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ルーン魔術師とアリシアとクラーラ・2

 俺たちは、王宮の広場にやってきていた。

 クラーラ様が【光盾】のルーンの強度を試したいということからだった。


 アリシアに手を引かれるまま、広場に出ると、すでにみんなが居た。

 クラーラ様にカタリナ様。

 ミラさんにディアン。


 そして。


「え、なにこの人だかり」


 四人を囲むように出来ている人だかり。

 全員が鎧姿に剣を腰に差していた。

 王宮内でも何度かすれ違ったことがある格好だし、ディアンもよくこんな格好をしていた。

 多分、この人だかりはみんな兵士さんだろう。


 でも、一体どうして?


「兵士さん達ですね……。どうしたのでしょうか」


 アリシアも同じように思っていたようだ。

 聞き耳を立てていると、色々と聞こえてくる。


「今から何があるんだ?」「分かんねえけど、ディアン近衛隊長とカタリナ近衛隊長が試合をするんじゃねえのか」「まじか。あの二人が? それは見ないとな」「どっちが勝つと思う?」「そろそろいい勝負になるんじゃねえか? ディアン隊長も年だろ」「でも、ディアン近衛隊長も帰ってきてから気合入ってるからなあ」


 どうやら、ディアンとカタリナさんが試合をするという話になっているらしい。


「カタリナさんってやっぱり凄い人なの?」


 でっかい剣を持ってるし、何となく兵士だとは思っていたが。


「カタリナは、お姉さまの専属メイド兼近衛隊隊長を務めているんです。何でもできる凄い人ですよ」


 専属メイド兼近衛隊隊長ということは、ミラさんとディアンの役割を一人で担ってるのか。

 アリシアが何でもできる凄い人という理由も分かる気がする。

 ミラさんもディアンも忙しそうだもんなあ。


 俺たちが近寄ると、兵士たちが道を開けてくれる。

 アリシアの姿を見た兵士は、慌てて敬礼をしていた。


「アリシア様だ」「あの男は?」「陛下が仰ってたが、あの方が例のルーン魔術師らしい」「ルーン魔術師ぃ? 強いのか?」「なんか魔族を倒したとか何とか」「本当か?」「いや、それが誰も見てないらしい」「実は、アリシア様の恋人で、婚約者にするために功績をでっち上げてるなんて話もあるな」


 凄い言われようだ……。

 もうちょっと聞こえないように言えばいいのに。


 アリシアもどこか難しい顔をしている。


「アリシア様。ヴァン」


 声をかけてきたのはディアンだった。


「あの、一体どうしてこんなに人が?」


「ミラに呼ばれて待ってたんだが、俺とカタリナが揃ってるからな。それを見た兵士たちが、騒ぎ立てちまったんだ。解散させようとも思ったが、クラーラ様が止めてな。それで、何をするんだ?」


「えっと、お姉さまが【光盾】のルーンの強度が見てみたいということでしたので……。あれ? ディアンはなんで呼ばれたんでしょう? 居なくてもいいような……」


「ひ、酷くないですか。アリシア様……」


 アリシアのいいようにディアンは涙目だ。


「い、いえ。そういうつもりではなくて……」


「万が一の事があった場合のことを考えてですよ」


 困ったアリシアの代わりにミラが言った。


「クラーラ様はカタリナに試させるでしょう。そうでないと、納得されないお方ですから。わたしもカタリナの力は認めるところにあります。ヴァンとアリシア様を疑っているわけではありませんが、万が一にもケガをされるわけにはいきませんから。ディアンに試させた方がいいでしょう」


「俺がケガをしてもいいって聞こえるが? ミラ」


「お二人に比べたらましでしょう。それに何のために体を鍛えてるんですか」


「いや、まあ、そりゃそうだが……」


「そろそろいいかしら? 早く始めましょう」


 クラーラ様がそう言うと、ディアンも諦めて首を落とした。


「分かりました。俺がやりましょう。ルーンを貸してください」


 俺とアリシアはディアンにルーンを渡す。


 頷いて受け取るディアンにはどことなく安心感を感じる。

 瞬間、ワッと歓声が沸いた。


 カタリナさんが剣を抜いていた。

 大剣の切先を天に向けるように構えている。

 それを見た兵士たちが興奮のあまり声をあげたのだ。


「……行きます」


 カタリナさんが静かに言った。

 それだけで、やっぱり相当な実力者だということが何となく分かった。

 ぴりぴりとした、肌を焼くような空気が伝わってくる。


「下がっていてください」


 そういうディアンの声にも緊張が伺えた。


 カタリナさんがディアンに向かって剣を振ったのは、俺たちが下がってすぐのことだった。


「死ねえええええええええええええ!」


 ルーンの試用だとは思えないほどの暴言が聞こえてきた。


 ガキィン、と激しい音がなった。


 勢いよく振られたカタリナさんの剣は、ディアンの目の前に出来た光の壁によって阻まれていた。


「すげえ!」「なんだあれ!」「ディアン隊長の新しい技かっ?」「あの人まだ強くなんのかよ!」


 ここに集まっている理由の分かっていない兵士たちは、それがディアンの技だと勘違いしているようだ。


 なんだかちょっと複雑だが、それよりも、あのルーンはアリシアの方かな。見た目が少しだけ薄いような気がする。


「お前なあ! 戦闘になった時のその荒っぽさ何とかしやがれ!」


 ルーンで攻撃を受けたディアンが叫ぶ。

 どうやら、戦闘になるとカタリナさんは荒っぽくなりやすい。それにしても、仲間に対して「死ね」は無いと思うけど……。なんかディアンが個人的な恨みを買ってるんじゃないかと疑ってしまう。


 その間にも、カタリナさんが再度、剣を振る。


 二撃目も耐えた。だが三撃目でひびが入った。

 そして、四撃目。


 ついに、光の壁が壊れた。


 なのに、


「死ねえええええええええええ!」


「ま、まて! カタリナ!」


 攻撃を止めないカタリナさん。

 それを剣で受け止め、はじき返すディアン。


「カタリナ!」


 クラーラ様が彼女の名前を呼んでようやく動きがとまる。


 すっかり観戦ムードの兵士たちが、「あぁ……」と残念そうな声を揃ってあげていた。


「で、もう一枚あるでしょ? 次はそっちを使いなさい。カタリナも、次は本気でやりなさい」


「はい。分かりました」


 い、今のが本気じゃなかったのか。

 確かに、スキルも何も使っていなかったから本気じゃないと言えばそうなのかもしれない。本気の恨みは感じてたけど……。


「【重化:十倍】」


 カタリナさんがスキルを使う。

 重化のスキル。武器を重たくするスキルだ。

 重さは威力になる。だけど、十倍って……。


 剣聖カイザーだって、そこまでしないだろう。


 なのに、カタリナさんはかわらずその剣の切先を天に向かって掲げた。

 ど、どんだけ力があるんだよ……。俺だったら、地面から一ミリも上がらないだろうに。ほんとに同じ人間か?


 まさに度肝を抜くその光景に、周りは誰も驚いていなかった。


 どうやらあれが普通らしい。


「死ねえええええええええええ!」


 やっぱりそう叫んで剣を振るカタリナさん。


 ディアンの目の前に現れる光の壁。


 二つがぶつかり合って、グワァンと先ほどよりも強烈な、空間ごと揺らすみたいな轟音が鳴り響いた。


「な、なぜ……!」


 そう言ったのはカタリナさんだ。

 光の壁には傷一つついていない。

 続けて、何度も斬りつけるが、剣を弾くような音がなるばかりで、壁の方にはなにも変化が現れない。


「す、すごい……。やっぱり、ヴァンのルーンは凄いです」


 その光景を見てアリシアが呟く。


「な、なんだあれ……」「無敵じゃねえか……」「あんなんありかよ……」


 周りの兵士たちからもそんな声が上がっていた。


 そして、光の壁は効果が切れる時間が来て自壊するまで、カタリナの攻撃を耐え続けた。


「流石だな。ヴァンっ!? って、おい! カタリナ! 終わった、終わってるって!」


 ルーンが無くなってもディアンに斬りかかっているカタリナさん。


「うるさい! ここであったが百年目! 今日こそお前を倒す!」


「け、怪我しても知らねえからな!」


 ディアンも剣を抜く。


「まってましたあ!」「頑張ってくださいカタリナ隊長!」


 兵士たちがはしゃぎだす。


 クラーラ様は今度は止めなかった。

 それどころか、二人を放ってこっちに歩いてくる。


「さて、二人はほっといて」


「ほ、ほっといていいんですかっ?」


「まあ、あれはいつもの事なので。なんというか、お約束と言いますか……。あれが二人の恒例行事なんですよ」


 アリシアもそう言った。

 ミラさんも頷いている。


「さて、二人はほっといて」


 と、クラーラ様が仕切りなおした。

 そして、笑顔で言った。


「お二人のルーンについて、仕事の話をしましょうか」


 仕事、ルーン、ここは王宮。

 俺は凄く嫌な予感がしていた。


 逃げたい。


 久々に、そう思っていた。

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