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ルーン魔術師と弟子・1

 繁華街で食事を終えて、俺たちは少し人通りの落ち着いたところを歩いていた所だった。


 ふと、後ろから近づいてくる人の気配に気が付いた。

 かなりずっとついてきているし、ただ道を歩いて行く方向が同じというわけではなさそうだった。


 俺の前を歩く二人はまだ気づいていない様子だった。


 その気配は俺たちに近づいてきていた。


 だけど、この気配は……。


 振り返ると、そこに居たのは大柄でマントを羽織った旅人風の男だった。

 男は俺が振り返ったのに驚いたのか、固まっている。

 目元がフードで隠れているが、間違いない。


「ディアン。どうしたのこんなところで」


 俺がそう言って、アリシアたちも気が付いたのか足を止めた。


 そして、男は観念したかのようにフードをあげた。


「驚かそうと思ったんだが……。気付いていたのか」


 残念そうに笑っていたのはやっぱりディアンだった。


「これもルーン魔術か?」


「いやあ、流石に昨日まで数週間も一緒に旅をしてたんだし、ディアンの気配くらいなら分かるよ」


「ふむ……。割と本気で驚かせようと思って気配を消していたのだが……。なかなか用心深いんだな」


「うーん。どっちかというと臆病……。なのかな」


「臆病?」


「ほら、俺たちルーン魔術師って近づかれたら弱いから、師匠には近接攻撃のさばき方とかみっちり教えられたんだけど、そもそも近づかれるなとも言われて、気配の探り方も教えられたんだ」


「ほう。俺も一度、ヴァンの師匠に会ってみたいものだな。学べることが多そうだ」


「ははは……。まあ、多分あわないほうがいいけど……」


 ディアンは感心したようにそういうけど、絶対やめといたほうがいい。

 そりゃあ、優しいことも何回かはあったけど、記憶に残ってるのは大体俺が痛い目にあってる記憶ばかりだ。


 近接戦の訓練でボコられたり、いきなり森とか山とかに身一つでほっぽリ出されたり……。なんか、色々思いだしたら腹が立ってきたな。


「それで、ディアンはどうしてこんなところに居るんですか?」


 そう聞いたのはミラだった。


「うん? ああ、午前の仕事を終わらせて暇になったから来た」


「暇になったからって……。いや、来るのは近衛騎士隊長として当然の事ですが、理由が暇になったからというのは……。なんとも、頼りない隊長です」


「まあ、ヴァンが居るからな。なにかあっても大丈夫だろう」


 この人は俺を信用しすぎだと思う。お前もちゃんとしろよ。


 と、心の中でぼやく。


 そんなときだった。


「金も持ってねえ冷やかしは出ていきなっ!」


 そんな大声が響く。

 声の方を向くと、一軒の店から子供が勢いよく蹴りだされていた。


 な、なんだ?

 大丈夫かな……。


 俺がそんな心配をしているのに気付いたのか、はたまた、アリシアも気になったのか。


「行ってみましょう」


 そう言ったのはアリシアだった。

 もちろん、俺は頷く。

 俺たちは急いで、子供のもとに向かった。


 *


「なあ! 頼むよ! 薬をわけてくれ! 金は後で払うから!」


 追い出されていたのは少年だった。

 十歳くらいだろうか。

 その、少年はあれだけひどく蹴りだされたというのに、まだ店の扉をすがりつくように叩いて。

 なんとなく、ただ事じゃなさそうなのは簡単に分かった。


「あの、どうしたの?」


 俺が声をかけると、少年は目をそらし俯いた。


 どうしたものか。事情が分からなければルーンでもどうすることも出来ない。

 俺が困っていると、アリシアが少年の前に出る。

 俯く少年と目を合わせるように、アリシアはしゃがんで見上げるように少年の顔を見る。


「こんにちわ」


 優しく微笑みかけながらアリシアがそう言う。

 少年は困ったようにしたが口を開いた。


「……こ、こんにちわ」


「なにか困っているようでしたけど、どうしましたか?」


「……。俺の、家族が、腹を壊して……」


「病気、ですか? それで薬屋に?」


 見ると少年が追い出されたのは薬屋だった。

 なるほど、少年は家族のために薬を買いに来たということだろう。

 だけど、腹を壊した、というだけにしては少年の様子は少し切羽詰まりすぎているように見えた。


「……うん。でも、俺たちは金がなくて。それで、薬を売ってもらえなくて……」


「なるほどな。だが、腹を下しただけなら放っておけば治るんじゃないか?」


 そう言ったのはディアンだった。

 少年は答えない。


「治りそうにないんですか?」


 アリシアが聞く。


「……。それが、なんか、変なんだ……」


「変?」


「朝はなんでも無かった。普通に元気にしてたのに、昼になって急にみんながお腹を壊して、それで吐いてるやつも居て……。とにかく、ただごとじゃないって思ったんだ!」


 俺たちは顔を見合わせる。

 少年の言っていることが本当なら、確かにただ事じゃなさそうだ。


「とりあえず様子を見に行ってみましょうか。薬は……、役に立つかは分かりませんが一応買っていきましょう」


 ミラさんがそういう。

 だけど、その言葉に少年は泣きそうになる。


「でも、金が……」


「わたしたちが立て替えておきますので、いつでもいいので返してください。それでいいですか?」


「い、いいのか?」


 少年が鼻を鳴らしながらそう言った。

 アリシアは立ち上がり、胸をはって答えた。


「もちろんです! 困っている人を助けるのは当たり前のことです。ですよね、師匠!」


「そうだね、アリシア。今回ルーン魔術が役に立つかは分からないけど、困っている人を助けるのがルーン魔術師だ」


 どうやらアリシアは、本当にルーン魔術師としての素養があるようだった。

 そうして、俺たちは薬を買って、少年についていくのだった。

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