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ルーン魔術師とさらわれたお姫様

 そうして、俺は王都から追い出され、行く当てもなく道沿いに歩いていた。


 手枷を外してくれた兵士君は最後まで不安そうにしてたなあ。


「さてと、それはいいとしてこれからどうしようか」


 あの後、すぐに王都から追い出されてしまったため、一文無しだし、食い物も道具もない。これは本当に野垂れ死にかもしれない。


 せっかく外に出られたのに、そんなことは避けたい。


「時代遅れとは言われたけど……。ないよりましだろう」


 俺は、道端に落ちている石を拾って、【衝撃】のルーンを刻んで歩く。


 石を石で削るようにルーンを刻むしかない今、王宮で作っていたような、【爆発】や【土壁】なんかのすこし複雑なルーンを刻むのは難しい。


 ルーン魔術は案外繊細だ。文字列を並べるだけじゃない。

 丁寧さと緻密さの上に成り立つ神秘の術だ。


 これは師匠の教えで、今でも大事にしている言葉だった。

 でも、それも時代遅れなのかなぁ。


 そんなことを考えていると、【衝撃】のルーンを刻んだ石がすでに十個もできていて、ポケットには収まりきらなくなっていた。


 少々心もとないけどしょうがない。


 街道に沿って歩いていると、少し先で、馬車が横転しているのが見えた。


 うわぁ。なんだろ。なにかあったのかな?

 いや、あったんだろうな。


 近づくにつれて、少しずつその様子がわかってくる。


「え!」


 目に入ってきたのは、血を流して倒れる人や馬。

 これはただ事じゃないって!


 俺は全速力で走り出す。


「大丈夫ですか!」


 そう声をかけても、反応はない。

 目につくほとんどの人がすでに息はなかった。


 鎧を着てるけど、グラン王国の紋章が入ってないな。どっかのお金持ちの私兵とか、かな?


「う、うぅ。そ、そこに、誰かいるのか……」


 死人しかいないと思われたが、呻くような声が聞こえた。振り向くと、そこには腹から血を流し、横転した馬車にすがるように座る男がいた。


 彼は震える手を重たそうに上げ俺に伸ばしていた。


「動かないで! 傷が深い。治療しないと!」


「お、おれのことは、いい。それよりも、姫様、を、たすけに、いってくれ」


 姫様?


 この国の姫様はついさっき、女王になって、俺を追い出したばかりだし、前国王のデューク・グランは子宝に恵まれず、彼女一人しか子供はいなかったはずだ。


 もしかして、この人は他国の兵?


 って、そうじゃなくて、早く助けないと。


 姫様っていうのがどこの誰なのかわからないけど、彼を見殺しにしていいはずがない。


「じっとしててね」


 俺は彼の傷口の近くから、指先で血を掬い取る。


「な、なにをしている」


「俺はルーン魔術師だから。君の血をインク代わりにするけど許してね」


 血もルーン魔術を使うためのインクになる。

 しかも、生命力を多く含んでいるから、傷の治癒には最適だ。

 ルーンを刻んでいて乾きやすいのと、大量に調達しにくいことが最大の欠点だが、今はその欠点は気にしなくていい。


 俺は彼の袖を破り、あらわになった腕に【治癒】のルーンを刻む。

 刻み終え、魔力を通すと、ルーンが光を放ち起動する。


 その光は数秒で消えた。


「どう? 痛みはある?」


「い、いや、ない。腹を一突きにされて、致命傷だと思ったが、ふさがっている。……すごいな。一体何をしたんだ」


「ただのルーン魔術だよ」


「ただのルーン魔術? ルーン魔術にこれほどの治癒力があったとは聞いたことがないが……」


「君の血を使って、直接肌に書いたからじゃないかな。ルーン魔術は、何を使って何に書くかって結構重要なんだ」


「そ、そうなのか。初めて聞いたな」


 あれ? もしかして、それも時代遅れなのかな。

 そう思うと、ちょっと恥ずかしくなってきた。


「治してくれて感謝する。礼をちゃんとしたいが、早くやつらを追わないと……。うっ!」


「あぁ! 急に立ち上がらないで。傷は治ったけど、血は多分足りてないから」


 ふらつく彼に肩を貸す。


「俺以外の奴は……」


「……。いいにくいけど、その。ここには、君以外には生きている人はいなかったよ。一体何があったの?」


「……賊に襲われたんだ。それで、恥ずかしながらこのありさまだ。……無理を承知で頼みたいことがある」


「姫様って人を助けに行ってほしいってこと?」


 すでに賊の姿はない。きっとさらわれたのだろう。


「あぁ。そうだ。と、言っても、どこに連れていかれたかもわからないが……。いや、本当に、無茶を言っているな。不意を打たれたとはいえ、われわれ、ラズバード王国の騎士団をもってしてもこのありさまだ。道すがらにあった人に頼むようなことではないな」


「助けますよ」


「え?」


 俺は彼を地面におろし、横転している馬車に近づく。


「場所がわからないんですよね。早く探さないと」


「探すって言ったってどうやって、って何をしているんだ?」


 俺はポケットから石を取り出して、魔力を通し【衝撃】のルーンを起動する。

 投げてぶつけたものに強い衝撃を与える効果だ。


 俺はそれを馬車の車軸めがけて思いっきり投げた。


 ――バッゴォン!


「あ」


 車軸には当たらず、馬車ごと吹き飛ばしてしまった。

 コントロールのなさが露呈してしまった。


 だが、お目当てのものは無事に馬車から外れていた。


 車輪だ。


 俺は円盤型のそれに【導き】のルーンを刻む。


「それもルーン魔術か?」


「はい。そうです。車輪は人を導くもの。探し物には向いています。これに触れてください」


 俺は車輪を地面に置き、兵士にお願いする。


「姫様を強く意識して、魔力を通してください。そうすれば、車輪が導いてくれます」


「分かった。やってみる」


 彼の手つきは半信半疑だった。


 だが、念じて、魔力を通すと、車輪の中心部から、まるで俺たちを導いてくれるような光が伸びた。

 時代遅れでも、こういったことにはちゃんと役立つ。


「この先に、姫様が……?」


 指す先は森の中だ。


 きっと賊は森の中にアジトを持っているのだろう。


「俺が行きます。あなたはここで休んでいてください」


「ま、まて、俺も」


 そう言って立ち上がろうとするが、やっぱりふらふらだ。


「ほら、無理ですよ。急ぐんでしょう? 俺一人で行ったほうが早いです」


「ふっ。どうやら、そのようだな。なぁ、どうしてここまでしてくれるんだ? 言っておくが、相手は本当に危険だぞ」


「危険かどうかなんて関係ありませんよ。困っている人が居たら助けるのがルーン魔術師ですから。って、俺なんかの時代遅れのルーン魔術じゃ、役にも立たないかもですけど」


「君が時代遅れ、か。グラン王国のルーン魔術はすさまじく発展しているんだな。武運を祈っているよ。俺たちの姫様を、頼む。それと、これを貸そう。みたところ君は丸腰だ。ないよりましだろう」


 彼は腰に差している剣を俺に渡してくれた。

 ずしりと重い感覚が俺の腕を襲う。

 貸してくれるのは助かるんだけど、これは後で【軽量】のルーンでも書いとかないと俺はちゃんと振れないなぁ。むしろこちらが振り回されそうだ。


「ありがとう。やるだけ、やってみます」


 そうして、俺は車輪の光の指す先へと向かっていった。

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