未定
とりあえず書いてみました
大陸全土を巻き込み、世界初の世界大戦と呼ばれるに至った
後の世に厄災として語り継がれる程の総力戦・・・龍哭戦争・・・
そして、その戦争を知る者全ては、決まって ある一人の男の名を必ず最初に口にする・・・
戦争は群像劇であり、主人公たる存在はいないものである
しかし、その戦争の凶悪な台風の目には、一人の男がいた・・・
その男は英雄と呼ぶには、あまりにも峻烈を極め 血に塗れ過ぎていた・・・
龍聖皇歴1022年・・・
と大層な事を言っても所詮は、盗賊の親分が何代にもかけて力を溜めて
謀略と策略で血みどろな覇権争いを制して
隠し味程度に、権威やら宗教やらの理由付けがなされてから1022年・・・
それは起こった・・・
この四方を海に囲まれる大陸ユラシアでは、300種を超える種族と大小9つの宗教によって長きにわたる衝突が繰り返され
その結果27の派閥が統廃合を繰り返しながら生まれ、各々が代表者を決めて生存圏を確立した。
そこにいたるまでの経緯は、血で大河が作られたと語り継がれるのも 大げさではない程の血が流れた結果の必然と妥協であった。
長きに渡る戦争では、生存圏の領有争いをする王侯諸侯、信仰領域を争う神々の信徒、生きる為に快楽に溺れた略奪を繰り返す傭兵による人災に
気候変動による飢饉と流行病が重なり大陸の人口の三分の二が死滅したとされ
ここ100年に至っては、それぞれの派閥による生存圏の奪い合いは苛烈さは形を潜め、一応の落ち着きを見せている。
この龍聖皇歴という御大層な歴は
大陸ユラシアの40%を生存権に有する最大派閥
レーマ龍聖帝国の初代最高指導者 レーマ龍聖皇帝 オルティスト1世の建国した生存圏である
レーマ龍聖帝国は最高神ラハウェを主神とした多神教であるゼクスト教を国教とする軍事国家であり、建国以来1000年余りで
他の派閥の生存権を侵略し制覇した列強である。
この帝国という生存圏の最大の特色は「人間」という種族を頂点に考えられた国であり、他種族を奴隷や家畜とみなし
選民主義により団結を図っている点である。
一部例外があり、建国戦争時に同盟を結んで共闘していたケンタウロス種、ダークエルフ種、蟲人種、オーク種の4大種族は朋友として同位の権限を持っているが
それ以外は、エルフ種を筆頭に、かつて自分達を貶め利用し使い潰していた劣害種として扱っている。
これには長きに渡る人間種と他の種族の因縁に起因し
元々は大陸において、脆弱な身体能力の「人間」という種族は、全種族の中で下層に位置しており
奴隷や家畜として上位種によって使役されていた。
しかし、信仰宿主として人間種に適正を見出した、ゼクスト教の最高神ラハウェ 後のオルティスト1世である 英雄を異世界より召喚して
奴隷とされていた人間達を解放し、団結させて、ついには支配層の上位種を打ち倒して下剋上を成し遂げ
ついには、大陸最大範囲を誇る生存圏を有する覇権国家となった。
私はこのレーマ龍聖帝国のしがない地方文官のレシリア・エステルハーズィ
他人から、良く言われれば騎士道精神を持った 軍隊気質の才女
悪く言われれば、愛想の無い無骨眼鏡女である。
しかし、私自身は周囲が思っているようなルールに神経質な組織人ではなく
むしろ束縛を嫌い自由を愛し、どうすれば努力を省く事ができるか?ばかりを考えている
効率性重視の怠け者だ。
母譲りのヒステリックなキツイ眼差しや、無愛想な淡々とした性格がそれを誘発させているらしいが
あくまで私は
合理的な怠惰
自制した自堕落をこよなく愛する一帝国臣民だ。
私は由緒ある中堅地方領主である父と、権力争いに負けて都落ちした元エリート官僚の一族の出の母の間の次女に産まれ
気性の激しい母のヒステリックな虐待スパルタ教育の末
兄と姉と同じ大学を卒業し、行政官の試験を受けて合格し、ワーヘンの県庁で行政官試補として勤務するようになった。
このワーヘンというのはレーマ龍聖帝国内では温泉&保養地として有名で
旅行客の活気に満ち、そこそこ都会的で、ベタベタしない ほどよい人間関係の距離を作る事ができ
故郷の田舎のような、べったりとした人間関係と閉塞感より
自分にあっていた。
気が優しいが、言わなければいけない時に自分を殺す父
何時か一族の栄光を取り戻すと意気込んで、周囲に完璧を求める母
荒事が起きれば過ぎ去るまで、貝のように耐え、暖簾のようにのらりくらり躱す事に天才的に長けた兄
逃げ足が速い上に要領が良く、気付いたら何時も盾にされて、後ろにいない姉
そんな家族との徹底的な価値観の合わなさによるイラつきからの解放
のびのびとした独り暮らし
あの10代から運命の恋人のように付きまとってきたストレス性胃痛は魔法のようになりを潜め
私の「今」は人生21年で一番今が充実していた。
キッチリと定時まで仕事をこなし、帰りに温泉街探索し、各地から流れてきた屋台の料理に舌つづみし、軽く公衆カジノで軽いギャンブルも嗜しみつつ、就寝まで大量に買い込んだ書物を読み漁る
勉学と武術の鍛錬だけだった、灰色の牢獄のような青春時代を思い返せば天国のような日々であった・・・
だが、そんな、やっと掴めた何気ない幸せな日々も長くは続くなかった。
ある日、職場で何時ものように業務に取り組んでいると
直属の上司が私宛に手紙を手渡してきた
何時もなら思いついたら即行動 人が仕事していようがお構い無しに仕事を押し付けてくるタイプの人間でが、そんな人間が回りくどい手紙を何の説明も無しに寄越すのは
嫌な予感がビンビンと頭に過った
手紙を見れば、きちっとした封筒で封書されており
朱肉にはワーヘン県知事の印が差し出し人として刻印されていた。
上司は引きつった顔で「何やらかしたお前?」と私に小声で呟いた・・・
嫌な予感は確実な災厄を伝えるであろう警鐘にランクが上がった。
それから数刻後
ワーヘン県知事付の書官の懇切丁寧な案内を ペーペー平の行政官の私は受け
シャンデリアから装飾が明らかに他所とグレードが違う豪華な応接室に辿りついた。
「ナースマルク様 レシリア様がお見えになりました。」
愛人も兼ねてるんだろうか?というような
鈴を鳴らしたような綺麗な声のブロンズヘアの飛び切り美人メイドに対しての
下世話な感想で現実逃避していると
部屋の主である
ワーヘン県知事:グイド・ヘンケル・フォン・ドナースマルクが机の上でにこやかに座っていた。
年の頃は50代の品の良い紳士であるが、その両手には温和な彼の表情に不釣りな合い拳ダコが生々しく自己主張していた
何でも若い頃の戦争で、拳が壊れるまでエルフ達を殴殺した時に出来た勲章らしい
どういう使い方をすればあんな異常な膨れ方になるのか謎である・・・
と、そんな事をふと考えていると
その隣に もう一人人物がいる事に気付いた
馴染みの深い顔があった
自分と同じで洒落っ気がなく、貴婦人が着る運動効率ガン無視のスカートやドレスを鼻で笑い
動きやすいズボンや軍服のような衣服を普段着にする背筋のシャンとした50女
「久しぶりね レシリア 相変わらず辛気臭い顔ね」
帝国広しといえど、そんな常在戦場の志を持っている貴婦人なぞ我が母くらいである
私はたまらなく体の力が抜けてしまった・・・
もう半世紀以上生きた母は、全く衰えない見る物を見透かすような強い瞳で私を一瞥する
まるで、ここでの怠惰な日々を見透かして糾弾しているような不快感を味わう
「母上・・・どうして こんな所に それにナースマルク様に失礼ではないですか」
「グイドでけっこうだよ レシリア嬢 それに君のご母堂のお父上 つまりお爺様でられるアナジウス・ルートヴィヒ・メンケン公には昔大変世話になった 彼女とはその時からの古い友人なのだよ」
初耳である
だが、冷静に考えれば成績が中の上程度の自分がこんな候待遇の職場に潜り込めたのは
今考えると この方の計らいがあったのだと 妙に納得してしまった。
世の中所詮はコネか・・・
それにしても、祖父の話が出ても母が何時もの悪い病気で語り出さないのは意外だ。
我が母の父 つまり祖父にあたるアナジウスは、誇りある帝国騎士の身でありながら反旗を翻そうとした疑いをかけられて仕物された逆賊である。
父方の一族の宗家であるギルベルト・バイルシュミット公の計らいで、当時まだ子供だった母は罷免されエステルハーズィ家に嫁ぐ事になったのだが
母は未だに、祖父アナジウスの仕物は、当時帝国内で派閥争いそしていた帝国騎士アルブレヒト・テオドール・エミール・フォン・ローンの姦計によるものだと言い張り
幼い頃から兄と姉と私に一族の栄光を取り戻し、憎きアルブレヒトに復讐を果たす為の洗脳に近い、英才教育を強要してきた
母自身からすれば、父、名誉、財産、尊厳を全てを失い、一時期は貴族の令嬢から落ちぶれて乞食同然の流浪生活を送る羽目になり
祖母は、幼かった母を守る為にパトロン相手に娼婦まがいの事まで強要させられていたようで、深い憎しみを持つ気持ちも十分に理解できる・・・
しかし
元より、現帝国における軍事における最高位の元帥位まで上り詰めているアルブレヒトを、地方貴族の私達がいくら力を合わせようが叩き落とす事なぞ夢のまた夢なのである
しかも、その仕物の背後には、現皇帝レイル6世の長男ボルゼス殿下の進言があったという噂もあり
私達兄弟の手には大いに余る あまりにも深い闇なのだ・・・
確かに忘れてはならない事だとは思うが、もう40年以上前の出来事である
策謀渦巻く伏魔殿の帝都では、そうやって皇族、貴族同士が蠱毒のように見えない争いを繰り広げているのは日常茶飯事で、祖父はその大勢いる敗者の1人であっただけなのだ。
これ以上余計な事をしない方が身のためと思う気持ちで私自身は辟易としている。
そんな過去を持つ母が、敬愛する祖父の名を聞いても取り乱さない姿を見たのは生まれて初めてである。
「それで ナース・・・グイド様 お話というのは?」
もう、どうにでもなれと 私は単刀直入にこの異常事態の元凶を問いただした。
「喜びなさい レシリア これは大変名誉な事よ」
母の、滅多に見せない笑顔は、獲物を絡め取った毒蛇のように不気味であり
「君という優秀な人材を失う事は我が県において大変な損失であるが しかし、これも祖国の為である」
グイド県知事も負けず劣らず手の中の小動物をいたぶるサディスティックな肉食獣のような笑みで追随した。
「転勤届けだ 来月から君を「英雄」付の補佐官として 本国行きとする」
「へっ?」
「ついに我が祖父アナジウス・ルートヴィヒ・メンケンの雪辱を晴らす時が来たわレシリア 存分に活躍なさい 」
「喜びたまえ 皇帝陛下直下配属だぞ 10年後には君に顎で使われるようになるやもしれんなっ」
ハッハッハ
母と上司の笑い声が応接室に木霊した
私は自分が置かれた状況が理解できずに
ただ唖然とグイド県知事から転属届けを受け取り立ち尽くした
そして、ふと腹の奥底から懐かしい痛みが蘇った事に気付いた・・・
完治したと思われていた持病の胃痛が再びシクシクと私に非情に再発を告げていた。
とりあえず書いてみました