ルーン魔術師と剣術大会・1
俺はアリシアとクラーラ様の二人と別れて、ディアンのもとに来ていた。
「そうか。今二人は何の勝負をするのかを検討している、ということか」
「うん。それで、俺は俺でどうするのかを考えてこいってクラーラに言われてね」
「俺を頼りに来たってことか」
「そういうこと。悪いけど、なんかいい案が無いかな? 俺はアレクシス様のことは良く知らないし、どうやったら信頼を得られるか今は見当もつかないんだ」
「ふむ……。あのお方は、まあ、なかなか難しい人だからな。いいんじゃないか、アリシア様と婚約してしまえば」
いいんじゃないか、っていいわけないだろ。
なんでそんなに投げやりなんだよ。
からかってんのか?
俺はディアンの冗談をからかい返す。
「そういえば、前にディアンが厄介って言ってたぐらいだもんね」
「お、おいおい。それは忘れてくれって」とディアンは露骨に焦りだす。
「あはは。ごめんごめん。ってより、本当に真面目な話で。何かないかな? 単純に、俺がこの国のために何ができるかを見せればいいって訳でもないよね?」
「ふむ。そうだな……」とディアンはようやく真面目に考え出す。「一つ、思い当たるところはある」
「ほんとう?」
ディアンが肯く。
「ああ。だが、信頼を得るという話とは違うがな」
「違うのかよ」
「まあ聞け。建国祭で、剣術大会がある話はしたよな」
ああ、そういえばそんな話を聞いた。
だけど、それがどう関係するんだろうか。
「あの大会は、アレクシス様の主催なんだ」
「もしかして、それで優勝しろってこと?」
「まあ、端的に言えばそうなる」
「それで、信頼を得られるかな?」
「いや、信頼とは違う話になる。その剣術大会だが、例年、優秀な者をアレクシス様が騎士にスカウトしている。特に優勝者は毎回だ」
「騎士に?」
「ああ。流石に、ヴァンが優勝した時に、今回だけはスカウトしないなんて例外は作りたくはないだろう。毎年、騎士にスカウトされるのが目的で剣術大会にのぞむ者も少なくないからな」
「なるほどね。でも、それなら普通に騎士になるんじゃダメなのかな?」
騎士になってこの国に残れるって言うんなら、アリシアやクラーラ様に迷惑をかけるよりかはずっとそっちの方がいいんだけど。
「アレクシス様が最終的な騎士の任命権を持っておられるからな。俺がヴァンを騎士に推薦しても今は許可してもらえないだろうな。やっぱり剣術大会で優勝してアレクシス様の方からスカウトされるしか今のヴァンの立場だと難しいと思うぞ」
「そっか……」
俺はディアンの提案について少し考える。
確かに、そういう方法もあるという点では、いい話を聞けたと思う、ただ……。
「浮かない顔だな」
「うーん。だって、優勝するのが前提の話だよね。なんか、それはそれで俺には無理な話がしてくるよ。剣術大会っていうくらいだし、剣を使って戦うんでしょ?」
「ああ。模擬戦用に剣と盾が貸し出される。それと、細かいルールとしては道具は持ち込み禁止、魔法の類も禁止だ」
「じゃあ、ルーン魔術も?」
「当然そうなるだろうな」
ダメじゃん。
「まあ、出てみる価値はあるんじゃないか? アリシア様かクラーラ様の婚約者になってしまったら、簡単に婚約破棄なんて話にはならないが、騎士程度ならいくらでも辞めようがあるからな」
「あ、あはは……。アリシアは簡単そうに言ってたけど、やっぱり婚約者になって辞めますなんて話にはならないよね」
「ならないな」とディアンがため息交じりに言った。「まあ、俺はお前にアリシア様を任せられるなら気が楽でいいが」
「職務怠慢じゃん」
何考えてんだよ。気が楽でいいが、じゃないんだよ。
「ははははは! まあ、ヴァンなら何とかなるさ。それに、剣術大会に出てる間に、アレクシス様の信頼も得られるかもしれないぞ」
「また、根拠もなく……」
「根拠ならあるさ」
「なに?」と一応聞いてみる。
「俺がヴァンのことを信頼してるってことだ」
いきなり真面目な顔してそんなことをいうから、俺は思わず面食らって、ちょっと黙ってしまった。
何故か言われたこっちが小恥ずかしくなってくる。
「えっと、その。ありがとう、ディアン」
それから他愛もない話をいくつかして、別れ際にディアンは軽く笑みを作った。
「ま、なんかあったら俺にも言ってくれ。出来るだけ協力するぜ」
なんだよ。イケメンかよ。