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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第05章 -海風薫る町マリーブパリア編-
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†第5章† -02話-[情報・昼食・バイト]

 気が急くマリエルを抑えなだすかしながら、

 アルシェとアクアが待つギルドへと向かう。

 昼前に到着出来たし、一旦情報共有の為に昼ご飯を挟もうかな。


「姫様はどこですかっ!?」

「え~と、あ、いたいた。お~い!」


 アルシェは身長が年相応に低い為、

 冒険者や町民の波に埋もれてしまい、なかなか見つけられない。

 アクアが頭の上に乗っても足りないぐらいだけど、

 アクアの居る方向はなんとなくわかるから、

 そちら方面で探していると、人の隙間からアルシェを見つける事が出来た。

 あちらも俺の声に気がついたのか、杖を軽く掲げて位置をアピールする。


『ますたー、おそいよ~!』

「ごめんごめん、結局お昼まで掛かっちゃったな」


 近くまで寄ると、

 アクアがピューンと俺の胸元へ飛び込んで文句を垂れてくる。

 マリエルもすぐさまアルシェの隣へと飛んでいき、何事かを喋りかけている。


「私たちの立っていた位置は分かりづらかったですか?」

「いや、アルシェ達が小さいから周りに埋もれちゃって、

 上手く見つけられなかっただけだよ」

「これでも出会ってから少しは成長してるんですけどねぇ・・・」


 と言いつつ何故か胸元を手で押さえるアルシェ。

 いやいや、俺が言っているのは身長の話で、

 別に胸部装甲の話ではないんだが・・・。

 嘆くアルシェに釣られて、同じく・・・いや、さらに貧乳のマリエルと、

 貧乳というか無のアクアが真似て胸元へと手を当て始める。


「・・・はぁ」

『・・・はぁ!』


 心の底からの溜息をマリエルが吐き出す傍らで、

 胸元の手の意味を理解していないアクアは元気の良い溜息を吐く。

 これ以上このネタが続いても困る為、

 ちょっと強引ではあるが路線を変更させて頂こう。


「お前等はまだ13歳だろうが、今から気にしても大きくなるさ。

 それよりも丁度昼時だしお前等もお腹空いただろ?

 メリー達も一旦戻して昼食にしよう」

『わぁい!ごはんだ~!』

「そうですね。聞いた話のうち、お兄さんにも伝えておきたい事もありますし」

「私も師匠に連れ回されてお腹ぺこぺこですぅ」


 みんな概ね賛成のようだが、

 ひとり自分の立場を理解していない小生意気な小娘がいるので、

 軽口が漏れている小さい口を塞ぐべく、

 マリエルの口を片手で塞ぐと同時に軽くつまむようにして鳥類のような口にしてやる。


「お前の為だとわかって言ってるのかな?」

「ひゅみみゃひぇんっ!!」

『あはは~、まりーおもしろいかお~』

「お兄さん、人の多い道の往来で乙女にそんな面白い顔をさせないでください」

「はいはい」

「ひえ~。ひどい目に遭いましたぁ」


 アヒルのように変形した顔面は、

 アルシェの鶴の一声で修復された。

 当のマリエルは頬を両手でさすりながら泣き言を言っている。


「それにしても姫様ぁ、面白い顔ってひどいですよ」

「マリエルだってあの顔を見たら笑っちゃうと思うわ」

「・・・そんなにですか?」

「アクアちゃんは普段お兄さんに、

 人の身体的特徴で笑うなと叱られています。

 そのアクアちゃんが大笑いしても怒られない・・・意味がお分かり?」

「あ、もう静かにしてますね。私が悪いですね、はい」


 早めに軽口を閉じて黙らないと、どうなるかわからない。

 そうアルシェに優しく諭されてから、

 マリエルは真顔になってすぐに声のトーンも落として静かになる。

 とりあえず笑うアクアの口を優しく塞ぎ、

 先ほど立てた予定通りにメリーとクーに待ち合わせ場所を伝えると、

 さほど時間も掛けずに合流する事が出来た。



 * * * * *

 ぞろぞろと引き連れて到着した先は、

 この町の食堂という飯処が立ち並ぶ[食い意地通り]である。

 各店舗が独自の料理や名物料理の香りを店外へとわざと漏らしていて、

 とてもお腹を刺激する・・・んだけども・・・。


「風が吹きすぎて俺達の鼻に届く頃には、

 どの店の香りかわからんやん」

「常に風を感じられるのもフォレストトーレの特色のひとつですからね」

「香りが当てにならないなら店のお品書きを見るしかないか」


 とりあえず近くのお店に近寄っていくと、

 扉に一枚の紙が貼ってあるのがわかった。


「えっとぉ?先日始めました創作料理、

 キノコ3種のタンタラ炒めですが、

 注文されたお客様が帰られた先で次々と倒れられる事態が発生し、

 しばらくの間お店を休むことなりました?」

「営業停止じゃねぇか!」

「キノコはまだ安全な食材として確立しておりませんから、

 普通ならば使おうと思わないはずなのですが・・・」

「風の国は少々自由な国風ですから、

 気の向くままに料理を創ったり、国を移ろったり、

 職を変えたりと、まぁいろんな意味で行動を予想出来ないんです」


 メリーの言いづらそうな言葉を引き継いで、

 アルシェが補足を付け加える。

 地域病というか国病というか・・。

 韓国で言う火病みたいなものなのかな。


『普段売り出されている食材は安全性が判明している物なんですが、

 キノコや自然界で採れる食材は調査員の少なさもあって、

 なかなか進歩が見られないんだそうです』


 クー曰く、

 魔物の調査であれば冒険者が体を張れば済む話だし、

 人数も多くいるから割と簡単に調査が出来るが、

 食材に関しては、実際に口にしての確認が必要な為、

 毒によってはそのまま死んでしまう事もあるらしい。

 そうなると年々調査員になる人も数が少なくなっていき、

 必然的に食文化の発達に歯止めを掛けているらしい。


 実験用モルモットという文化もないのか。

 こういう話であれば俺の世界の人間なら一番に思いつく方法だろうに。

 とはいえ、調査員が少ない代わりに新しい安全な食材を発見すれば、

 莫大な給料が舞い込むみたいだ。


『なんか、アスペラルダでかいだにおいがするよ~』


 アクアが気がついた匂いに集中すると、

 確かにアスペラルダでよく嗅いでいた料理の香りがする。

 どうやら、3件向こうの青い建物から香ってきているみたいで、

 いままで食べてきたと言う事も有り、

 先入観から安全性を考慮しなくてもいいと勝手に判断。

 ぞろぞろと近寄っていくと、

 外にはお品書きが書いてある立て札が置いてあった。

 俺達の口はすでにアスペラルダ料理を食べる準備を進めていたが。


「たっか・・・」

「料理名は確かに知っている物ばかりなんですけど・・・」

「私が食べた事がない料理もありますねぇ。

 でも、なんでこんなに高いんでしょう?」

『実は他にも他国の料理を出しているお店があるんですけど、

 フォレストトーレ国内では採れない食材を使う事も多くて、

 その輸入関連で金額が嵩んでしまうらしいんです』

「なんで採れる物が変わるんですか?」

「マリエル、なんで俺に聞くんだ?」

「何か心当たりがあるかなぁって思いまして」


 心当たり所どころか常識的な知識で考えれば、

 これしか知らないってのはある。


「たぶんだけど、環境と季節の違いかな。

 アスペラルダは湿度も高い国だったけど、

 フォレストトーレは逆に乾燥気味の国だから、

 野菜にしても動物にしても健康に育つ環境ってのがあるんだ」

「もし、適応出来ない環境で育てた場合はどうなりますか?」


 国の食文化にも関わるからか、

 ちょっと喰い気味に聞いてくるアルシェに、

 素人程度の知識でしかないけれど知らないよりはマシかと思い、

 知っている事は伝えることにした。


「生き物には適応力というものがあって、

 動物にも魚にも植物にももちろんある。

 それは寒さに強かったり暑さに強かったり、

 水があまり必要なかったり色々とあるんだけど、

 適応出来なかった場合は病気になりやすいし、最悪死んでしまう。

 植物に関してはマリエルの方が詳しいだろうから、

 興味があれば聞いてみると良い」

「わかりました」

「あと、適応力は当然俺達にも存在するからな。

 体調に不調を感じたら遠慮無く言うんだぞ。

 お前達もな」

「あ、はい。わかりました」

「もし不調が出ればお伝えいたします」


 この半年体調不良にならなかったのは、

 単に運が良かっただけだと思えるくらいに健康状態が続いていた。

 でも、国を超えて環境が変わった事もあり、

 これからは体調にも気を配っていかないといけない。


『クー達もですか?』

「そうだぞ。もし体に自分でもよくわからない感覚を覚えたらちゃんと言えよ」

『はい、お父さま。ちゃんと言いますね』

『あくあもいうね~』


 手を上げて宣誓する娘達の頭を交互になでて、

 アルシェにこれでいいかと目を向けると、

 コクンと頷いてくれた。


「植物に関してはマリエルから教えてもらう事にしますね」

「そうしてくれ。植物にストレスがあるのかも俺は知らんからな」

「時間がある時にでもお教えいたしますね」


 しかし、改めてお品書きをみてもアスペラルダで食べた値段と段違いすぎる。

 食べたいには食べたいという思いはあるんだが、

 1回の食事で出すにはちょっと勇気がいる。


「ざっとアスペラルダの6倍くらいか・・・」

「先ほどのクーデルカ様の説明を補足いたしますと、

 輸入費に加えて届くまでに鮮度が落ちた食材費も加味されていると思われます」

「それは店側の責任で客に求める物じゃなくないか?」

「私たちであれば高いと思っても、

 この国の方々にとっては高くても需要があるということかと」


 元から腐ってしまった食材分も計算された店舗経営しているってことか。

 自分の欲求に素直なフォレストトーレでないと、

 経営することすら難しいその方針を採用したのか・・・。

 店舗経営した事がないからか理解は出来ないけれど、

 そういった世界があるという勉強にはなった。


「とにかく、この店はパスだな。次の店を見てみよう」

『ごーごー!』



 * * * * *

 結局、どこの食堂も世間的には、

 安全性が確立されていない食材を使われていたり、

 値段設定が安すぎたり高すぎたりと不安要素だらけだった。


「無駄足 OF 無駄足」

「思っていた以上にフォレストトーレの国風は厄介でしたね」

「お腹ぺこぺこですよぉ~」


 最終的に辿り着いたのは冒険者向けの食堂として解放してある、

 食堂[カンパレスト]へと腰を落ち着ける運びとなり、

 扉を開きながらぼやきが漏れた。


『挑戦的というか無謀というか。

 料理だけを見てもいろんな方面に自由という事がわかりましたね』

「聞いていた話よりも凄まじかったのは確かですが・・・」

『ごはん、はやくたべよ~よ~』


 店内に入ると流石は冒険者向け食堂だ。

 満席とまでは言わないが、十分な席が冒険者で埋まっており、

 中にはギルド職員の姿もあった。

 俺の世界では入り口付近で待っていれば店員が飛んできて、

 席に案内してもらう事になる。

 まぁ、時々勝手に座るお客さんもいるけど、

 あの行動を恥ずかしいと思わない彼らの神経は一体どうなっているのやら・・。


 だが残念な事にこの異世界の食堂は、

 基本的に店員さんが案内しない為、

 空いている席に勝手に座らないといけない。

 片付けが済んでいる席であればどこでもいいので、

 ざっと見回してコップが逆さまに置いてあるテーブルへと向かう。


 5人席でひとつ余ってしまうが、

 とりあえず座って落ち着きたかったという事でさっさと座ってしまう。

 すぐさまメリーがテーブルに置かれていた水差しを手に取るが・・。


「・・冷えておりませんがどういたしますか?」

「店員に言うまでもないだろ。

 アルシェ、適度に冷やしてくれるか?」

「はーい」

「申し訳ございませんアルシェ様。

 お手を煩わせてしまいまして」

「メリーの失態というわけでもないですし、

 気にしないでください」


 アルシェが水差しに触れると表面に霜が発生し、

 容器の温度が下がった事がわかる。

 改めて冷えた水がみんなのコップに次々と注がれていき、

 ようやく一息つけた気がする。


「いらっしゃいませ。お子様用の椅子をご用意したしましょうか?」

「お願いします」

『あくあこのままでもいいよ~?』

『あ、クーもこのままでも・・・』

「俺が食べづらいでしょうが」


 冒険者向けの食堂で、専用の食堂ではない為、

 子供客が来ないわけではない。

 店員の女性の声かけに答えると、

 膝上に乗っている2人から抗議の声が上がった。

 これが床に座るタイプの食事処ならばこのままでもいいが、

 椅子に座るタイプなのでこの娘達の座高では、

 テーブルから頭が出ている程度の高さとなって、

 お互いが食べるのに難儀するのだ。


「どちらに置かれますか?」

『ここ!』

『こちらにお願いします』

「かしこまりました」


 結局俺の両隣に鎮座召しました娘たちを見届けてから、

 注文へと入る。

 とはいえ、フロアに2人と厨房に1人という状況から考えるに。


「ランチセット6人前に致しますか?」


 ですよね~。

 料理を選んだり出来る余裕が店側にあるとは思えなかったが、

 予想通りに決まった料理をセットで提供するお店らしい。


「いや、5人前と小皿をいくつかもらえますか?」

「かしこまりました。こちら前払い制になっておりますので、

 お支払い頂いても宜しいでしょうか?」

「わかりました、俺の支払いは3人分でお願いします」

「いつもマリエルの分はお兄さんが払っているじゃないですか。

 今回は私が払いますよ?」

「・・・」


 ちらりとマリエルを見やると、

 居心地悪そうにそわそわモジモジとしている。

 文無しで武器から食事からと仲間に加わってからいままで掛かったお金は、

 全て俺持ちであるため、

 今回の食事代をアルシェが出すと言っても、

 マリエルの申し訳なさに拍車を掛けるだけになってしまう。


「出世払い・・えっと、ダンジョンで稼げるようになったら返させるから、

 とりあえずしばらくは俺の方で支払っておくよ。

 アルシェにまで借金があるのはマリエルが可哀想だろ?」

「あ・・・そういうことですか。わかりました」

「じゃあ3人分で」

「かしこまりました」

「師匠・・・ありがとうございました」

「気にするな。ちゃんと返してくれよ?」

「はい、絶対にお返しします」


 全員の支払いが彼女の持つギルドカードに納められた。

 冒険者のカードと色違いの飲食店経営用だ。

 おつりが発生しないという部分を考えればこれってICカードなんだよね。

 ここだけ最先端ってすげぇーな異世界。


「ありがとうございます。お支払いは完了いたしましたので、

 料理が届くまでしばらくおまちください。

 それと、お聞きしたいのですが、お客様は全員冒険者なのですか?」

「まぁ、そうといえばそうですけど・・・?」

「実はお昼のこの時間は今からすごく混むのですが、

 人手が最近減ってしまって従業員を募集しているんですが、

 もし滞在中にお時間があるのであれば・・・働いてみませんか?」


 つまり、超短期のバイト募集をしているってことかな?


「それはフロアですか?」

「えぇ、そうです。

 お給料も色を付けて出しますし、

 出来ればそちらのお2人が来てくだされば助かるのですが・・・」

「昼だけでいいんですか?」

「はい、11時から14時までの3時間だけで大丈夫です」


 それだけならマリエルもお金が稼げるし、

 彼女達の経験にもなる一石二鳥な話ではある。


「料理が来るまで待って頂いても良いですか?」

「ありがとうございます。では、検討よろしくおねがいしますね」


 無意識なのか両隣の精霊たちが俺の裾を握っているのを感じながら、

 目下バイト戦士になるチャンスが巡ってきた2人に視線を向ける。


「というわけで、ここで滞在中に仕事しないかと話を頂いた。

 もし、やってみたいならやってもいいぞ」

「まぁ、興味はありますが・・・」

「マリエルはお金もないし、

 お小遣い稼ぎと考えれば悪くない話だと思う」

「それはそうですけど、ここって接客仕事ですよね?

 私そんな事やったことないですけど・・・」

「初めは皆素人だったという名言もある」

「それはご主人様の世界の名言かと」


 メリーの突っ込みを無視して話を続ける。

 俺としては疲れすぎないたった3時間の仕事が出来るという部分に魅力を感じている。


「初めてのことだから戸惑うとは思うが、

 ちゃんと仕事内容は教えてくれるだろうし、

 俺はお前たちにいろんな事を経験して欲しいと思っている。

 せっかく城と島を出たんだ。やってみるといい」

「・・・お兄さんがそこまでいうならやってみてもいいです。

 1人なら流石に断りましたけど、マリエルもいるなら心強いですし」

「私も・・・ちょっと怖いですけど2人ならやってみようと思います」


 とりあえず話はまとまり、

 今ここに2人のバイト戦士が誕生した!


「俺達の食事後に忙しくなるらしいから、

 ちょっと様子を見てから店を出ようか」

「わかりました」



 * * * * *

 料理を持ってきてくれた店員さんに話を受ける旨を伝え、

 さっそく明日から出向する運びとなった。

 サービスとしてデザートを出してくれるらしいので、

 今から楽しみである。


「じゃあ集まった話を聞きながらご飯を食べようか」

「「「いただきます」」」

『『いただきます』』


 癖というか習慣で食事前にいただきますと口にしていたら、

 いつの間にかこいつらも真似をするようになっていた。

 まぁ、内容としても感謝を捧げるという部分は一緒だしいいのかもしれない。


「まずは私とクーデルカ様の報告から致します」

「頼む」

「現在私たちがいるこの町は、

 夜になると人成らざる者が歩き回っているようで、

 数日前から起こり始めた当案件を受けて、

 夜の外出は控えるようにと町長から指示があったそうです」

『元々夜は外出が少なかったので、

 最近はめっきり人の姿を見ないとの事です』

「俺昨日外に出たけど、そんな奴に遭遇しなかったぞ?」

「まだ噂レベルですが、

 居てもおかしくない証拠も出始めているそうです。

 ご主人様も外出を続けられるのであればお気を付けください」


 夜の町にのみ出現する人成らざる者か・・・。

 基本的に外からは門番がいて入る事は出来ないから、

 すでに内側に入り込んでいて夜になると徘徊を始めると言う事だろうか?

 今夜にでも調査を始めてみよう。


「わかった。他にはあるか?」

「フォレストトーレから来る冒険者や商人の一部の様子がおかしいようです」

「どうおかしいんだ?」

「はい。パーティのうち1人が呆けたような表情をしており、

 しかし会話や行動はしっかりとしていると」

『お仲間も心配している様子なのですが、

 何がその人に起こっているのかはわかっていないらしいです』

「頻度はどんなもんだ?」

「5分の1程度です」

「・・・・それって多すぎませんか?」


 途中でアルシェが口を挟んで来るくらい、確かに多すぎる。

 王都にいる冒険者とはこの町よりも遙かに多いので、

 5分の1で様子がおかしくなるのは確実に何かが起こっている証拠だ。

 精神的な病かもしくは魔神族関連か・・・。


「その呆けた冒険者はいまこの町に居るのか?」

「数組来ていると確認しておりますが、居場所と名前は不明です」

「それは私が聞いているので大丈夫です」


 ギルドで情報収集していたアルシェが挙手して口添えする。

 ならば町を出て行く前に接触してみる以外の手はないな。


「他にあるか?」

「午前中はこの程度でした」

「そうか。ありがとう2人とも。

 次にアルシェ、頼む」

「はい、先に冒険者の情報をお伝えしますね。

 現在3組の冒険者が異常を来して居まして、

 名前がペルク、サモエド、マキニーズ。

 いずれもパーティのリーダーを務めている人物です」

「リーダーだけ・・・病気は調べたか?」

「さぁ?そこまでは・・・」

『そちらはクー達が調べました。

 病気が流行っていてその状況になっているわけではないようです』


 2組の情報を聞いて少しずつ穴埋め作業を進める。

 病気が流行っているわけではないが、

 冒険者や商人の5分の1が異常を訴えており、

 症状が出ているのは全員リーダー・・・。

 いまはまだわからんな。近いうちにアルシェを伴って会いに行ってみよう。


「次だ」

「勇者様は聖剣を受け取られた後もずっと神聖教国にいらっしゃるようです」

「え?今までの事を考えればもう移動してるもんだとばかり思ってたけど」

「そうなんですよね。

 なんで移動していないのかは不明なのですが、

 聖女様がいらっしゃる国なので私たちの知らない何かがあるのかもしれません」

「聖女ねぇ・・・予言をした人だよね?」

「その通りです。その聖女様からお兄さんに伝言があります」

「は?」


 なんでそんなお偉さんがいち冒険者の俺に伝言があるんだよ!

 そもそも俺の存在を知っているはずがないのに・・・、

 あっ!予言ってことは未来予知でもしたのか?


「近いうちに教国のシャントール大聖堂へお越しくださいとの事です」

「近いうちかぁ・・・。

 神聖教国って土の国の真逆の位置にあったよな?」

「その通りです」

「なら、後回しだな。

 俺は先にノイを迎えに行きたい」

「お兄さんならそう言うと思っていました。

 期限などは定められていませんから、

 ノイちゃんを迎えに行ってから戻ればいいですかね」

「またエクソダスをこっちに残しておいて、

 戻ってくれば良いだろ」


 とはいえ、俺達はまだ風の国に到着したばかりなので、

 それこそアスペラルダを鑑みればまた半年くらい掛かるんじゃないかと思う。

 聖女様に会えるのはいつになる事やら。

 異世界人ってことで何か話があるのかもしれないけれど、

 勇者と共に戦ってとか言われても俺にはそんな事出来ないぞ。


『くー、そのおにくもらってもいい?』

『いいですよ。代わりにお姉さまのお野菜をもらっていいですか?』

『いいよ~』


 アルシェにはアクアも付いていったはずなのに、

 この報告の間ずっと食べ続けていた。

 護衛としてアルシェと行動しているから良いものの、

 他にも自立というか自発的に何か出来るようになって欲しいと思う部分がある。


『な~に?』

「・・・俺のも喰うか?」

『たべる~!』


 でも言えないんだなぁこれが。

 この天真爛漫な姿を見ながらだと、

 つい甘い態度を取ってしまうのは悪い事だとわかっているのに、

 アクアにはあまり強く自立しろって言葉を投げる事が出来ない。

 城では色々と勉強もしていたみたいだし、

 しばらくは様子を見た方がいいのかもな。

 ゲームで言うと、

 そろそろ止めなさい→セーブしようとしていたところ!

 ってなりそうで俺も経験者だから嫌になるしね。


「私もこれで以上となります。

 午前中だけだったとはいえ、結構良い話が聞けたと思いますね」

「確かにな、メリー達と補完しあえたのは良かった。

 午後からは俺達も収集に参加するけど、

 出来れば夜の件を詳しく集めて欲しい」

『「かしこまりました」』

「「わかりました」」

『あい~』



 * * * * *

 食事も終えて周囲を見回してみれば、

 すでに満席となっており、

 なるほど2人だけではフロアは回らないのも納得であった。

 メニューがランチセットのみに限定しているとはいえ、

 座った全員が注文するかは聞いてみないとわからないので、

 勝手に人数分を持って行くわけにもいかない。


「これは大変そうですね、姫様」

「私に出来るか不安になりますね」


 この戦場を見て若干気が引けている様子の2人。

 まぁ、この時間を過ぎればかなり暇になるのが食堂という場所だ。

 修羅場タイムに入ってから2時間は過ぎている為、

 あと1時間程度で終了する計算になる。


「2人は前日勉強の為に見ておくと良い。

 メリーとクーは情報収集に戻ってくれ」

「かしこまりました」

『また夜に』


 立ち去る2人を見送り、

 残ったのは不安そうな13歳2人とおっさん1人と精霊1人だ。

 とりあえず、俺が残る意味も無いんだけど、

 このまま用事もなく残り続けるのは居心地が悪いので、

 フロアの仕事でも手伝ってみようかな。

 俺が働く姿を見れば若人も多少持ち直せるかも知れない。


「ちょっと手伝ってくるから、アクアと一緒に座って待っててくれ」

「え?あ、はい」

「いってらっしゃい・・・」

『がんばって~』


 状況に飲まれて返事が危うい感じではあるが、

 アクアも付いているし放置しておこう。

 立ち上がって丁度注文票をキッチンに差し出す店員さんに声を掛ける。


「すみません、経験はあるので注文を取るだけでもお手伝いしましょうか?」

「え、えっとぉ・・・店長っ!」


 俺が声を掛けたのは先ほど話を振ってきた女性ではなく、

 もう1人のフロア担当の女性であったので、

 戸惑い気味にキッチンにて料理を作る店長へと助けを求めた。


「おう、どうした!」

「このお客様が手伝っても良いと言ってるんですけど、

 どうすればいいですか?」

「何が出来るっ?」

「席の番号とか教えてもらえれば注文は取れます」

「なら、一丁制服があるから着替えてもらってもいいかっ?」

「わかりました」

「そっちの扉を開いた先に掛けてある男性用制服を着てくれ。

 戻ったらどっちでもいいから席番号教えてやってくれっ!」

「は、はい。わかりました!」


 俺は案内された扉へすぐさま駆け込む。

 入った先の部屋は小さい着替えスペースの用で、

 内側から鍵も掛けられるようになっていた。

 そして、壁に掛けてある服の一着に男性用の制服を発見して、

 急いで着替えを済ませる。


 フロアへ出るとまったく減っていない満席状態であり、

 丁度伝票をキッチンに渡しに来た女性へと声を掛ける。


「席番号を教えてもらってもいいですか?」

「あぁ、さっきの。お嬢さんじゃなくて貴方が働くのは予想外でした」

「まぁ、今日だけですけどね。明日からはあの2人をお貸しします」

「わかりました、よろしくお願いします。

 席番号はキッチンから見て左奥から手前に順番になっていて、

 4まで来たら次の列の奥から5と続きます」

「はい」

「これが伝票ですけど、今渡した伝票で注文は一旦終わりになります」

「全員取り終えたんですね。じゃあ配膳もします」

「トレイの扱い方はわかりますか?」


 サービス業が天職だと思っている俺をなめてもらっちゃ困りますな!


「手空きの時は腋に挟んで、重い料理を中心に」

「完璧です!じゃあよろしくおねがいします」

「はい、よろこんで!」

「お~い!追加したいんだけどぉ~!」

「はい、ただいまお伺いいたします!」


 こうして、俺のバイトが始まった。

 彼女たちの大変さを理解しているが為に助けたいという気持ちもあったが、

 一番大きいのは身内の2人に良い刺激と経験になると見て知って、

 見聞を広めてもらいたかったから。

 働いてみないとその人達の苦労など理解出来ない。

 アルシェなどはいずれ王女となるだろうし、

 下々の者の働きを理解しておいて損はないからな。


「大変お待たせいたしました。ご注文をどうぞ」

「このサラダをもう2つ追加したんだけど」


 渡してもらった伝票の下側に各料理の単品料金が記載されている。

 これを確認して伝票と共に渡された飲食店用ギルドカードで支払ってもらう。


「お2つで160Gになります」

「はいよ」


 男性冒険者から支払いを受け取って、

 伝票に席番号と注文内容を書き込んでキッチンへと千切り渡す。

 内容についても出している料理が一緒と言う事も有り、

 サラダとか肉料理とかスープなど簡単な書き方でもいいらしいのは助かった。

 これならアルシェとマリエルにも出来るだろう。


「4番に頼む」

「はい」


 料理を受け取るキッチンとフロアを跨ぐ広いカウンターにトレイを置き、

 出された料理を1品ずつバランスを考えながら乗せていく。

 主食となる肉料理が乗ったお皿は大きくて流石に乗り切らないので、

 トレイを左手に持ち主食皿を右手で持ち上げて席へと進む。

 幸い通路は広めに作られているし、

 冒険者も動き回らないのでさっさと歩いていっても危ない事に繋がらない。


「大変お待たせいたしました。ランチセットでございます。

 お次もすぐお持ちいたしますので、もう少々お待ちください」

「腹減ってるから早めに頼むぜ」

「かしこまりました」


 振り返ると丁度1人が料理を持ち上げたところで、

 すぐに次が出てくる事はなさそうだ。

 もう1人の女性を探すと、席がいつの間にか空いており、

 テーブルの上を片付けいるところだった。

 テーブルの傍らにはトレイに空になった食器をまとめていて、

 彼女は布巾で綺麗に拭き上げている。


「これ持って行きます」

「あ、ありがとうございます」


 俺のトレイを彼女に渡して、

 彼女の食器乗せトレイを俺が下げていく。

 一定の量が貯まるまでは洗わずに水につけておいて、

 30分毎に誰かが一気に洗ってしまうようだ。


 それにしてもキッチンが結構厳しいんじゃないかと思うんだけど、

 ずっとこんな感じで店を回していたからか手順や手際が洗練されていた。

 これぞ職人って感じがして俺は好きだな。

 こんな感じでお昼の1時間は過ぎていった。

いつもお読みいただきありがとうございます

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