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ルーン魔術師と波乱

「と、いうことで、わたしはこの方と結婚致しますので」


「駄目です!」


 謁見の間から場所を移して談話室に移動した、俺とアリシアとミラさん。

 それから向かいに座る国王陛下とクラーラ様とそのお付きの方が一名。


 あの場でのクラーラ様の爆弾発言の後、このままでは混乱が起きると判断した国王陛下がすぐに移動しようと提案された。


 正直、冗談だと思ったのだが、談話室についてもなおクラーラ様はそう言った。

 そして、アリシアが身を乗り出して、机を叩きながら抗議したのが今だった。


「あら、アリシアにしては珍しく反抗するじゃない。わたしがミラを欲しいと言った時だって、あなたは黙って、ミラに断らせていたのに。もしかして、ヴァンはアリシアの婚約者か何かなの?」


「い、いえ……。そういう訳では、ないんですけど……」


「なら、いいじゃない」


「だ、駄目です! 大体、お二人は今日会ったばかりじゃないですか! そ、そんな、お、お互いの事もよくわかっていないのに……。結婚なんて駄目に決まっています!」


「意外とロマンチストだったのね。そんなアリシアも初めて知ったわ。でもね、結婚に必要なのは愛じゃないの。二人の合意よ。愛は合意に至る一つの道筋でしかないわ」


「そ、そんなことは……。ないと、思います」


 段々と声が小さくなっていくアリシア。

 クラーラ様に言いくるめられているのか、そもそも、アリシアはあまりクラーラ様の事を得意としてはないのかもしれない。


 納得している、というよりかは、クラーラ様の堂々とした言い分に委縮してしまっているようにも見えた。


「それで、肝心のあなたはどうなのヴァン? わたしと結婚しない?」


 俺に振ってこないでください……。

 正直、誰かも分からないような相手と結婚なんてしたくない。しかも王族だし。

 今も王族と関わっている身で言えた事じゃないのかもしれないが、これ以上のしがらみを作りたくはなかった。

 どうにか、やんわりと断る方法は無いのだろうか。


「俺もいきなりそんなことを言われましても。ほら、アリシアが言っている通り、お互いの事もよくわかってないですし」


「ふぅん。じゃあ改めて自己紹介するわ。わたしはクラーラ・ラズバード。この国の第二王女よ。年は十八。剣士としても有名よ。もちろん、結婚はしてないし、交際相手も居ないわ。処女よ。得意な事は何でも。苦手なことは非効率なことよ。無駄だなって思うことをしてると虫唾が走るの。よろしくね」


 とんでもないことも聞こえた気がするけど、聞こえないふりをしておく方がいいだろう。それが大人というものじゃないだろうか。


「それで、あなたは?」


「す、すいません。えっと、ヴァン・ホーリエンです。えーっと、年は二十五で、ルーン魔術師です。得意なことはルーン魔術くらいで、苦手なことは、うーん、軟禁されることとかですかね」


「そ、じゃあ結婚しましょ」


「なんでそうなるんですか!」


 思わず叫んでしまった。

 それにクラーラ様はくつくつと笑う。


「おほん。俺にも聞かせてほしいクラーラ。なぜ、ヴァンと結婚したがるのだ?」


 咳ばらいを挟んでレグルス国王がそう言った。

 陛下の子供なわけだし、今まで黙っていたのが不思議なくらいだ。


 そんな父親に、クラーラはあっけらかんとして答える。


「なぜって、結婚しろって言ってたのはお父様じゃない?」


「お、お父様そんな話をっ!?」


 アリシアが叫ぶ。


「違う違う。落ち着けアリシア。俺が言っていたのは、同年代くらいの優秀な貴族家の相手をはやく見つけろと言っていたのだ。誰を紹介してもお前は断っていただろ」


「だって、みんな弱いんですもの。それに、わたしと結婚するために、花やら宝石やらを持ってきて。それでいざ剣の試合を挑んでみたら、誰もわたしに勝てない。強さで成り上がれるこの国で、弱い男なんて相手してられません」


「弱いってなあ。お前と比べればそれは……」


 レグルス国王様が頭を抱える。

 どうやら、他の貴族が弱いわけではなく、クラーラ様が強すぎるようだ。なかなか想像できないが……。


「それで、なぜヴァンなんだ?」


「それはさっきお父様がお話されましたよね? ゼフが実は魔族で、ヴァンがそれを倒した、と。それも、有力な魔族だった、と」


「……。言ったな」


 多分これは俺たちが行く前に話してあったのだろう。


「ええ。ですから、強力な魔族を倒すほどの方ならわたしの相手に不足は無いと思いましたの。これで、お父様からうるさく言われることもありませんし、社交界でつまらない男と会話する必要も無くなりますし。それに、ヴァンはいつまでもここに居るわけではないのでしょう? 魔族を倒すほど優秀な方ならさっさと囲ってしまったほうがいいのではないかしら? むしろ、なぜアリシアとの間に婚約関係が無いのかの方がわたしには不思議に思いますけど」


 つらつらと述べるクラーラ様。

 打算しかないクラーラ様の考えに俺は感心していたと思う。


 自分の事ながら、なるほど、と聞き入ってしまっていたのだ。


 そんな俺とクラーラ様の目が合う。


「ああ。そうですね。ヴァンのメリットを話し忘れてました」


「お、俺のメリット?」


「ええ。わたしと婚姻関係を結んでいただければ、苦労はさせません。それこそ王家ですから。死ぬまで養ってあげます。戦場に出たくないのであればそれでも構いませんよ。身体もあなたが求めるなら可能な限り付き合ってあげましょう。ただ、もちろんこの国には少々貢献していただきますが……。まあ、わたしのこの美しい身体を抱けるのですから、大した事ではありませんよね」


 そう言って、クラーラ様は妖艶に笑って見せる。


「あ、あははは……。えーっと、もうちょっと自分を大切にしたほうがいいんじゃないかなあって……」


 俺はそうやって笑ってごまかすしかなかった。

 どうしろってんだ。


 だけど、何となくだけど、クラーラ様のことも分かってきたような気がする。

 結局、この国のために動こうとしてるんだ。

 俺に、クラーラ様がそこまでする価値があるのかどうかは正直分からないけど、クラーラ様はどうやらそれだけの価値があると思っているのだろう。


「俺たちは、ヴァンに感謝をしている。それに、お前にはまだ詳しいことは話していないが、ヴァンには、真の意味で不自由してほしくない、というのが俺たちの結論だ」


 俺が困っていると見たのか、レグルス国王様がそういう。


「真の意味で?」


「ああ。出ていくも自由。ここに居るも自由。ここで何をするも自由。まあ、悪さをされれば困るが。ヴァンに限ってはそれはあるまい。俺たちが囲っていないのではない。ヴァンがここに、まだ残ってくれているのだ」


「ふぅん。でも、ヴァンが望めば、囲ってもいいんでしょう?」


 クラーラ様は考えを変えないようだった。

 それにレグルス国王様もため息をつく。


「はあ……。まあ、詳しい話はこれから話そう。ヴァン。アリシア。二人はもう行っていいぞ」


 行っていいとは言うが、出ていけということだろう。


 俺とアリシア、それからミラさんが立ち上がり部屋を出る。


 しばらく三人で廊下を歩いて、アリシアが呟いた。


「ごめんなさいヴァン。困りますよね。あんなことを言われたら。あ、あははは……」


「アリシアが謝ることじゃないよ」


「いえ。わたしが謝ることなんです」


「どういうこと?」


「お姉さまは、昔から、わたしの物を取るのが好きなんです」


「アリシアの物を?」


「あ、いえ。あのヴァンがわたしの物と言ってるわけじゃなくて、その、でも、多分、少なくともクラーラお姉さまには、そういう風に見えてたんじゃないかなって思うんです。あの、ヴァンは、お姉さまの事をどう思っていますか?」


「どうって言われてもなあ……」


 今日会ったばかりだし、極端な人だなあ、くらいにしか思ってないのだが……。


「その、お姉さまと結婚したいと……思っていますか?」


「いやあ、それは流石に……。クラーラ様の言い分にも一理はあると思うけど、でもメリットデメリットが全てだとは思わないな。って、こんなことを言うと俺もロマンチストって言われちゃうのかな」


 アリシアは少し安心してるように見えた。

 自分だけがロマンチストというわけでなく安心したのだろうか。


「そうですか。良かったです。あの、もしクラーラお姉さまに迫られたら、すぐにわたしを呼んでくださいっ! 絶対に、ヴァンをクラーラお姉さまの思い通りにはさせませんので!」


「う、うん。分かったよ」


 妙に気合が入っているように見えるアリシアと別れて、俺は自室に戻った。

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