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第三十八話『桜花の特典』

 シゴロウと107は重装騎士の猛攻から逃れ、五体満足で六階層へと戻ることができた。

「――シゴロウさん! 大丈夫ですか!」

 すぐに桜花が駆け寄り、床に倒れたシゴロウと107を介抱してくれる。目立つ怪我は無かったのでほどほどのところで立ち、シゴロウは桜花に感謝しつつ辺りを見回した。


「……む? 桜花、他の者たちはどこへ行ったのだ?」

「今秘密兵器の最終調整中だそうです。もう少しで終わるから、適当に休んで待っていろって言ってました」

「嫌な予感がするのだが、秘密兵器とは何だ?」


 シゴロウの質問に、桜花は困ったように口をつぐんでいた。野乃に口止めされているのだと察し、シゴロウは諦めてテーブルに座りモニターに映る五階層を眺めた。

 重装騎士は火炎放射器を使い、金属製の隔壁に炎を浴びせていた。そして壊れる様子がないと察したのか、背を向けて四階層に続く階段を登っていった。


「……奴め、ウェポンラックから使えそうな武器を持ってくる気か」

 戦闘中だったので見たのは一瞬だったが、ウェポンラックにはロケットランチャーなどの爆発物があった。あれを使われれば隔壁とて耐え切れず、重装騎士は六階層まで降りてくることとなる。


 色々戦闘手段を考えていると、頭にズキンと重い頭痛が走った。

(……だいぶ酷いな。やはり未来予知を使い過ぎるとこうなるか)

 テーブルに突っ伏していると、桜花がマットレスを持ってきてくれた。横になった方がいいという提案を素直に受け、シゴロウは横になって休もうとした。


「…………待て、どうしてそんな場所に座っている?」

 頭痛のせいで気づくのが遅れたが、何故か桜花はシゴロウの後頭部が来る辺りに構えていた。質問に対して桜花はバツの悪そうな表情をし、薄っすら顔を赤くしてもじもじと呟いた。


「その、枕が無かったのでサービスでもと思いまして」

「………………お前は、自分が何をしているのか分かってるのか?」

 桜花の献身を喜ぶ前に、シゴロウは大人として冷静に行動の意味を問いかけた。


「うぅ、そう言われるととても辛いです……」

「……学生と三十過ぎた社会人のおっさんだぞ。野乃も言っていたが、あまり褒められた行為ではないな」

「でも何かできることはないかって考えたら、今はこれしか思い浮かばなくて……」


 恥ずかしさが限界に達したのか、桜花は真っ赤になって顔を覆ってしまった。だが膝枕を辞める気はないようで、指の隙間からチラチラとシゴロウの反応をうかがっていた。

 結局シゴロウは根負けし、ハァとため息をついて桜花の膝に頭を預けた。


「……今回だけだ。それと忠告しておくが、こんなおっさんにサービスなどしてたら、桜花自身の価値が下がるぞ」

「こんなおっさん何て言わないでください。それじゃあ私がお馬鹿さんみたいになってしまうじゃないですか」

「どっちかと言えば馬鹿の部類だろう? 悪いことは言わんから、もっといい相手を探せ」

「…………やっぱり、気づいてたんですね」


 桜花の言葉にシゴロウは返事をしなかったが、この場での沈黙は肯定でもあった。会話なく静寂に身をゆだねていると、シゴロウは思いついたように桜花へと話しかけた。


「桜花。今の俺たちのような状況を示す言葉があるのだが、知っているか?」

「吊り橋効果がどうとか言ったら、さすがに怒りますよ」

「……む、いや。……ううむ」

「やっぱり言う気だったんじゃないですか、残念です。今のでシゴロウさんが稼いでいた私のポイントがだいぶ減りましたよ。三割減です」


 桜花は頬をぷくっと膨らませ、シゴロウの頬をきゅっとつねった。微かな痛みはあったが、シゴロウは謝罪も込めてされるがままにした。

「……こういう時は、運命とか必然とか言うんです。そうしたら私のポイントが貯まって、特別特典があったかもしれませんよ」

「しかし俺と桜花は出会って一日も経っていない。……それ以外に理由はないだろう」

「それ、本気で言ってるんですか? 今度はポイント二割減ですよ」


 どれほどポイントが貯まっていたか不明だが、この会話だけで半分近く消失してしまった。下手なことは言うべきではないかと考えていると、桜花は自分自身に問いかけるように話しを続けた。


「命の危機を救われて、あんな化物と戦って倒して。そして皆を救うためにまた戦って、傷つきながらちゃんと帰ってきてくれて。こんなの、何とも思わない方がどうかしてます」

「…………」

「思春期の女の子には毒ですよ? 他の子には見せないようにしてくださいね?」


 目を逸らし「善処する」とだけ伝えると、桜花はふふっと笑い「仕方ないですね」と言ってくれた。

「……一応聞くが、ポイントが溜まるとどうなるのだ?」

「聞きたいですか?」

「まぁ、な」


 すると桜花は人差し指を口元に寄せ、シゴロウを見下ろした状態で可愛らしくウインクした。

「――秘密です。またポイントを貯めたら分かるかもしれませんね」

「そうか、なら期待して待っているとしよう」


 シゴロウがふっと笑うと、何故か桜花は驚いた。理由は始めて見る雰囲気の笑顔だからというもので、シゴロウは「なんだそれは」と言って苦笑を浮かべた。

 二人で温かなやり取りをしていると、今度は107が嫉妬した様子でマットレスに飛び込んできた。そしてシゴロウと桜花を引き離そうとし、膝枕を強奪してふんと息をついていた。


「シゴロ、オーカ、だめ!」

「……107よ。そこは一応、俺専用に用意された場所だぞ」

「がぁう、がう! がうるるるるぅ!」

 107の非難の声は、膝枕をしている桜花にも向けられた。


 そんな107の姿は、シゴロウを取られそうになって焼きもちを焼いている女の子でしかなかった。行動の意味と意図を察し、シゴロウと桜花は思わず見合って笑みをこぼした。


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