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第十八話『デンジャー討伐戦』

 作戦会議終了後、シゴロウは単身で九階層を走っていた。道行く先にはゾンビが立ちはだかるが、シゴロウはあえてゾンビが多い道を選んで走り続けた。

「八……九……十か、これぐらい集めれば十分だろう」


 つかず離れずの距離を保ち、シゴロウはゾンビと一緒に通路を進む。そして瓦礫から回収した鉄パイプを振るい、ガンガンと壁に打ち付けながら叫びを上げた。

「――俺はここだ! 出てこい、管理番号103!!」

 一分ほど存在を主張していると後方から地鳴りが聞こえ、狙い通り怒り狂った狼男が姿を現した。


「グロアアアァァァァ!!!」

 狼男はシゴロウを認識し、怒号を上げて突っ込んでくる。シゴロウの後方にいたゾンビたちは強靭な手足に轢き殺され、無数の肉片となって通路に張り付いていった。

「ふっ、ああはなりたくないものだな」

 冷静に状況を分析し、シゴロウは視線を前に戻した。


 いくつかの曲がり角を進み、シゴロウは目的地である倉庫前まで到着した。すでに狼男との距離は狭まっており、シゴロウは攻撃を避けつつ倉庫の中へと飛び込んだ。

「ががうっ! シゴロ!」

 コンテナの上には107がいて、シゴロウへと右腕をブンブン振っていた。


 辺りには107が倒したゾンビが何体も転がっており、シゴロウはすべて想定通りだと口角を上げた。

「――107、後は任せたぞ!」

「がうっ!!」

 シゴロウの声に107は胸を叩き、ぴょんとコンテナから降り立った。未だ左腕は折れたままだが、動きづらさを感じさせないフットワークだった。


「ゴルルルルルゥゥゥ」

 狼男は足を止め、ジッと107を睨んでいた。直接言葉を交してはいなかったが、両者間で何らかの意思疎通があるとシゴロウは感じた。


「がー、がうっ!」

 107は突き出した手のひらを自分側に向け、チョイチョイと煽るように動かした。すると狼男は目を血走らせて咆哮を上げ、107を完全に敵と認識して暴れ出した。


 逃げる107と追いかける狼男により、倉庫の中はグチャグチャに荒れ始める。

 シゴロウは安全な場所から戦闘を眺め、レバーを降ろしてシャッターを封鎖した。そして焦りそうになる思いを押しとどめ、きたるべき時がくるのを待ち続けた。


「…………もう少し、もう少しだ」

 そうして何度目かの接近戦で、狼男の振るった腕がとあるコンテナの金属扉を引き裂いた。シゴロウはその瞬間を見届け、即座に倉庫内の照明をすべて消した。


「――っ!? ガルルアァァ!!」

 狼男は突然の事態に動揺し、一時動きを止めて辺りを警戒した。光が消えると同時に107も動きを止め、時間が止まったかのような間が倉庫内に流れる。

 簡易照明すらついていない倉庫は完全なる闇で、夜目がきく狼男ですらシゴロウたちを見失っていた。すぐに大きな鼻息を鳴らし、匂いでシゴロウたちの居場所を探し始める。


「がー、がうがう」

 107は再び動き出し、狼男の前をタタタと走り抜けた。すぐ近くの音に反応して狼男は腕を振るうが、正確な位置がつかめず爪はブンと空を切った。

 そんなやり取りを何度か繰り返し、狼男はまた怒り狂い始めた。音が鳴る場所を手当たり次第に攻撃し、棚や箱が壊れこれまで以上に物が転がっていく。


「――ふむ、悪くない流れだ」

 シゴロウはコンテナの隙間から、狼男と107の状況を『完全に把握』していた。深淵ともいうべき暗闇の中でも、シゴロウの目には狼男と107を示す赤と青の光がしっかり映っていた。

(……まさかこの俺が、発動条件も分からぬ力に頼ることになるとはな)


 狼男の光が離れたのを確認し、シゴロウは音を潜めて倉庫内を歩き出した。ライトなどで足元を照らさなくても、シゴロウは淡々と目的の場所に向かっていく。

 ほんの数日前に、シゴロウは倉庫へと立ち寄る用事があった。その時に見たコンテナや棚の配置を正確に記憶し、脳内でマップを作製することで行動を可能にしていた。


「目的の物は……、これだな」

 シゴロウは壊れたコンテナの中を探り、重く頑丈な銃器ケースを手に取った。



 …………轟音を響かせる倉庫の外で、桜花は緊張のまま通路の先を見つめていた。

 今桜花がいる場所は倉庫前通路の突き当りで、向かい側から敵が来るのをよく見渡せる位置となっている。


 桜花は107に倒してもらったロッカーにサブマシンガンを置き、しゃがんだ状態でゾンビが来るのを待ち続けていた。

「お兄ちゃん……、私に力を貸して」


 ゴクリと喉を鳴らし、緊張で震える腕を抑えた。すると遠くの曲がり角から、騒ぎを聞きつけたゾンビが一体、二体と近づいてくるのが見えた。

「無理に撃つ必要は無い、狙うのはこっちに近づいてから。無理に狙う必要は無い、狙うのはこっちに近づいてから――」


 シゴロウからのアドバイスを反芻し、自分ならできると言い聞かせた。

 バクバクと心臓が音を鳴らし、これまで以上に引き金に添えた指が震えた。まだゾンビは桜花に気づいておらず、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。


 そうしてシャッターの前までたどり着くと、ゾンビは唐突に立ち止まった。そして急に首をグルッと動かし、通路の先で身構えている桜花を認識した。

「ガァ……、ガアアアアアアアアァァ!!」

 絶叫と共にゾンビは両手を前に突き出し、勢いをつけて走り出した。まだ数は増えず二体だけだが、ゾンビが放つ狂った声に桜花は恐怖した。


「私は……生きる! 生きて、お兄ちゃんに会うんだぁ!!」

 逃げそうになる心に決意の火を灯し、桜花は向かってくるゾンビへとサブマシンガンを撃った。


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