ルーン魔術師と建国祭・2
建国祭の日が近づくにつれて、色んな話がとんとん拍子に進んでいく。
まず、アリシアだがクラーラ様に任されていた仕事を一旦中断することになった。というのも、クラーラ様ももちろんそのつもりだったようだし、それに、アリシアがルーン魔術を使ってお店を出すことを予想していたようだった。
「全く、自分の技術が価値あるものだということにもうちょっと自覚を持ちなさい。アリシアも、ヴァンも」
ハンスに言われたことを繰り返しクラーラ様にも言われた。苦笑いして誤魔化す俺とアリシアを見てクラーラ様も呆れていたようだった。
それから、出店する場所も決まった。
「大広場の区画が一つ空いていましたので、抑えておきました」
俺とアリシアのもとにやってきたミラがそう言った。
「本当ですか?」とアリシアが驚く。「大広場の区画は人気な場所と聞いていたんですが」
アリシアの反応を見ると大広場というところは本当に人気な場所の用だ。
そんないいところを取れたのはクラーラ様との勝負があるアリシアにとってはいいことだろう。
「本当に良く取れたね、ミラ」と俺も言う。
「大広場は人気ですが、今回、開いていた場所はその真隣にクラーラ様の区画があるんです」
「お姉さまの? それが何か関係するんですか?」
「はい。クラーラ様のお店はいつも派手でございますから、下手な出店をすると余計に地味に見えてお客が寄ってこないとか。だから、みなさん出店を避けているんです」
「なるほど……。ということは、本当に真正面からの勝負になるのか」
「そういうことになるでしょう」
「でも、大広場で無いと勝負にもならなかったかもしれません。そんな場所を取ってくれてありがとう、ミラ」
「いえ。わたしはそのために居ますので。それで、あとは人手と商品ですね。人手の方もいくらかこちらで探しておりますが、王宮内ではすでに他の予定と被っている人が多く上手く手配できていない状況です。当日までには何とか間に合わせようと思いますが……。申し訳ございません」
頭を下げるミラにアリシアは優しく首を振る。
「謝るようなことではありませんよ、ミラ。あなたは良くやってくれています」
「温かいお言葉。感謝申し上げます。それで、商品の方はどうですか?」
ミラの問いに、俺は答える。
「とりあえず、【湧水】とか【発火】とか。そういうのは使いやすいし、用途も多いからいいんじゃないかなって思ってる。他にも、色んなルーンをアリシアに教えながら作ってるよ」
「なるほど。馬車が揺れないようになるルーンもあると聞きましたが」
「ああ、あるけど、売れるかな?」
「建国祭には各地から商人も多く訪れます。もちろん、馬車を使って。そういう方たちを狙ってみるのもいいのではないでしょうか」
おお、なんかすごく的確なアドバイスだ。
さっそく俺とアリシアは作業に取り掛かる。
「ところで」
だが、ミラの声が挟まる。
「ヴァン。今日も、そろそろ時間ではないですか?」
時計を見ると、午後二時前だった。俺はハッとして立ちあがる。
「本当だ。行かないと……」言いながら、アリシアの方を見る。「って、えーっと、アリシアは大丈夫?」
アリシアは肯いた。それから、俺を心配させないためか笑って見せる。
「はい。大丈夫です。それに、もともとこれはわたしの戦いです。一人で出来ないなんて泣き言、口が裂けても言えません」
「無理は、しないようにね」
「はい。ありがとうございます。ヴァンの方も、ケガなんてしないようにお気をつけてください」
晴れ間に向かって開く花のような笑顔に励まされながら、俺はアリシアとミラの下を後にした。
向かう場所は王宮の裏側、裏庭だった。
そこには騎士服のディアンがいた。その手には二本の剣がある。
俺の剣術大会の参加が決まった日から、俺はディアンに頼んで空いている時間でいいのでこうやって稽古をつけてもらうお願いをしていたのだ。流石に、何の準備も無しに剣術大会に勝てるわけがないことは分かっている。
「今日もちゃんと来たな、ヴァン」
ディアンが言いながら剣を手渡してくる。受け取ると、ずしりとした重みが俺の手にかかる。抜き身の剣の刃はつぶしてあるが、それでも武器足りえることをその重みをもって俺に教えてくれているようだ。
「忙しいのに、こうやって時間を作ってくれてるんだから、来ないわけにはいかないよ。本当にいつもありがとう」
「ははは。ヴァンのためならこんなことなんでもないさ。世話になりっぱなしだからな。俺にできることなら協力するさ」
剣を構えるディアン。
俺もそれを見て剣を構える。
剣術大会。実際に勝てるかどうかなんてことは分からない。でも、とりあえずやれることは全部やって、全力で臨むんだ。
負けた時のことは、今はとりあえず横に置いておいて。