ルーン魔術師と建国祭・6
建国祭四日目の朝を迎えた。
俺は裏庭で、ディアンと特訓をしていた。もちろん、剣技大会の決勝に向けての特訓だ。
俺の対戦相手がついにアレクシス様ということもあってか、ディアンの方も特に気合をいれてくれているように感じた。
「はぁああああああああああああ!」
勢いよく振り下ろされるディアンの剣を俺は受け流す。途切れなく、攻撃してくるディアンの攻撃を俺は受け続ける。
かわしたり、剣で弾いたり、とにかく直撃を避ける。反撃の機会をうかがうが、ディアンの隙はほとんどない。流石は、アリシアの近衛騎士団長ということはある。剣が本職じゃない俺には、なんとか耐え凌ぐのが精一杯だ。
だけど、俺はこの数日間で、ディアンに隙が出来る瞬間を掴んでいた。
俺の受けに、ディアンがしびれを切らし、一歩身を引く。そして、剣を中段に構えなおした。その一連の動きはディアンの一つの癖だ。この癖は全部、次に繰り出す剣技スキルのためのものだ。
「【八連斬】!」
魔力を使い、高速の八連を繰り出すスキルだ。初めて使われたときは、その速さに防御が追いつかず、やられてしまったが、今は違う。
俺はそのスキルが発動するのと合わせて、剣を下から上に、振り上げていた。その軌跡は剣を中段に構えなおすディアンの手を打つ。
「なっ!」
スキルが発動する寸前に、俺の剣はディアンの剣を弾き飛ばしていた。
「……ふぅ」
俺はほっと一息をつく。ディアンは驚いたように、剣を失った手元を見ていた。
*
特訓を終えて、俺たちは地面に座り休憩をしていた。
ディアンがため息をつくように言った。
「まさか、この期間中に一本とられるとは……。恐ろしいよ、お前は」
「ディアンの癖を見つけただけだよ。だから、同じ手はもう使えないと思うし」
剣の地力ではディアンがどう見たって格上だ。普通に戦って勝てる相手では断じてない。
「もしかすると、本当にアレクシス様に勝てるやもしれんな」
「隙とか癖が見つかればいいんだけど」
アレクシス様が見せたあの【神速剣】。
一度目は、俺のルーン魔術を切り刻んだ。二度目はグリフォンの巨体を切り刻んだ、あの高速の剣技。
あまり鮮明な記憶ではないが、思い起こしても隙があるとは思えない。
「実際に、アレクシス様と試合してみないと、それはどうにも分からんことだな」とディアンが言う。
「うん、そうだね」
後は、やってみるしかあるまい。
今考えても仕方ないことよりも、俺はディアンに相談したいことがあった。
「ねえ、ディアン」
「どうした?」
「アリシアのことで相談があるんだけど」
俺は昨日のことを話す。
クラーラ様に勝つことが不可能となって、アリシアが悲しんでいること。
そんな彼女を、どうにかして元気づけて上げる方法が無いか、と訊く。
一通り説明すると、ディアンは胡坐をかいて、肘をつき唸る。何かを思いついたように俺のほうを向いた。
「ヴァンは、今日の剣技大会は無いんだろ?」
「う、うん。相手が辞退しちゃったからね」
「だったら」とディアンはにかっと笑う。「アリシア様と建国祭を回れ」
「建国祭を?」
「ああ。二人で楽しんでくればいいじゃねえか。そうしたら、気も晴れるってもんよ」
「それでいいのかな……?」
ディアンは安直に考えすぎじゃないだろうか。といぶかしんでいると、ディアンは俺の肩に手を置いた。
「ああ。それがいい」
その言葉には、妙な説得力があった。
俺に体重をかけてディアンは立ち上がる。
「さて、俺は先に行くぜ。ちゃんとアリシア様と建国祭を楽しんでこいよ」
ディアンが裏庭から去っていく。
一人残されて、俺も立ち上がり、土を払う。
他に出来ることもないし、とりあえずはディアンに従ってみよう。