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ルーン魔術師と建国祭・4

 時間は恐ろしく早く過ぎていった。

 ディアンとの剣技大会のための特訓。アリシアとお店で出す商品の相談とルーンを作る手伝い。ザロたちの手伝いもした。

 色々と忙しくて、その忙しさにグラン王国にいた時のことも思い出した。あの時も、忙しかったなあ、と。だけど、一つ大きく違うところがある。それは、今は楽しいということだ。

 だからこそ、時間の流れが早く感じるのだろう。いつの間にか、建国祭はやってきていた。


 建国祭は五日にわたって行われる。


 その初日、建国祭の始まりを告げる開会式はつつがなく行われた。

 開会式が行われたのは、王都にある広い闘技場だった。王都でも昔からある建造物の一つで、実力主義のラズバード王国としては、闘技場は特に重要な意味を持つ場所らしい。そしてここは、剣技大会の会場ともなる。

 闘技場の観客席は、今では国民でいっぱいに埋まっていた。俺とハンスはある程度余裕のある来賓席に案内されて、そこで開会式の様子を見守っていた。

 しばらくして国王様の挨拶とアレクシス様の挨拶があった。

 クラーラ様とアリシアの挨拶もあったが、最初の二人に比べれば、それは建国祭の成功を祈るという簡単なものだった。

 二人ともいつもよりもかなり豪華できらびやかな衣服を着ていた。クラーラ様は見事な髪飾りをつけていた。アリシアも、早朝から数時間を掛けて長い桃色の髪をセットしてもらっていた。綺麗に桃色の髪を結いあげてもらったアリシアは、いつもより数段大人びて見えた。

 俺はラズバード王国で初めてこういう祭事に関わったので、全員の、特にアリシアの王族としてのたたずまいには感心させられた。

 彼女たちからあふれ出る品格に、俺が今関わっている人たちは、本当に王族なんだ、と改めて実感させられたのだ。


 開会式が終わると、俺はディアンとミラ、それからアリシアと共に、一度王宮に戻った。


「お店に急ぎましょう!」


 それが、アリシアの第一声だった。


「お待ちくださいアリシア様。まずはお着替えを済ませてからです」


 焦るアリシアをミラがいさめる。

 今のアリシアの格好は、さっきまで開会式をしていた時の格好のままだ。きらびやかなドレスだが、それが街に出ていく格好ではないことくらい俺にでも分かる。

 アリシアは自分の姿を確かめるようにきょろきょろとしてから力なく俯いた。


「あうっ……。そうでした……」


「大丈夫です。王宮からも数人ですが人手は借りられましたし、ザロたちも頼りになります。焦る気持ちも分かりますが、落ち着いてください」


「ありがとう、ミラ。そう、ですよね」


 アリシアは大きく深呼吸をする。

 アリシアにとっては、初めてちゃんと建国祭に参加するんだ。その緊張や焦りは当然のことかもしれない。俺も何かしてあげられればいいんだけど。


 こういう時に、ルーン魔術は本当に無意味になる。色んな人に、『なんでもできるんだな』なんて言われてきたけど、やっぱりなんでもできる訳じゃないと実感する。


 俺はなんとかアリシアに掛ける言葉を探す。


「ねえ、アリシア」と俺は呼びかける。


「は、はいっ。なんでしょうか、ヴァン」


「ほら、一番はじめに建国祭の話をした時のことを覚えてる?」


「一番、はじめ、ですか?」


「うん。楽しい建国祭にしようって」


「楽しい……。でも、もし私が負けたら、ヴァンは……」


 不安そうに、アリシアは俺を見つめる。きっと、そんなに不安そうにする必要なんてないんだ。


「大丈夫。何も変わらないよ」俺は言う。


「変わらない、ですか?」アリシアが訊く。


「うん。俺はこれからもアリシアにルーン魔術を教えるし、アリシアが負けたからってアリシアを見捨てる訳じゃない。これからもずっと、大切に思ってる。それは変わらないんだ。だから、ね。楽しもう」


 そう言った瞬間、アリシアが顔を背ける。

 しまった。言葉を間違えてしまっただろうか。


「た、大切に……」

 

 アリシアが小さくつぶやいた。

 顔を背けているアリシアの代わりに、俺の肩に手を置いたのはディアンだった。

 

「ヴァン、全くお前って奴は」


「え? ご、ごめん。なんか変なこと言ってた?」


「いいえ。変ではありませんよ。お見事です。きっとアリシア様の心にも響かれたのでしょう」


 そう言うミラは、なんだか意地悪そうに俺を見ている気がするけどからかわれてんのかな?


「さ、アリシア様。着替えに参りましょう」


 ミラがアリシアの小さな両肩に手を置いて、くるりと回る。背中越しにミラは振り返り言った。


「それでは、また後ほど」


 ミラがアリシアを押しながら連れていく。

 それから、アリシアが戻ってくるのを待ち、王都に出る。


 建国祭が始まったのだ。

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