ルーン魔術師とラズバード王都・1
王城を出て、街に降りていく。
外はいい天気だった。
心地いい風が肌をなで、降り注ぐ陽の光も気持ちがいい。
そんな陽気に当てられてか、アリシアの歩調はどこか楽しそうだ。
「楽しみですねヴァン。お昼もどこかでいただきましょう」
「うん。そうだね。って、えっと、外で食べても大丈夫? ミラ」
一応ミラに聞いたほうがいいだろう。俺が一人で決めるわけにもいかない。
もしかしたら、ミラはダメと言うかとも思ったが柔らかく笑って頷いた。
「はい。ぜひそうしましょう。何かお好きなものはありますか?」
「うーん。そうだなあ……」
聞かれて、俺は少し考える。
好きな食べ物……。なんだろうか。
これと言ってこれまで食にこだわりは無かった気がする。
修行中は現地で取れた物を食べてたし、王宮に軟禁されてた時も、俺のほうから何か食べたいと言った覚えはない。運ばれてくるものをただただ一人寂しく食べていただけだった。
俺が困っていると、アリシアが小さく手を叩いた。
ぱちん、と可愛らしい音がなる。
「繁華街の方に行けば、色々なお店が立ち並んでいます。せっかくですから、一つに限らず、色んな物を食べるというのはどうでしょうか」
「そうですねアリシア様。いいお考えかと。構いませんかヴァン?」
「えっと、俺は全然いいんだけど……」
「じゃあ決まりですね」
そう言って、アリシアはやっぱり可愛らしく笑うのだった。
ミラさんや国王様、ディアンなんかも、アリシアがこんなに楽しそうにしているのは久々にみたって言うけど、俺にとってはこうやって笑うアリシアがいつもの彼女だから、普段どうだったのかが少し気になる。
いや、別に見たいってわけじゃない。
やっぱり、悲しい顔をされるよりかは笑ってくれてた方がいいからね。
そうして、歩いていると徐々に人影が多くなってきた。
話し声や足音、街の喧騒というものを肌で感じる。
だけど、それとは別に……。
「ね、ねえ」
「どうしましたか?」
「なんか、俺たち、見られてない?」
先ほどから街ゆく人たちの視線が妙に刺さってくるような気がしていたのだ。
それも最初は気のせい、あるいは気にしすぎかとも思っていたが、やはり違う。
「そう……でしたか? ミラはどう思いますか?」
「いえ。わたしも何も。いつもと同じように思えましたが」
だが、二人はどうやらそういう視線には気付いていない様子だ。
やっぱり俺の気のせいなのだろうか。
「もしかして、二人の変装がバレてるんじゃない?」
小さな声で、俺は言った。
だけど、ミラは首を横に振る。
「もしバレていたら、もっと騒ぎになるはずです。王族がお店に寄れば、御用達などと適当を言って儲けようとしますから。囲まれて引っ張りだこになるでしょう。ですから気付かれてる可能性は薄いかと」
「な、なるほど……」
じゃあ、一体俺が感じてるこの嫌な感じの視線は一体何なのだろうか……。
ふと、男の人と目があった。
ギロリ。
う、うわあ!
めっちゃ睨んでくるじゃん!
思わず目をそらす。
それから何事もなくすれ違って、俺はほっと胸を撫でおろした。
それから、雑貨屋に着くまで、何度か同じ目にあった。
雑貨屋に着いたころには、俺の心はすでに疲れ切ってしまった。