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第三十九話『パワードスーツ』

 107の行動で和んだおかげか疲れが取れ、頭痛も収まってきた。

 すると奥の部屋から野乃が姿を現し、研究員たちと共に何か大きな物を運びこんできた。ローラー付きのラックの上にあったのは、黒々とした装甲を輝かせるパワードスーツだった。


「おや、シゴロウ君。もう休憩はいいのかい?」

「……大丈夫だが、一応聞くとしよう。その怪しい機械はなんだ?」

「何って、パワードスーツだよ。シゴロウ君も前に見たことがあるはずだけどね」

「ある……が、前と形状が違い過ぎないか?」


 シゴロウの記憶にあった野乃のパワードスーツは、いかにも作業用を改良したようなシンプルで軽そうなものだ。だが今運ばれたきた物の装甲は分厚く、ちょっとした銃弾や爆発物なら余裕で防げそうなほどだった。


 複雑な機構のためか肩の辺りは大きく作られ、両腕部には巨大なナックルガードが着いている。そして身体全体の重量を支えるために、脚部もどっしりとした形状をしていた。

 身体の所どころにはケーブルが伸び、良い意味でも悪い意味でもロボットらしかった。


 ぱっと見でも凄まじい重量がありそうで、一見した感想は人型殺戮ロボットだ。そんな印象を抱くほどに武骨で威圧感のあるデザインで、シゴロウは製作者である野乃のセンスにちょっと引いた。

「…………一応聞くが、これは誰が使うのだ」

「誰って、君意外に適任者がいるのかい?」


 野乃は何言ってんだコイツみたいな顔でシゴロウを見ていた。

「……お前自身が言っていたではないか、それは常人で扱えるような性能をしていないと」

「フフフ、常人なら……ね。あんな戦い方をしておいて、よく言ったものだ。監視カメラで全部見てたんだから、もう隠すことはできないよ」


 野乃はすべて見透かしたような笑い、リモコンを操作してモニターを点けた。そこに映っていたのは重装騎士と戦うシゴロウの姿で、一挙一動を見逃さぬようにカメラが拡大されていた。


「陸上選手並みの速力に、一切の重さを感じさせぬ武器の使用。さらには四階層からの落下に耐え、即座に戦闘に移れる丈夫さと回復力ときた。……これはどういうことだい?」

「……ただの偶然だ」

「フフ、フフフ。偶然か、そうかそれは面白いね」


 シゴロウの見苦しい言い訳に、野乃は意地悪な笑みを浮かべた。

 このまま危機を乗り切れば、ベッドに固定されて色々と調べられそうだ。そしてシゴロウが半ゾンビ化しているとバレた時どんなことをされるのか、考えると背筋に怖気が走った。


「まぁ、今はいいことにしよう。またその偶然をまた見せてもらうだけさ。どのみち五階層の状況的に、普通の手段で戦闘することは困難だろう? シゴロウ君」

「ぐっ」

「まさかこいつの使用者が現れるとはね。うんうん、感無量だ」


 心から嬉しそうに言い、野乃はコンとパワードスーツを叩いた。そして目を逸らすシゴロウへと、自らの最高傑作を託した。

「――さぁ、いい加減このパンデミック騒動も終わりにしようか」



 …………シゴロウたちが六階層に逃げてから十分ほど時が経った。

 重装騎士は瓦礫が散乱するメイン通路を歩き、閉ざされた隔壁の前に立った。すでにウェポンラックから回収したロケットランチャーを使い、爆発によって隔壁は大きく歪んでいる。


 とっさの奇襲に対応するため火炎放射器を近くに起き、重装騎士はロケットランチャーに次弾を装填した。そしてまたロケット弾を発射すると、歪んでいた隔壁の一部には大きな穴が開いた。


「ガヅ……ガヅ……ガヅ……!」

 弾切れになったロケット砲を投げ捨て、重装騎士はまた火炎放射器を手に取った。そして動作確認として引き金を引き、先端から微かに炎を噴射して隔壁に近づいていった。


 脳に直結されたインカムを通し、重装騎士の頭には色々と武器を扱うのに必要な情報が流れてくる。それにありがたさを感じると同時に、漠然とした「何故」という思いが胸中を巡った。

 自分は何者なのか、どうしてこんな場所にいるのか。電気信号による知性の補正によって、人だった頃の思考が微かによみがえった。


「…………ダガロ」

 何か思い出せそうなところで、重装騎士の意識はノイズに呑まれた。そしてまた本能だけで行動するゾンビに戻り、手元の火炎放射器を構え直した。

 湧き上がる感情は哀しみや喪失感ではなく、意外にも強い安堵感だった。


 ただ暴力のままに戦うのが己の正しい姿だと、重装騎士は考えた。仇敵となるのは同じデンジャーである107ではなく、幾度となく立ち向かってきたシゴロウだった。

 あの男こそは自分の手で葬り、血肉を裂いて勝どきを上げようと心に刻んだ。


「……ジゴ、……ジゴロウ」

 何度か聞いた名を脳裏に焼き付け、微かに残っていた人の感情すべてを憎悪で燃やした。

 もし逃げるのならば地の果てまで追いかけると決め、手をゴキゴキと鳴らして隔壁の前に立った。


 そうして怪力で穴を広げようとした瞬間、向かい側から足音らしき異音が聞こえた。続けて起きたのはドンという強烈な打撃音で、隔壁から飛び出てきた何かに重装騎士は吹っ飛ばされた。


「――ガッ!?」

 わずかにだが宙に浮き、床に滑りながら着地する。顔を上げると隔壁の穴の先には、黒く大きな影がうごめいていた。そして穴からは大きな指が飛び出し、バキバキと力任せに分厚い金属を歪ませ開いていく。


 中から姿を現したのは重装騎士より一回り大きな人型の何かで、纏った鎧が放つ威圧感に重装騎士は思わず後ずさりした。

「ダガロァァァ!!」


 すぐに火炎放射器を放つが、巨大な人型は一切動じずに歩み寄ってきた。無機質な外見と無感情な反応の異質さに、重装騎士は動揺してさらに距離を取った。

 五階層を覆う大量の炎にも動じず、何者かはゆっくりと歩き続けた。


 敵とすら認識されていないような反応に、重装騎士は怒りをあらわにした。だが生物的な本能があれは危険だと訴え、中々前に踏み出すことができない。


 どうするべきか迷う中で、重装騎士の嗅覚はある匂いを捉えた。それは再戦を望むシゴロウのもので、匂いは真正面の謎の人型機械から発せられていた。


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