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ルーン魔術師とお店の様子

 大広場はすでに、賑わいを見せていた。

 大広場の入り口に立つ俺は唖然としていた。


「すごい人だ……」


 俺は人の波と、そこに渦巻く激しい熱に煽られていた。誰もが楽し気に笑っていて、見ているだけでこっちもワクワクとしてくる。そんな力が、そこにはあった。


 俺たちはなんとか人の間をかいくぐって、アリシアのお店にたどり着く。

 アリシアのお店は、【発光】のルーンが使われて、色とりどりにほんのりと輝くガラスの光に彩られ、幻想的な雰囲気を作っていた。

 アリシアの言っていた飾りつけはどうやら間に合ったようだった。俺はそれにひとまず安心する。


「あ、アリシア様。それにヴァンたちも、ようやく来てくれたんですね」


 店にいたザロが迎えてくれる。


「調子はどうですか?」


 アリシアが訊くと、ザロは申し訳なさそうな顔をする。

 その表情で、何となくだが状況を察してしまう。


「それが、あんまり良くないと言いますか」


 お店の前には、ぽつりぽつりと人が足を止めてアリシアが作ったルーンの書かれた道具や紙を見ている。ちゃんとお客さんは来ているようだが……。


「いらっしゃいませー!」「どうぞこちらをみていってくださーい!」


 突如隣からそんな声が響く。それと同時に、客もそっちを見て、ふらふらと行ってしまう。

 客の向かう方を見ると、豪華絢爛に飾られたお店に、可愛らしい制服を来て目立つ店員たち、それになんと言っても目を引くのは堂々とした立ち振る舞いのクラーラ様だ。自ら店頭に立って接客をしているのはたくましいというべきか。

 王女様があんなに堂々と店の前で立っていて大丈夫なのか、とも思うが、まあ大丈夫なのだろう。

 

「目立つっていうのもあるんですが、クラーラ様のお店の商品は、アクセサリーなんですよね」


 とザロが言う。

 確かにクラーラ様の店頭に並んでいるのは、綺麗なアクセサリー類だ。


「なんていうか、商品として分かりやすいんだ。もちろん、俺はヴァンとアリシア様のルーンがすごいってことは知ってますが……。普通のお客さんにはわかりにくいかもしれない」


 ザロの言うことは正しいように思えた。

 ルーン魔術は使わなければその価値は分からない。でも、アクセサリーは、綺麗とか、可愛いとか、見た目で分かりやすい。勝負に向けて、ちゃんと商品を選んできたんだ。


 走り出しは、クラーラ様が優位なようだ。

 俺は少し心配になってアリシアをみる。


 いや、心配しすぎだったかもしれない。


 アリシアは、気合の入ったまなざしで、クラーラ様を見つめていた。


「アリシア。大丈夫?」


「はい、ヴァン。最初から、楽して勝てるとは思っていません。まずは、みなさんにヴァンのルーン魔術の良さに気付いてもらうことからですね」


「俺のじゃないよ」


「え?」


「俺とアリシアの、だよ」


「わたしと、ヴァンの……」


 それから、その言葉を何度もかみしめるようにしてから、目をキラキラと輝かせてアリシアは言った。


「はい! わたしと、ヴァンのですっ!」


 勝っても負けても、きっとアリシアのためになる勝負になるだろう。


「さて、ヴァン。俺たちも行くとするか」


 そう言ったのはディアンだ。


「へ? どこに?」


 俺は突然のことにそう聞き返す。


「剣術大会。まさか、忘れてたわけじゃないよな?」


「いやいやいや。覚えてるよ流石に。毎日そのためにディアンと特訓してたんだし。そういえば、誰と戦うの?」


「その対戦相手が今日わかるんだ。対戦表が発表されるのは、開会式の後なんだ。それを見に行かないとな」


「そうなんだ。でもディアンはアリシアたちの側にいたほうがいいんじゃない?」


「俺は剣術大会の運営もしないといけないんだ。それに、ここには警備の騎士も居るし、ミラも居る。隣にはクラーラ様たちも居るから実は結構警備が手厚くなってるんだ」


 あたりを見ると、ディアンの言う通り警備の騎士が他よりも多いように思えた。なるほど。ちゃんと何かあった時の備えは出来ているみたいだ。


「ヴァン」と俺を呼んだのはアリシアだ。「行ってください。ヴァンも、頑張って」


 にこりと笑うアリシアに、俺は肯いた。


「じゃあ、行ってくるよ」


 俺はそう言って、ディアンと共に闘技場へと向かう。

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