こんな幸せもありかもしれない。
地元から3時間掛かる全寮制の高校を卒業して家に戻った俺に衝撃的な事件が起こった。
「俺、お前の母さんと付き合ってるから」
そんな衝撃的発言をしたのは、保育園の頃からの幼馴染で近所に住む田山敬太だった。
「…は?」
「歩、妊娠したんだよ」
「……は!?」
幼馴染の横に居るのは17歳で俺を産んで現在35歳になるが見た目は20代にも見える俺の母親の歩だった。しかし、正月休みに会った母よりも随分と腹部が大きくなっていた。て言うかいつの間に名前呼び捨てにしてんだよ?中学の時まで「おばちゃん」て呼んでただろ!?
俺の母の歩は高校生当時に誰の子とも判らぬ子供を身篭り両親に出産を反対され家を飛び出して俺を1人で産んだ。
「6月出産予定だから世話宜しくね」
「俺親から勘当されてここ住んでるから」
「…………」
にこにこと何の罪悪感も感じ無い様な笑顔の母と、金髪にピアスだらけで中学の卒業式で別れた時とはまるで別人の様な幼馴染に俺は言葉が出て来なかった。
「流華〜双子が泣いてる〜」
「今ミルク作ってるからあやして!」
「俺抱くと余計泣くんだもん〜」
「お前の抱き方が下手だからって何度も言ってんだろ!」
「ぇえ〜俺のテク歩に好評だよ?」
「その抱くじゃねぇよアホ!!」
手早くミルクを哺乳瓶に入れて冷ますと布団で寝ている赤ん坊を抱いてミルクを飲ませ、もう1人は抱っこ紐で背に抱えてあやす。すると、外の方からドタドタの足音が近付いて来たと思ったら玄関のドアが開きどすんという音と共に僅かな振動。
「お帰り〜」
「敬太ぁ〜たーだいまぁ〜」
酒の匂いをぷんぷんさせている母が床に倒れているのを敬太が抱き起こすと俺が居るのもお構い無しに2人はイチャつき出す。
「んふふ〜敬太ぁ〜しよぉ〜?」
「いいよ〜」
「…………」
敬太は酔っ払って千鳥足の歩を抱えて1DKの狭い室内を流華と双子の横を通り部屋に入ると早速歩のデカイ喘ぎ声が漏れ聞こえて来る。流華は引き戸を閉めキッチンで双子にミルクを飲ませ終えると、抱っこしたままレポートを始めた。
母と敬太の衝撃的発言からもうすぐ1年。子供は無事に生まれたが、まさかこんなにも2人が何もしないとは思いもしなかった。2人とも働いてるといえど、自分達の子供だぞ!?生まれるまで双子だと言わなかったし、赤ん坊を流華に押し付けて育児は一切しない。
歩が去年まで付き合っていた筈の恋人はどこぞの会社の社長だとかで、高校の学費もその恋人が一括で支払ってくれたりとなにかとお世話になっていた。豪快な人だけど情に厚く俺の事は実の息子の様に面倒を見てくれた。いつか母と結婚するのだと思っていた。大学も金の事は気にせず受験しろと言われ、その言葉を有り難くも鵜呑みにして受験を終えて帰って来てみたら、いつの間にか別れていた上に幼馴染と避妊せずにやる事やってた母親。
あっけらかんと勘当されたと言う敬太に頭が真っ白になって俺は思わず駆け出した。母親が幼馴染とデキたショックとかじゃ無い。いや、ショックだけども!それよりも小さい頃から世話になったおじさんとおばさんをこんな形で裏切ったと言う事実にいても経っても居られなくて、敬太の家の前に着いても来たは良いが何て言えば良いのか分からなくて立ち尽くしていた。何時間そうしていたのか分からないが、いつの間にか日が暮れていて仕事から帰って来たおじさんに声を掛けられた。
記憶の中のおじさんより少し痩せていて、俺の顔を見ると堅い表情を崩さぬまま無言で家に入れてくれた。おばさんがおじさんを出迎えにリビングから出て来て、俺の顔を見た途端におじさんと同じ反応をした。拳を握り締めて、頭を下げた。
「俺の……母が……大変な事を、して、しまって……」
言いながら声が震え出して、まるで走馬灯の様に子供の頃を思い出す。高校を中退した母が1人で俺を産み育てられたのは田山家のお陰と言っても過言では無い。今も住み続けるアパートの近くにある田山家の次男の敬太と俺は同い年だったから保育園から中学校までずっと一緒で、家事もろくにしない母は半分育児放棄状態で俺の面倒を見てくれたのは敬太の母親だった。家族旅行に俺も連れて行ってくれたり色んな場所へ連れ出してくれた。それなのに、なんと言う仕打ちなんだろうか。
「……顔を上げて、流華くん」
おじさんよりもやつれたおばさんの顔を見るのは何よりも辛くて、その後どうやって家を出て帰ったのか記憶に無かった。
「よーし、よし、良く寝ろよ〜」
キッチンに居るしかないので双子を抱っこしたまま椅子に座ってうたた寝をするとすぐに朝が来て、双子を保育園に預けて大学へ行く。1年こんな生活を続けたが、若いとは言え辛い。ただでさえ大変な赤ん坊の世話が2人分。1人の熱が下がれば1人の熱が上がり、1人が寝れば1人が起きる。双子なのにあんまりシンクロしない。この1年間の睡眠時間は細切れで、大学の単位もギリギリで、あと3年もこんな生活が続くのかと思うともう、心が折れそうだった。
大学の帰りに保育園へ双子を迎えに行き、寝不足でふらふらな頭で買い物をし帰宅すると家事の合間に勉強をして、双子の世話をして母と敬太のセックスをBGMに寝るしかない。布団で寝なくなってどれくらい経ったかな。布団が恋しい。今家にある布団で寝る気なんて更々起きないけど。
何度も家を出て1人で生活する事を考えたが、そうしたらこの双子はきっと生きていけない。
あんな母と敬太の子であったとしても、俺の弟と妹なんだ。可愛いに決まってる。俺が守らなければならない。あれから気まずくて顔を合わせていないが、いつかおじさんとおばさんに双子を会わせてあげたい。
「え」
「一等熱海旅行大当たり〜!!」
カランカランとベルの鳴る音が響いて旅行券が手渡された。
商店街の抽選会でティッシュ以外が当たったのは初めてな流華はぽかんとしたままチケットを眺め、じわじわと当選の事実を実感する。
そうだ、これおじさんとおばさんにプレゼントしよう!2人は旅行が好きだからきっと喜んでくれる!そう思っていたのに俺はつい、うっかりしていた。
【どうせあんた大学でしょ?もうすぐ期限切れるみたいだし私と敬太でラブラブ熱海旅行してくるわ♡】
レシートの裏に書かれた走り書きを見た流華は双子を抱いたままその場に座り込んだ。
こんなところに置いても気付かないだろうと食器棚の脇に置いておいた旅行券は無くなっていた。期限が近いからすぐにおじさんとおばさんに渡そうと思ったのに。どうして。なんで勝手に持って行っちゃうの。母はこんなにも非常識な人間だったっけ?若い敬太と付き合ってるから感覚が麻痺しちゃってるの?怒りを通り越して、涙が溢れて止まらなかった。俺の涙に反応して双子も泣きじゃくり出すけど、もうあやす気力も無かった。
「流華?居ないのか?」
トントン、とドアをノックする音と懐かしい声がした。
赤ん坊を2人抱えて重い身体を何とか動かして勢い良くドアノブを回した。
「……和、にぃ…?」
「流華……お前…」
ドアを開けると敬太の9歳上の兄であり中学3年の時に勤めている会社の海外支部に異動になって以来の和紗が目を見開いて流華を見ていた。
「……あだ、み……おじさ、おばさ……っ、ぅう…っ」
「えっ?あだみ?ごめん流華もう一回…ああ、皆で泣いて…敬太の奴は居ないのか?」
和紗が俺の腕から弟を抱き寄せるとぽんぽんと背中を叩いてあやしながら部屋の中を見渡して、落ちていたレシートを拾った。
「…熱海、か…」
「っ…商店街の、抽選…一等、当てて…俺、おじさんと、おばさんに…会わす、顔…っ、無い……から、せめて、旅行…って…」
「子供の事は流華のせいじゃ無いだろ?…俺もついさっき帰国して…今の今まで知らなかった…力になってやれなくてごめんな、流華」
「ううん……和にぃ、久し振り…」
ずびずびと鼻水を啜りながら久し振りに再開した和紗を見ると、俺の顔を見て吹き出して側にあったティッシュボックスを取るとティッシュを引き抜いて俺の鼻に押し当てて妹も抱っこした。
「流華、まずは鼻を擤んで?」
そう言って笑う和にぃは最後に見た時よりも凄く大人っぽくなってたけど、笑うと昔の時のままの優しい和にぃの顔だった。
「流華くん、その子達…」
「おばさん……」
涙が止まり鼻水も擤んで双子達は和にぃの腕の中ですやすやと眠ってる。俺は和にぃに連れられて手嶋家に来ていた。夕方前で家にはおばさんしか居なかった。玄関に大きなスーツケースがあったから和にぃは帰宅しておばさんから話を聞いてすぐに来てくれたらしい。やっぱり和にぃは相変わらず優しいんだな…とじんとなる。
応接間に通されて布団を敷いて貰って双子を寝かせる間に和にぃがおばさんに熱海の件を説明していて、ふと思い出してまた少し目頭が熱くなったがなんとか耐えた。
「流華くんこの紅茶好きだったでしょ?」
「……覚えててくれたんですね」
テーブルに湯気の立つ紅茶とお菓子の入った籠を置いた。昔から変わらない光景に喉の奥が震える。
「当たり前じゃ無い、私は貴方の母親みたいなものだと思ってるわよ?」
「っ……」
「母さん、流華泣き止んだばっかりなのにまた泣かさないでよ」
「ええ〜私のせい?」
前回来た時の様な堅苦しい雰囲気は無く、おばさんは俺の隣に来て双子の顔を覗き込む。
「生まれた子に罪は無いもの。流華くんだって何も知らなかったんでしょう?」
「はい…でも、俺が寮なんて入らなければ…」
「ううん、和紗を生んでから大分経ってから産んだ子だったから甘やかし過ぎたのよ…和紗からも甘過ぎるって何度も言われてたのにね…」
「はいはい。たらればはもうやめような」
和紗はパンパンと双子が起きない様に小さく手を叩くと流華をテーブルに招いて紅茶を渡した。一口飲むと昔から好きだった味に、やっぱりまた泣きそうになって笑ってしまう。
「もう流華くんと双子ちゃんはうちの子になりなさいよ」
「へ?」
「ああ、その件なんだけどゆっくり話そうと思って」
「え?」
「あんたさっきからずっと携帯弄ってるけど何してるのよ」
確かに和にぃはおばさんと話しながらもずっと携帯片手に操作を続けていたが、顔を上げると携帯の画面を俺とおばさんに見せて来た。
「今からここ行こうぜ」
和にぃはにっと昔のままの子供っぽい満面の笑みを見せた。
「はー…お腹いっぱい……」
「流華、風呂の前にちょっと外散歩しないか?」
「…うん」
テーブルの上に並べられた数々の皿に乗った料理をなんとか食べ終えて一息付いていたら隣に座っていた和にぃが立ち上がり、双子をおじさんとおばさんに任せると部屋を出た。
携帯を弄っていたのは旅館を探していたらしく、和にぃは旅館と新幹線のチケットを取ると慌しく荷造りをして車を出すと仕事帰りのおじさんを拾って駅に向かい新幹線で温泉までやって来た。和にぃの取った旅館は商店街の抽選で当たった旅館の何倍もグレードの高そうな高級感溢れる宿で、晩ご飯に間に合ったので敬太が居ないと言う珍しいメンバーと双子での夕食は思いの外賑やかだった。それと言うのも5年ぶりに帰って来た和紗の土産話ややっと顔を見せられた双子におじさんとおばさんはすっかりお爺ちゃんとお婆ちゃんの顔になっていて、本当に良かったと美味しくご飯を頂く事が出来た。
「流華、暗いから手を繋ごう」
「へっ、え、うん」
自然と手が繋がれ、旅館を出て散歩道を歩く。
シーズンオフの温泉街は人もまばらなので夜にもなれば男同士手を繋いで歩いても誰も気付かない。人気の無いベンチを見付けて2人で座る。こんなにゆったりとした気分になるのは久し振りだった。
「ありがとう、和にぃ」
「喜んでくれて嬉しいよ」
「うん。感謝してもしきれないよ」
「またすぐにでも旅行しようか」
「おじさんとおばさん連れてってあげてよ」
「俺は流華を連れ回したいんだけど?」
昔から本当に優しい和にぃに自然と頬が緩む。
俺には少し前から考えていた事があった。未練を立ちきれないまま宙ぶらりんだったけど、今日の出来事で吹っ切れた。
「和にぃ、俺帰ったら頑張るよ」
「まだ大学生だもんな。俺も手伝える範囲で子育て手伝うよ」
「…ありがとう、でも大丈夫。大学辞めて双子連れてあの家は出るよ」
「…出てどうするんだ?」
「狭くても部屋探して、子育てに専念する。今のままじゃあいつら可哀想だから。大学辞めればその分ゆとり出来るだろうし」
何度も考えては自己犠牲に踏み切れなくて双子を優先出来なかった。今回の件はそんな自分の甘さが招いたんだと思う事にした。
あのままあの家で5人で暮らしてたらきっと双子は幸せになれない。
「…あいつ、昔から内弁慶でいつも俺のものばっかり欲しがってたんだよ」
「敬太のこと…?」
ぽつりと呟いた和にぃは真っ直ぐ前を向いたまま苦笑しながら頷いた。
「買って貰ったばっかりのスニーカー、バッグ、時計、漫画…何でも欲しがるから俺1時間あいつの事本気で嫌いだったんだ」
「えっ……そんなに…?でもそんな風には…」
「見えなかったでしょ?あいつ馬鹿だけど外面良いからさ〜流華には良いカッコしぃだったんだよ」
「ぇえ…?」
俺の中の敬太は和にぃの言う通り馬鹿だけど素直で元気な奴だったが、そうでは無かった事を初めて知った。子供の頃から一緒だったのに。
「今までは諦めてあいつに譲って来たけど、もうやめる」
「え?」
和にぃが俺の方を向いて、真剣な目で見ていた。
「昔から敬太よりもお前の事が可愛かった。敬太じゃなくて流華が弟だったら良かったのに、って何度も考えた。流華が弟だったら何でもあげて何でもしてあげて、可愛がるのにって思って、気付いちまったんだよな…」
「…かず、にぃ…?」
真剣な表情が少しだけ苦笑に変わり、俺の心拍数はどんどん上昇する。
「流華、好きだ」
「っ…!」
「…お前が敬太の事を想ってる事も気付いてた」
「ぁ…」
「流華は気付いて無かっただろうけど、俺が流華に近付くとあいつ、凄い目で睨んできてたんだぜ?」
「…え?」
「あいつ本人は友達を取られたく無い嫉妬だと思ってるんだろうけど…そんなお前達を側で見ていられなくて海外赴任の話を引き受けたんだ」
「そ…だったんだ…」
苦笑を零す和紗に今の流華はそう答えるだけで精一杯の状態だ。
「それなのにまさか全寮制の男子寮なんかに入ったって聞いて……寿命が縮んだかと思った」
「っ…寿命、って」
「ああ言う所にはそう言う目的で入るって奴も居るらしいって聞いたから、すぐにでも帰国したくて堪らなかった…」
「…確かにそう言うのを目的に入学した奴、何人か居たよ?でも、俺はそう言うのは無理だった」
「……そうか」
ほぅ、と小さく息を吐く和紗の横顔をチラチラと見ると目が合ってしまい、思わず逸らすと小さく笑う気配がした。
「…ごめんな、こんな告白されても迷惑だって分かってたけど、これからの事を考えると今言っておかないと永遠に言えそうに無かったから」
「迷惑なんかじゃ無いよ!……これから?」
「さっき、母さんが「うちの子になりな」って言ってただろ?」
「あー、うん、言ってたね」
「あれ、多分結構本気」
「え」
「それで、俺は別の意味で流華を田山家に迎えたい」
「っ……そ、れ……」
「今の法律じゃ兄弟って事になっちまうけど、田山流華に、俺のパートナーとして一緒に蓮と日向を育てていきたい」
「……か、ず……」
「辛い事も楽しい事も流華と一緒に受け止めたい……駄目か?」
そう言って俺の手を握った和にぃの手は、大きくなったけど笑顔と変わらず昔から温かかった。
確かにずっと敬太が好きだった。だけど、その気持ちを伝える気は無くて、でも敬太が女の子と付き合うのを隣で見ていられる自信が無くて寮に逃げた。けど、ずっと想ってた。自分の母親と関係を持っていると知るまでは。
「駄目じゃ、ない…よ?」
「っ…流華!」
がばりと勢い良く抱き締められて、敬太よりも逞しい腕の中で初めて感じる熱い気持ちに心が震える。
「ずっと、好きだった。愛してる」
「……あんなに小さかった蓮と日向が……ぐすっ」
「お義父さんはいティッシュ」
「お父さん煩いわよ」
「あ、日向次だよ」
「ちょ、泣いたら声入っちゃうじゃん」
「お義母さんの声も入ってるよ」
中学校の講堂奥でビデオとカメラを構えて蓮と日向の卒業式を撮影するお義父さんと和紗。
あれから、本当にあっという間だった。
旅行から帰って直ぐに手嶋家に母と敬太を呼び出し、話し合いの末に俺と双子の蓮と日向は田山家に養子に入る事になった。その時に俺と和紗が付き合う事になった事を話したら敬太は最後まで認めずに感情剥き出しのまま怒鳴り散らしたが、和紗は務めて冷静に俺と別れるつもりは一切無いと宣言をした。
お義父さんとお義母さんの助けもあって大学を辞めずに済んだ俺はちゃんと卒業出来てからは在宅で仕事をしながら子育てにも参加した。
一軒家だった田山家を和紗が全面指揮を取りリフォームして俺達の寝室が防音になってからは夜のお誘いが増えたりなんかして、何年経っても仲良く過ごしている。
双子の蓮と日向も擦れる事なく健やかに優しく元気に成長して、高校生となる。
一応血縁的には兄なのだが、俺の事を母と呼び和紗の事を父と呼んでいるので、外でお母さんと呼ばれると未だに好奇の目で見られるが、そんな事気になら無いくらいに幸せだ。
「…大人になったな、あいつらも」
「俺達も歳を取る訳だよねぇ」
卒業式も終わり、お祝いの食事をしにレストランへ向かう道すがら和紗と手を繋ぎ歩く。
初めは世間体を気にして外では恋人として接する事が出来なかったが、和紗の想いに絆されて今では手を繋いでいないと手持ち無沙汰になる程度には和紗の体温が無いと寂しい。
「流華は幾つになっても可愛いよ」
「和紗は年取って渋味増したよね、会社でモテるだろ」
「まぁな。でも俺には流華しか見えてないから」
「相変わらずキザだなぁ…」
笑いながら、手の繋ぎ方が指を絡める恋人繋ぎに変わる。
風の噂で、あれから母と敬太は数ヶ月で別れたと聞いた。住んでいたアパートは既に取り壊されてマンションが建っていて、2人が今何処で何をしているか分からない。
いつか、もしも敬太が家に帰って来たら和紗とお義父さん、お義母さん、そして蓮と日向で笑って迎えてやろうかな、なんて思ってる。
その時は俺と和紗のラブラブっぷりを嫌と言う程見せ付けてやるんだからな。うん、それが良い。