表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第五話。脈動の正体。そしてわたしの新生活。

「だって。その脈動は。ときめいている、ってことなんですから」

「とき……めき?」

「そうです。異性に対して性的に興味を持つこと。そう言うこともできますね」

「性的に……興味を、持つ?」

 うっすら、顔が熱い。お母さま、不思議そうにこっち見てる。

 

 なんでこんな反応してるのか、わたしにもわかんないんだから、そんな顔されても困るんだけどなぁ。

 

 

「人間の男はサキュバスにとってただの糧でしかありません」

 なんか、説明し始めちゃった。

「あなた以外の娘たちが、そしてわたしがそうであるように」

 一つ、頷くわたし。

 

「でも、あなたは違う。共に生きる一つの命として、人間を見ている。だからこそ、身近であるから異種族の異性。それも、わたしたちから見ればただの糧に、ときめきを覚えたのですよ。まるで人間の女性のように」

 嬉しそうに語るお母さまに、よく……わかりません、そう答えることしかできない。

 

 これまで自分を律して生きて来たわたしには。自分の意志が及ばない感覚が、自分の中にあるなんてことが理解できないし、信じられないから。

 

「それに。サキュバスのわたしが、人間みたいになんて」

 そんなこと、あるわけがない。流石にそれは、お母さまのこんな、嬉しそうな顔を見てしまっちゃ言うことができなかった。

 

 

「今言ったことは推測に過ぎませんが、そういうことだと思います」

「お母さまでも、わからないんですか?」

「ええ、なにせこんなことは過去にありませんから。わたしもえり好みするタイプではありますけれど、ときめくところまで人間に肩入れしたことはありませんからね」

 フフフ、と微笑するお母さま。

 

「そう……ですか」

 たしかに。過去わたしみたいなサキュバスはいなかっただろうから、お母さまでもわからないのは無理もない、か。

 

「ネクロパ。そのときめき、あなたにどんな影響を及ぼすのか。知りたくありませんか?」

「お母さま、突然なにを?」

 相当間の抜けた顔をしたんだろう。クスクスと楽し気に笑ったお母さまは、目で後ろのイッセーさんを示す。

 

 

「アルファードと生活を共にしてみるのですよ」

 

 

「えっ?」

 驚きすぎて軽く飛びのいてしまった。

「当然でしょう。だって、あなたにときめきを齎したのはそのアルファードなのですから」

「だからって、あまりにも突拍子がなさすぎますお母さまっ!?」

 

「ぼくはかまわないですよ。まあ、うちの異形少女どうきょにんたちが黙ってなさそうだけど」

 すぐ右の位置になったイッセーさんを横目で見たら、黙ってなさそうだって言うわりに、その表情は含み笑いだ。

 

「はぁ。もぉ、この人たちは……」

 お母さままで、わたしのリアクション無視するんだから。

 でも、少し。考えた。お母さまの言ったこと。

 

「……そう。ですね」

 ゆっくりとかみしめるように。自分に言い聞かせるように頷いた。

 

「あら、すなおですね。アルファードのこと、あまり好きではなさそうなのに」

 なんで楽しそうな顔してるのかしらね、お母さまは……?

 

「ネクロパ」

 一息開けて、わたしの名前を呼んで、そこで言葉を切ったお母さま。声色はとても柔らかい。

 

「いってらっしゃい」

 続きを待って、一秒後か二秒後か。僅かな静寂の後のお母さまは、少女のような笑顔で。

 なんでこんなに嬉しそうなんだろう。そう心中で首をかしげるわたしには、

 

 この無邪気さは……

 ちょっと。まぶしすぎるな。

 

 

「いってきます、お母さま」

 それでも。わたしもニコリと。せいいっぱいの笑みを返した。

 

「うん。一件落着、だな」

 なんとも満足そうにイッセーさんは言った。

「マザージュさん、報酬は日を改めさせてもらいます。なのでこいつはもうちょっと借りますよ」

 そう言って、転移そらわたりの宝珠を取り出すイッセーさん。

 

「わかりました。せっかくですしネクロパ。首にかけてはどうですか? オシャレにしては少し大きすぎる宝玉ですが」

「え?」

 驚くわたしに、二人の頷きが断ることを許さない。

 

 有無を言わせず、わたしの首に転移そらわたりの宝珠をかけ始めたイッセーさん。

 かけてもらってるのはいいんだけど、ちょっとくすぐったくって軽く身をよじってしまった。

 

「お、おいおいやめてくれよ。そんな動きされたら、体が出ちゃうだろ」

 初めてイッセーさんが、考えなくてもわかるくらい動揺した。

 

 ーーでも、その言い方は、いや。

 

「手じゃなくて、体なんですか?」

 睨んでやると、

「あんた、自分が美人ってこと 少しは意識しろよな」

 動揺した調子のままで、左手で頭を掻いている。

 

「よしっと」

 位置を整えて、軽くわたしの首をパシっと叩きながらイッセーさん。

「はぁ。やっぱり、あなた 女性に好かれないですよ」

 呆れかえって言ったら、「ときめいておきながら、よく言うよ」って愚痴るように返して来た。

 

「なら、その態度を改めたらどうですか」

 疲労感を隠さず言ったら、

「わかった、わかりましたよ。降参。やれやれ」

 がっくりと肩を落とした。が、態度を変えるつもりはなさそうだ。

 

「フフフ。あなたたち。本当に種族が違うのか、疑わしいですよ」

 お母さまが、本当に楽しそうにわたしたちのやりとりを見て笑っている。

「いやー、こんな美人と同じ種族と思われるとは嬉しいなぁ」

 やっぱり。この軽薄さ。好きになれない。ときめいた自分が不可解だ。

 

「わたしは願い下げです」

 ビシッと言い切るわたし。また、わたしたちを見て笑うお母さまは、本当に楽しそうで。

 まったく。なにが面白いのよ、もう。

 

 

「さて。ネクロパさんの荷物をまとめに、一路おうちに行きますかね」

「わかりました。じゃ、荷物持ち、お願いしますよ、イッセーさん」

「ん、お。おう、まかせてくれたまえ」

 なんで今。答えがしどろもどろだったのかしら?

 

「それじゃ、お母さま。また、来ますね」

 自然と、自然な笑みでわたしはそう言っていた。

「ええ。いつでも」

 お母さまもまた、心からの笑み。そうだとわかる微笑みだ。

 

「よし。新生活の準備だネクロパ」

「調子に乗らないでください」

 コツンと、わたしはイッセーさんのおでこを右手の人差し指でつついた。

 

 

 

「いてて。お、おお 初めてのスキンシップだ!」

 感動してる様子の軽薄さんに、一つ。わたしは溜息を吐くのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ