表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/100

ルーン魔術師と建国祭・9

 アリシアとの建国祭は予想通り、いや予想以上に楽しかった。


 まず、俺たちは昼ご飯を食べようという話になった。

 小麦粉に野菜や肉を混ぜた生地を焼いて、そこに香ばしいたタレをかけた食べ物を出しているお店に寄った。俺もアリシアも食べるときに口周りにタレがついてしまいそれを見あって笑っていた。

 どこかの特産品という果物をカットして、木皿に盛ったものをデザートに食べた。甘みと酸っぱさと苦みがまじりあって何とも言えない微妙な味だった。アリシアも苦笑いしながら食べていた。きっと同じ感想を抱いたのだろう。


 それから、輪投げ屋を見つけて二人で遊んだ。

 遠くに立っている棒に、五個の輪を投げて全部入れば景品が貰えるというものだった。

 俺もアリシアもあんまりうまくいかなかったが、二人してむきになってしまい何度も繰り返した。最後は、アリシアが五個の輪を全部入れた。景品は、木彫りの人形だった。店主の手作りらしい。


 あとは、音楽祭にも行った。

 そういえば、こんな行事もあるとディアンが言っているのを思い出したのだ。

 演奏される音楽は、どれも素晴らしいものだった。俺もアリシアも、流れる音楽の中に静かに身を任せていた。王都の復旧を祝福した音楽もあった。それを聴いていた時の、アリシアは目をつぶり薄く微笑んでいて、王都が復旧したのを、心から祝福しているように見えた。


 最後にもう一度大広場に戻って、俺たちはそこに出ているお店を回った。

 各地から色んなお店が来ていて、王都では買えないものも多くある、とアリシアが言っていた。せっかくだからと全部のお店を回った。クラーラ様のお店にも行った。


「あら、アリシアじゃない」


「え、あ、お、お姉さま」


 変装しているアリシアを見てクラーラ様はすぐに言い当てた。


「ど、どうして分かったんですか?」


「どうしてって、隣にヴァンがいるじゃない。分かるわよ」


「あ、なるほど」


 確かに、俺がいれば分かるか。と当たり前のことを俺自身も納得していた。


「なに? もしかして、デート?」


 クラーラ様までそんな風にからかっていた。


「う、うう……」とアリシアが恥ずかしそうにする。やっぱり俺じゃ釣り合わないよね。


「まあ、いいわ。楽しんでいきなさいな。……アリシアとの勝負は、本当に残念なことだと思うけど」


 と、節目がちにクラーラ様が言う。

 クラーラ様もアリシアとの勝負は楽しかったのだろう。

 それから、顔をあげるとこう言った。


「邪魔しちゃ悪いわね。わたしは行くわ」


 と、接客に戻っていく。


 クラーラ様のお店の衣服やアクセサリーの商品は、どれもこれもきらびやかで、おしゃれで、心を惹くものがあった。

 アリシアがいうには、ここにある物は全てクラーラ様がデザインした物らしい。剣の才能もあって、こんな才能もあるなんて、本当に多才な人だ。

 アリシアはクラーラ様がデザインしたアクセサリーを手に持って、何とも言えない表情をしていた。それは言いようによっては、商品に見惚れているようにも見えたし、勝負が最後まで行かなくて悲しいそうな顔にも見える。いや、クラーラ様に負けたのだからしょうがないという、諦めと羨望の表情にも見えた。


 どれが正しいかは、多分アリシアにしかわからないだろうし、それはアリシアだけの物にしとくべきだと俺は直感的に思った。だから、何も聞かなかった。


 日が暮れつつあった。

 頭上で爛々と輝いていた太陽は、傾き、哀愁を感じさせる綺麗な赤を鮮烈にまき散らしていた。


 俺たちはそんな中、王宮に向けて歩いていた。


「楽しかった?」と俺は訊いた。


「はい、ヴァンは?」とアリシアが俺の顔を見上げながら訊き返してくる。


「俺も楽しかったよ」


「同じですね」


「うん」


 沈黙の中、まっすぐ歩く。何の邪魔もなく、気持ちよく目覚めた早朝みたいな心地よい沈黙だった。お互いが何も話さないことに何の苦痛もなかった。

 夕日に染まる帰り道の中、二人の足音が、リズムよく刻まれていた。

 俺はアリシアを元気づけられただろうか。


「ヴァンの決勝戦、明日ですよね」


 唐突にアリシアは言った。


「うん」


「ルーン魔術を買っていかれた方に、ぜひ応援をよろしくお願いしますと頼んでおきました」


 午前中あの慌ただしい中で、そんなこともしていたのか。

 って、じゃあ、明日は色んな人に応援されるってことか?


 なんか少し恥ずかしいけど、でも嬉しいな。


「わたしももちろん応援に行きます」


「心強いよ」


「そう言ってもらえると、嬉しいです」


 また短い沈黙が流れる。


「明日は、頑張ってください」


「うん。頑張るよ」


 俺は、そう答えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ