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第六話『107の帰還』

 シゴロウたちはゾンビに囲まれ、横転した機動戦闘車の上に逃げ登る。追い打ちをかけるように化物のディザスターも姿を現し、身体に炎をまとわりつかせながら近づいてきた。


『コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイィィィィ!!』

 化物は怒り狂ったように絶叫を響かせ、腕を振るって近くの物を手あたり次第に破壊していった。


 攻撃しようにもシゴロウのアサルトライフルは弾切れで、桜花のサブマシンガンも機動戦闘車の車内に残されている。対抗手段は残っていなく、もはや打つ手は残っていなかった。

(……くっ、どうにか二人だけでも逃がせないものか)


 付近を見渡して脱出経路を探すが、機動戦闘車の近くに建物はなく離れ小島状態だ。

 シゴロウは自分自身を囮にと考えるが、すぐに良い案ではないと却下した。それだけゾンビの包囲は想定以上に厚く、すべての注意を向けることは不可能に近かったからだ。


「……シゴロウ君、もしかして馬鹿なことを考えていないかい?」

「安心しろ、考えていたが今やめたところだ」

「なるほど、賢明だね。さて、それじゃあ改めてこの状況をどうしようか?」


 思考を回している内にも、化物は刻一刻と迫ってきていた。ゾンビも機動戦闘車に手を掛け、叩き落してもどんどん登って来ようとしてくる。

 一か八かで包囲の薄い場所に跳んで逃げるか話し合っていると、ふと桜花が何かの異変に気づいた。


「シゴロウさん、野乃さん。……何か聞こえませんか?」

 言われた通り耳を澄ましてみると、ゾンビの声に混じってどこからかヒュンヒュンという音が聞こえた。縄か何かを回転させているような風切り音で、時間経つごとにシゴロウたちの方に近づいていた。

 

「あっ、あそこです!」

 桜花が指差した場所を見てみると、薄暗い闇の中に誰かが立っているのが見えた。その背は小さく、髪はモフッとした白色で、身に纏うのは見慣れたポンチョ型の服だった。


「…………107? 何故ここに……?」

 そこにいたのは、苦しんで眠っていたはずの107だ。体調が回復したのか歩みにふらつきはなく、シゴロウたちを囲むゾンビに向ける視線には強い威圧がこもっていた。


 風切り音の正体はどこから持って来たのか不明な太い黒のケーブルで、それを長く伸ばし高速で振り回している。近くを通りがかったゾンビが回転に巻き込まれ、強い衝撃音を響かせて遠くの大地に転がって死んだ。


『…………コワイ? コワイコワイ……?』

 化物のディザスターは疑問符を浮かべ、何本かの腕を動かして107を指差した。

 さらに大口を開けて金属を打ち響かせるような咆哮をしたかと思うと、近くにいたゾンビたちが命令に従うように107へと次々襲い掛かっていった。


「――――107!」

 とっさに名を呼ぶが、107は少しも焦った様子を見せなかった。

 縦に振り回していたケーブルを頭上に構え、横向きにして回転速度を上げていく。馬鹿正直に向かってきたゾンビは107の怪力を受け、血肉を弾き飛ばして近くの壁や地面に転がっていった。


 みるみるうちにゾンビの数が減っていき、化物は焦った様子で攻撃をやめさせる。するとそのタイミングを狙っていたとばかりに、107はケーブルを振り回したまま高く跳んだ。

 跳躍距離は軽く十メートルを超え、薄っすらと昇る朝の光に107の姿が照らされる。


 107は落下の勢いと共に、棒立ちする化物目掛けてケーブルを投げた。ケーブルは叩きつけるような勢いで身体に巻き付いていき、化物の動きを数秒ほど固定する。

 通常なら鱗粉ですり抜けるはずの攻撃だが、シゴロウによる火傷箇所が滑り止めとなっていた。


「……がぁう、がああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 着地と同時に107はケーブルをフルスイングし、三メートルを超える化物の巨体を宙に浮かした。一連の出来事はあまりにも早く、化物は反応できず身体を持っていかれ虚空を彷徨う。


 呆然とシゴロウたちが眺める先で、ドォンという地響きを鳴らし化物は地に落ちた。

 建物の向こう側には大量の土煙と灰が舞い散り、痛みに悶える絶叫が響いてくる。相当なダメージが入ったのは想像に難しくなく、瀕死になって動けないのかすぐに反撃はこなかった。


 研究所の戦いを軽く超える力を持つ107を見て、シゴロウの脳裏にはある予感が浮かぶ。その強さはどう見てもデンジャーのものではなく、たったの今まで戦っていたディザスターと同等のものに感じられた。


「107、その力はいったい……?」

 ポツリとシゴロウが呟き、近づこうとした時のことだった。ボスとも言える化物を倒され、動きを止めていたゾンビたちが再び暴れ出し、機動戦闘車の上にいるシゴロウたちに飛びつこうとしてきた。


 107の攻撃で数はだいぶ減っていたが、二体三体いるだけでもシゴロウたちには脅威だ。必死に足蹴して登ってくるのを阻止していると、視界の端で107が歩み寄ってくるのが見えた。


 いつもなら助けに駆け寄ってくれるところだが、107は焦った様子を見せず一定距離で立ち止まった。そして感情の薄い冷たい眼差しをし、ゾンビたちに向かってただ一言だけ発した。

「――――――去れ」


 命令するような声を受けた瞬間、ゾンビたちはビクリと身体を震わせた。そして指示を聞くかのようにシゴロウたちから目線を外し、近くにある建物の影を目指してゾロゾロと歩き去っていった。


 化物のディザスターがやっていたゾンビへの命令を、デンジャーであるはずの107がやった。さっきの戦闘での力といい、研究所を脱出する前と107の様子は変わっていた。


「……シゴロ、オーカ、ノノ。いきてる?」

 見た目に大きな変化が無くても、語り掛けてくる口調はこれまでと比較して明らかに人間らしかった。


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