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第一話『第二部プロローグ』

 ゾンビ研究所で起きたパンデミックを乗り越え、生き残った者たちは二つの集団に別れ目的地に向かい始めた。


 シゴロウたちが乗る車両団の行き先は、百年前に起きた第三次世界大戦時に名古屋があった場所。そこには黒幕である夜子が示した、ゾンビの『第二研究所』がある。


 第二研究所に向かうメンバーは全部で六人。リーダーである野乃とその補佐をする研究員男女二名。さらにシゴロウと107と桜花を加えての数だ。

 別れた集団の片方はゾンビ研究の本部がある東京行きで、メンバーは野乃の副リーダーが先導する形になっている。


 それぞれの移動手段は、研究所に残されていた乗り物を使用していた。

 シゴロウたちの班は移動用のラボを乗せたトレーラー一台と、様々な備品や武器を乗せたトラック一台。そして軍用ジープ一台と、高威力の火器類を使用できる機動戦闘車両一台という構成だった。


 四台が列を成して走り抜けていく光景は異様だったが、反応を見せる者は誰もいない。辺りの景色は灰色に包まれ、車の排気音しか響かぬほどの静寂に包まれている。

 チラホラと建物は見えるものの、窓には灯り一つなかった。夜明け前だからというだけでなく、灰の汚染が酷いためこの辺りの区画に人は住んでいなかったからだ。



 …………車両団の戦闘を行く機動戦闘車の中には、桜花と野乃が乗り込んでいた。

 野乃は車内に置いてあった操作マニュアルを流し読みし、わずか十分ほどで機動戦闘車の大まかな操縦を可能にした。だがさすがに火器系統を習得する時間は無く、砲手席に座っている桜花はお飾り状態だった。


(……私、本当に外の世界に来たんだ)

 照準器の画面に映る映像には、灰に覆われた木々や建物が見えている。自身が暮らしていた東京とも地下研究所とも違い、どこを見ても人の気配が感じられない寒々しさがあった。


 操作レバーを使い砲塔を動かしていくと、背後に並ぶ車両団が見えてきた。数は機動戦闘車を入れ全部で四台だが、その動きは非常に統制が取れている。まるで熟練の軍隊のような動きに、桜花ははてと疑問を浮かべた。


「――あの、野乃さん。一つ聞いてもいいですか?」

 照準画面から目を離しつつ問うが、エンジン音と荒れた道路を進む振動で声が遮られる。

 今度はより大きな声で、桜花は同じ言葉を掛けた。すると野乃はようやく気付き、ハンドル操作しながら「なんだい?」と落ち着いて声を返した。


「……詳しい人員について聞いてなかったんですけど、こっちは107ちゃんを含めて六人なんですよね? シゴロウさんは動けないですし、残った一台はどうやって動かしてるんですか?」

 

 機動戦闘車に二人、ラボ付きトレーラーに一人、残った二台のどちらかに一人の計算とするならば、誰も動かしていない車両が存在することになる。

 当然といえば当然の疑問に、野乃はふむと小さく頷いた。そしてハンドルから片手を離し、ポケットから携帯端末を取り出して画面をタップしていった。


「研究所を出てから一時間ぐらいか、だいぶ走ったしそろそろ休憩としよう。桜花ちゃんの疑問についてもついでに答えられるしね」

「………というと?」

「フフフ、ちょっとそこのハッチを開けて後ろを見てみるといい。面白いかはともかく、そっちの方が説明しやすい」


 上半身全体に力を込め、桜花は金属製のハッチをぐっと持ち上げた。そして開けた隙間から車両団の後ろを見ると、一台二台と走行を停止していくのが見えた。

 それぞれの車両が止まるタイミングは、やはり機械的な精度で連動している。だが日々地下にこもっていた研究員に、そのレベルの練度などあるはずなかった。


「野乃さん、今の動きって……」

「やっぱり桜花ちゃんは察しがいいね。実を言うと後ろの車両のほとんどは、私が用意したAIによる操縦で動いているんだよ」

「AIって、いつの間に?」

 桜花が疑問を浮かべると、野乃はAIについて色々説明をした。


 まず二人が乗る機動戦闘車だが、大半の操作はAIが行っている。自動給弾や発射する弾の弾道予測・計算など、操縦者本人が行わなくてもAIがやってくれるという優れものだ。

 車両団についても同じで、野乃たちが乗る機動戦闘車をメインとして追従するようになっている。もし危機が迫った時は自動で別れ、安全が確保されてから合流するというプログラムが組まれている。


「……自動運転は東京でもあったから分かりますけど、こんなレベルは聞いたことがないです」

「そうかい? 百年前でもあるまいし、軍では普通に実用化されてた技術だけどね」

「…………そういうものなんですか?」

「さすがにAIは自作の品じゃないし、大したことはしてないよ。フフフ、桜花ちゃんは私が何でもできる天才科学者か何かかと勘違いしてないかい?」


 そう言いつつも、野乃はどこか嬉しそうだった。

 話が終わると野乃は身体を伸ばし、運転で固まった肩をほぐした。そしてあくび一つついてから携帯端末を取り出し、補佐に残った二人の研究員へと連絡を始めた。


 手持無沙汰になった桜花はハッチを上まで開き、機動戦闘車から身を乗り出して辺りを見渡した。車両団が停車した場所は小高い丘で、少し離れた場所には灯りの無い町が見えた。

「あの奥にあるのが、私がいた東京……なんだよね」


 暗闇に包まれた景色の遥か果てに、夜明け前でも眩い光を見せる大都市があった。

 第三次世界大戦を経ても生き残り、かつて千葉・神奈川・埼玉という名で呼ばれていた三つの県を吸収し、東京は一つの独立国家のような存在として君臨していた。


 東京の境界線には汚染を中に運び込まないための壁が築かれていて、その外には灰から少しでも逃れようと集まった貧民たちの町がある。天国と称させる東京だが、その実態は深い闇に包まれていた。

 「こんなに近いのに……、すごく遠い」


 ほんの数十時間前まで、桜花は普通の女子高生だった。朝起きて学校に行き、クラスメイトと授業を受け、放課後は友人と過ごして帰宅する。そんな幸せを謳歌していた。

 当たり前の日常を捨てたことに、まったく後悔が無ければ嘘になる。野乃にも言われたが、外の世界は半端な覚悟で生きていける場所では無いからだ。


 しかし色々な要因を差し引きしても、桜花には見たいものがあった。それはゾンビ事件の顛末であり、シゴロウと107という二人の軌跡だ。

 兄の死といくつもの冒険を経て、桜花はこの物語に自分の人生を賭けようと決めていた。

(……あの二人なら、きっと大丈夫)


 研究所脱出の直前、改造ゾンビの少女107は、『怪物』のディザスターに何かを飲まされた。それ以降ずっと苦しんで目を覚まさず、シゴロウは看病として付きっ切りで傍に寄り添っている状態だ。


 すぐにでも二人の元に駆け付けたい桜花だったが、ぐっと堪えて移動用ラボに向けた視線を外した。野乃や他の研究員ならともかく、今桜花にできることなど何一つ無かったからだ。

「お荷物にならないように……何か私にできることを探さないと」


 呟きつつ、桜花は砲手席に置いたサブマシンガンを撫でるように触れた。それはシゴロウが研究所内で使用していたもので、重装騎士との戦いで捨てたものだ。

 脱出に際して床に落ちているのを見つけ、桜花が野乃に許可を取ってお守り代わりに回収したものである。


 サブマシンガンを手に取り、ぐっと胸元で抱いて葛藤した。そして操縦席にいる野乃へと、機動戦闘車に備わっている武器について使用方法を質問することにした。



 …………たった今桜花が得た思いは、ある意味で少女らしいものだ。

 夢見がちで現実が見えていなく、実行できるかすら怪しい。そんなことは桜花本人ですら分かっていてたが、胸に刻み込んだ決意は本物だった。


 ――二人の英雄が戻ってくるまで、桜花は死力を尽くして戦おうと決めた。

 

 第二部です。だいぶお待たせしました。

 ちょっとだけ桜花と野乃が主役となりますが、第二部も引き続きシゴロウと107が主人公です。二人の帰還までもう少しだけ待ってくださると幸いです。

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