第三十六話『銃撃戦』
五階層に広がる光景は、戦地ともいうべき悲惨さだった。真正面の通路には救助隊員の死体が溢れ、壁や床にはおびただしい量の血が飛び散っていた。
生き残りがいないか探してみるが、少なくても近くに息をした人間はいなかった。それでも視線を巡らせていると、吹き抜けの先にある四階層に重装騎士の姿が見えた。
その手にあるのは監視カメラで見たガトリングガンとグレネードランチャーだった。何か意図があるのかまだ銃口は向けられておらず、重装騎士は殺気を放ちながらシゴロウたちを見下ろしている。
相手もこの場での決着を望んでいる。何の根拠もなかったがシゴロウはそう考えた。
「……まったく、厄介なことだ」
「がー、がう。がぅあぅおう」
「ふっそうだな。いい加減この関係も終わらせるべきだな」
二人で会話し気を引き締めていると、重装騎士は怒り狂った様子で叫びを上げた。
「――ガツ! ダゴロ……ガヅ!!」
「…………勝つ? ゾンビの身でありながら勝ち負けにこだわるか、面白い。だったら、こっちもそれなりの覚悟で挑ませてもらうとしよう」
そう宣言しつつ、シゴロウは構えていたショットガンをサブマシンガンに持ち替えた。そして周囲の構造と散乱物の位置を記憶していき、最も生存確率が高いルートを高速で導き出していった。
「107、俺に構うな。今回は好きに動け」
「がう?」
「回避が必要な時だけ指示する。今までのように俺を無理して守る必要はない。これは勝つために必要なことだ、受け入れてくれるか?」
「がーがう! りょ!」
107は任せろと言うかのように胸をドンと叩き、足をぐっぐっと伸ばし始めた。シゴロウも真似するようにストレッチをし、終わると同時に二人で拳をゴンとぶつけ合わせた。
「――勝つぞ、107」
「がう。シゴロ、いく!」
勝利の宣言を交わすのと同時に、重装騎士はガトリングガンの砲身を向けてきた。
シゴロウの頭にはバチリと電流が走り、未来を示す赤い光が目に映る。ガトリングガンを構えた腕は徐々にシゴロウへと向き、数秒後に引き金を引いて弾を発射すると予測された。
目線はそのまま離さず、シゴロウは指を自分自身に向けて狙われることを示した。107は動作の意味を理解して頷き、身体を前傾姿勢に構えて走り出す準備をした。
「行くぞ、107!!」
「がうっ!!」
「左右に別れる! ――撃たれぬよう全力で走れっ!!」
宣言に合わせ、シゴロウと107は弾けるように左右に走り出した。
同時に放たれたのは凄まじい威力を持った弾丸の雨で、それはシゴロウを殺そうと降り注いでくる。すぐ近くの柱に飛び込みやり過ごそうとするが、弾丸の威力で柱はバキバキと破壊されていった。
「――があぁぁぁぁう!!」
照準から外れた107は五階層を爆速で駆け、壁から壁へと跳躍して一気に距離を詰めていった。
接近に気づいた重装騎士がガトリングの砲身を向けて発砲するが、107は弾丸の薙ぎ払いより一歩早く駆けていく。すぐに重装騎士はグレネードランチャーを構え、爆風で107の動きを止めようとしてきた。
「そう上手くいくと思うな!!」
シゴロウは柱から飛び出し、サブマシンガンの弾をありったけ発射した。距離もあったのでほとんど命中しなかったが、一発がグレネードランチャー本体に直撃し弾の軌道をわずかに逸らした。
またシゴロウへと重装騎士は身体を向けるが、それは完全に狙い通りの動きだった。
自由になった107はまた加速をつけて走り出し、垂直の壁に手と足でしがみついて登っていった。そして重装騎士が気づくより早く四階層に跳び、頭から獣耳を生やして接近戦を仕掛けた。
「ダグロッ!! ダガルガヂドォ!!」
「ががうっ!! がるるがぁぁう!!」
二体のデンジャーの叫びと戦闘音が聞こえるが、死角となっていてシゴロウには状況が分からない。近くにある階段を登ろうと走っていると、途中で倒れていた救助部隊の人間がアサルトライフルを抱えていることに気づいた。
(サブマシンガではダメージにならない。……となれば)
ライフルならば硬質化した皮膚を抜けなくても、怯ませることぐらいは可能になる。
本体と予備カートリッジを回収し、サブマシンガンを捨ててシゴロウは四階層へと登っていった。階段の終わりから顔だけ出して状況を確認すると、近くにはガトリングを乱射する重装騎士の背中が見えた。
107は壁を楯にし、ガトリングの弾切れを待っていた。そしてシゴロウの姿を確認すると口を動かし、いつでも攻められると声を発さずに教えてくれた。
シゴロウは一度ライフルを背に回し、用意していたショットガンを手に取った。そして音を潜ませて射程まで近づき、重装騎士が持つガトリングガンに向けて散弾を放った。
「ダゴロァ!!?」
至近距離の威力に耐え切れず、ガトリングガンは砲身を歪ませて動きを止めた。そして動揺する重装騎士の顔にショットガンの銃口を向け、力いっぱい引き金を引いて二発目の散弾をお見舞いした。
着弾の反動で身体がふらつくのを見て、隠れていた107が猛スピードで駆け込んでくる。
107は加速を乗せた状態で床を飛び、遠心力の乗った回転蹴りで残った武器であるグレネードランチャーを遠くに蹴り飛ばした。二つの武器を失ったことにより、重装騎士は焦ってシゴロウたちから距離を取った。
「確かに貴様は脅威だが、俺たち二人に勝てると思ったのなら大した驕りだ!!」
ショットガンをコッキングし、重装騎士へと三発目の散弾を放った。すぐに反撃となる突進がくるが、107が回り込んで前衛として立ちふさがってくれた。
「がー……がうっ!!」
「――ダロアァ!?」
107の蹴りがみぞおちに直撃し、重装騎士は吹っ飛んで床に転がった。最終的には四階層のサブエレベーター前まで飛び、身体のダメージが残っているのか腕を震わせていた。
「もうお前は終わりだ」
武器が無ければ、重装騎士は107とシゴロウの二人には勝てない。その事実は重装騎士も分かっているようで、目に怒りを浮かべてギリッと歯ぎしりをした。
このまま時間を掛けて皮膚を削れば、いずれ重装騎士は倒せる。よほど油断しなければ負けるはずはなく、勝利は確定的だとシゴロウは判断した。
しかしそんな考えは、一瞬の間に崩れ去った。死神の足音代わりに響いたのはエレベーターの到着音で、開いた扉の先には無数の武器が詰まれたウェポンラックが乗せられていた。
「……っ! 107、今すぐ離れろ!!」
叫び共に発砲するが、重装騎士は動きを止めなかった。そしてラックの中から何か掴み取り、ホースに繋がれた銃口をシゴロウたちに向けた。
そこから放たれたのは、一瞬でフロアを焼く多量の火炎だった。重装騎士は火炎放射器を振るい、誰も近づけぬように辺り一帯を炎で包み込んだ。
「――ガヅ! ガヅ! ガヅ! ガァァヅ!!」
重装騎士は炎に一切動じず歩き、執念と憎悪に燃えた叫びを上げた。




