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ルーン魔術師とクラーラ・ラズバード・2

 俺は走って大広場に戻る。途中、人の波に流されそうになりながらも何とかかいくぐり、大広場に到着する。アリシアのお店の近くまで行くと、アリシアの声が聞こえてくる。


「いらっしゃいませー! よろしくお願いしまーす!」


 遠目からだが、そこには、元気に声かけをしているアリシアの姿があった。

 店の前には相変わらずぽつりぽつりとした人足。クラーラ様の方は相変わらずの盛況。それでも、アリシアは負けじと声を張っていたのだ。


 お客さんがルーンを手に取ると近くまで行って丁寧に説明をしている。その説明を聞いて買っていくお客さんもどこか幸せそうな顔をしている。


 不利なことは分かっているし、焦ってもいるだろう。

 でも、今自分が出来ることを彼女は精一杯しているのだ。


「一生懸命よね」


 後ろから声が聞こえる。

 振り向くと、そこには見慣れぬ女性が居た。

 帽子にメガネ。それから地味目なスカート。そんな姿に既視感が襲う。


 ああ。と俺は気付く。アリシアが変装している時と同じような格好なのだ。


「クラーラ様」


「気付くのちょっと遅くないかしら?」


 クラーラ様がいたずらっぽく笑う。


「すみません。えっと、それで何をしてるんですか?」


「何って、妹観察よ」


「それはまた珍しい行動を」


「ふふふっ。ねえ、ここで一緒に妹観察しない?」


「いや……。それなら、俺はアリシアを手伝いに――」


「もうちょっとだけ」


「え?」


「もうちょっとだけ、一人で頑張らせてあげて。きっと、あの子には貴重な経験になるから」


 俺はアリシアの頑張る姿を見ながら少し考える。

 これまで、アリシアがこんな風に頑張ることは無かっただろう。一人で国のために歴史や外交の勉強をして、人知れないところで出来ることはないかと頑張ってきた。

 だけど、これからは人前に出て頑張っていこうということもあるかもしれない。そういう時に、この建国祭の経験はきっと生きてくる。そんな確信が、俺の中にもあった。


「それに、あのお店の飾りつけも素敵だわ。ずっと見てても飽きないもの。あれは私には出来ない。あれもルーン魔術なの?」


 クラーラ様がアリシアのお店を見ながらそういう。

 お店のあちこちに飾り付けられた【発光】のルーンが発動しているガラスは穏やかにきらきらと、様々な色の明るい光を放っている。


 それはまさに幻想的な光景を生み出していた。


「あれもルーン魔術ですよ」と俺は言う。


「へえ。すごくきれい」


 クラーラ様が見惚れているような、今にもため息が漏れそうな、そんな熱を含んだ声で言った。


「あなた、本当にすごいのね。あんなことも出来るなんて」


「あれは、アリシアのアイデアですよ」


「え? アリシアの?」


「はい。ルーン魔術は色んな使い方が出来ます。俺には、あの使い方は思いつきませんでした」


「そう、なんだ…」


「クラーラ様?」


「……なんでもないわ」


 それ以上、クラーラ様は何も言わなかった。


 クラーラ様は、何を思って妹を見つめているのだろう。

 剣や魔法の才能に溢れ、将来有望とされているクラーラ様は何を求めているのだろう。


 そんな疑問が俺の頭に浮かび上がる。


 勝てば、俺と婚約するなんて話になってるけど、本当にそれがクラーラ様の求めている物なのだろうか。

 その答えは、俺の中には無かった。きっと、答えはクラーラ様の心の中にしかないのだ。鍵がかけられた金庫の中身を鍵を開けずには取り出せぬように、俺がそこにどれだけ手を延ばそうとも、届かない。


 しばらくして、アリシアのお店が少し落ち着いた。


 そのタイミングで、俺たちはアリシアと合流する。

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