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ハンス・ホード・2

「な、い、いま。なんと言った?」


 まさに開いた口がふさがらない。


 そんな様子でそう聞いていたのが、リューシア女王だった。


 彼女の目の前には、拘束されているガルマと、その両脇を抑えるラズバード王国の兵士。そして、リューシア女王の目の前で、先ほどから書簡を掲げている兵士。


 そんな様子を、クラネスはニヤニヤしながら、ハンスはため息をつきながら静観していた。


「もう一度だけ、申し上げます。貴国、グラン王国から我が国ラズバード王国にお見えになったこの、七英雄ガルマ・ファレンには、魔族との共謀の容疑がかけられています。この件に関しまして、国王陛下が詳しい話を聞きたいと申しております。こちらが、国王陛下からお預かりしました書状になります」


 と、言っているが、リューシア女王はまだ何が起こっているのか分からないのか固まってしまっている。


 そんな彼女の代わりに、兵士が掲げる書簡を受け取ったのは賢者クラネスだった。


「ふーん。なるほど。ガルマがヴァンを訪れて、なぜかガルマはヴァンを襲う。その騒動の際に、王女様が魔族に人質に取られ、国王様がピンチだった。あははは。なかなか面白いことをしてるねえ」


「あなたが七英雄のクラネス様だとは聞き及んでいます。ですが、そのような発言は控えていただけると。我々も看過できませんよ」


「あはは。ごめんね。それで、詳しく話し合いたいから誰かよこせ、と。なるほどなるほど」


 クラネスの不敵な様子に、ラズバード王国の兵士は眉をひそめる。


「ふん。話し合いだと。ラズバード王国なんぞ小国ではないか。戦争に成れば我々が必ず勝てるのではないか。何を話し合う必要がある。文句があるならかかってくればいい。それとも、こちらから火蓋を切って落としてやろうか?」


 ようやく気を取り直したのか、その発言は事態を全く飲み込めていなかったがリューシア女王がそう言った。


 これが今の我が国の国王か……。

 と、ハンスは内心で思う。


 だが、それを言っても事態は好転しない。


「女王陛下。そうはなりませんよ」


「なぜだハンス。小国に負け腰かっ?」


「聞いていなかったのですか? 向こうにはヴァンが居ますし、今はこちらも戦える状況ではない。それにガルマの身も、こうしてここにある今、向こうに戦う気が無いのは明らかです。ここで、仮に戦争を仕掛け、勝ったとしても周辺諸国から厳しい目で見られるでしょう。そうすれば、我が国は十年ももたず亡びるでしょう」


「ぐっ……。クラネス!」


 ハンスの言葉に納得がいかないのかリューシア女王はクラネスに顔を向ける。

 クラネスは肩をすくめて言う。


「ハンスに同感です。戦う意味も無い。それにラズバード王国との友好も大事にしたいから無視をするわけにもいかないし、そもそも魔族との共謀を疑われてる以上周辺諸国に変な噂を流されても困る。ここは誰かをラズバード王国に向かわせるしかないでしょう」


「……。そ、そうか……」


 リューシア女王が意気消沈したのに、ラズバード王国の兵士がほっとする。


「さて、それで誰を向かわせるかですね。女王陛下は流石に無理だし、僕も忙しい。剣聖カイザーとか、鍛冶王アグニなんかの脳みそ筋肉には厳しい。ハンスもこの状況で他所に行かせるのは、国が回らなくなる……。新宰相も居てもらわないと困るし……。いやあ、困ったね」


 クラネスが笑いながら困る。いや、本当に困っているかは定かではないが……。

 そんな時、一人の男が手を挙げた。


「私が行こう」


 ハンス・ホードだった。


「さっきの話聞いてた? 君が居ないと国が回らないよ」


「だが、私以外に行ける者もいない。それに、私の場合は、ちゃんと私抜きでも動ける部下は育っている。部下とホード商会という名があれば、少しの不在くらいはもつだろう。私が適任です女王陛下。どうか、私にお任せください」


「わ、分かった。ハンス・ホード。お前に任せよう」


 女王陛下が二つ返事で許可を出す。


 クラネスが一瞬、眉をひそめた。

 ハンスは、それを見逃さなかった。


 クラネスに向けて、ハンスは口角を少しだけあげるようにして笑う。


「決まりだな」


「……。そうみたいだね」


「では、さっそく準備にとりかかりたいと思いますので、この場は失礼いたします」


 そう言って、ハンスが部屋を出ていこうとする。

 クラネスはため息をついた。


 そして、ハンスの背中に向けて言う。


「じゃあね。ハンス・ホード」


「また会おう。クラネス・ペルカ」


 そうして、ハンスは部屋を出ていく。


 彼が、ヴァンと再会するまで、ほど遠くはない。

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[一言] 女王陛下、火蓋は落とす物ではございません。
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