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ルーン魔術師と師匠の行方

「ヴァン! よかったです! 無事で。本当に、心配しましたよ!」


「あはは、ごめんね。アリシア」


 俺は覆いかぶさるように抱き着いて泣きじゃくるアリシアをどうすればいいのか、と完全に持て余していた。

 そんな中、一つ咳ばらいが入る。


「ゴホンっ」


 レグルス国王様のものだ。

 それにアリシアも振り返る。


「お父様……」


「アリシア。ヴァンに抱き着くのは後にしなさい」


 後でも問題があると思うんですが?

 国王様?


「はい……」


 アリシアが俺から離れる。

 なぜだか、すごく残念そうに見えるのは気のせいだろう。


「立てるか? ヴァン」

「あ、はい……、う、おっと」


 起き上がろうとすると足がふらついた。


「ヴァン!?」


 咄嗟にアリシアが支えてくれる。


 どうやらかなり出血してしまったようだ。頭もぼーっとする。


「ふむ。肩を貸そう」


「ありがとうございます」


 このままではまともに歩くこともできないだろうし、俺は好意に甘えてレグルス国王様の方に寄り掛かる。


「ヴァン殿。一つ聞いてもよろしいでしょうか?」


 ゼフさんが、戦う前の口調でそう言った。

 こう聞くと、本当に不思議な感じだ。彼が敵だなんて、ましてや魔族だなんて考えもつかない。


「なんでしょうか」


「わたしを拘束しているこのルーンを、あなたは師匠から教わったと言いましたね?」


「……ええ。言いました」


「もしや、その師匠というのは、クロノスというお方でしょうか」


「っ! 師匠を、知っているのですか?」


 俺は驚いていた。

 俺が、グラン王国に軟禁されていたころ、何度か【導き】のルーンで師匠のいる方角だけでも探そうとしたことがある。

 だけど、反応は全くなかった。

 見つからないように何か対策をしているのだろうと思っていたし、だから師匠を探すのは半ばあきらめていた。探して見つかるような人でもないし。


 だけど、ここにきて師匠を知る人に出会うとは……。


 そんな俺の驚きようを見てかゼフさんは笑う。


「やはり、そうでしたか……」


「それで、ゼフさんは師匠を知っているんですか?」


「見たことはありません。ですが年に数回、魔族領から送られてくる定期連絡に、クロノスというルーン魔術師に手を焼いていると書かれていました。実際にわたしもクロノスという男を見ていたら、もう少し早くあなたと結びつけられていたでしょうね」


「ということは、師匠は魔族領に……?」


「さあ。今はどうでしょうか? 定期連絡が来たのは半年前が最後です。もしかしたら、もう魔族領にはいないかもしれませんね。ただ、定期連絡で名前が送られてくるほどの男です。魔族領に行けば、手掛かりくらいはあるでしょうね」


「……。よく喋りますね。どうしてそこまで教えてくれるんですか?」


 ゼフさんの言ってることは本当だろうか。

 少し、饒舌すぎる気もした。


 怪しむ俺にゼフさんは笑って言う。


「誰かと世間話するのはこれで最後でしょうからね。話したくもなるというものですよ。きっと、わたしは近いうちに処刑されるでしょうし。ですよね。レグルス様」


 レグルスは重々しく口を開いた。


「そうせざるを得ないな。ヴァン。この拘束はどれほどもつ?」


「一日はもちますよ。あと、ルーンを新しく描けばいいだけなので、ルーンの効果が消える前に新たなルーンを使えばずっともちますが」


「分かった。感謝する。数日のうちに、どうするか決めよう」


 レグルス様はそういうけど、まあ、多分処刑するのだろう。

 アリシアがいる手前、はっきりというのを避けたんだ。


「さて、一日はもつというなら、ヴァンはしばらく休むといい。今君に必要なのは食事と休息だろう」


「そう、ですね。お言葉に甘えます」


 正直、身体はすごくだるい。

 出来れば、寝たい。


 そんなときだった。


「何やら異変を感じてきてみたら……。こ、これは一体!? ヴぁ、ヴァン!? その傷は!?」


 謁見の間に飛び入ってきたのはディアンだった。

 もっと早く来てくれよ……。

 ちょっとだけそう思ったのは内緒だ。


「傷は大丈夫だよ。アリシアに治してもらったから」


「そ、そうか。それで、これは何があったのですか……。ぜ、ゼフ宰相? どうして、縛られているのですか? それに、その光は……」


「ディアン。全て、後で説明しよう。それよりも今は、アリシアとヴァンを頼んでもいいか? 特に、ヴァンを早く寝かしてやってくれ」


「わ、分かりました。ヴァン、こっちに体重をかけろ」


 俺は、国王様から離れ、そういうディアンの肩を借りる。


「俺はゼフと話がある。行け」


「レグルス様」


「どうした? ヴァン」


「後でもいいので、アリシアとも話をしてあげてください」


 レグルス様は、一瞬目をつぶった。

 それから、俺の目を見て言った。


「分かっている。今回のことといい、アリシアの事と言い、本当に君には頭が上がらないな」


 優しい目をしていた。


 それを最後に、俺は謁見の間を立ち去った。


 それから、数日が経った。


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