で分けましょう。お父様は3人目のメイドをお兄様に与えないといっています。ですから3人目のメイドとナナリー。2人は引き続き僕のメイドでいてもらいます」


 これでまずあの赤い髪のメイドの身柄を確保する。

 別に助けたいわけじゃない、数合わせだ、という名目で。

 ナナリーはイセリナと結託してリアルをはめようとしたが、やむおえない理由があってのことらしいし、まぁそこは別にどうでもいいか。俺が指摘したせいで殺されるのは寝覚めが悪いからだ。


「ほう、でもそれでは俺がただメイド2人を取り上げたことになるがそれでいいのか? 」


 よくない。だから続きがある。


「いえ、ですから代わりにお兄様のメイドを2人、いや3人いただきたいですね。2対2の交換だと僕たちの間は対等と言うことになってしまいます。2対3ならそうでないことも示せます。これはあくまでデモンストレーションです。お譲りいただいたらしばらくしたら後で返しても構いません。形式上僕のメイド2人とお兄様のメイド3人ををトレードしたことにするのです。これで僕達の間側は今までと変わらぬものであると示すことができます」


「俺がなぜそんなことを了承しなくてはならない? 」


「了承するはずですよ。なぜならそうしないとナナリーは助からないからです」


「なぜ俺があのメイドを助けないといけないのだ? 」


「それをこの場で言わせたいんですか? しいていうなら僕とそのように約束したからとでも言っておきましょうか? お兄様は僕との約束を守って4人のメイドを助けてくれたのでしょう? なら最後まで助けてもらわないと約束をはたしたことにはなりません」


 ふふん? みたいな感じで煽る俺。


「…ほう? 」


 俺はリアルにかまをかけることにした。

 ナナリーもまた、リアルの情婦ではないかといかと。だから助かることを望んでいるのではないかと。

 そう思った要因はいくつかあるが、一番怪しいと思ったのが罪の告白が素直すぎたことだ。タイミングを見計らっていたようだった。最初からそうするつもりだったようにも見えた。

 ただ勘違いである可能性も否定できない。というかその可能性の方が高かった。彼女はわざわざリアルを追い詰める側に回った。俺が口を挟まなければ彼女が罪を告白するタイミングはなかったようにも思える。

 それにたとえ彼女が情婦であっても既に関係は切れている可能性もある。

 例えば元情婦でエスラにリアルをとられた。だから彼女はエスラにきつく当たっていた。今回エスラを助けると知って嫉妬に駆られて告発したが、リアルを愛しているのは変わらないからすぐに嘘だと認めた、とかね。


「意味が分からんな。俺がそんなものを受ける利益がない」


 でも賭けには失敗したらしい。そううまくはいかんか。仕方ないのでプランBでいく。


「お兄様はエスラが情婦と言っていましたが、本当は彼女も情婦だったのでしょう。あらかじめ告発側に回ると約束していたのです。お母様をはめるために」


「何を言っている? 」


 プランB。事実がどうであるかは構わない言ったもん勝ち既成事実大作戦だ。


 強引にも思えるがもともとそういう話でもあったはずだ。エスラが犯人とされた時も別にエスラが犯人でないことは分かっていた。でも誰かを生贄にしないといけなかったから彼女のせいになっただけだ。今回もそれは同じ。丸く収めるために事実がどうだってかまわないのだ。


「お母様ははめられたのです! お兄様とあのメイドはぐるだったのですよ! 」


 後はイセリナに丸投げすることにした。

 これでイセリナもはめられたことにできる。イセリナの名誉も回復だ。適当にきれて怒ってくれればあることないことぶちまけるだろう。でも元々が嘘なのだからリアルも黙ってはいないはずだ。本当と言う証拠はないが嘘と言う証拠もない。話は平行線になる。どちらが悪いという点では振出しに戻る。

 だが、振出しに戻っても完全に戻ったわけではない。どちらが相手をはめようとしたのかと言う点で振出しに戻っただけで、カマセが階段から落ちた原因と言う点では俺のミスで加害者はいない。俺のミスなのだからメイド達は助かる…ように誘導する。

 本来なら、それでメイド達が助かるなら俺が最初から自分で階段から落ちたからメイドを助けてほしいと言った時点で助かっていたはずだ。だからメイド達を助けようと言う話にはならない。でも今回はそれを利用としたイセリナとリアル(はでっちあげだけど)のせいでどちらかに罰を与えなくてはならないように話を大きくしてしまった。トンスコンはどちらかを切らなくてはならない。でもきりたくないはず。だから時期領主争いで暗躍したエスラとイセリナという両者痛み分けの構図を作り出す。その条件にメイド達の分配という名目で助けるように盛り込ませる。

 上手くいけばそういうことにできる。俺の立ち回り次第では。後は誰かこのパスを、キャッチボールを、誰かが受け取ってくれれば。


「…」


 でもイセリナどころかトンスコンもシャマンも急な展開についていけないで戸惑っているみたいだった。、


 うーむ? 反応が鈍すぎる。


 なにか間違えたのか? 頭をフル回転して考える。

 イセリナは俺の考えが上手く伝わっていない。事前に打ち合わせできればまだなんとかなったのかもしれないが今からではもう遅い。

 トンスコンも何言ってるんだこいつみたいな目で俺を見ている。

 俺一人で勝手に話を理解して話を進めてしまったがみんな置いてきぼりをくらっている?


 そういえばトンスコンは本当にイセリナかリアルを切ることに躊躇していないのだろうか? そこまで深く考えていないのでは?

 それに俺の考え通りに話が進んだとして、トンスコンには奴隷を得るという意味では旨味がなかった。

 リアルの言うとおりに話が進めばメイドを2人奴隷として手に入れられるが、俺の提案を受けると奴隷は全て俺とリアルで折半されることになる。手元には残らない。世継ぎ争いに余計な火種を作らないためには俺の提案にのるのも利があると思うのだが、下半身に忠実なトンスコンはそれよりも奴隷を優先する可能性もある。あるいはそこまで考えが及ばないか。もしくは俺の考えの及ばない何かがある可能性もある。


 周りはやらかした空気に満ちていた。これはちょっと不味い。

 ここから挽回するためには…できればあまり使いたくなかったが仕方ない。


「そこのメイドは兄上の情婦だったあことは事実です。そうですよね? カルマ、さん」


「…はい。それは間違いありません。奥方様もそれはご存知でした。そうですよね奥方様。」


「え? あ、そうね」


 とりあえず仲間を作らないと仕方がないので絶対拒否しなさそうなカルマを引き込んでみたが、いい感じにイセリナも引きずり込んでくれた。


「彼女はリアル様に捨てられ別のメイドが寵愛を受けたことでリアル様を恨んでいる様子でした。だから彼女に話を聞くことにしたのです。それがこんなことになろうとは。とんだ食わせ物でした」


 しかもめっちゃフォローしてくれる。これでなんとか立て直せそう。

 カマセの父親にしては頭が回る。カマセの頭が悪いのはイセリナの方の血の影響か? 

 でも、あんまり有能すぎるとリアルだけが悪いということになって両者痛み分けに導くことができないからそれも困りものだけど。


「なぜ母上付きの騎士である貴様が俺の情事を理解している? 」


 うさんくさそうにカルマを見るリアル。


「奥方様付きの騎士であるからこそ、ご子息の面倒を見ているメイド達の事情を把握していなくてはなりませんでしたので」


「それは騎士の務めなのか? 俺はてっきり、父上に愛されない母上を慰めるのが騎士の務めかと思っていたぞ?」


 ギャー! それ以上はいけない!

 これだからカルマにはあまり話を振りたくなかったのだ。カルマとカマセの容姿はよく似ているし、意識してないからわからないかもしれないけど一緒に注目されると否が応でも見比べてしまう。さすがに似すぎていることがばれてしまう。今でもばれてないことが不思議なくらいだからな。


「いくらリアル様の言葉とは言え看過できないこともございます」


「俺に対して不敬ではないか? 」


 にらみ合う2人。空気がぴりつく。もともと合わなそうな二人だったがカルマがリアルをはめる方向に動いたため完全にお互いを敵と認識している。

 一髪触発の雰囲気が流れた。


「でもさぁ、確かに騎士様とカルマ様って似すぎだよね? 」


 その空気を壊したのは、場違いな少年の声だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ