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ルーン魔術師と冒険者たち

「グレイさん! あんたすげえぜ! いや、前からすげえことは分かってたけどやっぱりすげえ! Sランク冒険者も近いんじゃねえか!」

「新人も、いや、ディアンさんもめちゃくちゃ強いじゃねえか! 二人ともSランク冒険者いけるんじゃねえか!」


 帰ってきた二人を迎えて、冒険者たちが騒ぎ立てる。いつの間にか、二人は冒険者たちに囲まれて、その興奮と熱気の渦に囲まれていた。

 ずいぶんとあつくるしそうである。


「そういやぁ、二人とも、その額の落書きはなんなんですか?」


 冒険者の一人が、グレイとディアンの額に書かれている俺のルーンに気づいたようだった。


「あぁ。ヴァンに書いてもらったルーンだ。俺がトロールを一撃で倒せたのはこいつのおかげだ。だから、俺には、まだ、Sランク冒険者は早えよ」


「そ、そうなんですかっ!」


「あぁそうだよ! ほら、お前ら邪魔だ。離れろ」


 グレイはそういって、まとわりつく冒険者たちを追い払うしぐさをとる。

 気休めだといったけど、気休めのおかげというほど、グレイは心細かったのだろうか?


 そんなことを考えていると、冒険者たちの目が俺を見ていることに気が付いた。


 ま、まずい!

 これが狙いか!

 ハメられた!


「アリシア! ごめん!」


「えっ? きゃっ!」


 俺はアリシアを抱えると、馬車のほうに急いだ。


 グレイとディアンから離れた冒険者が俺のほうに走ってくる。

 俺に標的を向けるためにグレイはあんなことを言ったんだ。そうに違いない。


「あ、あの! 重くはありませんか! ヴァン!」


 アリシア。何のことを言っているのか、俺には全く分からないけど、今はそんな場合じゃないんだ。

 あんな冒険者たちに囲まれてしまったら、アリシアが怪我をしかねない。ってか俺もケガをしかねない。グレイたちみたいに頑丈な体はしてないんだ。


 俺は馬車にアリシアを乗せ、そして俺も乗り込もうとしたときだった。


「ヴァンさん! あんたすげえぜ!」


 俺は後ろへと引っ張られる。

 すげえって本当に思ってんなら、馬車に乗ろうとしてるのに引きずり下ろすな!


「俺にも書いてくれ!」「ヴァンにルーンを書いてもらえば俺もああなれるのか!」「兄貴って呼ばせてくれ!」「握手してくれ!」


 馬車を引きずり降ろされた俺は、肉の渦にのみ込まれる。

 あ、あつい。苦しい。

 アリシアだけでも、馬車に逃がすことができて、よかった。


「おいお前ら! 遊んでねえで、トロールの解体をするぞ!」


 もみくちゃにされた後、グレイのその一言に、やつらは、俺に「ありがとうございました!」などと言って、トロールのほうへと向かっていく。俺がムキムキになったら覚えてろよ。


「すまんな。こんなつもりじゃなかったんだが……」


 ほんとう?

 半信半疑の目をグレイに向ける。


「おいおい。本当だ。そんな目でみるな。それと、ルーンも本当に助かった」


「気休めでも、役に立ったならよかったよ」


「気休め、ね。まぁ、お前がそう言うならそれでいいよ。それで、相談なんだが」


 俺とディアンを見て、グレイはなんだか言いにくそうにしていた。だけど、すぐに意を決したように口を開いた。


「俺と、パーティを組まないか。初めて、一緒に戦いたいと思った。一緒に、Sランク冒険者を目指さねえか?」


 真剣な瞳だった。冗談じゃないことは簡単に分かった。


「すまない。グレイ。そう言ってもらえるのは、うれしいが、俺は西のラズバード王国に帰らないといけないんだ。そのために、今日は参加したんだ」


 ディアンがそう言った。


「そうか……。ラズバード王国の人だったのか。ヴァンもなのか」


「俺は違うけど、でも、ごめん。俺も、二人についていくよ。」


 護衛の依頼を受けてるし、たとえ二人がもういいって言ったとしても、心配だ。

 ちゃんと送り届けてあげたい。それに、アリシアにもルーン魔術を教えるっていっちゃってるしね。

 投げ出すようなことはしたくなかった。


「ふっ。はははははは! 分かったよ。悪かった。引き留めるようなことを言って。ところで、この身体能力を強化するルーンってのはルーン屋にも使えるのか?」


「うーん」


 正直ルーン屋になんていったことないから知らない。でも、あの俺の仕事を代わってくれた、親切なイケメン金髪のガルマとかいう人は、俺を時代遅れのルーン魔術師とか、適当なルーンって言ってたし、もしかしたらルーン屋だったらもっとすごいこともできるのかも。


「ルーン屋には行ったことがないからわからないけどできるんじゃないかな?」


「そうか。分かった。よし、俺たちもトロールの解体に行くか!」


 それから、トロールの死体がある場所に行くまで、グレイは俺たちに顔を見せなかった。





「らっしゃい!」


 翌日、出発の準備を整えて馬車屋を訪れると、昨日とは違い、元気に店主が迎え入れてくれた。

 問題が解決して、すっきりしたのだろう。


 だけど、彼は俺たちの顔を見るなり、顔を真っ青にした。


「あ、あんたたち……」


 どうしたというのだろうか。


「この前は、すまなかった! グレイさんから聞いたよ。あんたたちが居なかったら、解決しなかったって。本当に頭が上がらねえ!」


 カウンターに頭がぶつかるんじゃないかってほど頭を下げて彼はそう言った。


「ちょ、ちょっと、やめてください!」


 俺が慌ててそういうと、彼は顔を恐る恐る上げる。


「ほんとうに、あんたにはひどいことを言った。シューカーに行きたいんだったよな。うちで一番いい御者と、一番いい馬車と、一番いい馬をあんたたちのために用意させてもらった。お代もいらねえ。使ってやってくれ」


「そういうわけにはいきませんよ。お金はちゃんと払います」


 昨日の報酬金で、俺たちの懐は温かかった。報酬のほとんどを俺とディアンとグレイで三等分したからだ。なんで俺が入れられてるのかはわからなかったけど、どうしてもと、他の冒険者たちも言うので、もらうしかなかった。

 それに、ただで乗せてもらうというのもなんだか悪い気がする。


「あ、あんた……。いい人だなぁ。分かった。ありがたくお代をいただくよ。今からでいいのかい? いつでも出せるぜ」


「では、よろしくお願いします」


「おうよ! 外で待ってな。連れてくっからよ!」


 こうして、俺たちはようやくカフラの街を出発することができたのだった。






 後日、カフラのルーン屋でのこと。


「いらっしゃいませぇ……。って、グレイさん!」


 店員は入ってきた大柄の客の顔を見るなり驚いていた。


 Aランク冒険者のグレイ。その顔を知らないものは、この街にはいない。


「なぁ。ルーンを頼みたいんだが」


「は、はい! 何がご入用でしょうか! 火を起こしますか、それとも、水を湧かしましょうかっ?」


 つとめて明るく振る舞おうとはしているが、その声色は緊張からか、ずいぶんと堅い。

 それでも精いっぱいの接客に、グレイは首を振る。


「いや、身体能力を強化するルーンを書いてほしいんだが」


「へ? 身体能力を、強化?」


「? できないのか?」


「いえ、できないとかではなく……」


 店員は、カウンターに本を出す。

 その表紙には『ルーン魔術大全』と書いてあった。


 店員はそれをぱらぱらとめくり、最後まで目を通すと、また、確認するように、もう一度最初から最後までを流して確認する。


「……。どうしたんだ?」


「あの……。どこで、身体能力を強化するルーンの話を聞いたのかは、存じませんが……。ないんですよ」


「は?」


「ですから、そんなルーン存在していないんです」


「そんな馬鹿な。俺にも見せてみろっ!」


 グレイは店員から本を貸りると、そこにあるルーンに目を通していく。

 きっと店員が見逃しているに違いない。そう思って、次々にページをめくっていくが。


 ない。


 あのディアンの額に書いてあったような文字と似ている文字すらない。

 ここに書いてあるものは、どこかヴァンのルーンとは別の何かのようにも思えるほど文字の形が違うのだ。


「あの、グレイさん?」


「これでルーンは全てなのか?」


「えっと、そうなります……」


「そうか。いや、すまなかった。今日は失礼させてもらう」


(ということは、ヴァンが嘘をついていたということか? いや、嘘をついているようには見えなかった。それに、ルーンの形状も全然違う。……一体あいつは何者なんだ?)


 彼の疑問が解決するのは、次にヴァンとあった時のことになるかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前日のルーンを消さずに店に行けばまだワンチャン? 技術が全然違うから無理か。
[良い点] 最近は「異世界転生でチートな技を使う冒険者」が多い中、古の魔法を使う主人公が主役という点がとても良かったです。 このまま続けて欲しいと思いますし、多少ほのぼの恋愛話にしても楽しいと思います…
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