ルーン魔術師と『自由』
自由って何だろうか。
ふと、そんなことを考えた。
外に出て、色んな場所にいけることだろうか。
誰にも、何も命令をされないことだろうか。
なんか両方違う気がした。
グラン王国の王宮にいた時は、外にも出れなかったし、命令されっぱなしで働いてたけど、そのどちらもなくなったって自由になったとは言えないんじゃないかって今は思う。
アリシアの言葉を俺は部屋の中で一人、何度も思い出していた。
『ヴァンが行きたい道を選べばいいんです』
自由っていうのは、多分、選ぶこと。
自分で選べること。
今はそんな気がした。
俺は、選ばないといけないんだ。
一人で師匠を追うのか、アリシアたちとここに残るのか、それとも、他の何か、か。
どうせよ、これから自分がどうするのかを選ぶ必要がある。
俺が選んで。
それで、初めて『自由』だ。
「俺は……」
*
気持ちのいい朝日が窓から差し込んで、俺の瞼を優しく照らした。
その光に、俺はゆっくりと目を覚ました。
今は何時だろう。
そう思って時計を見ると、すでに九時を回っていた。
体調はそこそこよかった。
だるい感じはない。
ベッドから降りて、ローブに着替える。
ルーン魔術を使うための道具をたっぷりとポケットに突っ込んでいく。
準備が終わり、俺は一つ息を吐いた。
「よし。行こうか」
俺は自分にそう言って、部屋を出る。
俺が向かったのはアリシアの部屋だった。
一番最初に、アリシアに言っておいた方がいいだろうと思ったから。
もうこんな時間だろうけど、アリシアは部屋にいるだろうか。
扉をノックすると、「少々お待ちください」とミラの声が聞こえた。
ミラがここにいるなら、きっとアリシアもいるだろう。
扉の前で待っていると、扉が開く。
いつものメイド服を来たミラがそこにはいた。
「ヴァン……。おはようございます」
俺が来たことに少し驚いていたようだったが、ミラはすぐに表情を直してそう言った。
「アリシアは居ますか?」
「はい。こちらにおられます」
「入ってもよろしいでしょうか?」
「……。決めたんですね」
「はい」
「どうぞ」
そう言って、ミラは俺を迎えてくれた。
アリシアは椅子に座っていた。
綺麗な白を基調としたドレスと、桃色の綺麗な髪が陽光に照らされていた。
そんな彼女と目が合う。
「おはようアリシア」
「あ、えっと、おはようございますヴァン。今日は、どうされましたか?」
「これから、どうするか決めたから。アリシアには先に言っておこうと思って」
「そうですか。決めたんですね」
「うん。俺は……」
緊張する。
ちょっと怖いのかもしれない。
アリシアに言うのが、じゃない。
言ってしまえば、俺の道が決まってしまうことが。
間違ってないだろうか。俺の選んだ道は?
いや、そうさ。
間違うことも自由さ。
それに、間違えたらまた選びなおせばいい。
それができるのも自由だ。
「ヴァン?」
俺が何も言わないから、アリシアは心配そうな顔をしてこっちを見ていた。
俺は、しっかりと言葉にした。
「俺はラズバード王国に残るよ」
「え……。本当に……。残るんですか?」
「あー……。ええっと、なにかまずかったかな? あ、もちろん、王宮にずっとお世話になるわけにはいかないって分かってるから。そのうち住む場所とか王都で探そうと思ってるんだけど」
「い、いえ! 残るなら王宮に居てもらえれば! でも、どうして。お師匠様のことは、いいのですか」
「師匠は、まあ、大丈夫。そもそもあの人の居場所が分かったからって探して見つかるかもわかんないし、それに、アリシアにルーン魔術を教えといて、中途半端に投げ出したって知られたら、怒られちゃう気がするんだ」
「それが……。理由ですか?」
俺は、首を横に振った。
それは師匠に会わなくてもいい理由だ。
俺がここに残ると決めた理由は……。
「ううん。もう少し、みんなと一緒に居たいって思ったから。じゃ、ダメかな?」
俺が、グラン王国を出て最初に出会ったのが、ディアンとアリシアだった。
そして、アリシアにそんなつもりがあったのかは分からないけど、『自由』の意味をアリシアから教えられたような気がする。
俺は、もっとたくさんの事がここに居れば分かるような気がした。
それこそ、軟禁されていた十年間を取り戻せるだけの何かが。
そう思って決めた道だった。
アリシアは俯いていた。
あれ、もしかしてアリシアは残ってほしくなかっただろうか?
俺が不安に思っているとアリシアは椅子から跳ねるように降りた。
「では、行きましょう!」
「えっと、どこに?」
「お父様のところです! ちゃんと報告しませんと」
「う、うん。そうだね」
もちろん、この後行く予定だったから、構わないのだが。
アリシアが俺の手を取った。
そして、俺を引っ張るように走り出す。
「あ、アリシアっ!?」
「危ないですよ! アリシア様!」
ミラも驚いている。
俺はアリシアに連れられて部屋を出る。
小走りに歩きながら、アリシアが俺の名前を呼んだ。
「ヴァン」
「は、はい?」
「またルーン魔術を教えてくださいね」
振り返った笑顔には、少しの涙が浮いているような気がした。
でも、すぐにアリシアは前を向いたから、本当に気のせいだったのかもしれない。
俺はアリシアの背中に、こういった。
「もちろんです」
そうして、俺はアリシアに連れられて王宮の中を駆けていく。
これが、俺の選んだ自由の形だった。
みなさまのおかげで、楽しく一区切りを迎えることが出来ました。
感謝しかありません。
この作品はまだ続くので、よろしければこれからも読んでいただければと思います。
本当に、ここまでお読みいただきありがとうございました。