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ルーン魔術師とアリシアの応援


 模擬戦場には熱気が渦巻いていた。

 一時間も時間があれば、人はその話を聞きつける。

 

 それはまあ、分かってたんだけど……。


「アレクシス様が模擬戦をされるらしいぞ」「おお! 見逃せねえな!」「相手は誰だ?」「それが、あの例のルーン魔術師らしい」「ああ。実際どれだけやるんだろうな?」「どっちが勝つと思う?」「そりゃ……お前」「アレクシス様だろ!」


 人、多すぎない?


 俺が見るに、模擬戦場の観戦スペースにはほとんど空席が無かった。観戦スペースじゃないところにも立ち見が出ている始末だ。


「すごい人だな。まさか、模擬戦でこんなに集まるとはな」


 とディアンが言った。


「……。みんな仕事とかはいいの?」


 と俺は呆れて聞いた。建国祭の準備でみんな暇じゃないはずだろ?


「こんな大イベントで仕事なんて言ってる場合じゃないだろ」


「大イベントではなくない?」


「何言ってるんだ。アレクシス様対アリシア様や俺と親し気にしている謎のルーン魔術師が模擬戦をするんだ。盛り上がらないはずがない」


「謎って……」


「実際謎だろ? 俺たち以外の王宮の人間とあまり関わりは無いし、ヴァンのことを良く知らない人間の方が多い。他の騎士にしてみれば、突如現れたよくわからない奴が、アリシア様や俺、果ては国王様なんかとよろしくやってるんだ。気になる人間は多いに決まってるだろ?」


「……言われてみれば、確かにそうかも」


 俺が逆の立場だったら、確かに気になるだろう。そして、彼らと同じように、ここに模擬戦を見に来るかもしれない。……。いや、流石に人が多すぎて帰るかも。


「面白いことになっているじゃないか」


 その声が聞こえた瞬間に、場が静まり返る。渦巻いて膨脹していた熱気は、嘘みたいに温度の感じない静謐な空気感に変わる。

 次の瞬間、騎士たちは全員立ち上がり、姿勢を正す。

 その変わりように俺は、動物や虫が騒がしい密林から、突如、格式高い式典に放り出された気分になって思わず戸惑った。


 そんな空気感を作った人物が、姿勢を正す騎士たちに向かって片手をあげると、彼らは少しだけ姿勢を楽にしていた。


「レグルス国王様」


 と俺はその人物の名前を呼んだ。


「俺だけじゃないぞ」


 見ると模擬戦場の入り口あたりには、アリシアとクラーラ様もついてきていた。アリシアがやわらかい笑顔で手を振っている。

 俺は国王様と共に、二人のもとへと向かって一度模擬戦場を出る。


「アリシア様とクラーラ様まで来られたんですか?」


「面白そうなことをするって聞いてきてみたわ」とクラーラ様がおかしそうに言う。そんな野次馬根性で一国のお姫様が来なくても……。


「ごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって」と申し訳なさそうに謝るのがアリシアだ。


 俺は「謝ることじゃないよ」と首を振る。


「俺の問題でもあるんだ。アリシアだけに任せて、それでのんびり見とくなんて出来ないよ。それに、できれば二人には迷惑もかけたくないしね」


「迷惑……ですか?」とアリシアは首を傾げる、


「俺なんかを婚約者にしたら二人とも困るでしょ? だから、出来れば自分で解決したいんだ。俺が、アレクシス様にここに居ていいって認めてもらえれば、二人にも迷惑をかけないから」


「そ、そんな迷惑だなんて……。そんなこと……」


 俯いて何かを呟くアリシア。


「どうしたの?」と俺は訊いたが、「なんでもありません!」と顔を背けられる。


 もしかして、何か変なことを言っただろうか。


「それで、アリシアも模擬戦が面白そうで来たの?」


「いえ、わたしは、あまり戦いを観たりというのは、その……。好きではないです」


 ちょっと困った感じでアリシアはそう言った。


「そうなんだ」


 まあ、そうだよね。俺もそのほうがいいと思う。


「ただ、ヴァンが戦うと聞いたので……応援にきましたっ! 頑張ってください、ヴァン!」


「うん。ありがとうアリシア」


 俺はその言葉を素直に受け取った。やっぱり、誰かが応援してくれているというのは、凄くありがたい。


「アリシア」とクラーラ様が声をかける。


「なんでしょう、お姉さま?」


「こういう時にはね、勝ったらなになにしてあげる、って言ってあげるのよ。勝った時にご褒美があるのとないのとでは、男のやる気というのは違うものよ」


「そ、そうなんですか? え、えっと……。じゃあ……」


 と難しい勉強をしているような顔でむむむ、と唸りながら何やら色々考えて、何か妙案を思いついたのかパッと顔を明るくしてアリシアは言った。


「勝ったら、婚約します!」


 じゃあ、何のために俺は頑張るんだろうか。

 とりあえず丁重にお断りして、俺は模擬戦場へともう一度、足を踏み入れた。

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