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ルーン魔術師と事件の話

 あの孤児院の事件から数日が経っていた。


 あの後のことを少しだけ話そう。


 *


 王宮に戻った俺たちはすぐに事件のことを報告をした。


 ちょうど、そこには宰相のゼフさんが居て、彼が素早く兵士を王都中に動かしてくれた。


 その手腕は見事なもので、まあこれもルーンじゃできないことだなあ、なんて俺は感心していた。


 毒井戸は孤児院以外にも数か所見つかった。

 ゼフさん曰く、水源には問題がなかったという。

 だから、自然に起きたことではなく、誰かの仕業であるのは確かなようだ。


 それと、幸い今回死人は出なかった。


 ゼフさんが言うには、死ぬような毒ではなかったようだし、兵士さんたちが毒井戸を調査している間に、俺とアリシアは王宮で【解毒】のルーンを作っていて、毒にかかってしまった人にすぐにルーンを届けられるような準備が整っていた。


 その日から、兵士さんたちの見回りの仕事が増えたみたいだけど、それ以外ではいつも通りだったらしい。


 *


 そして、今日俺はラズバード王国の国王、レグルス様に談話室に来るように言われてた。


「うう……。お腹が痛い……」


 メイドさん達に正装に着替えさせられた俺は、そのきっちりとした衣服に居心地の悪さを感じていた。

 やっぱり俺にはこういうのは似合わない気がするし、こういうのを着ちゃうとますます緊張してお腹も痛くなってくる。


「どうした? 毒でも飲んだか?」


 少しにやにやしながら聞いてきたのはディアンだ。


「これが毒なら、自分で治せるからまだよかったんだけどね……」


「はははっ! 違いない! まあ、そんなに緊張することでもないだろう。悪いことをして呼ばれているわけじゃないんだ」


「う、うん。まぁ、確かに……。そ、そうだよね」


 ディアンの言う通り悪いことはしてないはずだ。


 毒井戸事件の日はもちろん、それ以降今日まで、やったことと言えば王都の散歩とか、困っている人を手伝ってあげたりくらいのことだ。


 うん、大丈夫。悪いことはしてない。


 そう思うと、少しだけお腹も落ち着いた気がする。


「じゃあ行くか」


 ディアンの言葉に頷いて、俺たちは談話室に向かう。


 兵士さんたちの王都の見回りの仕事が増えたせいか、王宮の中は少しだけ静かなような気がした。俺とディアンの話し声がやけに響くような感じがする。


 談話室の前につくと、ディアンが扉をノックする。


「アリシア王女近衛騎士隊隊長ディアン・ウェズマです」


「入りなさい」


 しわがれた、老年の男性の声が聞こえてくる。ゼフさんのものだ。


 ディアンが扉を開け入り、俺もついていくように入る。


 部屋の中では、すでにレグルス国王様も居た。


「おかけください。ヴァン殿。ディアンも」


 促された俺たちは席に座る。


 俺がレグルス国王様の前に座ることになったが、まあこれは仕方ないだろう。緊張するが、一応呼ばれているのは俺だ。前に座らないほうが失礼だろう。


 そうして席に着き、口を開いたのはレグルス国王様だった。


「ヴァン。まずはこれを言わせてくれ。今回の件。本当にありがとう」


「い、いえ。そんな。今回のことは、俺は毒にかかった人を治したくらいですし、それよりもゼフさんや兵士さんたちの方が働いてくれたと思います」


「それでも、ヴァンのおかげで民の苦しみが減ったことは間違いない。それに、ゼフからは今回見つかった毒は死ぬほどじゃないと聞いているが……」


 そう言ってレグルス国王様はゼフさんをちらりとみる。


「はい。大人に関しては、おそらくは。ただ、ヴァン様がお救いになられた孤児院の子供に限るとそうではなかったかもしれません。身体も小さく、毒の影響も大きい。それに、これはわたしたちの責任でもありますが、彼らは栄養失調気味で体力が少ない。最悪の場合もあったでしょう」


「ああ。それが死人が出ずに済んだ。これはやはりヴァン。君のおかげだ。感謝する」


「わ、わかりました。ありがたくお言葉を頂戴します」


 これ以上、固辞をしても仕方ないだろう。

 だけど、俺は代わりに言わないといけないこともある。


「あの。一つ、いいでしょうか」


「どうした?」


「今回の件。アリシア、様。も、頑張ってくれていました。ぜひ、アリシア様にも何か言ってあげては貰えませんか」


「ヴァン……」


 じっと、優しい目でレグルス国王様は俺のことを見ていた。


「考えておこう」


 俺はほっと胸を撫でおろす。

 その言葉が出ただけでも、言ってみた価値はあるだろう。


「さて、本当は国をあげて君の功績を称える式典をしたいが、それに関してはもう少し待ってほしい」


「え! い、いや。それは、本当に……。あの、十分ですので」


 それに関してはもう少し待ってほしいって、なぜ式典が行われることが前提で話が進んでいるのだろうか。それがわからない。


「ふむ。まあ、このことに関してはおいおい話そう」


「そ、そうですね……」


 頬が引きつる。何とかして、阻止できるように動かねば……。

 大体、俺なんかの時代遅れのルーンで解毒できるものくらい、ルーン魔術師なら誰にだって出来るだろう。そんなことで評価されるなんて、なんか騙しているみたいで気分が悪い。


「さて、ではディアン」


「はっ!」


「ヴァンをここまで連れてきてくれてご苦労だった。下がっていいぞ」


 え?


 俺は?


 ディアンだけ?


「分かりました」


 分かっちゃうの?


 助けてくれないの?


 そんな目でディアンを見ると、


(まあ、無理だ)


 そんな目線が帰ってきたような気がした。


 そうしてディアンが出ていく。


 ドクドクと、心臓が動き出してきた。

 やばい、胃が……。

 な、何の話だろうか……。


 そうして、俺はディアンの言葉を思い出す。


『そんなに緊張することでもないだろう。悪いことをして呼ばれているわけじゃないんだ』


 ごくりとつばを飲み込む。


 そうだ。わ、悪いことをしているわけじゃないんだ。


 そう言い聞かせ、自分を落ち着かせる。


 そして、レグルス国王様が口を開く。


「君は、随分とアリシアと仲がいいようだが」


 その瞬間、ひゅ、と胃が縮み上がった。

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