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ヴァンを追放して二週間後のグラン王国

 これは、七英雄の一人、ヴァン・ホーリエンを追放してから二週間後のこと。


 王宮では、英雄会議と呼ばれる会議が開かれようとしていた。

 この会議はその名の通り、七英雄と国王、それから数名の許された者たちで行われる会議だ。


 その会議場は、いつもと違った雰囲気に包まれていた。


「おい! アグニ! てめえんとこ最近さぼってんだろ! 届いてる武器の質がわりいって報告が上がってんぞ!」


 それは大剣を背負う男、七英雄の一人、剣聖カイザー・エデンの一言から始まった。

 燃えるような赤髪を逆立てて、円卓上に足を置く彼は、誰が見てもいら立っていた。


「さ、さぼっているだとぉ! わしらは誠心誠意、変わらないクオリティと向上心を持って武具を作らせてもらっておるぞ!」


 そう反論したのが、七英雄の一人、鍛冶王アグニ・シャッカ。

 鍛冶をするために鍛え上げられた肉体は、この会議場に、彼のための特製の椅子を用意させるほど大きい。


「それよりもぉ。ハンスさん。物資が届いてないんだけどぉ。どういうことぉ? これじゃあ、戦線を維持できないわよぉ」


 大きな三角帽子に、黒のローブをまとった女性が、ゆったりとした口調でそういったのは七英雄の一人、魔女ルーアン・キュリエット。


 ハンスと呼ばれた男は丸眼鏡をクイッと上げて、円卓上にばさりと、紙束を投げつけた。

 グラン王国の商会をまとめ上げている七英雄の一人、商会議長ハンス・ホードは言った。


「物資は送っている。ただ、最近事故が多い。馬車の欠損。魔物や魔族の襲撃。そして、それらが引き起こす遅延によって腐る食材。戦線だけではない。グラン王国の物流全体が今は滞っている」


「うっわぁ。そんなことになってるんだ。戦線下げよっか。魔族への攻撃じゃなくて、とりあえず防衛に回れば余裕はできると思うし。物流がもとに戻るまで、様子みよっか」


 円卓にばらまかれた紙束に精一杯手を延ばして、自分のもとに手繰り寄せて、ぱらぱらと流し読みをし始めたのは、国の軍隊の総司令官を務める七英雄の一人、賢者クラネス・ペルカだ。


「どう思う? 拳神ちゃん?」


 クラネスの目の先には、先ほどからずっと黙っている、銀髪の少女が居た。

 興味がなさそうに、じっと自分の席に座っているのは、七英雄の一人、拳神リッカ・クーシェン。


「どうでもいい。わたしには関係ないから。それより、ヴァン兄は?」


 その言葉に会議場が静まる。


「あいつが遅刻なんて珍しいな」

「そうじゃのう。いつも一番におるからのぉ」

「まぁ、いいんじゃなぁい? あの子にはいっつも苦労かけてるしぃ」

「時は金なり。……だが、それ以上にあいつは金を稼がせてくれている。俺もあいつには頭が上がらんからな」

「後で様子見に行ってみようか。彼には本当に辛い役回りをさせて申し訳ないなぁ。まぁ、国の方針で仕方ないことではあるんだけど」


 そんな中、会議場の扉が開く。


 七英雄全員の目がそちらを向く。


「待たせたわね」


 そう言って入ってきたのは、リューシア・グラン女王。その後ろから、七英雄の彼らからしてみれば新顔が二人ついてきていた。


「リューシア王女。お久しぶりです。デューク陛下はどちらに?」


 代表としてクラネスが尋ねるが、リューシアは何も答えず上座に座る。いつも、国王が座っている席だ。


 そして、その左右に二人の新顔がつく。


「七英雄の皆様。本日はお集まりいただきありがとうございます。英雄会議の前に、ご報告があります」


 全員が、静かに次の言葉を待っていた。


「この度、デューク前国王は退位され、リューシア様が、女王として即位されました。そして、それに伴い、前宰相も退任され、わたくし、クロウ・シャードが宰相を務めます。では、挨拶はこれくらいにして、英雄会議を始めましょう」


「待って」


 クロウの仕切りに口を出したのは、拳神リッカだった。


「ヴァン兄がまだ来てないけど、いいの?」


 それは七英雄全員の疑問だった。誰もが、リューシアに目を向けている。

 そして、そのリューシアは、高らかに笑った。


「あっはっははははは! それは、あなたたちにいい知らせがありますわ」


「いい知らせ?」


「えぇ。あの七英雄、いえ、元七英雄のヴァン・ホーリエンは王宮より追放としました! あの働かない男には、なぜか七英雄という座も与えられ、しかも多額の給料が支払われていました。あなたたちも納得いってなかったでしょう? ですが! わたしが女王になった今、そんな不正は許しません。王宮から一歩も出ず、誰にでもできるルーンを刻むしか能のないあいつを、わたしがついに、王宮より追放することに成功したのです! そして、新たにルーン魔術師として七英雄に加わるのが、このガルマ・ファレンです! 彼はとても優秀で、きっと、あの金食い虫とは違い、戦地に赴いても活躍してくれるでしょう!」


 リューシアがガルマをそう紹介すると、ガルマは一歩前に出る。

 その間、七英雄は全員、ぽかん、と一点を見ていた。


(ふふっ。みんな早速のわたしの仕事ぶりに驚いているわね。それにしても、賢者クラネス君はいいとして、ほかはなんて華のない。さっさとほかも七英雄から降ろして、イケメンに揃えたいわ)


 と、一人的外れなことを考えていた。


「これからよろしくな。先輩たち。それと、あんたらもちゃんと働かねえと、あのヴァンみたいに追放されるぜ。いや、あんたらは外で野垂れ死にしそうもないし、極刑のほうがいいか。はははははは!」


 その時だった。

 七英雄全員が無言で立ち上がる。


 そして、


「やべえやべえやべえ! あいつを追放だぁ!? くそ、部下に知らせねえと!」

「わ、わわわわ、わしはしらんからな! 戦える奴が捕まえて来い!」

「あぁ……。あの子が敵に回るかもしれないってことはぁ。……。田舎に帰ろうかしら」

「なるほど。物流が滞っていた理由はそれか。すぐに、対策を立てないといけないな」

「ヴァンが居ないのかぁ。こりゃ戦線の維持は無理だね。防衛するしかないかぁ。って、リッカ? どこに行くの?」

「わたしは、ヴァン兄を探しに行く。もうこの国には戻らない。……かも」


 各々勝手に行動し始める七英雄にリューシアは大声を上げた。


「待ちなさい! なになになに? 一体どうしたっていうの! あなたたち」


 それに答えたのは剣聖カイザーだ。


「リューシア王女。って、女王になったんだっけ? あんた大変なことをしてくれたな」

「な、なによ! わたしはただ、無能を追い出しただけよ。実際、あいつは前線にでないじゃない」

「あいつを前線に出さずに王宮にずっといさせたのは、あいつが一番強いからだ」

「へ?」

「そりゃあ、そうだろ。じゃなきゃなんかあった時、誰が国王を守るんだよ! って、こんなことをしてる場合じゃねえ」


 そう言ってカイザーは慌てて会議場を出ていく。


「まぁ、王宮にずっといたのは一番強いだけが理由じゃないがなぁ。やつの古代ルーン魔術は、ちゃんと理解して書ける奴はやつしかおらんからのぉ」

「こ、古代ルーン魔術っ!?」


 驚いていたのはリューシアが新しく七英雄にしようと目論んだガルマだった。


「な、なによ。古代ルーン魔術って」

「失われた技術じゃよ。誰にでもできるとお主は言っておったが、わしの知る限り、あれは奴にしか書けん」

「ななななな、なんでそんなものがあいつには使えるの!?」

「さあのぉ。わしらも、奴の過去はそれほどしらんのじゃ」


「ぐぅ……。じゃあ、捕まえてきなさいよ! あなた! 魔女ルーアン! 魔女って言われるくらいならできるでしょ! あんな魔法もろくに使えない男くらいパパっと捕まえてきてちょうだい!」

「それは無理ねぇ。確かに、魔法なら私のほうが上だけど、古代ルーン魔術と真正面からやってもわたしには勝ち目がないわぁ」

「なぜだ! ルーン魔術は準備に時間がいる。不意をうったり油断させたりすればいいだろ!」


 と、ガルマが吠える。


「二流の腕じゃぁ、そうかもねぇ。でも、あの子は戦いの最中にルーンを組めるわぁ。さてと、じゃぁ、わたしは田舎に帰るからぁ。あの子が帰ってきたら戻ってきてあげるわぁ。それまで、じゃあねぇ」


 その瞬間、魔女は姿を消す。

 一瞬で姿を消せるほどの魔法を扱える魔女がさじを投げたのだ。


「く~~~~~! ハンス! いくらお金を使ってもいいわ! あなたたち商会が捕まえてきなさい!」

「それは無理ですよ女王陛下。あいつがいなくなり、物流が滞り、あいつのルーンによる収入も見込めない。あいつを捕まえるのに金を使えば、国が崩壊します。大体いくら使えば捕まえられるのか分かったもんじゃない」

「……。クラネス。あなた賢者なんでしょ? 何か案は?」


 もう疲れ切った様子のリューシア女王にクラネスがクスクスと笑いながらとどめを刺す。


「ないですね。あのバケモノを捕まえるなんて無理ですよ。敵対してこなきゃいいんだけど。とりあえず、国防に力を回しましょう。話はそれからです。ルーアンもどっか行っちゃったし、リッカもヴァンを探しに行くって出ていったし、このピンチを他国や魔族の連中に知られると厄介だ。いろいろしないといけないことが増えましたねぇ。ま、僕は楽しいんでいいですけど」


 七英雄をもってしてバケモノと言わしめるヴァン。あの男が、どんな人物だったのか、まだリューシア女王たちには計り知れない。だが、大変な間違いを犯してしまったのだと、彼女は遠からず、知ることになるのだった。

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