修学旅行の夜はやっぱりこいばな
「それじゃ、おやすみ~」
そう言って三人が部屋を後にするのを見送り、僕たちは各々のベッドの上に腰掛けた。
「さて、どうする? 寝るか?」
僕が尋ねると、カズキが答えた。
「修学旅行の夜だぞ、やっぱり恋バナすんだろうよ!」
「消灯時間だな。電気消すか」
僕が言うと、チヒロが笑いながら答えた。
「だね~」
パチン
「ひゃ、まっくらだぁ……。あははぁ」
眠いようで、語彙は貧弱に、情緒はなんだかふわふわしている。
「寝よう」
そう言って僕は自分のベッドに向かう。
「え~、なんか話そうぜ! まだ眠くないしよぉ」
「子どもか」
「高二は子どもだろうよ」
「まあそれはそうなんだが……」
いやそういう事じゃなくて、小学生か、てきなね、はいもういいです。
眠くないと言いつつも、カズキも自分の布団にもぐりこんだ。
「別にいいんだけど、妹の恋愛事情なんて聞きたくないぞ?」
これは割とガチに。
妹と幼馴染との恋愛関係なんて、聞きたくない。
近すぎる人の恋愛はちょっと目をそらしたい。したくない? そらしたいよね?
「まあまあそう言わずに。頼むよ、お義兄ちゃん」
「お義兄ちゃんって言うな。まだ結婚まで認めたわけじゃない」
「まだ、ね」
「まだ、だろう。そりゃあ」
どうなるかは誰にもわからない。
未来のことなんて、誰も。
「どうなるかねぇ……」
「なにが?」
思わずつぶやいた声が、カズキに拾われる。
ちなみにチヒロはむにゃむにゃ言いながらすでに夢の中だ。
どんな夢を見ているのか、時折「うにゃぁ、もうたべられないよぉ……」という声が聞こえる。
「いや、これからのことだよ」
カズヤの問いかけに、曖昧に答える。
「進路?」
「いや。……、まあそれもそうか。メインは、僕たちのことだよ」
「俺たちの?」
「ああ。これから先も、ずっと一緒にいられるのか、いつか別れるのか、どんな別れなのか。そんなことをさ、ふと思ったりするんだよ」
「ふ~ん、なるほどねぇ……」
そう呟いて、しばらくの沈黙の後に、カズヤは口を開いた。
「先のことなんてその時考えればいいだろ」
考えながらしゃべっているのか、ぽつりぽつりと、いつもとは少し違った調子で。
言の葉が紡がれていく。
「俺はさ、一瞬一瞬が楽しければいいって、嫌なことなんか考えなくていいんなら、それで生きていきたいって、そう思ってる」
そう言って、少し沈黙した後、再び口を開いた。
「でもさ、考えずに進む、なんてのは無理なんだよな。いつかその時はやってくるし、決断しなくちゃならない時だって来る。見ないふりばっかしてんのはやっぱ、ちょっとずるいよな」
カズキは、きっと気づいていた。
まだ決着のついていない事柄に。
しっかりと終わらせなければならない事柄に。
他の誰にもできない事柄に。
「カズキ、気づいてたのか……?」
「アカリのこと、だよな? わかってる。ちゃんと決着つけるよ。この旅行中に」
やっぱり、わかっていた。
なら、僕から言うべきことは一つだけだ。
僕にはできないのだと、結論を自分の中に出してなお、自分からは言いたくなかった言葉。
けれど、言わなくちゃならない。
僕自身にも、決着をつける必要があるのだから。
「わかった。……、任せる」
修学旅行編、第一夜、終幕。
そうそう、第一回目、っていうのは間違っていて、「一回目」=「第一回」なんですってね。
あと、「お義兄ちゃん」or「義兄ちゃん」どっちが正しいんでしょうか……。
有識者の人いたら教えてください……。




