表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/100

ルーン魔術師と建国祭・6

 建国祭四日目の朝を迎えた。

 俺は裏庭で、ディアンと特訓をしていた。もちろん、剣技大会の決勝に向けての特訓だ。


 俺の対戦相手がついにアレクシス様ということもあってか、ディアンの方も特に気合をいれてくれているように感じた。


「はぁああああああああああああ!」


 勢いよく振り下ろされるディアンの剣を俺は受け流す。途切れなく、攻撃してくるディアンの攻撃を俺は受け続ける。

 かわしたり、剣で弾いたり、とにかく直撃を避ける。反撃の機会をうかがうが、ディアンの隙はほとんどない。流石は、アリシアの近衛騎士団長ということはある。剣が本職じゃない俺には、なんとか耐え凌ぐのが精一杯だ。

 

 だけど、俺はこの数日間で、ディアンに隙が出来る瞬間を掴んでいた。

 俺の受けに、ディアンがしびれを切らし、一歩身を引く。そして、剣を中段に構えなおした。その一連の動きはディアンの一つの癖だ。この癖は全部、次に繰り出す剣技スキルのためのものだ。


「【八連斬】!」


 魔力を使い、高速の八連を繰り出すスキルだ。初めて使われたときは、その速さに防御が追いつかず、やられてしまったが、今は違う。

 俺はそのスキルが発動するのと合わせて、剣を下から上に、振り上げていた。その軌跡は剣を中段に構えなおすディアンの手を打つ。


「なっ!」


 スキルが発動する寸前に、俺の剣はディアンの剣を弾き飛ばしていた。


「……ふぅ」


 俺はほっと一息をつく。ディアンは驚いたように、剣を失った手元を見ていた。



 特訓を終えて、俺たちは地面に座り休憩をしていた。

 ディアンがため息をつくように言った。


「まさか、この期間中に一本とられるとは……。恐ろしいよ、お前は」


「ディアンの癖を見つけただけだよ。だから、同じ手はもう使えないと思うし」


 剣の地力ではディアンがどう見たって格上だ。普通に戦って勝てる相手では断じてない。


「もしかすると、本当にアレクシス様に勝てるやもしれんな」


「隙とか癖が見つかればいいんだけど」


 アレクシス様が見せたあの【神速剣】。

 一度目は、俺のルーン魔術を切り刻んだ。二度目はグリフォンの巨体を切り刻んだ、あの高速の剣技。

 あまり鮮明な記憶ではないが、思い起こしても隙があるとは思えない。


「実際に、アレクシス様と試合してみないと、それはどうにも分からんことだな」とディアンが言う。


「うん、そうだね」


 後は、やってみるしかあるまい。

 今考えても仕方ないことよりも、俺はディアンに相談したいことがあった。


「ねえ、ディアン」


「どうした?」


「アリシアのことで相談があるんだけど」


 俺は昨日のことを話す。


 クラーラ様に勝つことが不可能となって、アリシアが悲しんでいること。

 そんな彼女を、どうにかして元気づけて上げる方法が無いか、と訊く。


 一通り説明すると、ディアンは胡坐をかいて、肘をつき唸る。何かを思いついたように俺のほうを向いた。


「ヴァンは、今日の剣技大会は無いんだろ?」


「う、うん。相手が辞退しちゃったからね」


「だったら」とディアンはにかっと笑う。「アリシア様と建国祭を回れ」


「建国祭を?」


「ああ。二人で楽しんでくればいいじゃねえか。そうしたら、気も晴れるってもんよ」


「それでいいのかな……?」


 ディアンは安直に考えすぎじゃないだろうか。といぶかしんでいると、ディアンは俺の肩に手を置いた。


「ああ。それがいい」


 その言葉には、妙な説得力があった。

 俺に体重をかけてディアンは立ち上がる。


「さて、俺は先に行くぜ。ちゃんとアリシア様と建国祭を楽しんでこいよ」


 ディアンが裏庭から去っていく。

 一人残されて、俺も立ち上がり、土を払う。


 他に出来ることもないし、とりあえずはディアンに従ってみよう。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ