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ルーン魔術師と騒動・2

 闘技場は観客の悲鳴や叫び声で埋め尽くされていた。

 いや、他にも声は聞こえた。


「お前は西側に行け!」「東側は俺が行く!」「観客のみなさん! 落ち着いて! 我々についてきてください!」


 騎士たちの声だ。

 観客のことは、今は彼らに任せるしかない。

 それに、と俺はアレルを見る。


 アレルもずっとこちらを見ていた。大胆な口ぶりだったが、その瞳は用心深く俺を見定めるように見開かれている。それはまるで、深い森に生息している獣が、自分の縄張りに入ってきた敵を監視しているような瞳だった。

 その瞳に見られていると、うかつには動けないと思わされる。

 だけど、それでもいいのかもしれない。俺はどちらにせよ、アレルを引き付けているんだ。魔物を倒しにも行きたいが、アレルを自由にさせないというのも大事な気がする。


「……一体、なんのつもりだ?」


 俺は訊いた。とにかく、アレルの注意だけでも俺が引き付け続けるんだ。


「見てわからないかな? この国を破壊するのさ。ゼフは回りくどくやってたけどね。僕はそうじゃない。大量の魔物に襲わせて、蹂躙する。それで十分だ」


 大量の魔物。

 もしかして、あの魔法はまだ何度も使えるのだろうか?

 そうだとしたら、やはりこいつを自由にさせることはできない。


 なんとかして、血で【魔封】のルーンを完成させて、あいつを縛らないといけない。


 俺は、右手を口元に寄せる。


「行けっ! ダークウルフ!」


 アレルの指示に、観客を追わずに残っていたダークウルフの一体が俺のほうに跳びかかって来た。

 俺はとっさに避け、剣を振る。体勢を崩しながらも振った剣はダークウルフの身体に直撃するが、刃をつぶしているせいもあってたいしたダメージにはなっていない。


「くそっ。どうすれば……」


「グリフォン! その男に隙を与えるな!」


 上空から向かってくるのは、鷲の上半身に、獅子の下半身を持った魔物。

 鋭い爪のついた腕を、俺の頭を狙って振り下ろしてくる。


「くっ……」


 剣で弾くも、力に押され俺も吹き飛ぶ。

 そして、体勢を崩したところに、すかさずダークウルフが飛び込んでくる。何とか避けるが、それで精一杯だ。


 二体の波状攻撃。

 俺は攻めるタイミングを完全に見失っていた。

 まるで、俺が何をしたいか分かっているような作戦だ。


 壁際に追い込まれた俺はダークウルフとグリフォンの二体とにらみ合う。そこに、アレルがゆっくりと近づいてくる。


「お前は戦わないのか?」


 試しに挑発してみると、アレルは大げさに笑った。


「ははははははは! 知っているからね! お前が何者か」


 アレルが叫ぶ。

 俺が何者か知っている?

 そういえば、さっきも俺を知っているような口ぶりだった。


「まあ、そんな不思議そうな顔にもなるよね。僕はお前に会ったことは無い。でも、お前のことはゼフを通して見ていたんだ」


「ゼフを通して?」


「ああ。情報共有のために、魔法を使ってゼフの視覚や思考は共有させてもらっていた。僕はこう見えて、魔族でもずば抜けて優秀な魔法使いなんだ」


 大した自信だ。

 でも、おそらく本当のことなんだろう。

 魔物を召喚する魔法なんて、聞いたこともないからな……。

 グラン王国の七英雄、魔女ルーアンなら、そんな魔法も知ってるんだろうか?

 今度会ったら訊いてみよう。今度があればだけど。


 俺は思考を目の前の魔族に戻す。


「それで、俺のことを知っている、っていうことか」


「ああそうだよ。だから、僕はこれ以上近づかない。君は危険だ。どこに何を隠しているかわからない」


 実際には、今は何も準備できていないが、その事実は出来るだけ隠さないといけない。何もできないとバレれば、俺はあいつに好きなようにやられてしまう。


「そして、これ以上の隙も与えないよ! 行け! ダークウルフ! グリフォン! 奴の息の根を止めろ!」


 ダークウルフとグリフォンが同時に動き出す。

 その時だった。

 グリフォンの身体が不自然に大きくのけぞった。後ろに、ちらりと光るものが見えた。剣だ。誰かがグリフォンを後ろから斬りつけたのだ。


「『神速剣』!」


 どんなに弛緩しきった空気でも、たちまち張り詰めさせてしまうような、凛とした声が響いた。次に俺の目にうつったのは、目にもとまらぬ速さで、グリフォンの体を切り刻んでいく。


 どさり、と。

 グリフォンは自分の血で作られた血の海に、力なく身体を倒した。


 俺はグリフォンの身体に隠れていたその男をようやく目にした。


「アレクシス様」


「無事なようだな。ヴァン」


 おいおい。

 格好良すぎるよ、あんた。


 そこには涼しい顔をしてアレクシス様が立っていた。

 アレルは、面倒くさいことが起こったと言わんばかりに眉を歪めていた。

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