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ルーン魔術師とラズバード王国の国王・3

 アリシアたちが部屋を出ていったあと、部屋は静寂に包まれていた。


 俺とレグルス様。そして、宰相のゼフさん。全員が、口を閉ざしていた。


 ……。


 いや、もしかしたら俺が切り出すべきなのか?


 そうとも考えるが、一体何を?


 大体、ここに俺を残したのはレグルス様のほうだ。


 しばらく、視線を置く場所も定まらないままに、言葉を待っていると、レグルス様がため息を吐いた。

 憂いに満ちたような、寂しげなため息だった。

 その瞳も、どこかやさしさに満ちている。


「ようやくまとまった」


「まとまった、ですか?」


「あぁ。君と話さないといけないとは思い、この場に止めたが、いざ、となると、言葉は出てこないものだな」


 国王様でもそういうことはあるのか、と少し親近感を覚えてしまう。

 なんだか、俺のほうも緊張が少しだけ解けたような気がする。


「まずは、礼を言わせてもらう。娘を助けてもらい、そして、ここまで護衛をしてもらい本当に感謝している」


 そう言って、いきなり両手を机につき、頭を下げるものだから、俺はぎょっとして、数秒ほど言葉を失った。


「レグルス様っ! 何もそこまでしていただかなくても。お言葉がもらえただけでも身に余ります! 頭を上げてください!」


 国王様に頭を下げさせるなんてあっていいはずがない。

 俺の言葉は無事に届いたようで、それから、レグルス様はゆっくりと頭を上げた。


「それに、それだけじゃない」


「? ほかには、何もしていませんが」


「アリシアがあれだけ元気なのは、久々に見たよ」


「あっ……」


 意外だった。

 きっとアリシアのことなんて気にしていないだろうと、思っていたんだ。

 だから、レグルス様のほうから、アリシアの話題を振られるとは思ってもいなかった。


「この国のことは、どこまで聞いている?」


 なんと言えばいいのか、話の行く末を見失った俺に、レグルス様が、道筋を立てる。

 とりあえずは、その道筋に従うほかないだろう。


「王族には、力が求められ、そして、魔力の少ないアリシアは、冷遇されていると。俺が聞いたのはそのくらいです」


「そうか。ほとんど間違いではない。だが、補足をするなら、力が求められているのは、何も王族だけではないということだ」


「貴族も、ですか?」


「あぁ。それから、大臣や、宰相にも力が求められる。このゼフも、もとはただの兵士の一人だった。魔族との戦いで武勲を上げ、宰相の地位まで上り詰めた。この老体でも、そこら辺の兵士よりはずっと強いぞ」


「お戯れを。老兵を買いかぶりすぎでございます。いつ誰にこの座を奪われるか、といったところでしょう」


 ゼフさんはそう言って笑った。しゃがれた声が、無機質に部屋に響く。


「お前こそ冗談を言うな。まだ誰にも代わる気がないくせに。っと、そうじゃないな。俺が言いたいのは、この国はそうやって発展し、強大な周辺諸国や魔族から領土を守ってきたということだ。血よりも力。それが我が国の方針だ。力があれば、貴族にでも、宰相にだってなれる。だが、力が無ければ、地位も約束されない。それがこの国だ」


「つまり、王族も、もしかしたら取って代わられることがある、ということでしょうか? だから、王族でも、魔力の少ないアリシアは冷遇される、と」


「そう考えるのが自然だろう。だが、そうではないんだ。そして、それがことを面倒くさくしている。次期国王が、王族以外から選ばれることは無い。血の濃さと生まれた順により継承順位が付けられる」


「じゃあ、なぜアリシア様に冷たい態度を? アリシア様は、自分のことを『死んでもいい』んだと、言っていました。どうして、そこまで言わせるほどに……」


「そうか。アリシアは、自分のことをそう言っていたのか」


 そこで、大きなため息が挟まった。

 それから、たっぷりと息を吸ったレグルス様は口を開く。


「強さが、関係ないからこそだ。例外を作ることは、いい結果を生まない。俺が無条件にアリシアを愛してしまえば、下の者に示しがつかないのだ。この国のために戦ってくれる者すべてに、力があれば成り上がれるのだ、と信じてついてきてもらいたい。そして、今がそうであるからこそ、この国は守られているのだと、俺は思っている」


 つまり、どういうことだ?


 えっと、アリシアは力がないから冷たくされてると思っているけど、レグルス様は例外を作りたくないから、仕方なくそうしている。

 仕方なくってことは……。


「レグルス様は、本当はアリシア様のことを……」


 ふと呟いてしまった言葉に、レグルス様が頷いた。


「あぁ。愛している。だが、国を守ることと、娘を愛することを同時にできるほど、この国はまだ強くないんだ。今回賊に襲われたと聞いたときには、本当に肝を冷やした。だが、そういうこともあるだろうと覚悟はしていた」


「……。仰られてることは、大体わかりました。ですが、どうして私に打ち明けられたのですか? 私は部外者だと思うんですが、いいのですか?」


 そう。俺はいわば部外者なのだ。

 宰相や大臣でもなければ、この国の民でもない。

 ただ、護衛の依頼を受けて、アリシアとディアンについてきただけの、部外者。

 そんな俺に、なんでこんな話を打ち明けたんだろう。


「君を信用してのことだ。君はアリシアの命の恩人でもあり、そして何よりアリシアに好かれているからな。あんなアリシアは久しぶりに見たよ。本当にうれしかった。だから、あれだけ楽しそうなアリシアの姿を見せてくれた君に、勘違いをしてほしくなかったんだ。俺がアリシアを大切に思っていることは、ゼフと妻と君しか知らない。出来れば、内密にお願いしたい」


 きっと、これを打ち明けるのには、相当の覚悟が必要だったのだろう。

 だって、この国の根幹にかかわることじゃないか。

 もちろん、俺はそんなことをばらしたりはしない。だけど、なんだか知ってはいけないことを知ってしまったような気がして、少し心がざわついていた。


「分かりました。誰にも、言いません」


「助かるよ。さて、つまらない話に付き合ってもらって感謝する。君は国賓として招いていると、ほかの者にも言っておく。ぜひくつろいでいってくれ。ゼフ。空いている部屋に案内をしてやってくれ。それから、数日時間はもらうが、アリシアを護衛してくれた報酬を準備させてもらう。それで構わないかな?」


「い、いえ。そんなそこまでしていただかなくても……」


「何を言っている。ぜひ、もてなしをさせてくれ。王女を救ってもらい、何もしないなど、それこそ俺の沽券にかかわる」


「あ、あの、じゃあ報酬だけで……」


「もしかして、すでに泊まるあてがあるのか?」


「そういうわけじゃないんですけど」あぁ、俺の馬鹿。なんで正直に言っちゃうんだ。


「? では、泊っていってくれ。俺からの頼みだ」


 そこまで言われて、俺は断ることができなかった。意志薄弱。そう言われたって仕方がない。

 力なく、頷く。


「は、はい……」


「それでは、ヴァン殿。わしについてきてくださるかな」


「はい……」


 そうして、俺は部屋を出て、ゼフさんの後をついていく。


 あぁ。このまま軟禁されちゃうんだろうな。

 なんで俺は人の頼みを断れないんだ……。


 そんな自分の性格を恨みながら、俺は案内されるままに、ゼフさんについていくのだった。

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