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ルーン魔術師と建国祭・1

 最近、ラズバード王国の王宮に居てある変化に気付く。

 ここのところ、なんだか慌ただしいような気がする。


 兵士もメイドさんも、なんだか小走りに行動している人が目につくようになったのだ。喧騒というべきか、妙に誰もがせわしないのだ。


 今、俺たちは王宮の喧騒から隔離されたように王宮の一室で紅茶を飲みながら雑談をしていた。俺とアリシアとディアンとミラの四人だ。


「どうかしましたか、ヴァン? 何か考え事をしているようですが。も、もしかして、お姉さまがまた何か突拍子の無いことを?」


 クラーラが王宮に帰ってきてから、アリシアはかなり彼女を意識しているようだった。まあ、あの人もあの人でアリシアを思っているようだけど、確かにやり方は少し強引なんだろうなと思う。いきなり結婚をしろだなんて言われたあの日のことも記憶に新しい。


「クラーラ様は関係無いですよ」と俺は言った。


「ほ、本当ですか? また、あの……。結婚を迫られたりなんて、していませんか? もしそうなら、言ってもらえれば私がなんとしてでも止めますので」


「ありがとう、アリシア」


 実際あれ以来クラーラは大人しいものだ。というより、滅多に顔を合わせない。どこかに行っているのだろうか。


「ところで、ヴァン」とミラが切り出した。それからティーカップに手を添えながら真面目な顔で続ける。「ラズバード王国では、一夫多妻制は認められていませんので」


「へえ。そうなんだ」


 いきなりどうしたんだろう?

 突然この国の制度について言われても返答に困った俺は適当に相槌をうった。


「お気を付けくださいね」


 何に?


「お、お気を付けくださいねっ!」とアリシアも続く。


 一体なんだというんだろう。この国では野生の一夫多妻制でも襲ってくるのだろうか。


 話の流れを突如見失った俺は、もとの疑問に立ち返ることにした。


「えっと、そういえば最近王宮が慌ただしい気がするんだけど、気のせいかな?」


「気のせいじゃないぞ」とディアンが言う。「近々、建国祭があるんだ。ヴァンに言い忘れてたな」


「言い忘れないでよ」


「すまんすまん。なんだか長いこと一緒にいるような気がしてな。知ってるものだと思い込んでた」


「そ、そう?」


 俺たちの距離は結構近づいてるのかもしれない。少なくとも出会ったころよりかはずっとそうだろう。


「じゃあ、建国祭の準備でみんな忙しそうにしてるってこと?」


「ああ、そうだ。国の主催でやるイベントがいくつかあってな。開会式、剣術大会、音楽会。他にも、出店が並ぶ区画の警備とかの仕事もある。メイドや兵士たちの中でも出店を出そうってやつも居るしな。例えば、クラーラ様とかも、毎年出店の区画にでかい出店をしてる」


 ああ、なるほど。それでここ数日クラーラの姿を見なかったのか。


「まあ、そんなこんなでてんやわんやだ」


「そうだったんだ。みんなも何かするの?」


「私は開会式で挨拶をするくらいですよ。それからは時間があるので、一緒に建国祭を見て回りましょう」


「えっと、大丈夫なの?」と聞いてみる。


「まあ、ヴァンが居るなら大丈夫だろ」


 はいはい。そうですよね。知ってましたよ、そう返ってくるって。まあ、頼られるのは嬉しいけどさ。


「って、ディアンは忙しいの?」


「ああ、剣術大会の方でな」


「なるほど。確かに、ディアンは出たそうだね」


「いや、出る方じゃない。運営の方だ。一度優勝したら剣術大会は出られないからな」


「えっ! じゃあ、ディアンは優勝したことがあるってこと?」


「ああ、そうだ。それに一応俺はこれでもアリシア様の近衛騎士だからな。運営じゃなかったら、アリシア様と共にいる」


 まあ、そりゃそうか。


「本当は、俺が運営をしている日は、アリシア様にはここで大人しくしてもらっている予定だったが、ヴァンに頼むとしよう」


「だ、大丈夫? 俺一人で」改めて不安になってくる。


「私もつきますし、それに、建国祭の期間は、そこら中にうようよと警備兵がいます」ミラがそう言う。


 うようよとって、自国の兵士に使う言葉じゃない気がするが。


「特別暗い道に入ったりしなければ、大丈夫でしょう」とミラが言った。


「そっか。俺も気を配らないとね」


 もちろん自分も油断なんてする気はなかった。


「楽しい建国祭にしましょうね」とアリシアが笑った。


 もしかしたら、アリシアも楽しい建国祭というのは初めてなんじゃないだろうか? 俺は彼女の笑顔を見て、そんな風に思っていた。

 アリシアの過去からすると、そうであってもおかしくないはずだ。


 楽しい建国祭にしてあげたい。


 だけど、その思いが叶ってか、それとも思いとは裏腹にというべきか。


 俺たちの建国祭は、平穏な退屈でおわることはなかった。いや、始まりから、すでに建国祭の喧騒の渦に巻き込まれつつあったんだ。

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