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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第05章 -海風薫る町マリーブパリア編-

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†第5章† -08話-[深夜の街を彷徨う人影、調査編Ⅱ]

「店舗としてはまだ休業しているお店で、

 店舗と住居は別々になっているようですね」

「俺も一緒に入ることは出来ますか?」

「ここまで協力いただいたのですから、いいでしょう。

 兵士長にバレなければ問題ありませんから(笑)」


 さわやか笑顔で結構な事をおっしゃる。


「しかし、鍵は店主に話を通してお借りしないといけませんね」

「まぁ、そうですよねぇ・・・」


 流石にマスターキーを兵士が持っているわけもなく、

 店主から借り受ける必要があるらしい。

 今日中に調査を終えたかったんだけどなぁ・・と、

 鼻でため息を吐きながら、ついドアノブを回して見ると・・・。


 ガチャッ!


「・・・開いちゃったんですけど」

「え?あ~でも、流石に勝手に入ることは出来ませんから、

 1時間後にまたこちらに来て頂けますか?」

「分かりました、また1時間後に」

「では、一旦失礼します」


 鍵が掛かっていなかったって事は、

 浮遊精霊が夜中に見かけた人型が店から出てきて、

 鍵は掛けずに去ったのか?

 その人型が本当に人ならば大事な店舗なんだから、

 保安の意味で鍵の閉め忘れはあり得ない。


「これは本当にここの可能性が高くなってきたな」

『どうしますのー?』

「こっちもみんなで一旦集まろう。

 ギルドが近いからそっちで合流しよう」

『ですわー!』


 すぐに揺蕩う唄(ウィルフラタ)で全員をギルドに呼び出し、

 20分程度で全員がギルドに集まった。

 落ち着いた場所で話をしたかったので、

 インスタントルームを借りて中に入って全員が着席するのを待つ。


「お兄さん・・・」

「どうした?」

「・・・ニルちゃんが入って来れてません」

「・・・あっ!」


 アクア達と違って俺たちとニルの間に繋がりはない。

 パーティも契約も無い状態だと一緒に行動する第3者となり、

 身内だけが入ることが出来るインスタントルームには、

 ニルは入ることが出来ないのだ。

 慌ててルームから外に出ると、

 霧部分に飛び込んではすぐに出てくるニルの姿がそこにはあった。


「ごめん、ニル。気づくのが遅れて・・」

『そうはちぃー!!ニル・・ニル独りですわー!!

 中に入っても皆いないんですのー!!』


 よくよく見れば涙を流しながら、

 俺に苦言を呈しているのがわかった。

 そりゃいきなり仲間外れにされたら不安にもなるよな。


「ニル、本当にごめんな。

 中に入る為には仲間の繋がりが必要なんだ。

 ひとまず仮契約をして中に入ろう」

『もういいですわー!本契約しちゃってくださいなー!!

 もう仲間外れは無しですの-!!』

「え?いいの?マジで!?」

『マジでもまんじでもいいですのー!!

 どうすればいいんですのー!?』

「ちょ、ちょっと待ってろっ!」


 まさか1日程度の短期間で本契約を受け入れてくれるとは思いもしなかった。

 全力マイペースのフォレストトーレの国病を発症される前にと、

 慌ててインスタントルームに首だけ突っ込む。


「ちょっと時間掛かるから、雑談しながら待っててくれっ!」


 返事も聞かずに首を引っ込めると、

 ニルと抱えてギルド内にあるはずの空き部屋を探す。

 仮契約でも本契約でも花が咲くようなエフェクトが発生する為、

 かなり人目に付いてしまう。

 その為、人のいない空き部屋を探してギルドをうろつく。


「どうされましたか?」

「おわっ!」


 怪しい動きの不審者へと声を掛けてきたのは事務職をメインにする職員さん(想像)。

 顔は微笑んでいるけれど、

 目を見ればやはり怪しんでいるのがわかる。


「すみません、数分でいいので空き部屋をお借りできませんかっ?」

「空き部屋ですか?数分であれば私が立ち会う事で可能ですが・・。

 何の為に使用されたいのでしょうか?」

「この精霊と契約が必要なのですが、

 契約する際に目立っちゃうので・・人目の付かない所に行きたいんです。

 駄目でしょうか?」

「精霊・・・アスペラルダ?

 貴方ポルタフォールの水難を解決された方ですか?」


 俺の精霊という発言とマントの紋章を見て、

 頭の中で検索しているかのように目を閉じて少し黙り込むと、

 いきなり俺の正体を当てに掛かってきた。

 ギルド内の情報網でどこでどういった出来事があったというのは知られているのだろう。


「いえ、確かに通って来ましたけど。

 俺たちが通り過ぎた後にあの水難の解決をされたようですよ」

「・・・そうですか。

 では、案内しますので付いてきてください」


 しれっと誤魔化した俺の完璧な嘘への反応は薄かった。

 彼女の中で謎の納得があったのか、

 その後は何も聞かずに空き部屋へと案内してくれる。


「こちらへどうぞ。

 先ほども伝えましたが、私も同席する必要がありますがよろしいでしょうか?」

「かまいませんよ。すぐに終わりますから」

『そうはちー!早くするですのー!』

「はいはい、少々お待ちくださいねー」


 部屋の中へと入ると会議室なのか、

 壁際にテーブルと椅子が立て掛けてあった。

 他には何もないサッパリとした部屋だ。


「じゃあ、始めるぞ」

『いいですわー!』


 契約の詠唱時に俺の身分が入るため、

 先に彼女へと声が聞こえないように処理をする必要がある為、

 風を折り重ねて空気の振動外へと逃がさない結界で俺とニルを包み込む。


「《・・・異世界人足る我が乞う、

 力足りぬ我にニルチッイ=イノセンシアとの契を許し給え・・・》」


 詠唱が始まると、

 俺とニルの中心から緑色に輝く光の柱が現れ、

 詠唱が進むにつれて俺たちを飲み込んでいく。


「《その身その体は彼の為に・・・》」

『《その身その体は彼の為に・・・》』


 天井を突き抜けて上へと登っていた光の柱は、

 次の詠唱でぐんっ!と凝縮されるようにその姿を蕾へと変化させる。


「『共に歩まん!精霊契約!』」


 契約が成立した事を証明する緑色の光の花が、

 今ここに咲き誇った。

 立ち会いの職員さんには俺たちの詠唱は聞こえていなかったはずだが、

 柱から蕾、蕾から花が咲く演出に感動しているのか、

 恍惚の顔つきで棒立ちになって徐々に端から消えていく花を見つめていた。


『これで、そうはちはニルのマスターですわー!』

「あぁ、これからよろしくな」

『こちらこそですわー!』


 ニルを再び抱え上げて立ち上がり、

 職員さんへと近づいていく。


「部屋を使わせて頂きありがとうございました」

「あ・・・いえ、こちらこそ素晴らしい光景を見学できて光栄でした」

「では、自分たちは仲間が待っているのでこれで失礼します」

「はい、また何かあれば声をおかけください」

「ありがとうございました」


 ぺこぺこと何度か頭を下げてから駆け出す。

 感覚的には5分くらい使ったから、

 約束の時間まで残り30分くらいしか時間が無いので急ぎ、

 そのままの勢いでインスタントルームへ駆け込む。


「すまん、遅くなった」

「いえ、大丈夫ですよ。それで、契約はうまく出来ましたか?」

「あぁ、予定と違って仮契約じゃなくて本契約する事になった」

「そうですか、今後もよろしくね。ニルちゃん」

『ですわー!・・・・お名前何でしたっけ?』

「・・・そういえば、名乗りを伝えていませんでしたね。

 姫様だけでなく私とマリエル様もわからないのでは?」

「知らない人ですわ-!」


 そういえば、初日は夕方だった事とクーが帰ってからは、

 ずっと精霊娘同士でわいわいしていてちゃんと挨拶をするタイミングがなかったか。


「私はアルカンシェ=シヴァ=アスペラルダ。

 アスペラルダ王国の姫であり、水無月宗八の妹でもあります。

 よろしくおねがいしますね、ニルちゃん」

『覚えましたわ-!よろしくですのー!』

「私はマリエル=ネシンフラ。

 姫様の護衛と水無月宗八の・・・弟子?みたいな感じ?よろしくね」

『よろしくですわー!』

「私はメリー=ソルヴァと申します。

 宗八様とアルシェ様を主とし、クーデルカの上司になります。

 よろしくお願いいたします」

『まぁー、クーデルカさんの上司!よろしくおねがいしますわー!』


 メンバーには申し訳ないが、

 今は時間もないので挨拶もそこそこに親睦は後に回してもらう。


「兵士達と協力して、

 俺とメリー、それからニルで調査を聞き込みをした結果、

 俺たちが到着した次の日に見かけた店が候補に挙がった」

「どちらのお店ですか?」

「キノコ料理で客に被害を出して休みになっていた店だ」

「一番端にあったお店ですよね?張り紙がしてあった」

「そうだ。

 出没する時間帯と肌の色で聞き取りをしたんだが、

 調査した3時間俺たちの方は空振りだった。

 でも、ニルが浮遊精霊から聞き出した情報としては、

 夜中の遅い時間に店から人型が出てくるという話だ。

 夜中って以外は正確な情報はなく、

 肌の色も判断できていないが、

 念のためしっかりと調べておこうってなったんだ」

「約束の時間まで残り10分です、ご主人様」

「もしもの為に全員で向かおうと思って呼び出したんだけど・・。

 アルシェ・・姫として聞くが、

 町中に急にダンジョンが出来ることってあるか?」


 モンスターとは、

 ダンジョンの最奥部にあるダンジョンコアを利用した管理者が、

 貯まったエネルギーを使用して生み出した存在だ。

 故に生命体ではない為、魔物と違って倒した場合は死体が残る事は無く消えてしまう。


「えっと、確かにダンジョンはそこまで頻繁に出現する物ではありませんが、

 魔法ギルドの調査結果として、

 人が集まる町は魔力の溜まり場となり易い為、

 長い年月を掛けて蓄積された町にはダンジョンが突如生成されるという記録は読みました」


 今回の兵士の話を伺った限りでは、

 徘徊していた青いゾンビは朝になると体が煙のように消えたいったらしい。

 陽の光が苦手だったとして、それが原因で絶命したのだとしても、

 魔物だった場合は死体が残るのだ。

 であれば、疑うのはダンジョンの存在だが、

 あんな広大な領域が気づかれずに長年存在しているというのはおかしな話だと思う。


「魔力が溜まればダンジョンが出来るんだな。

 どういう原理でいきなり現れるのか知っているか?」

「詳しくはまだ研究中だそうですが、

 理論として有力なのは、次元の間を漂流している各世界の一部が、

 魔力に引き寄せられてこの世界とぶつかった時に、

 おかしくないように融合した結果・・・だそうですよ」

「その融合した別世界の一部が自然な形で融合した結果、

 ダンジョンという体裁を使うってことか・・・。

 やっぱりダンジョンの可能性があるか・・・。

 他に何か新しいダンジョンについて情報はあるか?」


 アルシェのもたらした情報から、

 俺の想定していたダンジョン説が有力になってきた。

 というか他に思いつかないし、真相はあと10分程度でわかることだろう。



「新しいダンジョンにはもちろんボスがいるのですが、

 通常のボスと異なり[守護者(ガーディアン)]と呼ばれています。

 曰く1ランク上のボスで、

 1度倒す事で他のボスと同様にダンジョンランクに見合った強さに調整されると・・・」

「ゲームでいうダンジョン開放用のクエストみたいなもんか・・・。

 これって事前情報もないからダンジョンランクもわからないよな?」

「そうなりますね。

 もしも、原因がダンジョンだったとして、

 ランク3だった場合は守護者(ガーディアン)のランクは4。

 キュクロプス亜種と同等以上の強敵と考えるべきですね。

 キュクロプスはあくまでランク4の通常モンスターの1体ですから」


 確かに俺たちの下地もしっかりとしてきたし、

 レベル以上の戦力を有しているという自信もあるが、

 流石にボスレベルと事を構えるのは、

 俺たちの旅に必要なわけではない。

 残りの滞在中に対応出来るようであればいいが、

 まぁ無理に俺たちが倒さなきゃならん理由もないだろう。

 何より俺のステータスはマリエル程度に下がってしまっているしな。


「わかった。

 ダンジョンだと判明した場合は、モンスターと戦闘してランクの確認。

 体感的にランク3だった場合は介入の見送りを検討する」

「わかりました」

「了解でーす」

「かしこまりました」

『あ~い』

『わかりました』

『ですわー!』



 * * * * *

「お待たせしました」

「いえ、こちらも先ほど到着したばかりですから」


 俺たちは約束の時間に到着したが、

 逆に青年兵士の方がお仲間を数名引き連れて少々遅れて来た。


「あ、そちらも人手を連れてきてくださったんですか?」

「すみません、相談もせずに」

「いえ、店の部分も結構大きいようですが、

 倉庫もあるようなので人手があるのは助かります」

「それで、許可は得られましたか?」


 目端でメリーに挨拶を交わす兵士諸君を捉えつつ、

 先ほどと違う様子の青年兵士へと問いかける。


「得られたには得られたのですが、

 ご主人が昨夜から帰っておらず、奥様から探索の許可を頂いたんです」

「それって・・・」


 振り返り青年兵士と見上げるは、

 営業停止となって人のいるはずのない店舗。

 店の外からでは気配も感じないが、

 これは俺のステータス低下が原因なのか、

 それとも・・・・。


「お兄さん、兵士さん。とりあえず、入ってみませんか?」

「そう・・ですね。時間もありませんし、

 今から合い鍵で鍵を開けますね」


 アルシェの催促で再び動き出した青年兵士は、

 腰につけた革袋から合い鍵を取り出して、

 意を決したように穴へと鍵を差し込んで回していくと。


 ガチャッ!と音を発したドアノブへと手を掛け、

 青年兵士がゆっくりと力を入れて開けようとするが、

 手が滑っていて全然開く気配がない。


「あ、あれ?すごく固いんですけど・・っ!?」

「もしかして、鍵を掛けたんじゃないですか?」

「え?あ!そうか!ちょ、ちょっと待ってくださいね!?」


 緊張しているのか焦る彼は何度もドアノブを触っていたが、

 明らかに捻り具合が全く動いていない。

 アルシェが見かねてさらに言葉を重ねると、

 1時間前に俺が触って開いたのを思い出したのか若干赤面しつつ再び差しなおす。


 ガチャッ!と再び鍵を回してから、

 ドアノブを捻ると今度はすんなりと動き始めた。


「あ、開きました。

 奥さんに合い鍵を頂いたので失念していました・・・不用心だなぁ」


 というか、俺も完全に失念していた。

 青年兵士にはいらぬ辱めを与えてしまったな。

 ごめんチャイナ。


「さぁ、入りましょう」

「あ、ちょっと待ってください。

 クー!中のサーチを頼む!」

『かしこまりました』


 外から見た感じ窓も閉め切ってカーテンも掛かっているから、

 中はほとんど陽の光が届いていない影が多めの空間と言うことだ。

 ならば、事前にクーのサーチを掛けて、

 影に触れる生き物がいるか確認だけでも取っておくべきだろう。


 クーだけ先に店舗内へと進み、影の上に立ち魔法を使用すると、

 クーを中心に影に波紋が発生して、

 壁や天井もそのまま波紋は走って行き店舗内を調べていく。


「こちらも水無月さんのお知り合いで?」

「えぇ、契約している闇精霊ですね」

「はぁ・・・」

『お父さま、生き物はいないようですが地下室があるみたいです』


 青年兵士と話している間にひとしきりサーチを終えたクーから報告が上がってくる。


「ご主人がいるかと思ったけど、ここにもいないのか・・・」

「地下ですか?基本的に建造物の真下に空間を開くのは、

 危ないので禁止されているはずです。

 本当なら重大な違反を犯していることになりますね」

「2階もか?」

『はい、2階も生き物の反応はありませんでした』

「・・・念の為、怪しいところがないか調べておきますか?」

「そうしましょう。

 2階は我々の仲間が調べますので水無月さん達と自分は地下を調べましょう」

「了解です。クー案内してくれ」

『はい、お父さま。こちらへ来て下さい』


 2階と倉庫部分は駐在所に詰めていた兵士達で調べることとなり、

 地下の調査を俺たちですることになった。

 クーの案内に従って進んでいき、

 フロアを抜けてキッチンへと入っていく。


「食材は腐っていないようですが、

 冷蔵庫の氷は溶けてしまっておりますね」

「野菜は萎びてますし、しばらく人が触った様子がないですねぇー」


 メリーとマリエルが食堂用の大型冷蔵庫を開けて中身のチェックを行う。

 腐りはしていないが、それも時間の問題らしい。

 経営者ならいつでも再開できるように食材の鮮度とかは特に気をつけると思うんだけどなぁ。


 そのまま歩を進め、

 厨房の一番奥まった所まで周囲を確認しながら進む。


『こちらです』

「おわぁ・・・」

「これが地下室ですか?こんな堂々とした?」

「扉は無いようですけど、枠組みはしっかりとした造りですね」


 厨房の奥で俺たちを待っていたのは、

 奇妙な色合いをしたレンガ造りの大きめの入り口。

 その先は階段になっていて、

 真っ暗な中央部分以外は適度に配置されたランプが転々とぶら下がっていた。

 青年兵士が言うように、

 地下を作るのは違法とされ禁止事項なのだと理解していれば、

 普通もっと倉庫の片隅に作って、

 蓋を閉めた後に荷物に見せかけた物を上に置くくらいの隠蔽工作をするはずなのに、この地下への入り口はあまりにも堂々とした存在感を発揮していた。


 アルシェが枠組みを作っているレンガを触りながら、

 造りの検証を簡易的に行う。


「階段の壁も天井もこの石で出来ていますね」

「石の種類はわかるか?」

「流石にそこまでの知識はありませんが、

 これを一人で造れるとは到底思えません」

「自分も同じ意見です。

 この形を形成するにしても材料を集めるにしても、

 何かしらで情報が上がるはずなのに何もありませんでしたし」


 そりゃそうか。

 ここまで広大な地下室造りを計画したとしても、

 何か人の目に触れる段階で怪しむ人が出てもおかしくないほど完成度が高い。

 個人で造るにしては高すぎると感じるほどだ。


「こっから先はサーチ出来ないのか?」

『ここから別空間と言いますか、管理者がいる空間と言いますか・・』

「亜空間なのですか?」

『いえ、亜空間ではないのですが・・・。

 クーの干渉を弾いてしまいます』


 既知のダンジョンで外から中への干渉を試してないから、

 確実な情報源とはならない。

 結局中に入ってみないとわからないみたいだな。


「入りましょうか・・」

「そうですね。

 途中まで進んでから進退と諸々を決めましょう」

「念の為、足下を照らします。

 ダメージにはならないので気にせず降りて下さい」


 そう青年兵士へと伝えて、

 手の平を床へと向けてイメージのつまみを弄っていく。

 攻撃目的ではないので電流は最低にして、

 遠くまで照らす為に電圧を最高まで回しながら放出を開始する。


 手の平から無造作に放出された雷は、

 前方だけでなく後方にも床を走り抜け、

 先頭を歩く青年兵士の足下からその先まで照らし、

 後続のアルシェ達の足下も十分に照らしてくれる。


「お兄さん。ステータスが落ちても制御出来るんですか?」

「そうなんだよな。

 ステータスはマリエルと同じくらいまで下がってるんだけど、

 制御力は大して変わってないんだよ。

 おそらく訓練して経験を積んだ事で基礎力として馴染んだんだろうな」


 努力は裏切らないってのはこういうことで、

 身についていれば別の事でも応用して経験を生かせるって意味だが、

 今の俺の状態をゲームで表すなら、

 レベルの下がる床を踏みまくってレベルを下げたけど、

 武器の熟練度とか魔法の熟練度は保持したままって感じだ。


 しかし、ステータスの低下の影響はしっかりとあり、

 HPの上限が下がっていたり、

 魔法の威力が下がっていたり確かにしているけれど、

 常に鍛えてきた身体の体力が下がっているわけではない。

 基礎力の外にある・・・、

 システムサポートとも言うべき部分に影響が出ている。


「普通ステータスが低下するなんて事例は聞いたことありませんから。

 おそらくご主人様が世界で初めてでは?」

「嬉しくねぇ・・」

「わぁ~、触っても痛くないんですねぇ。

 リーダー、これどういう原理なんですか?」

「基本的には感覚での話になるんだけど、

 勇者の剣(くさかべ)で言えば鋭さを下げて射出速度を上げた感じ?」

「私まだ勇者の剣(くさかべ)使えないんですけど・・・」

「やったね、マリエル。覚えたらわかるぞ」


 青年兵士をおいてけぼりにして身内で雑談をしつつも、

 階下の先へと進み続けた。

 入り口の時点で階段の終点は実を言えば見えてはいた。

 段数で言えば50段以上100段未満の階段を降りきって、

 俺たちはようやく開けた場所へとたどり着いた。


「マリーブパリアの地下には迷宮が広がっていたとか?」

「そんな話は聞いたことがありませんよ。

 いつの間にこんな建築が進んでいたんだ・・・」

「でも、結構古い感じに風化した部分もありますよ?」

『ちょっとくさいね~』

『こうも明るいとクーのサーチに引っかからないのも頷けますね』


 階段下の広い空間は、

 入り口を縁取り階段を構成していたレンガと同じ材質で、

 レンガとは形の違う1つ1つが四角い石材で、

 床や壁や天井、視界に入るすべてを作り上げていた。

 俺の意見で言わせてもらえれば、遺跡・・と言って相違ないだろう。


「これは予想が当たったか?」

「そうですね。

 流石にこの町のギルドや駐在兵士が把握していない事から確定でしょう」

「お2方は何の話をされているんですか?」

「ここはおそらく、新しく出現したダンジョンなんです」

「え?ダンジョンですか?ダンジョンって元から存在するんじゃないんですか?」

「あれ?そんなにダンジョンの情報って無いのか?」

「当然です。

 各国が保有しているダンジョンはランクこそばらけていますが、

 およそ5~6個なんです。

 以前出現した物も60年前に火の国で出現したのが一番最近ですし」


 60年前ってアスペラルダ王も生まれていないくらい前じゃないか。

 そりゃ間がそこまで開くのであれば、

 ダンジョンが出現するものと言う話が廃れても仕方ないかな。

 どうせギルドで対処方法は確立していて、

 情報が入ってきたら王都へ連絡とかクエストを作成したりとか、

 マニュアルは完成していることだろう。


「ご主人様どういたしますか?」

「さてね、どうしましょうか?」

「申し訳ございません。

 本当にダンジョンという事であれば、

 本件は自分の裁量は超えてしまっていますので、

 我々は兵士長へ指示を仰がなければなりません」

「本来私たちが関わる必要のない件ですから、

 そちらの指示に従いはしますが、

 ギルドへの報告は必要になりますよ」

「え、あ、そうなんですか?よく知っていますね。

 一応、兵士長に報告した後にでもギルドへ報告しようかと思います」


 う~ん、駐在所で伺った話を鑑みると、

 その兵士長は自分の手柄として王都へと凱旋するだろうな。

 その場合、ギルドへの報告って多分「するな」って言われるだろうし、

 今のうちに確認だけでもしておいた方が良いことは指摘しとこう。


「夜まで時間もありますし、

 少し進んで夜の奴がいるかだけでも確認してみませんか?

 ここで確認できれば、確実性が上がると思いますけど」

「そう・・ですねぇ・・・・」


 はじめに会ったときの印象からどんどんと下がっていき、

 青年兵士に対する俺の評価は結構優柔不断なのかもと思い始めていた。

 その証拠に新しい展開が起こる度にそうですねぇ・・と口にしているし、

 悩む時間が長くなってきている。


「ギルドで対応するにしてもダンジョンのランクを判断する材料として、

 戦闘してみるのは有りだと思います」

「確かにいきなりダンジョンが出来たって言われても、

 情報がなければ対処のしようがないですもんね」

「モンスターの情報くらいは確保しておけば報告もまとめやすいですね」


 悩む青年兵士に向けてメリー、マリエル、アルシェから追撃が行われる。

 情報の大事さを自ら立証している彼女達は、

 俺の意見に賛成してくれるようだ。


「わかりました。

 では、1時間だけ探索をして情報を集めてみましょう。

 一度、上の仲間に報告と指示をしてきますので少々お待ち下さい」


 そう言って青年兵士は元来た階段を駆け戻っていった。


「さてと・・・」


 コンコンッ!

 つま先で床をタップしてエコーロケーションでサーチを行ってみる。

 この大部屋は四角い構造をしていて、

 各壁の中央には通路と思しき入り口が3つある。

 そのうちの1面は階段となっているわけで、

 通路の先には同じような大部屋がさらに広がっているようだ。


「何かわかりました?」

「はっきりとはわからんけど、

 同じような部屋が通路の先にあるみたいだ。

 流石にこの部屋みたいに何もないってことはなさそうだけどな」


 階段とか段差とか凝った構造の部屋になっているみたいで、

 敵だけでなく俺たちの死角も生まれてしまう。

 敵も意図せず隠れてしまう時が出来てしまいそうで、

 終始全方位を気にしなければならないと反射してきた音で予想した。


「基本的に揺蕩う唄(ウィルフラタ)で繋がっておいて、

 メリーとクーが部屋内の索敵で位置を伝えてくれ。

 遠距離の敵はアルシェが処理して近いのはマリエルと俺で対応する」

『「かしこまりました」』

「「わかりました」」

『あくあは~?』

『ニルもですわー!』

「アクアは俺とシンクロ状態で戦おう。

 落ちたステータスだと足手まといになりかねんからな。

 ニルは俺にくっついててくれ。

 魔法の指示はこっちから出すから少しずつ戦闘に慣れよう」

『あい~!』

『ですわー!』

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