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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第05章 -海風薫る町マリーブパリア編-
85/424

†第5章† -12話-[リーダー抜きでダンジョン攻略]

『お父さまっ!ただいま戻りました!』

「おう、お疲れ様。みんな影の中か?」

『はい、引っ張り上げてもらえますか?』

「了解だ」


 夜の活動時間が延びようとも、

 陽が暮れれば門扉を閉じる風習は変わらないので、

 俺とニルは閉め出される前に宿に戻ってきていた。

 部屋全体とはいかずとも、

 俺とニルを覆う風の結界で宿に迷惑が掛からぬように、

 音漏れに気をつけて訓練を進めていた。


 時間にして21時前にクーが影から飛び出てきて、

 いの一番に俺の肩に被さってくる。

 影へと入るのは全員出来ることなのだが、

 自由に出る事が出来るのは俺とクーの2人だけである。

 なので、クーが先行して俺の元に現れたというわけだ。


「ありがとうございます、お兄さん」

「いやなんの、今日は身体を動かしてないからな。

 何はともあれお疲れ様」


 全員が五体満足で戻ってきたのに安堵しつつ労いの言葉を伝える。


『ますたー!』

「はいはいお疲れ。

 報告やらの前にお風呂に入っちゃおう」

「私ご飯食べたらすぐ寝ちゃえる自信あります」

「マリエルは先に風呂で寝ないように気をつけろよ。

 じゃあ、食堂で会おう」

「はい、ではまた後で」

『あくあはますたーといっしょで~す』

『クーもお父さまと一緒します』

「わかりました、また後でね」


 よくよく見ればアクアもクーも笑顔に若干力がないように思える。

 しっかりと俺の言葉を守ってみんなを一生懸命護ってくれたのだろう。


「ニルも今日は頑張っていたからな、ゆっくり浸かるとしよう」

『身体よりも色々詰め込まれて頭が疲れてますわー・・』

「風呂で歌うとすっごく楽しいぞぉー」

『・・・まぁ1度くらいは歌える余力はありますけどねー』


 すっかり歌う事に興味を持ったニルの試験運用の為にも、

 風呂で歌う楽しさを教えてやろう。

 そして、親フラの恥ずかしさを教え込んでやるのだ、フフフ。

 あ、親は俺か・・・。


 その夜、男湯は再び湯船の底から泡が大量に湧き出る事案が発生し、

 浸かった男性客はフロントに殺到して、

 あの疲れが取れる泡風呂はどんな技術を使っているのか、

 どこの宿なら再び浸かれるのかと聞かれたという。


 一方女湯では、

 隣の男湯から聞こえてくる女の子と男性が歌う声が聞こえてきて、

 多くの女性客は娘さんを連れて一緒に入ったのだろうかと微笑ましい雰囲気になっていた。


「これ男性の方はお兄さんですかね」

「ものすごくそっくりな方でなければご主人様かと」

「じゃあ、もう1人はアクアちゃんですかね?」

「どうでしょうかね・・・、

 2人で上手く噛み合った唄を歌っているところを考えると、

 舌っ足らずのアクアちゃんでも、

 侍従の修行をしていて時間のないクーちゃんでも無いと思うんです」

「それもそうですねぇ~、じゃあニルちゃんですか」


 この世界にはない輪唱という歌唱方法を初めて聞いた異世界の人々は、

 その調べを楽しみながらゆったりとリラックスして湯に浸かれた。


「まぁ、あとで聞けば分かる話です。

 いまはこの唄を楽しみましょう」

「賛成です」



 * * * * *

「え?聞こえてたの?」

「そりゃ隣なんですから、隊長達の声も聞こえますよ」


 なんと言うことでしょう。


「お兄さん、顔が赤いですね」

「・・・恥ずかしいのでは?」


 親フラどころか妹フラしているとは思わなかった。

 恥ずかしい思いをするのは俺だったというわけか・・・。


「それで、あれはお兄さんとニルちゃんだったのですか?」

「・・・・」コクン

『お風呂で歌うのは楽しいのですわー!』


 まだ魔法を乗せて歌うことは出来なくとも、

 娯楽としての役割は持つことが出来る。

 お風呂という響きやすい造りの場所で歌うのは大変気持ちが良いので、

 俺も調子に乗って声を大にして歌ってしまったのが今回の敗因だ。


「そんなに恥ずかしがらなくても・・・。

 聞いている分では下手とは思いませんでしたよ?」

「マリエル・・そういうんじゃないんだよ」


 気遣われるとなおも恥ずかしさに拍車が掛かる。

 わかるよな?しかも俺、20歳超えてるんだぜ?


「ご主人様の尊厳を護る為に、この話はここまでと致しましょうか」

「そうしましょうか。

 じゃあ、こちらの話からしておきましょうか」

「ああ・・そうしてくれると助かるよ・・」


 もうすぐにベッドに潜り込みたい気分だが、

 パーティのリーダーとして彼女達の頑張りをないがしろには出来ない。

 精霊達も頑張ってくれたようだし、

 新しい情報も聞いておいて損はない。

 気を改めて話を聞く体裁を整える。


「今日の成果としては、

 一層目と二層目のマッピングの完成と、

 おそらく三層目の半ば程までマッピングは出来ました。

 追加の敵情報としては、

 マザースライムが分裂能力を保有していた事と、

 三層から新たに出現したスレンダースケルトンという、

 ピンク色でひょろ長い身長、

 さらに長い腕で広範囲のなぎ払い攻撃してきました」

「昼過ぎから今までって事は、

 二層目からかなり広かったのか?」

「えぇ、大体二倍程度の広さでした。

 三層からはそれに加えて部屋ごとの敵の数が増えましたし、

 処理に時間が掛かってしまいました」

「それでも無事に三層でしばらく戦えたなら良かったじゃないか。

 マリエルは三層からの対応をどう感じた?」


 アルシェのわかりやすい簡潔な報告を聞いた上で、

 ダンジョン初心者且つ低レベルなマリエルに意見を求める。


「既出の情報を元に姫様が指示をくださるし、

 メリーさんとクーちゃんの索敵もあって背後を取られない動きも出来ました。

 問題としては先ほど名前が挙がった[スレンダースケルトン]ですね。

 水氷系に耐性があるし、

 防御力も攻撃力も他のモンスターに比べて高かったです」

「ふんふん」

「確かに腕のなぎ払いは広範囲でしたけど、

 動きが遅めだったので背後に回れば安全に攻撃は出来ました。

 でも攻撃力が足らなかったので、

 姫様とアクアちゃんのシンクロで魔法を使い倒せました」

「今後の課題は?」

「基礎の動きは悪くないので、

 それに加えて攻撃力を上げたいと思いました」

「わかった、訓練メニューもこっちで考えておくよ。

 ありがとう、マリエル」


 攻撃力か・・・。

 現在の底上げとしては魔法拳とクーのコーティングのみ。

 前者は水氷属性の為、今回は相性が合わなかったし、

 後者は主に防御力を上げる事に重きを置いている為、

 拳の硬度が上がるとはいえ、

 物理攻撃力向上に繋げるにはまだまだ微妙なラインだ。

 やっぱり足を使う良い戦法を考える必要があるか・・・。


「メリーから追加で何かあるか?」

「特にはございません。

 アルシェ様の報告も抜けはございませんし、

 マリエル様の言われたとおりに攻撃力不足は感じました。

 追加かどうかは微妙ですが、ペルク様のパーティには遭遇いたしませんでした」


 そうか、ゼノウ氏達には会えなかったか。

 明日いきなり攻撃力不足が解消できるわけもないから、

 出来れば合流して頂きたいところではある。

 こちらの攻撃力不足を即日解消する手はそのくらいしかないしな。


「わかった。明日は直接俺が交渉しておくから、

 ダンジョンに入る段階で一緒に潜ってもらえないか調整してみる。

 それとマリエルはレベルが上がっているだろうから、

 ギルドでステータスに振り分けておこう」

「「わかりました」」

「メリーとアクアとクーも、明日まではしっかり護ってやってくれ」

「『かしこまりました』」

『あい!』


 ダンジョン組の報告を聞き終え、

 明日の方向性も概ね決めた。

 次は俺たち居残り組の報告だな。


「先に確認なんだけど、

 この世界って唄はあまりないのか?」

「唄というのがお風呂場で聞いたようなものを指すのであれば、

 ありませんね。

 時々宿なんかで歌っている吟遊詩人か、

 神聖教国でシスターが歌っていたりする程度ですかね。

 楽器も種類は3つほどしかないはずです」

「なるほどな。

 俺が時々使ってたからわかるかと思うけど、

 空気の振動を増幅したり減幅したり出来るのは風を制御しているからだ。

 だから、こっちは唄という媒体に魔法を乗せて広範囲にバフを掛けられないかと試行錯誤していたんだ」


 まぁ、試行錯誤の前段階で、

 口の動かし方とか唄という概念を理解させたりとかして出来なかったけどね。

 風呂場で歌っていたのも、

 学校で教わる卒業式とかで歌うような有名な輪唱の曲だし。


「効果はなくても聞くだけ楽しめましたけどね」

「戦闘で使いたいと思ってるんだから、

 あんな曲を戦闘中に歌っても逆効果だろ。

 目下の目標はパーティだけでなく、

 レイド戦を視野にいれた広範囲ソニックの付与だ」

「唄に乗せる広範囲バフですか。

 面白い試みだと思います」

「まぁ、他にも楽器があれば最高だとも考えたけど、

 そういうのは戦場に持ち込めるほど余裕もないし、

 色々と考えてニルと調整をしていくさ」

「楽しみにしていますね。

 ニルちゃんも時々聞かせて下さいね」

『いいですわよー!』

「あ、私も聞きたいです」

『まかせてくださいましー!』



 * * * * *

 夜散歩出発前。

 俺は女子部屋に訪れていた。


「いらっしゃいませ」

「ようこそ女子部屋へ」

「お兄さん、こちらへ来て下さい」


 精霊3人娘を連れてアイテム選定の為に女子部屋にいざ入ってみると、

 歓迎ムードで招き入れられ、

 アルシェに至っては自分の座るベッドの隣をポンポンと叩いて、

 座る位置まで指定される始末だ。


「お前達は空いたベッドで時間を潰してなさい」

『あい!』『わかりました』『かしこまりですわー!』


 アルシェの指定席に移ると同時に精霊娘達に暇を出す。

 遊ぶでも戦術会議でもお互いを知る為の話し合いでも好きにすると良い。

 床ではマリエルとメリーが、

 今回の探索でドロップした品々を広げ始め、

 剣から盾からアクセサリーまで様々なアイテムが床の上にちりばめられた。


「半日でこれなら結構旅の資金は十分補填出来そうだな」

「レアリティとかはよくわかりませんけどねぇ」

「ランク3ダンジョンでドロップするアイテムは、

 メリーとギルドに行った際に確認してきてますから、

 ある程度は判断がつくと思います」

「よし、じゃあ見ていくか・・・」


 本来はギルドに提出して鑑定してもらえるので、

 いちいちアイテムを覚えたりする必要はないのだが、

 直帰する事は確定的に明らかだったので、

 アルシェとメリーにはおおまかに覚えてきてもらっていた。


 片手剣:果物ナイフ

 希少度:雑魚

 要求 :なし


 片手剣:アサシンダガー

 希少度:プチレア 

 要求 :STR/12 DEX/16 AGI/12

 効果:クリティカル率補正+20%


 片手剣:疾風のナイフ

 希少度:プチレア

 要求 :STR/29 DEX/35 AGI/35

 効果 :クイック+5


 片手剣:雷光剣

 希少度:レア

 要求 :STR/32 VIT/24 DEX/32

 効果 :攻撃力補正+10%


 両手剣:トリプルエッジ

 希少度:普通

 要求 :STR/30 VIT/25 DEX/31


 両手剣:ダマスクスブレイド

 希少度:普通

 要求 :STR/48 DEX/24


 両手剣:エクスキュージョン

 希少度:プチレア

 要求 :STR/40 VIT/18 DEX/20


 両手剣:ダインスレイフ

 希少度:レア

 要求 :STR/60 VIT/42 MEN/15

 効果 :HP自然回復-1/攻撃力補正+50%


 斧  :ハチェット

 希少度:普通

 要求 :STR/10


 斧  :フランキスカ

 希少度:普通

 要求 :STR/20 VIT/15


 斧  :ポールアックス

 希少度:プチレア

 要求 :STR/32 VIT/25 DEX/20


 棍棒 :バット

 希少度:普通

 要求 :STR/6 VIT/5 DEX/5

 効果 :クリティカル率補正+25%


 棍棒 :スコーピオンテイル

 希少度:普通

 要求 :STR/40 VIT/40 DEX/35

 効果 :攻撃力補正+10%/クイック-5


 棍棒 :シルバーロッド

 希少度:プチレア

 要求 :VIT/10 MEN/25 DEX/18


 と、挙げていけばキリがないので、

 有用そうなドロップ品以外は詳細を省かせてもらおうと思う。

 ホッとした?


「アルシェは[ウィザードロッド]かな?」

「ですね。プチレアですけど、

 今装備しているルーンスタッフよりは効果もいいですし」


 棍棒 :ウィザードロッド

 希少度:プチレア

 要求 :STR/12 INT/30 VIT/10 MEN/30

 効果 :魔法攻撃力補正+15%/最大MP補正+20%


「あとは槍だけど、ひと月前にスピアからグレイヴに変わったんだよな?」

「手には馴染み始めたばかりですし、

 上位の武器に変えるのもありだと思ってますよ」

「なら[バルディッシュ]か、[トライデント]かな・・・。

 バルディッシュは現時点でも装備できるけど、

 トライデントはDEXが足りてないな」

「こっちは先端が斧っぽくないですか?」

「要求ステータスさえクリアしてしまえば、

 武器に振り回される事がないとはいえ、

 今までと重量の違いがありすぎるのでは?」


 アルシェの武器選びの時間ではあるが、

 マリエルもメリーもパーティの話し合いということを理解して、

 自身の持つ意見を積極的に発言してくれる。


「確かにそれは気になっていました。

 では、2人の意見を尊重してトライデントにしましょう。

 レベルも上がってGEMが溜まっていますしね」


 これでアルシェの武器は決まった。

 次にメリーだが・・・。


「私はアサシンダガーでよろしいかと」

「疾風のナイフは良いのか?」

「ご主人様が使われるのでは?」

「う~ん、まぁ雷光剣も出たから悩みどころではあるんだけどな。

 どっちも魔法剣は使えるし、ひとまず2本ともメリーが持っててくれ」

「かしこまりました」


 続けてマリエルの装備だが、

 こちらも以前候補を挙げていたので時間も掛からずに決定した。


「ガントレットが運良く出たのは良かったけど、

 まだまだステータスが足りないな」

「そうなんですよねぇ~。

 せめて姫様くらいのレベルまで上がらないと全然足りなくて・・」

「今のところ装備出来そうなのを見繕うとして、

 この中だと[セクタス][クロスカウンター]、そんで[ネコぱんち]か」


 なんで素手装備って色物が多いんだろうか。

 いや、偶々今回のドロップ品に色物が多いだけかも知れないけど、

 セスタスはリザードモンクが装備していた武器で、

 クロスカウンターはボクシングのグローブにそっくりだ。

 そして、ネコぱんち・・・ネコの手グローブである。


「純粋に要求ステータスで判断すれば、

 クロスカウンターですかね?」

「でも、姫様!ちょっと女が装備するのはどうかと思いませんか」

「それはそう思いますけど、

 次のセスタスはVITの要求が高くないですか?」

「ぐぬぬ~」

「とはいえ、ナックルダスターで戦うのも辛かっただろ?

 セスタス以外はちょっと見た目が問題な気もするけど、

 一旦クロスカウンターかネコぱんちに変えるべきだろう」

「どちらかと言われれば・・・ネコぱんち」

「こちらもこちらで人の目を引きますけれど、

 アルシェ様の護衛としては我慢すべきですよ、マリエル様」

「ぐぬぬ~、かわいいけど・・これで戦うのかぁ・・」


 はい、決まりました。

 マリエルの装備はネコぱんちに決定です。


 素手 :ネコぱんち

 希少度:レア

 要求 :STR/20 DEX/20

 効果 :クイック+3


「今回でレベルはいくつまであがった?」

「えっと、ちょっと待って下さい。《ステータス!》」


 マリエルのレベル次第では防具も新しく出来るので、

 今のレベルを確認する。

 低レベルで適正よりも高ランクのダンジョンを攻略しているんだ。

 少なくとも入手できる経験値効率はいいと思うんだけど・・。


「今のレベルは・・・18ですね」

「島を出たときが7だったから、今日までで11上がったのか。

 もうちょっと上がっているかと思ってたな」

「それでもひと月と少しで旅を挟んでの上昇と考えれば劇的ですよ?

 私も22から上がって27まで上昇しました」

「私も同じ程度の上昇をしております。

 明日にはご主人様が一番低いレベルになるかもしれませんね」

「ステータス低下も理由ではあるけど、

 ニルの調整が乗ってきてるから、

 レベル上げよりも使い物にしておきたくなったんだよね」

「じゃあ、明日も来られないのですか?」

「あぁ、悪いけどそっちは任せる。

 ギルドへの売却は明日俺の方でしておくから、

 その時にマリエルのステータスもあげておこう」

「「わかりました」」


 その後は防具の選定に移り、

 終わった頃には散歩に丁度良い塩梅の時間帯であった。

 この夜の案内人はアクアとクーの2人で、

 1時間ほどの散歩を楽しんだ。



 * * * * *

 翌日、マリーブパリア最終日。


「お世話になりました」

「いや、こちらこそ助かったよ。

 ほら、最後なんだから店長も何か言いなさいな」

「んむぅ・・まぁ、なんだ。

 もしまたマリーブパリアに寄る機会があればサービスするから、

 顔を見せてくれ」

「わかりました、ありがとうございます」

「店長もトネリアさんもお疲れ様でした」

「慌ただしくてすまんな」

「いえ、営業も続く時間ですから仕方ないですよ。

 では、またお会いしましょう」

「あぁ、またね。アルカンシェ様、マリエル」


 最後の茶目っ気を出すフロアの長トネリア。

 まぁ相方から様付けで、

 動きにも品を感じさせるアルシェがただ者ではないと理解し、

 その上でこの言葉だ。

 笑っている店長と合わせてずいぶんと肝の据わったものである。


 守れるかもわからない口約束をまた1つ重ねて、

 アルシェとマリエルは外で待っていたメリーとアクア、クーの3人と合流を果たす。


「マリエルは午前中のうちにお兄さんとギルドに行って振り分けたんですよね?」

「はい、姫様。

 ステータスはずいぶんと変わりましたから、

 今日はもっと戦えると思いますよ!」

「レベルの上昇は合計11ですから、

 GEMは33溜まっていたことになりますね。

 それならば2つほどのステータスが20を超えられますね」

「あはは・・まぁ私の場合は選択肢はなくて、

 ネコぱんちを装備出来るように隊長に強制されましたぁ」

「それは仕方ないですね。

 私たちの為というのももちろんありますが、

 ひいてはマリエル自身の為ですからね」

「わかっているから文句も言えないんですねぇ・・」


 本日も宗八とニルは別行動で、

 昨日の倒木現場とは別のところで訓練をしている事だろう。

 昼食は食堂で奢っていただいたので、

 そのままダンジョンに向かう事にした。


 ダンジョンの入り口には昨日とは違う兵士の方が立っていた。


「こんにちわ、兵士さん」

「あぁ、お疲れ様です。

 装備も一新されたんですね」

「昨日で結構ドロップしたんですよぉ~」

「かわいらしい装備ですが、油断しないで下さいね」


 マリエルのネコぱんちを見た兵士は、

 反応に困ったような顔で注意を促してくる。


「・・気をつけます、はい」


 一層と二層のマッピングは昨日で完璧に埋めきったので、

 今日は三層まで駆け足で一気に進み、攻略を続ける事にした。


 徐々にフロア数が多くなるこのダンジョンの攻略は4層半ばが限界だと、

 宗八とアルシェ、そしてメリーは考えていた。



 * * * * *

「《エアースラッシュ!》セット:雷光剣!」


 俺の周辺近くに3つの風刃が発生し、

 不可視の刃はその場から小さくUターンしてくると、

 雷光剣の剣身へと向かっていき次々と吸い込まれていく。


 元々黄色い輝きを帯びていた剣身は、

 エアースラッシュの緑色をした魔力を取り込んだことにより、

 緑寄りの剣身へと変化した。


「アイスピックの表裏反転は、

 色の方向性が青系統だったから分かりづらかったけど、

 風と雷だと全く違いすぎて敵にバレバレかもな・・」


 いまは風を主軸に置いた緑色の魔力色をしているけれど、

 先の剣身の色からして、

 雷を主軸に切り替えた場合は黄色系統の輝きに戻ることだろう。

 まぁ、なにはともあれ。


「手に入ったばかりなんだ。

 色々と試してみないとな!《風竜・・いぃ一閃!》」


 現在の俺はステータスが低下している為に、

 この雷光剣を自由自在に振り回す事が出来ない。

 しかし、早めに試して効果を知りたかったので、

 両手持ち+遠心力を駆使して雷光剣を振るった。


 出力を抑えた緑色の一閃は目標にした大木へと一直線に駆け抜ける。

 幹に当たったと認識した次の瞬間には大きな風の爆発を発生させ、

 目標の大木を大きく軋ませる結果と繋がった。

 走り寄って大木へのダメージを確認するに、

 大きな切り傷が浅く出来ており、水竜一閃と同じ切断タイプだと判断した。


「それと最後の爆風はノックバック効果って感じか・・・」


 今狙った大木は周囲に木のないボッチ大木だったが、

 今度は森になっており、且つ横並びになっている部分を狙うことにする。


「おぉりゃあああ!《風竜一閃!》」


 俺の一閃は剣身の先から放出されて、

 飛距離により一閃の幅が徐々に大きく拡大していく。

 手前にあった木の横を次々と通り過ぎながら目標にした大木群へと迫っていき、

 HITした順に爆風を巻き起こしていく。


「うへぇー、当たれば全員に爆風発生かぁ・・。

 ちょっと使い勝手が悪いかもなぁ」


 もしもこれを当てた敵の近くにいる奴をアルシェが遠距離から狙ったとして、

 この爆風により体勢を崩されるだけでも命中率が下がるのに、

 吹っ飛ばされては逆に後衛組の邪魔にしかならない。


「これは調整が必要だな・・。ん?」


 再び大木の様子を確認する為に近づいていく途中。

 横を通り過ぎるだけで一閃が当たらなかった木々に小さな傷がついていたり、

 枝が切断されているのを発見した。


「・・・・かまいたちが発生するのか。

 これも範囲とかちゃんと確認しないと実践じゃあ使えんな」


 マリエルが巻き込まれる様子がありありとイメージ出来てしまい、

 今日はずっと風竜の調整に時間が潰れてしまいそうな予感が出来てしまった。

 魔力は剣自身が反復させて増加させてくれるのでMPの心配はないけれど、

 魔方陣を組み上げて使用する魔法と異なり、

 魔法剣は元の未調整状態ですでに実用的な攻撃力や効果を持つが、

 氷竜一閃の時から思わぬ副産物を含むことが多いので、

 都度調整する必要があった。


「ニル!俺ちょっと時間掛かりそうだわ」

『わかりましたわー!

 こちらはセリア様に色々と教わりながら勉強いたしますわー!』


 実は今日の午前中にカティナへ連絡をして、

 もう1度マリーブパリアまで来てもらった。

 その際はニルの首回りだけ確認して、

 すぐに研究所へと帰って行ったカティナは、

 ニル用の揺蕩う唄(ウィルフラタ)を早々に転送してきた。

 さっそくニルに緑のチョーカーをつけてあげ、

 ついでにセリア先生にも報告と教鞭をお願いしたのだ。


 セリア先生には風の振動値変動を教えてあげて欲しいと頼んでいるので、

 秘密の会話や声の拡散、

 それに魔法を声に乗せる方法の模索など、

 魔法全般を教えて頂くことになっており、

 本当に頭が上がらない。


 魔法関係だけは俺が教えるよりも適任と言える人物がいるので大変心強い。

 同じ風の精霊という事も相まって魔法を制御する際の感覚も似通っていれば、

 さらに口頭だけでの説明で自力を上げることが出来ると信じている。

 頑張れ、ニル!



 * * * * *

「装備とステータスの向上で全然違うんですねぇ・・」

「おい、嬢ちゃん!次の部屋に移動するぞ!」

「あ、はいはい、すぐ行きまーす」


 現在4層3部屋目。

 まるでルービックキューブのように部屋が並んでいる為、

 方向感覚の狂いやすいこのダンジョンは、

 メリーとクーの空間把握能力により順調に部屋を埋めていった。

 ダンジョン入り口の階段を降りた先にある大部屋で、

 午前中に宗八から依頼を受けた元ペルクパーティの面々が待っており、

 そのまま3層の攻略、続けて4層にも早い段階で突入することが出来た。


「前衛が2人増えるだけでヘイトが分散して戦いやすいですね」

「でも初めての組み合わせだから、

 私はマリエルちゃんの動きが読めませんけど・・」

「私だってゼノウさんとライナーさんの動きが読めていませんよっと!

 マリエル!メリー!隣の部屋から敵が移動してきてます!」

「危なかったぁ・・・ありがとうございます。アルカンシェ様」


 4層は敵も3層と変わらず、

 スレンダースケルトンのみを追加したモンスターであったが、

 行動のアルゴリズムが変わったのか、

 戦闘している隣の部屋にいるモンスターが乱入してくるようになっていた。

 アルシェ達が居る部屋は入り口が4つあるブロックなので、

 敵の増援もその分多くなっていた。

 メリーとクーは邪魔になるボーリングフラワーの殲滅をした後は、

 前衛陣のサポートとして影縫とバックスタブで支援し、

 ゼノウは別部屋から来たモンスターの時間を稼ぐ。

 マリエルとライナーは、

 各々スレンダースケルトンの相手をして逆に時間を稼がれている間に、

 アルシェ達が通ってきた部屋からリポップしたモンスターが駆け寄ってきたのだ。


 槍でリザードモンクの拳を防ぎつつ、

 仲間へ指示を出すアルシェ。


「お二人はゼノウさんの相手している敵を速攻で殲滅してください!」

「「了解!」」

「クーちゃん!マリエルとライナーさんに支援をお願いします!」

『わかりました!《シャドーバインド!》《ブラックコーティング!》』

「メリー!こちらを手伝って下さい!」

「かしこまりました」

「アクアちゃん!後続を狙い撃って下さい」

『まかせろ~!《りゅうぎょく!》シフト:さんだん!ふぉいやー!』


 3層まではお互いをカバーするだけで戦闘出来ていたが、

 4層からは司令塔を立てないと戦闘継続するのが困難であった。

 ゼノウが必死に慣れない指示を行っていたが、

 対処しきれていない部分をアルシェが補填し指示を出し始めると、

 自然と戦闘に集中するようになった。


「《アイシクルエッジ!》」

「GUAAAAA!!」

「ええええ、って私たちの足下だけ凍ってない?」

「戦闘に集中なさい、フランザ!」

「リザードモンク、クリア!マリエル、倒せませんか!?」

「すみません!時間がかかります!」

「こちらで対処します!一直線になるように誘導して下さい!

 《アイシクルアンカー!》」

「わかりました!ライナーさん協力お願いします」

「はいはい、何するかわからんけど従うって!」


 アルシェが出現させたアンカーを操って近づいていた敵を屠る。

 アクアがあらかじめ弱らせていた事もあり簡単に処理が出来た為、

 すぐさま射出の構えに入る。


「アクアちゃん、メリー!後続の対処はどうですか?」

『だいじょうぶ、あと1たいはあしがおそいからまにあうよ~』

「問題ありません」

「ありがとうございます」

「姫様!」

「《シュート!》」


 弓を引くような体勢のアルシェから勢いよく飛び出したアンカーは、

 狙いをあやまたずに2体のスレンダースケルトンの背骨を打ち砕き、

 背後の壁へと深く突き刺さった。


「ヒュ~、すっげ!」

「ライナーさん!姫様の背後にスレンダーが来てます!」

「っとに、忙しいなこの階層は!」


 その戦闘は実に30分という長さ続けられ、

 終わった後に確認をすると、

 戦闘していた部屋を含む通路が繋がる5部屋の敵のリポップは確認されなかった。

 つまり、この部屋に仕掛けられたトラップの類いであった可能性が高かった。


「モンスターハウスみたいなもんか?」

「それにしても間断なく押し寄せられてはな・・・」

「いつ終わるかも分からなかったですし・・、

 隊長が居たらって思っちゃいました」

「居ないものねだりは駄目よマリエル。

 こうして協力すれば攻略出来ると分かったのだから、

 念の為この部屋の事はギルドに報告しておきましょう」

「それがいいですね。

 知らずに入ってトラップが発生したら、

 5人パーティではなかなか難しい対処になるわ」


 4層の敵は確かに隣の部屋であれば来るのは1部屋目から分かっていた。

 しかしそれは1度来れば当然、

 次がリポップするまでのクールタイムが挟まれるはずなのだ。

 そのクールタイム無視が今回のトラップとなる。

 幸い全方向の敵が一斉に来ることはなく、

 部屋内にいるモンスターの数が一定以下になると補充される仕組みであった。


「リポップまでは時間もありますし、

 休憩を挟んでから次の部屋に行きましょうか」

「賛成です」

「かしこまりました」

「あ~、つっかれた~!」

『お疲れ様でした、お姉さま』

『くーもおつかれさま~』

いつもお読みいただきありがとうございます

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