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閑話・ルーン魔術師と肉巻き

 昼頃。

 雲一つ無い晴天のもと、俺たちは繁華街に来ていた。

 そこそこ人が多く、活気づいている。


 そして、なぜだがまた多くの男性がすれ違いざまに俺を睨んでくる。


 一体なんなんだ……。

 もしかして、俺は不審者かなにかに間違えられているのだろうか。

 全く怪しい行動はしていないのだが……。


「どうしましたかヴァン?」


 俺が人の目線におどおどしていると、心配そうにアリシアが声をかけてくれた。


 二人は、というと変装が功をそうしているのか、騒ぎになる様子は全くない。


 やっぱり俺の気にしすぎだろうか。

 アリシアとミラさんも楽しんでいる様子だし、水をさすのも悪いなあ。

 一応、俺はちゃんと警戒をしておこう。


「いや、なんでもないよ。ところで、アリシアのおすすめってある? 色々あってよくわからなくて」


「そうですね。あ、あれなんてどうでしょうか」


 アリシアが人込みの先を指さす。

 どうやら屋台の様だ。

 鉄板の上で、肉が豪快に焼かれている。タレの匂いなのか鼻をくすぐる甘く香ばしい匂いがした。

 それにつられてお腹もくぅとなる。

 店主らしき人物が焼けた肉を、平べったいパンに巻いて客に出していた。


「美味しそうだね。じゃあ、まずはあれにしようか」


「はい!」


 アリシアの可愛らしい返事を聞いて、俺たちはその屋台に向かった。

 料理の名前は『肉巻き』というらしい。とてもシンプルだ。


 値段もお手頃で、三つ買い受け取る。


「はいアリシア」


「ありがとうございます」


 アリシアが受け取る。


「ミラも」


 そう言って、ミラさんの前に出すと、じっとそれを見つめていた。

 もしかしてミラさんはあんまり好きじゃなかったのかな。

 そう心配に思っていた時だった。


「あむ」


 ミラさんは俺の手から受け取らずに差し出していた肉巻きにそのままかじりついてしまった。

 ミラさんはもぐもぐと口を動かす。

 その様子に俺は少し驚いた。

 こんな風に食べる人だとは思ってなかったな。

 そんなにお腹がへっていたのかな?


「み、ミラ……。なんてことを……」


 その様子にアリシアも驚いたのか、わなわなと肩を震わせていた。

 ごくん、とミラさんが口の中の物を飲み込んで言う。


「ふむ。美味しいですね。おっと、これは失礼しました」


 そうして、ようやく俺の手から肉巻きを受け取った。


「ず、ずるいです! ミラ!」


 アリシアが何やら叫ぶ。

 ずるい?

 ずるいとは何のことだろうか。

 俺はアリシアの言っている意味がよくわからなかったけど、ミラさんは分かったのか、にこりと笑って見せる。


「では、アリシア様もどうですか?」


 そう言われたアリシアは、自分の手元にある肉巻きと俺の顔を交互に見る。

 何か、迷っている様子だが一体どうしたというのだろうか。

 だが、結局アリシアは顔を背ける。


「い、いえ。大丈夫です。冷めないうちに食べてしまいましょう!」


 そう言って、肉巻きに口をつけた。

 アリシアの言う通り、俺も冷めてしまわないうちに、と思いひと口かじる。


 肉巻きはなかなか美味しかった。

 香りから想像していた通りの味だったと言っていい。


 肉巻きに舌鼓をうっている中、ふとミラさんが呟いた。


「ふむ……。たきつけたつもりでしたが……。失敗でしたか……。では次は……」


 それは喧騒にまぎれてほとんど聞こえなかったけど。


 あと、なぜだか知らないけど、俺に刺さる視線がさらに多くなり、しかもなんか殺気づいている気がする。

 ……。

 街というのは案外怖い場所なのかもしれない。

 俺は警戒を強めることにした。

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