†第6章† -03話-[大樹グランハイリア-調査編-]
メリーとクーは周辺警戒を担当させて、
途中からは俺も戦闘に参加した。
「合計33ですね」
『風精は核ひとつから3人だから3倍の99人ですわー!』
「風精が一大勢力になっちまいそうな数だな・・」
『ちなみに他にも仲間が囚われているようですわー!』
戦闘自体は1時間も掛かる事はなく終了した。
ニルの発言がなくとも周辺警戒は欠かしておらず、
主に影になっている部分はクーが頑張ってくれている。
「フラジリオ氏、ここは大樹のどの辺ですか?」
「上に広がる枝から見るに・・・このへんだな。
まだまだ端っこの方でこの数のモンスター・・・ヤバいな」
胸元からこの町の略式地図を取り出して枝の上に広げるフラジリオ氏。
食事の速度はよくわからないけど、
ここは雲の上だから下の町民はおろか、
この高さまで登る事のない研究員達は樹頂のハゲ事情なぞ知るよしもなかっただろう。
「お兄さん。
マリエルが葉を食べていたモンスターの食事の様子から、
少なくとも2ヶ月前には食事を始めていないとこの状況にはならないと・・・」
「2ヶ月前・・・」
空を見上げて頭の整理をする。
いま俺たちがいるこの場所は、正確には樹頂ではない。
ただ空が広がっているから着地したに過ぎない。
本来ならば葉も枝ももっと見えていないとおかしいのに、
空が青々と見えてしまっている状況。
2ヶ月前と言えば関所を超える前・・。
アスペラルダで出現した禍津核キュクロプスから半年で、
ランク3禍津核モンスターの量産にこぎ着けているのか?
なら、近いうちにランク4であったキュクロプスが大量にいる現場に遭遇するかも知れないのか?
「よし、モンスターは駆除できる様だし、
町中って事で門限を心配する必要もないから、
一周してみようか!」
「また影に入って飛んでいくんですかぁ?」
「いや、枝が細いのが気がかりだけど、
モンスターはまだ居るようだし、
駆除を考えると影はなしだ」
「かしこまりました」
「クーはメリーと一緒に動いてくれ。
流石に慣れない足場だと索敵は必須だからな」
『わかりました!』
夜になればクーの補助魔法[猫の秘薬]で10分間夜目が利くように出来る。
とりあえず、時間が許す限りは殲滅して明日の対応に備えたい。
枝は下に比べて細くなっているのは確実だが、
元が元の太さなので戦闘時にも足場としては問題ないだろう。
「私はどうするんだ?」
「そういえば戦闘は出来るんですか?」
「いや、私は生粋の研究員だ!」
「ならば、落ち着く度に引っ張り上げるので、
影に避難していてください。
その間に何か手掛かりにならないか考えておいてください」
「わかった、よろしく頼む!」
出会った頃に比べると活力を感じさせるフラジリオ氏を影に誘導し、
こちらも殲滅ツアー出発の準備を整える。
「アクアと俺が精霊纏して、
アルシェとマリエルを抱える。
モンスターを確認したらその都度枝に下ろすからよろしくな」
「「わかりました」」
「ニルは風精の回収と事情聴取を頼む」
『わかりましたわー!』
「じゃあ出発だ!」
『あい!』
* * * * *
「《アイシクルランス!》」
「《氷の撃鉄!》」
「《氷竜閃!》」
バキィィィィィィィンッ!
ほぼ同時に3体のアタランテが禍津核を砕かれて消滅するのを見送り、
この周辺のモンスターは一掃出来たので、休憩を挟む事にした。
「フラジリオ様、お手をどうぞ」
「おぉ、これはすまないな。
ってえええええええ!!なんでグランハイリアが凍り付いてんだ!」
「それはお兄さんの魔法ですから、私ではありませんよ」
「そうですね、それは隊長の魔法なので私でもありませんよ」
『あくあはてつだっただけだから、あくあじゃありませんよ~』
「いや、申し訳ない」
なんといっても俺の魔法剣は広範囲攻撃。
一閃が只の閃に変わってもその部分は変わらない為、
氷竜であれば広範囲が凍り付き、
水竜であれば広範囲の枝が切断されてしまう。
どちらかといえば、冬に花を咲かせるイカレタ樹木なので、
ならば斬られるより凍り付けの方が嬉しいだろうと判断した結果だった。
「ま、まぁ、寒さには強いからこの程度なら問題ないとは思うけど・・。
じゃあ私は枝や葉から採取をしてくる!少し待っててくれ!」
「わかりました。何か気づいた事があれば教えてください。
マリエルも勝手に動いて良いからな!」
「はぁーい、勝手にしまーす!」
この休憩で3回目。
グランハイリアは本当に大きくて、
移動先で戦闘するとおおよそ30~40体のモンスターと戦う事になった。
それも移動範囲を確認する為に眼下の町並みを見ても全く変わらないのだ。
地図で確認をしても人差し指の横幅程度しか進んでいないらしい。
この調子で進むなら、
今日一日を使っても半分も行かないし、
なにより戦闘回数を想定しても1000体近い禍津核アタランテがいる事になる。
何の為にそんな数をこの木の上に配置してんだ、魔神族ぅ~~~!!!
『お父さま、一旦昼食を挟みませんか?』
「あぁ~、そうだな時間も時間だし今のうちに食べておこうか」
『では、準備を始めますね!』
「じゃあ私がお手伝いしますね、クーちゃん」
『お願いします』
まだ包丁を扱う筋力のないクーの代わりに、
今回はアルシェが食材の調理を手伝うようだ。
『あくあもいっていい~?』
「あぁ、行っておいで」
『うん!くー、ある~、あくあもてつだう~!』
「で、そっちは何か聞けたか?」
『色々と聞けましたわー!』
料理がしたい年頃の水精を送り出してから、
ニルに聴取の成果を確認すると、
俺に説明を始めてくれる。
『まず、この風精達はグランハイリアにいた子達ですの。
その子達がまとめて禍津核に捕まったようですわー』
「まぁこれだけの自然が作る神秘的な大樹なら住み心地は良さそうだしな、
全員って事を考えれば1万近く居たのか・・・木に?すげぇ多いな・・」
『そこはどうでもいいんですのー!!
精霊が集まるのは加階する為ですわー』
加階?進化する為にって事は・・魔力が豊富?
スィーネの居た水源にも確か浮遊精霊は多く居たはずだ。
なら、彼らを護る為の精霊もいるんじゃないか?
「彼らの守護者はどこだ?いないのか?」
『その守護者も捕まってしまったようなのですわー!』
守護者ってことは少なくともスィーネレベルの精霊と言う事だ。
俺の経験則から言えば、1度の進化でおよそ浮遊精霊3体分。
アルシェとの模擬戦中に登場したアクア1人でアタランテ1体分だ。
そして、そこから進化した今のアクアはおよそ浮遊精霊5~6体分。
スィーネはさらに何度か進化を繰り返した純粋培養の精霊だから、
制御力なんかも俺に育てられたアクアよりもすごかった。
その守護者が禍津核に取り込まれた場合は・・・、
俺たち人間にどうにか出来るのか?
それこそ勇者でも厳しいモンスターを作り上げてしまう可能性が高いんじゃないか?
モンスターのランクで言えば7~10と想定でき、
生物の頂点に君臨しかねない驚異ではないかと、
俺の胸の奥が震える。
「わかった、そっちは俺が考える。
他に情報はあるか?」
『他ですと、この大樹は多くのハイリアが集まった集合樹木ですのー、
だから、人間の方々は知らないけれど、
大樹の中央には大きな穴があるんですわー!』
「穴か・・・そっちも帰る前に見ておこう。次」
『そろそろ花が咲く時期ですわ-!
花が咲く時にその穴から高濃度魔力が吹き上がるんだそうですわー!見てみたいですわねー!』
「待て待て待てっ!吹き上がる!?高濃度魔力!?」
『え、えぇ・・そうですわー・・』
それが目的かぁー・・!!
じゃあ、なんで樹頂の枝や葉を食べているのか・・・。
それは穴の位置が分からない故に掃除をさせているから。
そして、1000体もアタランテを動かしているのは、
大樹過ぎることが原因だろう。
いや、それでも葉が生い茂る部分は幹の外に広がっている。
そんな場所で俺たちは邂逅したはずだ・・・。
もしかしたら、中の精霊達が無意識に抵抗していたのかもしれない・・・。
しかし幹の穴が見えたところで、
オベリスクをどう地面に撃ち込むのか・・・?
ふと上を見上げても視界に入るのは青く広がる空だけである。
飛行艇を持っているとかは考えたくないんだけど、
雲の上を使われれば俺たちよりも俄然早い移動速度で方々に動く事が出来そうだ。
他には・・・、
そういえばポルタフォールの真上にあった亜空間は誰かの管理下にあって、
そこにアスペラルダの水を貯めたのも魔神族で、
ナイフを刺して空間を開いたのも魔神族・・・ってことは?
魔神族側にカティナのように転移出来るような能力者がいて、
空間を繋げて射出するのか?
う~ん、それが一番ありそうかな?
大樹の根元に居たときに精霊達も反応を示さなかった事から、
まだオベリスクは刺さっていないのだと思う。
それくらいしか良いところがないぞ、この町!
結構準備が進んでしまっているし高濃度魔力とは、
即ちブルーウィスプと同じ現象ということだ。
世界に還元される自然魔力の噴出地点がこの大樹の中心・・・ってことは、
アルシェが言っていたハイリアの林が成長してグランハイリアになったことが、
そもそも魔力噴出に影響されたってことか・・・!
『そうはちー?大丈夫ですの-?』
「あぁ、大丈夫だ・・・。
ニル達のおかげで色々と整理がついたよ、ありがとう」
『ふふふー、褒められるのも悪くないですわねー!♪』
全員が戻って昼食を食べるときにこの話はしておこう。
ついでにクランのメンバーにも聞かせておいた方が良い話だし、
時間を見つけて報告はしておこう。
* * * * *
「つまり?」
「魔力の過剰摂取による細胞の過剰増殖。
それによって引き起こされたハイリア達自身にも止める事が出来ない異常成長。
それがグランハイリアの真実だ」
「なるほど・・・そういうことかぁ・・」
食事もしながらの説明を行い、
そのひとつであるグランハイリアに関する事を、
その場にいる全員に話し終わったところ、
何かに納得するようにフラジリア氏は腕を組んでうんうんと頷いている。
「そういうこととは?」
「確かにハイリアの樹木は魔力を吸収して成長する木なんだけど、
それにしては成長が異常だったし、
何より魔力だけで成長する訳じゃないんだ。
ちゃんと普通の植物と同じで地面から養分も吸収し、
それを混ぜ合わせて育っていくんだ。
なのに、周辺の木々が栄養失調を起こす事もなかった・・」
「混ぜ合わせが間に合わずに種としての遺伝子が壊れたのかな?」
「遺伝子というのは分かりかねるが、
種として異常が起こってしまった・・・という仮説までは分かっていたんだ。
でも、魔力については特に異常値を示す事もなかったから、
見当が全く付かなかった。
しかし、君の話でわかった。
おそらくハイリアの幹が筒になって魔力が街に漏れる事がなかった・・・、
だからわからなかったんだ・・・」
そういうことか。
幹が煙突の役割を果たしていた為、
魔力が街に降り注ぐ頃には薄まっていた。
だから検査に引っかかる事もなかったのか・・。
まぁ、これ自体は俺たちには関係ない事だ。
俺たちの思考はさらにその先の話に進んだ。
「では、近いうちに姿を現す可能性が高いと?」
「可能性が高いどころではなく、確実に姿を現す。
だからここでどうするかを決める必要があるんだ」
「私は反対です」
「私はまだわからないので無効票で」
暗に告げた魔神族との戦闘を匂わせると、
すぐにメリーは反対を表明し、
マリエルは直接相対したことがない為どちらでもいいと。
「お兄さんはどうされたいですか?」
「モンスターは禍津核製だ。
だから本来のアタランテとは違う面があるはずなんだ。
そこが引っかかっている」
「街にすぐ被害が出なければ放置しても良いと言う事ですね?」
「そうだ。
一旦ここを離れてオベリスクが刺さってからすぐに折りにくればいい。
ここまで葉が食べられては穴を隠すことはもう出来ない」
『そうですね・・・』
『おそらみえてるもんね~』
元々はダンジョンモンスターであるらしいが、
しかし禍津核を使ったモンスターは亜種としての能力がある可能性が高い。
キュクロプスが棍棒を精製したように・・・。
念の為フラジリオ氏に姿に違いがあるのかと確認したが、
姿に違いはないと仰った。
キュクロプスはやや小型であったのにだ・・・。
情報が少なすぎて判断が付かない為、
結局様子見をするか危険を孕んで戦闘を継続するか・・・どうするかな。
「もし戦う事になったら当然俺とこの娘達で対処するが、
誰が来るかもわからないから追い返す事が出来るか、
すぐに殺されるか全く予想が付かない」
「・・・・わかりました。
では、周辺の殲滅ではなく中央へ向けて動きましょう。
穴を発見したら印だけ付けて撤収、ついでにアタランテについても調査する。
これでいかがですか?」
「俺もそれしかないと思う」
「隊長の意見を先に言って欲しいんですけどぉ」
「確かにリーダーをしているけど、お前達の意見。
特にアルシェの意見を聞きたいと思っていたからな。
意味はわかるな?」
「・・わかっています」
俺が抜けた場合のリーダーはアルシェになる。
それだけではなく、
城に戻った後に自分の意見をしっかりと考え出して伝えるという行為は、
姫としてのアルシェにもプラスに働く。
こういう命が関わる場であれば、
さらに真剣味を帯びて考えをまとめやすくなる。
「俺もまだ死にたくないしな。
じゃあ、昼からの動きは決まった!
今日中に穴まで辿り着く為に戦闘を加速させるぞ!」
「「「はい!」」」
『『はい!』』
『あい!』
午後からは穴探し、
そしてアタランテ亜種の情報調査。
そして魔神族との戦闘回避。
まぁ、最後は運次第になってるけどな。
マリエルやアクア、ニル辺りはわかってなさそうだが、
アルシェとメリー、クーはわかっているからか厳しい顔をしていた。
* * * * *
その後、約6時間を持って移動を続け、
戦闘も6度起こっていた。
戦闘時間は慣れに比例してどんどん短くなっていき、
40体を相手にしても半分の時間で殲滅出来るようになっていた。
「体調は全員大丈夫か?」
「私は問題ありません」
「私も大丈夫でぇーす」
「私も問題ございません」
「そうだな、問題ない」
ここまで高くなっていて一足飛びで連れてきてしまったので、
気になって何度も仲間に確認を取ったが、
その度にみんな異常はないと言ってきた。
高山病の知識もほとんどないから、
発症していないならいないで杞憂に終わって良かったなで終われる。
「一旦晩ご飯を挟むか・・・。
メリーとクーは悪いけど哨戒してきてくれ」
「『かしこまりました』」
「マリエル、力になれそうにないなら飯の用意するか?」
「ううう・・・そうですね・・・大して役に立ててないですし、
晩ご飯用意します・・・」
「アルシェは昼手伝っていたし、フラジリオ氏の護衛をしてもらっていいか?
アクアも」
「わかりました。マリエル頑張ってね」
『ある~、いこ~』
シンクロをして夕暮れの空へと消えていくメリー達と、
フラジリオ氏の元へ駆けていくアルシェ達を見送ってから、
影から調理道具を引っ張り出しているマリエルの元へと向かう。
「お前そんな顔で作る気か?
せっかくなら楽しく作って美味しく食べてもらおうって思わないか?
調理経験だってもう2ヶ月近いだろ?」
「そのうちの前半は戦闘訓練を理由に逃げてましたけどね・・」
「そういえばそうだったな。でもいいかげん慣れたろ?
何が嫌なんだよ」
「いやぁ、楽しいという気持ちもあるんですけどね。
姫様も無理に美味しいって言っている様子もないですし・・。
でも、染みついた劣等感というか苦手意識がねぇ」
「いつも食ってる俺たちが保証するよ。
もうマリエルの作るご飯は大丈夫だよ」
「ちょっ、頭撫でないでくださいっ!
私は姫様みたいに洗脳されませんからねっ!」
母親であるウルミナさんと一緒に昔作った料理が、
マリエル自身で考えているよりも深いトラウマになっている様子。
俺たちと一緒に作る間に何度も味見をするのも、
そういうことなんだろうな。
しかし、作り終えて食事を食べる時には、
皆味に関しても見た目に関してもマイナスな反応を示す事はない。
それだけ料理の腕前もきちんと上がって成長しているという証だろう。
それを伝える為、
言葉を掛けながら無意識に彼女の頭を撫でると、
食材を切っていた包丁を向けながら慌てるマリエル。
あぶねぇな、おい!
ちょっとアルシェや精霊たちの感覚で撫でちゃっただけじゃないか。
「洗脳ってひどいな」
「・・いいですか?隊長が考えているよりも姫様の依存度は高いんですよ?
このまま勇者が魔王を討伐して強制帰還する前にどうにかしてくださいよぉ?」
「ん、うぅん。そうなのかー・・・」
しかし、洗脳とはひどいな。
元々人見知りだったというのと、
その反動で心を開いた俺に超絶信頼を寄せてきただけだぞ。
俺だってまぁ、そのなんだ・・?
アルシェの依存は理解しているから、
少しでも離れるようにと伝えてからは添い寝の数も減ったんですよ?
「フッ・・その程度で姫様の寵愛が薄まるわけないでしょう?」
鼻で笑われたっ!!
だって全面禁止しても可哀想だし、俺だってなんか寂しいじゃんかっ!
アクア達の誰かは常に俺と寝るけど、
やっぱ小さ過ぎるしさぁ・・・。
こう、人と寝てる安心感とは違うんだよなぁ・・・。
「ちょっと、隊長。
早く調理始めて下さいよ。食材切り終えましたよ」
「あ、はい・・」
あれ?俺の立場・・・弱過ぎ?
っていうか、俺もアルシェに依存し始めてないか?
あとでステータスを見ておこう・・もし追記されていたら、
今後一切あいつらに見せられないぞ。
いつもお読みいただきありがとうございます