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ルーン魔術師と建国祭・3

 大広場の喧騒が嘘のように、王宮の裏庭は静まり返っている。

 大広場から戻った俺は、ついさっきまではここでディアンと剣と剣を打ち合わせて激しい音を響かせていたのだが、一通りの特訓をつけてもらい終わり、身体を休めている最中だった。

 大広場の熱気とは打って変わって、森からやってくる新鮮な空気が温まった体を心地よく冷ましてくれる。


 俺は地べたに座り込んで、おおきく息を吸っていた。淡く漂う草木の香りが身体の中に入ってくる。それは身体をめぐって、俺の疲労感を少しでもやわらげようとしてくれているように思えた。


「どうだ、ヴァン。剣技大会はなんとかなりそうか?」


 俺の隣に、腰を下ろすディアン。彼は息一つ乱れていない。


「どうだろ。よくわかんないや。ディアンから見たらどう?」


 俺は訊いた。


「身のこなしは剣士っぽくはないが、やはりなかなか様になってるよ。特に攻撃を避けたり受け流す技術は俺も見習いたいくらいだ」


「あははは……。それだけは死ぬ思いをして覚えさせられたからね」


「そう言っていたな。だが、剣で攻撃するとなると、隙が少し目立つな。そこを狙われなければ何とかなるかもしれないな」


「なるほど。気を付けるよ」


 的確な助言を受けながら、俺たちは空を眺める。青く広い空には、大きな白い雲が浮かんでいる。身体の火照りが空に逃げていっているように感じた。次第に喉が乾いてくる。グラスでもあれば、【湧水】のルーンを使って自前で飲み水を用意するのだが、残念ながらグラスは無かった。


「お疲れ様です。ヴァン。ディアン」


 そろそろ喉の訴える渇きに答えてやろうか、と立ち上がろうとしていたころだった。

 裏庭にやってきたのは、アリシアとミラだ。

 アリシアの手にはグラスが握られている。二つ。透明なグラスには、ルーンが張られている。アリシアがそれに魔力を流すと、ルーンは光り、グラスの中には水が沸きだしてきていた。


「どうぞ、ヴァン」


「ありがとう、アリシア」


 受け取ると、ひんやりとした感覚が手のひらから伝わる。俺はグラスに入った水を一気に飲み干す。俺の体は、乾いた大地に芽生える植物のように水を求めていた。


 俺が水を飲み干すのをアリシアがまじまじと見ているのに気付く。目が合うと、


「どうでしょう? 【湧水】のルーン。上手に出来てますか?」


「うん。文句の付け所も無いよ」


 こたえると、アリシアは真綿みたいに優しく微笑んでいた。その柔らかな笑顔は、俺の心を包み込むみたいに温かくしてくれる。


 それからアリシアはディアンにも、水の入ったグラスを手渡す。


「ありがとうございます、アリシア様」


「いいえ。ディアンもお疲れ様です」


 それからアリシアは俺の隣にやってきて、すっと腰を下ろす。地面にぺったりとお尻をつけて、膝を抱える。


「ミラに怒られない?」と俺は訊く。


「大丈夫ですよ、ね。ミラ?」アリシアはミラを見上げる。


 呆れたようにミラはため息をついて言った。「構いませんよ」


「何かいい案は浮かんだ?」と俺は隣に座るアリシアに尋ねる。


「それなんですが……。やっぱりお店の飾りつけにも、ルーン魔術を使いたいと思っています」


「何のルーン?」


「【発光】のルーンです」


 アリシアは迷いなく言った。

【発光】のルーンは、【閃光】のルーン同様光を放つルーンだ。その特性上、明るい場所でしか使えない。【閃光】のルーンとの違いは、長い時間穏やかに発光し続けることである。

 正直、俺的にはかなり使いどころがないと思っていたルーンだ。明るいところで光源なんかいらないし、暗い所では使えない。【閃光】のルーンのように、目くらましに使えるわけでもない。

 だけど、アリシアにはちゃんと考えがあることは何となくだが伝わってきた。


「どう使うの?」と俺は訊いた。


「その、試作品なんですけど。見てもらえますか?」


 アリシアが取り出したのは、赤いガラス玉だった。それには小さく【発光】のルーンが刻んであった。

 アリシアが魔力を込めると、ガラス玉は光出す。

 それは、ただ光るというだけではなく、柔らかい赤を空間に浮き上がらせるように光った。ぼんやりと輝く赤い光は、幻想的と言ってもいいかもしれない。


 ルーンには、まだこんな使い方があるのか。


 やっぱり、俺が口を出さなくて良かった。俺は心底そう思った。そして、教え子のちゃんとした成長ぶりに、感動を覚えずにはいられなかった。

 師匠も、俺が成長した時には、こんな風に嬉しくなったりしたのだろうか?


「どう、でしょう? 他の色も使って、装飾に使おうと思ってるのですが」


 確認するように訊くアリシア。桃色の唇は、軽く孤を描いていた。


 俺は、このガラス玉が装飾された露店を想像してみる。色んな柔らかい光に包まれた露店だ。幻想的で、そこでしか見ることのできない光景が出来上がるだろう。結果がどう転ぶかは分からないけれど、とにかく俺はそんな光景を見てみたいと思った。 


 俺は頷いて答える。


「すごく良いと思うよ。頑張ったね、アリシア」


「はい! では、さっそくこれから露店に言ってザロたちと相談したいと思います!」


「俺もついて行くよ」


「ヴァン」と言ったのはミラだ。申し訳なさそうに俺を見ている。「レグルス様がヴァンのことを呼んでいて。ゆっくりでいいから、この後来てくれ、と。ですから、露店のことはアリシア様とわたしにお任せできませんでしょうか?」


 国王様が俺を?


「お任せするも何も、俺は手伝い程度だから露店のことはいいんだけど。それにしても、国王様が俺を呼んでるって、何の用だろ?」


「そこまでは聞いておりません。すみません」


「いやいや、謝ることじゃないよ」


 俺は立ち上がる。アリシアも立ち上がろうとしていたので手を差し伸べる。


「ありがとうございます」と言いながら、アリシアは俺の手を取り立ち上がる。


「ヴァン、俺には?」とディアンが言った。


 勝手に立ち上がりなよ。男だろ?


「じゃあ、俺はとりあえず、国王様のところに行ってみるよ。アリシアもミラも、気を付けてね」


「お気遣いありがとうございます。国王様はいつもの談話室でお待ちです」とミラが言った。


 俺は裏庭から王宮に入り、国王様のもとへと向かう。

 一体何の用だろうか?


 ただ、俺にも一つ訊きたいことがあった。

 それを考えると、今国王様に呼ばれたのはタイミングが良かったのかもしれない。


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