第二十三話『圧倒』
重装騎士はメイン通路の真ん中に立ち、八階層に上がってきたシゴロウたちと向かい合った。その目は相変わらず作り物のようで、狼男のような生気は感じられない。
シゴロウは目線で桜花に下がるよう促し、107と共に前へ出た。同類と思われている影響か接近しても攻めてくることはなく、数歩進めば手が届く距離まで近づいた。
「ダガロ、ダゼゾイヅダヂド?」
重装騎士は人差し指を前へ向け、桜花を指してシゴロウへと何か問いかけた。言葉そのものは分からないが、『何故人間と一緒にいるのだ?』と言っているとシゴロウは考えた。
「ふむ、確かに。お前たちにとっては異常だろうな」
「?」
「いや、理解する必要はない。どうせ話したところで無駄な時間だ」
言いつつシゴロウは、目に映る重装騎士の光を分析していた。その色は赤と青が入り混じり、シゴロウを敵か味方かと見定めてように見えた。
少なくても明確な敵とは認識されておらず、攻撃するには絶好のチャンスだ。シゴロウは肩にかけたショットガンを構え、銃口をガチリと重装騎士の胴体へと向けた。
自慢の耐久力があるからか、重装騎士は動かず銃を見つめていた。
「――元より仲良くする気は無い。障害となるならば、お前はここで死ね」
ためらわず引き金を引くと、ガァンという凄まじい発砲音と衝撃が起きた。銃の反動でシゴロウは一歩下がり、散弾をまともに受けた重装騎士はバンと吹っ飛んで床に転がる。
重装騎士は驚愕に目を剥きつつも、傷なく立ち上がってシゴロウを見た。身体から発せられる光は一気に赤く染まり、シゴロウたちを完全に敵と認識した。
「107、前は頼んだぞ!」
「がぅ、やる!」
107はシゴロウの前に立ち、拳と手のひらをパンとぶつけ鳴らした。頼りになる背中を見つめ、シゴロウは改めてショットガンを構えて戦闘態勢に入った。
最初に動き出したのは重装騎士で、シゴロウと107に真正面から突進を仕掛けてきた。
未来予知で行動を読んでいたシゴロウは、冷静にショットガンをコッキングして次弾を込める。そして107の肩越しに銃口を向け、あらかじめ装填していた散弾を再び発射した。
「ガッ!?」
重装騎士はとっさに回避行動を取るが、ショットガンの弾は正確に身体へと直撃した。二撃目を受けて硬質化した皮膚が一部欠け、重装騎士は怯んだ状態で動きを止める。
突進が中断されたことにより、攻撃の主導権が一瞬こちら側へと移った。
「――シゴロ、いく!」
「任せた。好きに暴れるがいい!」
「がぁう! りょ!!」
待ってましたとばかりに107は走り出し、速度を込めた跳び蹴りを繰り出した。重装騎士は腕を前に出して防御するが、107の勢いに押され微かに重心をブレさせる。
そこから始まったのは107と重装騎士の格闘戦で、どちらも一進一退の攻防を繰り広げた。重装騎士は己が持つ耐久と怪力でゴリ押してくるが、107はそれを回避しつつ蹴りや拳を的確に頭や腹へと喰らわせていく。
狼男の性質を受け継いだからか、今の107は身体能力が格段に向上していた。固い外皮を蹴っても怪我することなく、痛みすらないかのように重い連撃を放っていく。
床や壁を素早く駆け回って戦う様は、もはや人の領域から大きく外れていた。その超常の生物ともいうべき力強さと美しさに、シゴロウはゾンビ研究者として心から感動した。
「がっがう! おそ!」
107は縦方向の回転蹴りをし、重装騎士のアゴを跳ね飛ばした。脳が揺れたのか重装騎士はフラつき、シゴロウはチャンスとばかりに107を呼んだ。
「107、俺が撃つ! 下がれ!」
シゴロウからの声を聞いた瞬間、107の頭からぴょこんと獣耳が持ち上がった。そして返事するより早く横に跳び、シゴロウの射線を確保してから「がう!」と鳴いた。
シゴロウは床に片膝をついてショットガンを構え、赤い光の軌跡へと狙いを定めた。重装騎士は再び避けようとするが、未来が読めるシゴロウにとっては関係ない。
「――避けれるものならば、避けてみるがいい!」
ガァンと銃声が鳴り、太い銃口からは重い一撃のスラグ弾が発射された。その弾道は重装騎士の動いた先へと突き進み、正確に身体へと直撃して外皮を弾き飛ばし肉を露出させた。
重装騎士は自慢の防御が貫通された驚愕からか、支離滅裂な叫びを上げて動きを止めた。
シゴロウは有利な状況に油断することなく次弾を込め、容赦なく二射目を放った。また重装騎士は避けようとするが、未来を読んで放たれた弾丸はまた外皮を吹っ飛ばす。
「今の俺たちならば、デンジャーにすら勝てる……!」
高揚感を抑えて冷静に思考し、シゴロウは手を止めず三射目をお見舞いした。そして的確に反撃の隙を潰して重装騎士を削り、徐々に距離を詰めて止めを刺そうとした。
しかし絶好のチャンスに装填していた弾が無くなり、シゴロウは舌打ちをしながらポーチに入れた弾に手を伸ばす。すると重装騎士はシゴロウたちに向けていた視線を外し、近くにあった扉へと飛び込むようにして逃げ込んだ。
「がぁう! おう!」
107はシゴロウの指示を待たずに走り出し、重装騎士が逃げた部屋の中へ行ってしまった。どちらの姿も見えなくなると同時に、壁越しに激しい戦闘音が鳴り響いてくる。
シゴロウが声を掛けても、反応は返ってこなかった。援護に向かおうとしたところで、桜花を独り置いていけないことを思い出しシゴロウは立ち止まった。
「桜花、絶対に離れるなよ」
「……ごめんなさい。足手まといになっちゃって」
二人で武器を構え、警戒を密にして八階層を進み始めた。どこからゾンビが飛び出しても、確実に仕留めるとシゴロウが決意をした時のことだった。
「――――!?」
突如八階層の照明がすべて消え、フロア全域が漆黒の闇に塗りつぶされた。
いつも読んで頂き誠にありがとうございます。すでにお気づきとは思いますが、今回から第二章となります。
二章では謎に包まれた『ゾンビ因子』について一部触れていく予定です。先が気になる方は、ぜひお気に入り登録してくださると嬉しいです。
もしレビューなど書いてくださった時は、お礼として当日か次の日に二話投稿します。そして日間ランキングに乗ることがあれば、その時はさらに一話追加の投稿なども考えています。
作者としてもたくさんの方に見ていただきたいので、頭の片隅にでも覚えて頂ければ幸いです。




