ルーン魔術師とアリシアとクラーラ・1
「あれがルーン魔術? わたしの知ってる物と全然違う……。いや、大事なのはそんなことじゃなくて、実戦で使えるかどうか……。数秒の盾。それも急に現れる……。便利ね……。魔法士にも、剣士にも使える……」
茫然としていたと思ったら、突然ぶつぶつと呟きだすクラーラ様。
その内容を聞くに、すでに利用手段を考えているようだった。
「お、お姉さま……?」
その様子に、アリシアが声をかける。
クラーラ様の目がアリシアに向く。
その目が一瞬品定めをするような目に見えたのは気のせいだっただろうか。
「ふぅん。そういうこと……。アリシアが変わった理由はこれ、ね」
そう言って立ち上がるクラーラ様は、アリシア目の前まで歩く。
「わたしが変わった……?」
「なんでもないわ。それで? さっきの盾はどれくらいの強度を持つの? あなたは日に何枚作れるのかしら? あなた以外に使える人はいる? 他にも戦闘に使えそうなルーンはあるかしら? 戦闘じゃなくてもいいわ。わたしが知らなくて便利そうなものを片っ端から見せてくれない? 紙なら何枚でも用意してあげるわ。他に何か必要な物はあるかしら」
「お、お姉さま。す、少し落ち着いてください。そんなに矢継ぎ早に言われても困ります」
慌てたアリシアが姉をいさめようとするも、当の本人はケロっと言い返す。
「あら、失礼ね。わたしは落ち着いてるわ。自分の愚鈍さを人のせいにしないでくれるかしら」
「そ、そうですか」
その言い分には流石のアリシアもいら立ったのか、少しだけ頬が引きつっていた。
って、俺もクラーラ様の勢いに圧倒されてついついボケっとしてしまった。
詰め寄られているアリシアを助けてあげないと。
「クラーラ様。俺からも、少し落ち着いてください」
アリシアとクラーラ様の間に割って入る。
クラーラ様は肩をすくめていた。
「そんなに落ち着いていないようにみえるかしら。まあいいわ」
そう言ってクラーラ様が一呼吸を置く。
「じゃあ、まず一つ聞かせてもらっていいかしら」
それに俺が答える。
「なんでしょうか」
「さっきの盾。どれくらいの強度があるのかしら。流石に剣の一撃ぐらいは防げるわよね。じゃないと意味が無いもの」
どれくらいの強度と言われても……。
うーん。
「そうですね……。説明するよりかは、実際に見せたほうが早いですが」
「そ、じゃあ試してみましょ」
「え?」
「外に行きましょう。ここじゃ剣を振れないわ」
そう言って立ち上がるクラーラ様とカタリナさんはそのまま扉の方に歩いていき、外に出ていく。
「お、お姉さま! 待ってください……って、行ってしまいました」
「凄い人ですね……。本当に」
「はい。色んな意味で……」
アリシアと一緒にため息をこぼす。
「行かないとだめだよね」
「はい。後から何を言われるか……」
「わたしは、一応ディアンを呼んできますね」
ミラさんがそう言った。
「剣を振ると仰ってましたから、彼も居たほうがいいでしょう」
「そうですね。お願いできますかミラ」
「はい。では、その間アリシア様をお願いしますねヴァン」
ミラさんが綺麗な白い髪を揺らして部屋を出ていく。
「じゃあ。わたしたちも行きましょうかヴァン」
「そうだね」
遅れただけでも何か言われるかもしれないし。
なんだか先が思いやられるなあ。
俺は上手くやって行けるのだろうか。
「ヴァン」
「ん。どうしたの?」
「お手を。構いませんか?」
アリシアの白くて細い腕が俺の前に伸びる。
手のひらを上に向けて、何かを待つように。
「えっと……」
困っていると、俺の手をアリシアがつかんだ。
「い、行きましょう!」
「う、うん」
俺はアリシアに手を引かれて歩き出す。
「次は、ヴァンからお願いしますね」
歩きながらアリシアが言う。
「え、えっと、わかりました」
何が?
本当はそう言いたかったけど、なんだかそう言ってはいけないような空気があった。
外に出るまでの間、前を歩くアリシアは一度もこっちを振り返らなかった。




