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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第05章 -海風薫る町マリーブパリア編-
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†第5章† -10話-[精霊娘、3人でおつかいをする!]

 翌日、朝の走り込みと組み手を終え、

 昨日の対処がどこまで進んでいるのか、

 進捗の確認をする為にギルドへ誰かを向かわせたかった。

 ただ、俺たちは4人いるからこの後に控えるクールダウンをする必要があるので・・・。


『では、クーが行きましょうか?確認するだけですよね?』

「そうだけど・・・」


 いくらなんでも、冒険者も集まる物騒極まりないギルドへ、

 クー1人で向かわせて良いのだろうか。

 確かに内容としてはダンジョンの情報が公開されているのか、

 今日から攻略を始めてもいいのかという2点のみ。

 以前はマリエルの防具を最低限そろえる為に防具屋へお使いに行かせた事はある。

 しかし、今回は子供過ぎるというところが問題な気がして決めかねる。


『あくあもいけばいい?』


 もう一押し。


『ニルの出番ですわー!』


 論外だな。

 まぁ自主的に行くと言っているし、

 朝も早いという事からまだ冒険者も少ないだろう。

 これもこの娘達の良い経験になるかもしれないし、

 行かせても大丈夫かな?


「じゃあ、3人で行っておいで。

 何かあればすぐに連絡することと、いざとなれば容赦しなくて良い」

『わかりましたっ!』『あい!』『ですわー!』

「それとアクア。一番お姉ちゃんとしてこれを渡します。

 子供だけでは教えられないと断られたらこれでお使いだと証明しなさい」

『わかった~!あくあがんばるっ!』


 ギルドもお役所仕事と考えれば、

 クソガキ相手に時間を使おうとは思わず適当にあしらわれる可能性はある。

 だから、念の為俺のギルドカードを渡しておき、

 身分証明書として使うように伝える。


「道は大丈夫か?」

『くーが覚えてる!』

『大丈夫です』


 アクア・・お前が答えるのか・・・。


「お前が聞くことはなんだ?」

『だんじょんはどうなってますか!』

「そうだ。一応先に掲示板を見てから聞けよ。

 ダンジョンの情報が発表されていなかったら、問題になるからな」

『気をつけます』

『ですわー!』

「よし、行ってこい!お前ら!」

『『『いってきま~す!』』ですわー!』


 投げたフリスビーを追いかけていくように飛んでいく精霊達を見送り、

 アルシェ達が待つ場所へと戻り、今日も背中を押し始めるのであった。


 * * * * *

「えっと・・・申し訳ございませんがお嬢さん方。

 子供への情報提供は許可が必要ですぐには判断が降りないんです。

 保護者の方と一緒に来て下さればお伝えすることも出来ますので」

『このかーどでますたーをかくにんしてっ!』

「ですので・・・」


 場所はギルドホール1F受付。

 宗八の懸念事項であった冒険者は幸いな事に少なく、

 彼らに絡まれるような事態には発展していなかった。

 しかしながら、もう1つの懸念事項である[お役所仕事]が彼女達の前に立ち塞がった。


『お姉さま、ここは一旦引きましょう』

『でも、くー。ますたーのおつかいだよ?』

『わかっていますけど、ギルドの言い分もあります。

 対策を考えるか、1度戻るべきです』

『魔法で倒してしまうのはどうですのー?』

『論外です。ニルはちょっと大人しくしていてください』

『しょぼーんですわー・・』


 精霊娘達のうち2人は、

 なかなか無い宗八からのお使いクエストをどうにかして完遂したかった。

 しかし、ギルドの受付嬢は証明は出来ても、

 大人の方でないと情報を伝えるわけにはいかないと言う。

 自分たちが子供である事実はどんなに頑張ってもすぐにはひっくり返る事ではない為、

 アクア達なりに食い下がってみたが、

 やはりどうにもならなかった。


 必死なアクアと、1歩引いた位置に立つクーは、

 冒険者がちらほらとギルドへ入ってきていることを認識していたが為に、

 一度身を引くことを決断し、

 ニルを連れて一旦ソファーへと逃げてきた。


『くー、どうしようか・・』

『大人の方でないと伝えられないとギルドで決まっているなら、

 仕方ないとお父さまも納得して下さるとは思いますけど・・』

『クーデルカさんも悔しそうな顔をしてますわー』

『それはそうですよ。

 お父さまはあまり私たちだけの力に頼ろうとはしませんから、

 戦闘以外でもお役に立てるのであれば頑張りたいんです』


 クーの脳裏には、

 戻ってお父さまへ無理だった旨を伝えるしか方法はないと理解している。

 それでも、頭ではわかっていても納得出来るわけではなかった。

 3人寄れば文殊の知恵と言う言葉はあるが、

 流石に年端もいかない精霊娘3人では良い案は思い浮かばなかった。


「しっかし、まさかこのマリーブパリアにダンジョンが出来ていたとはな。

 全然気がつかなかったぜ」

「前回出来たのも私たちの親が生まれる前だし、

 念の為に夜の外出を禁止にしてたんじゃあ、

 誰でも気がつかないわよ」


 そのとき、アクア達の集まる長いソファーにどかっ!と座る冒険者がいた。

 その口から漏れる言葉に自然と耳を傾ける3人娘。

 ダンジョンの発現情報が冒険者へ公開されていることは、

 宗八に言われたとおり事前に確認した掲示板に貼られていた。

 つまり、ここまでは知っている内容なのだ。


「夜は兵士くらいしか歩いてないはずだし、

 よく見つけたもんだよなぁ」

「夜に活動してたのなんて兵士の他には例の快眠犯くらいかしらね。

 もしかしたら協力したのかもしれないわよ?」

「俺たちも時間が余っちまうし、

 我らがリーダーには悪いけど、

 それまではダンジョン攻略できると良いんだけどな・・・」

「・・・フランザの気も少しは紛れるかもしれないしね」


 その男女の冒険者の話を聞いていた精霊娘のうち、

 特に耳の良いクーは頭に生える猫耳をピクピクと動かして、

 その冒険者の顔の方へと目線を上げる。


『あ・・・・』

「・・・ん?」

『くー?』

「ライナー?」

『・・・どうされたんですのー?』


 目と目が合う瞬間に好きになったりはしないし、

 もし好きになっていた場合、

 とてつもなく高い壁として立ちはだかる存在があったりするが、

 そんなことはどうでもよくて、

 ソファに投げ出すように座る冒険者ライナーと、

 闇精霊クーデルカはその時確かにお互いの存在を認識した。


「あら、貴女確か・・・水無月さんの・・」

『貴方方はペルクさんのところの・・・』


 その時、アクアとクーの頭に電撃走る。

 そうだ、大人であればダンジョンの情報を持ち帰ることが出来るのだ。

 この目の前にいる冒険者は父と顔見知りで有り、

 協力を申し込んでも一蹴することもないと予想される。

 しかし、焦りは禁物だ。

 自分たちはまだまだ子供なのだとつい先ほど嫌と言うほど思い知らされたばかりで、

 ここでの言葉選びを間違えれば再び自分たちは手を失うことになってしまう。

 ここは慎重に・・・。


『貴方方-!ダンジョンについて何か知っていますのー?』

『にる~!』

『ニルさーん!』


 今ここに心がひとつとなったアクアとクーの姉妹は、

 まさかの直球で尋ねやがった天然風精霊を心の赴くままにダブルスマッシュでソファへと叩き落とす。


 ぺちっ!!x2

『はわーですわーっ!?』

『いま私たちは間違ってはいけない岐路に立っています!』

『あまりおねえちゃんたちをこまらせないでっ!』


 ソファの上に転がったニルへとボディプレスをかまして喧嘩を始める娘達。


『なんで叩くんですの-!』

『にるがおばかだから~!』

『アクアーリィさんに言われたくないですわー!』

『ばかだと~!ますたーにもいわれたことないのに~!』


 ポカポカと愛らしい音で殴り合いを開始する3人だったが、

 どちらかと言えば内気&戦闘型ではないクーは早い段階で叩き出され、

 主にアクアとニルの喧嘩が続いていた。


「お、おい。大丈夫か・・・?」


 クーはその一言が自分に向けられている事を一瞬で理解し、

 気持ちをすぐさま切り替えてメイドモードへのスイッチを入れる。

 パパッと乱れた衣服を整えると、

 改めてカーテシーを冒険者2人に向けながら挨拶をする。


『お久しぶりです。水無月宗八が次女、クーデルカと申します』

「え、えぇ・・・。私はトワイン、彼はライナーよ。

 えっと・・・そっちの子達はいいのかしら?」

『問題ありません。

 喧嘩は文化とお父さまも言うと思います』

「・・・思います?願望か?」

「それでクーデルカちゃん。

 貴女たちはこんな朝早くからギルドで何をしているの?」

『私たちはお父さまからダンジョンが、

 いつから解放されるのか確認してくるように頼まれたのです。

 ですが、私たちは子供だからと教えてもらえませんでした』

「そりゃ仕方ねぇだろ。

 冒険者に伝えるような内容なんて荒事ばっかりだからな。

 子供に教えるような事じゃねぇよ」


 ギルドの対応は他人から見れば納得の行く対応であるが、

 彼らの頭には1人の冒険者の顔が浮かんでいた。

 ある意味勝手に押しかけてきて勝手に真実を暴き、

 自分たちが見ていた夢を終わらせた奴の顔を。

 そして、目の前の子供が暗に伝えたい事も重々理解もした。


「・・・」

『あの、それでですね・・・。

 とても厚かましいお願いではあるのですが、

 ダンジョンが解放されているのか教えて欲しいのですが・・・』


 クーはそう口にして顔を上げる。

 クーのお父さまが我が儘を聞いてくれやすくなる方法に最近気がついたので、

 耳を折りたたみ、しっぽは自分の足先に回り込むように巻き込み、

 慣れていない若干の上目遣いをする。

 視線の先にいる人物達は、

 片やソファに座っており、片や立っているが、

 どちらにしろクーの方が下の位置にいる為その視線は2人に直撃した。


「うっ・・・俺からは何も言えねぇぞ。

 今のリーダー代理はゼノウだからな」

「そ、そうね。一応口添えはしてあげるわ」

『ありがとうございます』ニヤリ


 頭を下げて2人に見えない口元はにっこり笑顔を浮かべていた。


『(これでお父さまから褒めてもらえます!)』


 クーちゃんは着実に成長をしていますよ、水無月さん。by黄玉八重



 * * * * *

 喧嘩する体力も尽きた貧弱精霊2人が、

 息を荒げながらソファで重なり合う頃に、

 元ペルクパーティの代理リーダーを務める盗賊、

 ゼノウが情報を受け取って戻ってきた。


「ん?なぜ君たちが居るんだ?」

『お久しぶりです、ゼノウさん。

 私たちは貴方がいま持ち帰ってきたダンジョンの情報を聞きに来たのですが、

 年齢的な問題で教えてもらえなかったので・・・。

 そこに丁度ライナーさん達が見えられたので、

 一緒にゼノウさんを待たせて頂きました』

「なるほどな。本当に知りたい人物はあの人かな?」

『ご想像通りかと。お教え頂けませんか?』

『おねがいしま~す!』

『もう帰りたいですわー!』

「教えてもいいと私は思うんだけど、どうかしら?」

「・・・問題ないだろう。他者へ伝えないようにとは言われなかったしな」


 突然の話で逡巡した様子で考えるゼノウだったが、

 精霊娘達の背景を鑑みれば問題ないと判断した。

 アクア達やライナーが座るソファの対面にあるソファへ、

 ゼノウとトワインが座りギルドから受け取った情報の説明が始まった。


「まず、今日の朝から掲示板にダンジョンが見つかった事が告知された。

 これは見ればわかるが、俺たちは偶々ギルドへ来てそれを知った」

「まぁやることもねぇしな。

 おいしいクエストがあればやろうって気持ちで来たら、

 もっといい話があって運が良かったぜ」

「・・・だな。

 ダンジョンはランク3で名前はまだ決まっていない。

 どうやらBOSSが初回は特別製らしくてな、

 高レベル冒険者向けにクエストを発行する予定だそうだ」

「特別ってどういう意味なの?」

「ワンランク上のBOSSとの遭遇が予想されると聞いた。

 ランク3の雑魚がLev.30以上推奨だけど、

 BOSSは基本的にそれ以上を推奨している。

 初回BOSSはその上ってことだから、

 少なくとも45以上必要なんじゃないか?」

「うっは、そりゃ俺たちも無理だわな」


 訂正しておくが、

 基本的に先日のドーキンス氏の説明通りに、

 レベルやダンジョンランクによって武具のドロップも適正なものとなる。

 だから、Lev.20程度の冒険者でも1対多で挑めば、

 少しずつ進むことも可能である。

 もちろん無理に進むことも出来るが、

 それは引き際を見つけるまでもなく死ぬ可能性の方が圧倒的に高い。



 Lev.22~25程度の宗八たちが1対1で戦えるのは、

 ひとえに常日頃から行っている訓練の賜物である。

 普通の冒険者は朝起きてご飯を食べればダンジョンに潜るが、

 宗八達は朝起きると訓練、

 その後ご飯を食べてからと、

 普通の冒険者と違い訓練のベクトルも厳しさも段違いであった。

 ゲームで言えばPSプレイヤースキルが違うと言えば理解できるだろうか。

 剣の振り、魔法の発動速度、それだけではなく、

 仲間の動きを見ながら落ち着いて攻撃を凌げる。


 そんな宗八達でも流石に努力だけではどうにもならない事がある。

 今回のダンジョンの最奥で待つ守護者(ガーディアン)は、

 情報も集まっていない現段階でも無理だと判断するに相応しい格の差があった。


「ダンジョンの解放は今日の朝9時からだな。

 ただ、場所が場所だし転移門と帰還門の準備も整っていないから、

 あまり多くの冒険者が一気に攻略するのは難しいみたいだ」

「あら、じゃあどういった基準があるの?」

「さっきも言ったBOSS討伐クエストを受けた冒険者と、

 明言はされていないもう1組は確実に入る事が出来る」

「明言されていない?ギルドが隠してんのか?」

「いや、そこまではわからなかった。

 ただ、兵士側から推薦があったらしくてな、

 まあ他は先着順で1日30組までだ。

 俺たちはさっき申し込んできたから攻略に参加は出来るぞ」

「よっしゃ!」

「じゃあご飯食べたら、フランザも呼んで行きましょうか」

「さて、お嬢さん方。他の情報をご所望かな?」


 知っている部分もあれば初めて聞いた部分もあり、

 宗八が知りたい情報は集まったように思える。

 元はダンジョンが解放されるのか、

 いつから解放されるのかだったわけだが、

 念の為クーは横を振り向いて姉妹に確認を取る。


『お姉さま、他にありますか?』

『う~ん・・・そうだなぁ~。

 えっとね~・・・・』


 アクアは思いついたことがある様子だが、

 ゼノウへ指を向けたまま指先をクルクルと動かしながら悩んでいる。


『ゼノウですわー!』

『あぁ、そっか~。ありがとう、ニル~。

 ぜのーたちはいくつなの~?』

『お姉さまはレベルはいくつなのかと聞いておいでです』


 アクアの足りぬ部分を補って姉妹で1つの質問を完成させる。


「俺たちのレベルは平均で36だ。

 それが知りたいことなのか?」

『たぶんますたーがしりたいかなっておもっただけなの~。

 あくあはもういいかなぁ~』

『クーもそろそろ戻りたいので・・・』

『ニルはないですわー!』

『では、申し訳ございませんがクー達はこちらで失礼します』


 時間にしてすでに40分は経ってしまっており、

 クーの内心は焦りを帯びていた。

 お父さまに心配をあまり掛けたくはないのだ。

 アクアはその辺甘えん坊で楽観主義なので、

 心配されるのが嬉しい~と正直に言ってしまう。

 ニルに至っては心配されるとかそんな意識すら出来ていない。


「あぁ、また会うことがあれば声でも掛けてくれや」

「じゃあ気をつけて帰るのよ」

「また会おう」


 別れの挨拶も会釈をする程度に留めて、

 アクアもクーも急いで宗八を目指して飛んで帰る。

 クーは端から早く帰りたいという欲求を持っていたが、

 アクアは帰れると決まった時点から頭は宗八で埋め尽くされていた。

 若干遅れる形でニルも2人について飛んでいき、

 わずか7分で町を突っ切り宗八達が訓練から戻っている宿屋へと帰ってきた。


『ますた~!!!』

『お父さま、ただいま戻りました-!!!』

『ニルのお帰りですわー!!!』


 3人の帰りを待って、

 朝ご飯も食べずにラウンジのソファで待っていた宗八の胸に飛び込む。


「ぐおっ!お前ら・・・受肉して重いんだから加減しろや・・・」

『ますたー!あくあたちちゃんとおつかいできたよ~!ほめて~!』

『遅くなってしまってすみません、お父さま・・。

 えと・・あの・・クーも頑張りました!』

『特に無しですわー!』


 ソファに若干沈み込んでいた身体へと、

 弾丸となって突き刺さってくる2人を受け止めて、

 弱った身体が軋む宗八。

 へばり付く小娘共はそのまま顔を上げて軽い報告を行う。


「はいはい、お疲れ様。仲良く出来たか?」

『喧嘩しましたわー!』

「・・・まぁ、それも併せて聞かせてもらうか」


 頭を撫でながら、喧嘩をするようになった成長を内心喜ぶ宗八。

 その視線は宿の入り口へと一瞬向けられる。

 その視線の先には帰ってきたばかりのメリーがいた。



 * * * * *

「じゃあ、バイト上がりで行けそうだな」

「お兄さんはやっぱり一緒に行かないんですか?」

「まぁ、行きたい気持ちもあるけど、

 フルパフォーマンスでの戦闘じゃないとちょっとな・・・」

「ご主人様・・やはり違和感がありましたか?

 昨日は指示だけであまり前に出られませんでしたし」

「うーん、どう言えば良いかなぁ・・。

 フトした時にステータス補正が入っていた部分が見つかって、

 想定していた動きにならなかった感じ?」


 剣の振りで言えば、

 振り切るまでにコンマのズレを感じるのだ。

 動画編集をしていて、感じるコンマ0.1の違和感的な?

 魔法もアクアの補助があるからこそ実用的な使い方を出来ていたが、

 おそらく1人だった場合はヴァーンレイドの射速や、

 アイシクルエッジの発動タイムなど細かな部分に違和感を感じてしまう。


「私や姫様がいない間、隊長はどうするんです?」

「前みたいに浮遊精霊と話でもしてるさ。

 仲良くなるのも精霊使いの仕事のひとつだしな」

「契約がない精霊と仲良くなっても効果があるんですか?」

「さぁ?仮契約したスィーネや契約していないカティナが近くにいるから、

 その辺はよくわからないけど、

 まぁ他にやることもないしな」

『あくあたちは~?』


 帰ってきてからしばらく構ってやったら落ち着いた精霊娘たちは、

 ご飯を食べた後もまた俺の膝の上に乗ってきていた。

 下から上目遣いで顔をコテンと傾けて見てくるアクアとクー。

 くっ、かわ!


「午前中は好きにして良いぞ。

 仕事終わり前に合流してそのままダンジョンに同行してくれ」

『あい!』『わかりました!』

『ニルはどうしますのー!』


 食後のお茶の隣に座り込み、俺に意見を求めてくるニル。

 うーん・・・、まだ核もニルに馴染んでいないだろうし、

 何よりも魔力運用も最初期のアクアとどっこいのはずなので、

 中級魔法を使って一閃を使っただけでおそらく核が砕けてしまう。


「ちょっと戦闘に参加させるのには不安があるかな・・。

 今日と明日でいろいろと仕込むから、俺と一緒にいてもらおうか」

『かしこまりですわー!』


 今日は午前から町の外に出てニルの調整をするかな。


『じゃあ、あるとまりぃのおしごとおわるまでは、

 ますたーといっしょにいる~!』

『クーも侍従の修行が終わったら合流しますね』

「はいはい、待ってるよ。頑張ってな」

『はい!頑張ります!』


 鼻息も荒く小さな握り拳を両手で作るクーの頭を撫でつつ、

 耳の裏もこちょこちょする。

 恍惚の表情を浮かべて、

 徐々に握り拳が解けて上がっていた腕も落ちていくクーを攻めながら、

 アルシェ達はどうするかと目を向ける。


「私もお兄さんについて行きたいのはやまやまですけど、

 町の外に出ると戻るのにも時間がかかってしまいますから、

 3時間くらいはのんびり宿で本を読んだりして過ごします」

「じゃあ私も同じ理由で外は無理ですね・・・。

 時間までは町を散策しようかなぁ・・」

「誰も残られないのであれば、

 私が姫様の側におりますので、気になさらないで下さい」

「わかった。

 じゃあ今日はそんな感じでよろしくな。

 あと、ダンジョンに入ってもしもペルクパーティに会ったら、

 一緒に行動を申し出ておけよ。

 パーティは別になっちゃうけど、殲滅力が違うからな」

「わかりました。あちらの方がレベルも平均36と高いですしね」


 精霊達の報告の中にはアクアが聞き出したゼノウ達のレベルも含まれた。

 昨日のダンジョン探索で、

 俺の役割はほとんど指示出しだけだった。

 実質的な戦闘は彼女たちだけで行ったので、

 敵の特性さえ分かればアルシェ達だけでも問題は無い。

 それでもさらに安全マージンを取るならば、

 ゼノウ達のような・・まぁ知り合いと共闘するのも有りだろう。



 * * * * *

『《氷纏(まてりあらいず)~!》』


 町の外に出て少し離れた場所にある、

 最近の訓練スポットへと、

 俺とアクアとニルの3人で移動してきた。

 さっそく精霊使いとして目指してもらう領域をみてもらおうと、

 手始めにアクアとクーが自身を強化する為に使う魔法、

 属性纏(マテリアライズ)をアクアに使用してもらい、ニルに教える。


 アクアが着ているドレスに氷の装飾が付与されていき、

 スカート部分の端々には鎧とまでは言わないが、

 装甲値が上がり、頭にはティアラが装備される。


『これがまてりあらいずだよ~!』

「アクアの場合は水に適性があって、氷の扱いがちょっと下手なんだ。

 だから、この魔法で氷の扱いも同等にして、

 戦闘の幅を増やしているんだ。

 属性の適正は精霊が表属性の水や風、人間が裏属性の氷や雷になる。

 ここまではわかるか?」

『アクアさんは水に適正、ニルは風に適正、

 そうはちは氷と雷に適正ですわね-!』

「そうそう。これがひとつ目で、

 この魔法をアクアに教えてもらいながら自分用に創り換えをしてくれ」

『わかりましたわー!』

「じゃあ次に行くぞ。『《シンクロ!》』」


 マテリアライズの次に俺とアクアは、

 ニルの方を向きながら片手を合わせて絆の魔法を口にする。

 先の魔法はアクアとクーの努力の結晶ではあるが、

 このシンクロはお互いをどれだけ信頼しているか、

 もっとわかりやすく言えば仲良くなったかという部分が重要だ。

 俺たちが初めてシンクロしたのは、

 死霊王の呼び声最下層でブラックスケルトンと戦った時で、

 その時は俺もアクアも目標を倒すという1つの意識で統一されていた。


『おぉー!』


 俺とアクアを包む蒼天のオーラに目を輝かせるニル。

 マリーブパリアのダンジョンでもしていたけど、

 改めてオーラの色を確認すると鮮やかさが増しているようにも思える。

 ここで俺の脳内にとある出来事が思い出される。


「なぁなぁ、アクア」

『なぁ~に?』

「アルシェから聞いたんだけどさ、アクアの核を俺にm・・・」


 アクアは最後まで俺の台詞を聞かずにピュー!と風のように飛んでいき、

 近くの木陰へと逃げてしまった。


「アクア?」

『やー!ますたーにみせるのやーなの~!』


 パパショック・・・。

 アルシェには見せられて俺に見せるのが嫌だなんて・・・。

 こんなにアクアが俺に否定的な行動を取ることはいままでなかっただけに、

 アクアの本気度がわかる。

 それが拍車を掛けて俺の心を砕いてくる。

 悲しいけど、時間の流れって残酷ね・・・。


「わかった・・・、見せなくて良いから戻っておいで・・」

『ほんと~?みせてってゆわない~?』

「ゆわないから大丈夫だよ。無理に言ってごめんな」

『うんう、あくあもごめんね・・・ますたーにみせるのいやがって・・』


 自分でもわからない心の指示に従って嫌がったのだろうか、

 自分の行動に納得できていない様子で悲しそうな顔をして、

 アクアは俺の元に帰ってきた。

 改めてニルに向き直って説明を続ける。


「ニルも俺との間にパスが出来ているから、

 微かに俺の意思を感じると思う。どうかな?」

『確かにニルの頭の隅っこになんか居ますわ-!』

「なんかって・・・、多分それが俺の意思だろうけど、

 今はあまり主張してきてないと思う」

『ですわねー!』

「そのパスを強化して、

 戦闘中にお互いが何を考えているか、

 どういう行動をしたいのかラグなしに理解できるんだ。

 他にも制御力統合とかあるし、魔法の即時創成とかあるけど、

 そっちは後々説明するよ」

『わかりましたわー!』


 アクアとですら数ヶ月掛かって初めて出来たシンクロだ。

 ニルと出来るようになるのも結構先になるだろうが、

 精霊使いとしてはこのシンクロからやっとスタートといった印象がある。


「このアクアの属性纏(マテリアライズ)とシンクロが使えるようになると、

 次のステージに上がれる。いくぞ、アクア」

『あい!いつでもいいよ~!』


 胸に抱き込んだアクアに確認をしてから、

 合わせて詠唱を口にする。


「『水精霊纏(エレメンタライズ)!』」


 水の膜で覆われて姿を隠す俺とアクア。

 数秒もすればアクアを纏った俺が、

 マントになったアクアのしっぽで膜を斬り裂きながら登場する。

 謎の浮遊感を与えられちゃった俺たちは地面から足が浮いており、

 空を飛び回ることが可能になる。

 そして安定の下半身不随である。ぴくりとも動かないのである。


『おぉー!すごいですわー!

 でも、なんで顔を隠しているんですの-?』


 驚きつつも、竜頭のようなフードで顔を隠す理由について尋ねるニル。


「俺たちが調べている魔神族関係で戦闘をする場合に、

 俺・・というか水無月宗八を認識されない為だな。

 もし嗅ぎ回っている俺の存在が知られると色々とまずいから、

 万が一魔神族の近くで戦うような時に備えて、

 顔を隠して身バレを防いでいるんだ」

『なるほどですわー!』


 ニルに納得をしてもらえたところで、

 久しぶりの水精霊纏(エレメンタライズ)の感触を確かめる。

 空中での軌道と竜玉を用いて使用する一閃の使い勝手を少し試してみる。


『りゅうぎょく!』


 空高く舞い上がったところで、

 アクアの呼びかけに応じて目の前に竜玉が姿を現した。

 その竜玉へ手の甲を合わせたまま両手を突っ込み、

 そのまま左右に引き裂くと十指すべてに竜玉がセットされ、

 眼下の大木を目標に定めて左腕を振るう。


「《水竜閃すいりゅうせん!》」


 五指から放たれる5本の一閃は、

 獣の爪痕のような幅の違いを保ちながら大木へと迫る。

 タイミングを計って先行する五閃に猛ダッシュで追いつき、

 右手に宿るもう五閃を接触のタイミングでさらに放つ。


「《水竜爪すいりゅうそう!》」


 大木へ(クロス)の斬り込みが入っていき、

 そのまま貫通して後方の地面にも大きな傷跡を残す。

 以前これを使った相手は防御力の高い盾で受けきっていたが、

 そこから俺たちの練度も上がったこともあってか想定以上の攻撃力を発揮した。

 というか・・・。


「ヤバいヤバい・・!ニル!ついてこい!」

『はいですわー!』

『にげろ~!!!』


 倒れてくる大木から身を守る為に逃げた。

 そうお思いの貴方・・・間違っているぞ!

 いきなり町近くの大木が倒れたんだ。

 新しい事件だ何だと騒動になりかけないので逃げたのだ!

 やらかしたのがバレるのを防ぐ為に逃げました!ドーキンス氏、すみません!

いつもお読みいただきありがとうございます

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