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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
閑話休題 -アスペラルダ国境道~関所~フォレストトーレ国境道-
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閑話休題 -11話-[ハイラード共同牧場Ⅰ]

 関所から道中に魔物と遭遇することもなく牧場近くまで到着した。

 しかし、あと少しで牧場という所で違和感を感じて足を止めた。


「ちょっと待て」

「お兄さん、どうしました?」


 なんだろうか?

 確かに何か引っかかる要素があったはず・・・。


 ・・・・・っ!・・っ!・・・・・っ!


「獣っぽい唸り声が微かに牧場方向から聞こえた!

 全員戦闘準備しろっ!」


 抱えるメイフェルが少しビクつき、俺の服をぎゅっと握り込む。

 急ぎ牧場まで全員を引率して声が聞こえる方へと進むと、

 牧場が見えて来た頃には全員に聞こえる程に近付いていた。


「確かに何か鳴き声?と、どなたかの声が聞こえますねっ!」

「師匠はよく聞こえましたよね」

「時々、風の制御で集音しているからなっ!」

「ご主人様、範囲としてはどの程度なのでしょうか?」

「だいたい50m前後を微かにって所だな!

 そろそろ見えるはずだぞ!」

『いた~!』

『何か黒い生き物が数匹牧場を走り回っています!』


 少し高い位置から索敵させていたアクアが発見。

 すぐに俺達にも牧場の現状が確認出来た。


「あれはブルププクじゃないぞっ!?

 確か群れで動くランク1の魔物だったか!?」

「はい、あれはハイイヌの群れでございます。

 普段はこの辺では見かけない魔物のはずですが・・」

『なかにはいってる~!』


 ハイイヌの群れは牧場の柵の中に入り込み、

 牧場で飼育している動物を追いかけ回していた。

 すでに内部の所々には喰い殺された動物の死体がいくつか出来上がっている。


「食べる分だけ殺すって教わらないのかよっ!

 メリーはクーとメイフェルを連れてクシャトラさんの仲間の所へ行ってくれ!」

「かしこまりました」

『お気を付けて!』

「・・・(ギュッ)」


 ここからは流石にメイフェルを連れたままでは危険なので、

 メリーとクーに護送を引き継ぎ、牧場の住民の安否もお願いする。

 しかし、2人はともかくメイフェルはすんなり納得をしてくれず、

 俺の服をなおさら握り込んでしまう。


「メイフェル、いまから君の家族を守る為に戦ってくる。

 でも危険だからメイフェルを連れてはいけないんだ。

 わかるか?」

「・・・(コクリ)」

「君の家族も不安なんだ。

 メイフェルの顔を見せて安心させてあげて欲しい、いいか?」

「・・・(コクリ)」

「ありがとう・・」


 ゆっくりと手を離してくれたメイフェルに感謝を伝えて頭を撫でる。

 立ち上がって群れに目を向ければ制御で拾った音声だけでは把握出来なかった頭数がいる事がわかる。


「いけ!

 俺達はハイイヌの注意をこちらへ向ける。

 アルシェは追われている動物を守りながら戦ってくれ!」

「はい!」


 指を輪っかにしながら口元へと持って行く。


『あくあは~?』

「アクアはマリエルのサポートに回ってくれ!

 ランク1なら何度か攻撃を受けても耐えられるだろうから、

 都度回復しつつ守ってやれ!」

『あい!』

「よろしくお願いします、アクアちゃん」


 息を吸い込み、舌を丸める。

 舌の上に輪を乗せて息を吹き込めば、

 笛の音が牧場に響き渡る。


 ピィィィィーウィッ!!

 ピィィィィー!ピィィィィーウィ!!

 風の制御も重ねて多少何もしないよりは、

 笛の音を響かせて多くのハイイヌの注意を引く。


「なんですか今の!?」

「隊長、すごい声で鳴くんですね(笑)」

「んなわけねぇだろうが・・・、正面は俺たちで片付ける!

 アルシェも動物のところへ行け!」

「は、はいっ!」

「野生の動物と一緒だから、

 甘く見てると痛い目を見るからな!確実に殺せよ!」

「わかりました!」


 ピューッとアルシェが動物の救出に向かうのを見届け、

 マリエルとアクアを引き連れてこちらへ向かってくるハイイヌの対処に移る。


「奴らは弱そうな獲物から狙ってくるから、

 おそらくアクアを目指して襲ってくる。

 大半は俺が対処するが、

 マリエルもアクアも守られるだけじゃなくてしっかり守ってくれ」

「わかりました!」

「よし、じゃあ行くか・・・」


 ピィィィィーウィッ!!

 再度、笛を吹きながらインベントリからカットラスを取り出す。

 まさか異世界で犬を相手に戦うとは思わなかったなぁと考えながら、

 横を通り過ぎようとするハイイヌの首を斬り落としながら、

 体は邪魔にならないように蹴り飛ばす。

 カットラスの特殊効果のクイック+2のおかげも有り、

 横を通り過ぎるハイイヌの数も制限をかけることが出来た。


『こうげきいる?』

「大丈夫です!行きますよ!」

『あい!』


 マリエルの頭に乗っかるアクアを狙って襲いかかるハイイヌは合計3匹。

 宗八(そうはち)が頭数の大半を処理しているが、

 それなりの速さもあって高さも低い敵が3匹はさすがに厳しいかと思われたが・・・。


「メリーさんより遅いですっ!」


 牙を剥き出しで我先にと飛びかかってきた1匹目を、

 しっかりと目で捉えて顎を打ち抜くマリエル。

 キャインッ!と犬らしい悲鳴を上げながら叩き落とされた仲間に目もくれず2匹目、3匹目が続けて飛びかかってきた。


「くっ・・!い・・・たいけど、リーダーの攻撃の方が痛かった!

 斧嶽(ふがく)!」


 2匹目の対処までは間に合ったが、

 3匹目の爪がマリエルを引き裂く。

 痛みに耐えながらも膝蹴りで空へ打ち上げてから、

 追随して踵落としで2匹目の上にわざと蹴り落とす。


『かいふくするね~。《ひーるうぉーたー》』

「ありがとうございます、アクアちゃん」



 * * * * *

 総勢60匹近くが広大な牧場内に侵入しており、

 指笛に反応してきたハイイヌが駆け寄って来た方向へ掃討に向かう。

 途中から牧場の人達と協力をして、

 動物を舎へ戻し、アルシェとメリーとクーの3人も掃討に参加して、

 40分程度の時間を費やして数を減らしていった。

 その後は20分ほど掛けて死体を一カ所に集めてきった。


「とりあえずはこんなものか?」

「長かったです・・・」

「ダンジョンに入ったらこんなものじゃないんだからね?」

「皆様、お疲れ様でした。

 ご主人様、牧場主の方々がお待ちです」

「はいはい、じゃあ案内してくれ。

 そういえば、安全は確保出来てるんだよな?」

『はい、こういった事態に備えて人の住む建物は、

 獣が近寄れないように作られているとの事です』

「わかった」


 メリーの案内で牧場内に建つ建物の1つへ近付いていくと、

 鉄格子で囲まれた建物が見えてくる。


「獣が近寄れないってこういうことか・・・。

 そういえば、魔物ってことは魔石があるのか?」

「はい。ハイイヌは前方の尖った歯が魔石とのことです。

 私の方で回収しておきましょうか?」

「そうだな、回収しておくか」

「かしこまりました、ご主人様」


 メリーだけが引き返していき、

 俺達は牧場主達が待つ建物に近付いていく。

 窓からは知らない子供達と大人がこちらを見守る中、

 ドアが突然開き、メイフェルが俺とクーに向かって駆け寄ってくる。


 ポテポテと可愛らしい足音が聞こえてきそうな駆け足で寄ってきた幼女を抱き留める。


「・・・っ!(ギュギュッ)」


 俺とクーをしっかと掴むメイフェルをそのまま抱きかかえて、

 建物へとさらに近付いていくと、大人達もぞろぞろと外へと出てきた。

「今回は助けて頂きありがとうございました。

 話はメイドさんから聞かせて頂きました。

 クシャトラさんのお知り合いということですよね?

 あ、私はフラクル農園の管理をしてます、エンハネと申します」

「どうも、冒険者をしています水無月(みなづき)と言います。

 こちらはアルカンシェ、こっちがマリエルです」

「ご無事で良かったです」

「災難でしたね、あとで畑も一緒に見に行きましょう」


 代表として名を上げたのは40歳くらいの男性であった。

 しかし流石はマリエル。

 畑仕事をした経験から人だけでなく、畑の被害も気にしているようだ。

 続けて精霊たちが挨拶をする。


『アクアーリィです』

『クーデルカです』

「お嬢さん方、ご丁寧にありがとう。

 それで魔物たちはどうなりましたか?」

「牧場内にいた群れは倒しましたが、

 外にまだいる可能性はあります」

「そうですか。

 とにかく助かりました、ありがとうございます。

 皆様は数日お泊まりになるとメイドさんから聞いていますが、

 何日ほどお泊まりになられますか?」

「2~3日泊まらせて頂ければと思っています。

 その間にブルププクをこちらの都合で討伐する予定です」

「わかりました。

 宿泊の間の食事はお客様自身で作って頂く事になっているのですが、

 大丈夫でしょうか?」

「問題ありません」


 普段から調理も自分たちで分担しているから、

 別にその程度であれば大した負担もない。

 これが一人暮らしでPCやゲーム依存をしていた場合は、

 丁重にお断りしてご飯の用意をお願いしているところだ。


「では、今回のお礼として宿泊費と毎食の食材はこちらでご用意いたします。

 それとも別の物がよろしいですか?」

「いえ、こちらこそ助かります。

 2~3日ですがよろしくおねがいします」

「いえ、こちらこそよろしくおねがいします」


 こうして牧場での宿泊が無事に決まり、

 和やかな空気に変わった事を感じたのか、

 子供達も家の中からぞろぞろと出てきた。

 孤児が数人いるとは聞いていたが合計で8人もおり、

 メイフェルのような獣人から人族と様々だ。


「一旦、宿泊先に物を置いてから牧場内の見学をしてもいいですか?」

「かまいませんが、すぐに仕事を再開出来ないと思います」

「あぁ、補修とか被害の確認があるんですかね?

 なら、俺達も手伝いますよ」

「それは助かります。

 今夜の食材は奮発しますので、ぜひお願いしたい」

「わかりました」

「師匠、私は先に農園に行っててもいいですか?」

「そうだな・・・、エンハネさん。この子を連れて行ってもらえますか?

 護衛としても多少腕も立ちますので」

「はい、かまいませんよ。よろしくおねがいします」

「さっそく行きましょう!」


 それほどに畑の様子が気になるのか、

 気が急いているのが丸わかりのマリエルに急かされて、

 話もそこそこに切り上げることにする。

 牧場主達もそれぞれが担当する分野の作業を分担して、

 牧場内のチェックと補修、片付けを子供達と共に行うという。

 メイフェルはそのまま俺達を宿泊施設へ案内をしてくれるらしい。


「マリエル、また後でね」

「はい、また後でお会いしましょう」

「マリエル、気をつけて行けよ」

「わかってますよ~」



 * * * * *

 案内された宿泊施設は合宿とかで利用しそうな作りで、

 寝食をする小屋が5つ用意され、

 外には簡単な調理場が屋根付きで作られていた。

 所謂ひとつのコテージというかペンションというか・・・。


「わぁ~、外に家があるって不思議な光景ですね!」

『けっこうひろいね~!』

「・・・(クイクイ)」

「あっちの小屋か?」

「・・・(コクコク)」

『言葉がなくても意外と会話って出来るものですね』

「意思を伝えられれば問題ないからな。

 言ってしまえばこういうシグナルでも会話は出来る」


 手を振ってハンドシグナルの存在を教える。

 とはいえ、いずれ沈黙とかのデバフになっても俺達は、

 精霊を通して念話が可能だから必要はないかな。


 案内された小屋内に一旦影倉庫(シャドーインベントリ)から荷物を取り出して、

 クーの負担を軽減する。


『お父さま、この袋に魔物の牙が入っています』

「じゃあ、メリーの作業が終わったのかな?

 念話でメリーをここに呼んでくれ」

『わかりました』


 念話後、すぐに合流してきたメリーも引き連れて、

 牧場主がいる場所へそれぞれが向かう。

 マリエルはそのままフラクル農園から続投して他の畑も見に行き、

 俺は柵などの壊れた部分の補修、

 アルシェとアクアは鶏小屋、メリーとクーは牧場の方とハイイヌの死体の片付けに向かった。

 他の動物の羊っぽい奴と牛っぽい奴の所へは、

 牧場で暮らしている子供達が向かって牧場主達を手助けする。


 広い牧場のどこから侵入してきたのか。

 逃げて外に出た家畜が居ないかを、

 牧場主の1人であるトーマーズさんと確認しつつ補修して回る。


「そうだ。トーマーズさん、これ渡しておきますね」

「え?何ですかこの袋?」

「ハイイヌの魔石ですよ。

 家畜も少数ですが減ってしまいましたし、

 経営にも多少の影響が出るでしょう?

 何かの足しになればと思いまして、お渡ししておきます」


 牧場経営というのは家畜がいないと経営出来ない。

 鶏を取り扱う畜場経営は鳥インフルエンザが出れば倒産するし、

 地震が起きた地域では、幾つもの牧場が経営破綻したという話も聞く。

 特に聞いた話でひどかったのが、

 牛舎倒壊→近くの牧場へ避難→搾乳方法が違って機械に牛を入れるのに8時間

 →飼い葉を貯蔵するサイロ倒壊→飼い葉を提供する会社から購入

 →水道停止→遠くへ水を買いに毎日行く事に

 →飼い葉提供会社倒壊と、

 散々な状況に陥るが、どこかで手を抜くと家畜が死ぬ。

 死ぬと周囲の牧場と同じく倒産するってことで奴隷のように、

 牧場で働く人々は死ぬ気で働く事となる。

 金があるに超した事はないし、

 孤児達の存在も後押ししてこの度手に入れたハイイヌ魔石は、

 牧場に寄付する事に決めていた。


「い、いいえ!頂けませんよっ!

 それは水無月さん達が倒した魔物の魔石なんです。

 助けて頂けて被害も最小限に出来ましたし、

 これ以上恵んで頂くわけには行きませんっ!」

「俺達は偶々到着した時に襲われていたから討伐しただけです。

 それは持ちつ持たれるというか、

 お礼は頂く約束をエンハネさんとしていますし、

 魔石にしても臨時報酬のようなもので、

 言ってしまえば我々冒険者はダンジョンに潜ればこのくらいはすぐ稼げます。

 ならば、いま必要な方々にお渡しするのは当然でしょう?」

「・・・はぁ」


 何か諦めたのか呆れたのか区別のつかないため息を吐かれてしまった。

 ただただ牧場の経営は大変という、

 漠然としたイメージの押しつけに過ぎないと理解はしているが、

 その牧場の経営と孤児達の保護を両立している彼らを、

 純粋に応援したいという気持ちがあるのに嘘はない。


「貴方方は救世主なのですか?

 確かにホルスタウルスの子供が殺されてしまったことによって、

 親達はその悲しみからしばらく乳が出なくなるでしょう。

 次世代も少ないとなれば、しばらく金銭面で厳しいのは事実です。

 なので、今回はありがたく受け取っておきますが、

 今後は何か協力出来る事があれば頼ってください。

 私たちに出来る事はさせていただきます」

「そんなに重く受け取らないでくださいよ。

 無理矢理渡されたと思って頂いてもいい位なんですから。

 さぁ、次の補修に行きましょう」

「あ、ちょっと水無月さんっ!」


 渡した袋を腰に付けてからトーマーズさんは追いかけてくる。

 動物に比べて魔物は知能が高くなる為、

 こういった出来事にも心は傷つき、

 人間のようにずっと引きずってしまう個体も出てくるという。

 そうなると乳も出ない、食も細くなる、そのまま亡くなり、

 経営はさらに厳しくなる。

 魔物のそれを理解しているからこそ、

 トーマーズさんは魔石を受け取ってくれたのだ。

いつもお読みいただきありがとうございます

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