ルーン魔術師と自由
「それで、ヴァンは今日どうするのかな」
それは朝食中に国王様から出た一言だった。
「え、どう、ですか?」
聞き返すと、不思議そうな顔をされた。
国王様がフォークを置いて言う。
「うむ。ここで生活するにしても入り用な物はあるだろう。まあ、無理にとは言わないが市中を見て回るのはどうだ?」
「市中ですか?」
い、一体どういうことだ?
市中ってことは外だよな?
外ってことはもちろんここを出ることになる……。
いや、まさか城の中に市中があるのか?
俺が戸惑っていると、隣に座るアリシアが言う。
「ぜひ、そうしましょう。わたしも一緒にいってもいいですかお父様?」
アリシアはかなり乗り気だった。目を輝かせて、身を乗り出すようにして言うその姿にはかなりのやる気を感じる。
いや、俺も出ていいなら出てみたいけどいいのだろうか?
「うむ。ただしミラがついていることが条件だ」
「やった! いいですよねミラ」
「もちろんです。ではわたしは先に市中に出る準備をしておきましょう。一度失礼します」
そう言ってミラが部屋を出ていく。
なんだか、俺が戸惑っているうちに話はどんどん進んでいる。
そんな俺の戸惑いを感じたのか、俺のほうを見ていた国王様と目があった。
「どうした。ヴァンはあまり乗り気ではないか?」
「そうなのですかヴァン?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
二人が俺を見つめる。
うーん。いや、これははっきりしておいた方がいいだろう。
後でなにか間違いがあったとか言われるのは俺もいやだ。
ああ、つくづく嫌な性格だ。出ていいと言われてるんだから、黙って出ちゃえばいいのに。なんで俺はそれができないんだろうか。
「あの……」
意を決して俺は口を開いた。
二人が耳を傾ける。
「俺は、軟禁されてない……んですかね?」
キョトンとした目が向けられた。本当に何言ってるんだって感じ。
いや、そのとおりです、すみません。
*
結論から言うと、俺は軟禁されてなかった。
国王様は大笑いして、そんなことあるわけない、いつでも好きにどこに行ってもらってもかまわない、と言ってくれた。
その瞬間にすっごく恥ずかしくなった。俺はとんだ勘違いをしていたようだ。
そりゃ、手枷もされないわけだし、みんなあんなに不思議そうな顔をするはずだ。チルカも監視じゃなくて、分からないことが多いだろう俺のための世話係だったようだ。
「それで、どこに行きましょうか」
晴天の下。
太陽に照らされた花のように笑うアリシアが言う。
帽子を被り、眼鏡をかけて、それから服も町娘風なものに着替えている。
隣に並ぶミラも同じような格好になっており、まるで姉妹みたいに見える。
「うーん。どうしようか」
このラズバード王国の王都に明るいわけでもないし、特に急いで必要というものも無く、俺は悩んでいた。
「二人はよく街に行くの?」
「週に一度くらいでしょうか。勉強が終わって時間が余った時に。そのときもミラと一緒に街に出ていました。ね、ミラ」
「そうですね。ただ、わたしの場合は買い出しなどでもう少しだけ街に出る機会は多かったですが」
どうやら、二人とも結構忙しい毎日を送っていたみたいだ。
それでも街には出ているみたいだし、やっぱりここは案内を頼むほうがいいだろう。
「じゃあ、二人がよく行く場所にでも案内をお願いしてもいいかな」
「もちろんです! では、雑貨屋から行ってみましょうか」
アリシアは笑顔でそう言った。
可愛らしいその笑顔と、陽気な天気、そして、自由に外を出歩けるということに、俺は幸せを感じていた。