閑話休題 -09話-[水の国~風の国:ファルクルース関所]
アクアポッツォを出発して3週間と少し。
ようやっと関所へと辿り着いた。
「あぁ~休憩だぁ~!」
「速度上げすぎましたかね?」
「あいつは疲れたとか不満をすぐ口にするだけだから気にするな。
アルシェ、さっさと越えてしまうか?」
「いえ、受付が必要なので、
先にあちらの建物に行きましょう」
アルシェが指差す先には、
塔の様に高い建物が佇んでいた。
人の流動が激しい為か、
建物自体も大きく設計されて、
入り口と受付は広く作られていた。
「月にどのくらい出入りするんだ?」
「確か、数千から6万程度だったと・・・」
「思ったよりも多いな」
「観光に仕事、結婚など様々な理由で移動しますからね」
「あ、置いていかないでくださいよ-!」
『マリエルさんはだんだんとイメージがだらしなくなりますね』
『きがぬけてるんじゃないの~?』
最近地が出始めたマリエルの評価はさておき。
始めて見るいろんな人種が集っている光景は、
流石に受け入れるのに時間を要した。
だって、人と妖精と獣人がおり、
さらに妖精も獣人も種族というカテゴリが分かれるのだ。
「あ、あの人ドワーフですよ。山のエルフと言われています」
「なんとなく見た事のあるフォルムだわな」
「あちらは森のエルフと呼ばれるテレリ族ですね。
正確にはハーフエルフらしいですが」
「エルフって結構多種に渡るんだな。
海とかにもいるのか?」
『えっとね~、う゛ぁんやーるぞくだよ~』
「ヴァンヤール族?アクア良く知ってたな」
『べんきょうしたからね~!やくにたった~?』
「あぁ、ありがとうな」
ニッコリ笑顔でふわ~と俺に近付いてくるアクアの頭を撫でると、
嬉しそうに「わ~!」と撫でる手を両手で触ってくる。
アクアの可愛さのひとつは、
この離さないで~、もっと撫でて~、とアピールしてくる所だ。
「とはいえ、カエル妖精と同じく里を出られない種族も多いですから、
妖精族でも精霊に最も近い性質を持つハーフエルフと呼ばれる種は、
やはり特別ですね」
「じゃあ外で見る機会があるのはハーフエルフばかりってことか・・。
獣人はどうだ?」
「それなら知ってる~!
あっちが人狼族で、あの人は人猫ですよ!」
「馬鹿お前、指は差すな。さりげなく教えてくれ」
「師匠~、私も褒めてよぉ~」
「はいはい、ありがとうありがとう」
ガッシガッシとマリエルの頭も適当に撫でてやる。
最近は呼び名も安定してきて、
師匠か隊長かリーダーの3択に絞られてきた。
「なんかアクアちゃんと違う・・・」
「そりゃそうだ。
ちなみにアルシェとも違う」
「お兄さん・・・嬉しいです・・・」
『お父さまぁ・・!』
「もちろんクーも大事だぞぉ」
『・・っ♪』
ゴロゴロとクーに頭を擦り寄せられつつ雑談しつつ、
関所の受付へと近寄っていった。
窓口がいくつかあるのにそれぞれが結構な行列を形成しており、
種族に応じて対応が違うらしい。
「俺達も分かれるか?」
「え?私1人になっちゃうんですか?」
「いえ、事前に話は通っているはずですから問題ないかと。
誰か捕まえて私が来たと伝えれば良いと思います」
「みんな忙しそうだから声掛けづらいな・・・」
日本人は基本的に温厚で、
人の顔色を伺って行動をする。
時折自分を優先に動く人も居るけれど、
そういう人は周囲から浮いてしまい、内心で厚顔無恥と笑われているのだ。
「では、私が行って参ります」
『クーもついていきますね』
「2人で大丈夫か?」
「ここで働く人数はかなりいますから、
伝える事が出来れば別の担当が対応してくれるはずです」
「そういうもんか・・・。じゃあ2人とも頼むな」
「はい、行って参ります」
2人を見送り、周囲を見渡す。
乗り合い馬車は常時稼働していて、
1時間毎に2台続けて到着しているらしい。
ちょうど馬車が到着して乗り込む姿を見かけたが、
全員ギルドカードと別に何かカードを業者へ見せていた。
「アルシェ、あのカードは何だ?」
「え?あぁ、あれはパスカードですね。
どこに用事で来たのか、どのくらいの期間アスペラルダに滞在するのか、
許可をもらっているのか。
そういった情報が書き込まれているので、
関所と馬車では提示が必要なんです。
もし、偽物であったり受付を通っていなかった場合は、
駐在の兵士に連れて行かれる事となります」
「へぇ、パスカードねぇ」
所謂ひとつのパスポートと同じシステムが導入されているらしい。
異世界とはいえ、侵略目的以外であれば、
しっかりと管理された移動が必要になってくる。
商人は品物の売買、獣人や妖精は出稼ぎが多いとの事。
冒険者は滞在期間も長めに設定されているが、
永住するにも審査があり、ダンジョン攻略が長引けば、
一旦国元へ戻って再び許可をもらわなければならない。
出店もいくつか出ていたので、
メリー達を待つ間に見て回る事にした。
「あんまりお金余ってないからな」
『わかってる~』
「え~、リーダーなのにお金無いんですか?」
「お前・・・。
金を出してやるのはダンジョンがある町までだからな。
ダンジョンで稼げるようになったら以降は全部自腹だぞ」
「そんにゃ~・・・」
「マリエル、そこは当たり前でしょう。
私だってあまり好き勝手にお金を使えないんですから、
お兄さんがマリエルだけを贔屓出来るわけないでしょ」
『あくあもくーもあまりかってもらえないよ~?
ときどき、おでかけしたときにおかしとかかってもらえるくらい?』
まぁ、精霊達については実のところ結構お金は使っている。
身内という事で養う必要もあるし、
子供のうちから節約を意識し過ぎると、
大人になってもせせこましい人になってしまう。
だから、町を彷徨いた際などにお菓子とかは買ってあげる事にしている。
塵も積もればなんとやらだ。
「おっ!チーズの匂いがするな」
「くんくん・・・、あっちですかねぇ?」
「そうですね、あそこの女性が売っているお店からですね」
『いこういこう~!』
出店に着くと確かに人族の女性が店番をしていた。
チーズの他に何かの植物をすりつぶした粉、
その場で飲むタイプの乳も売っていた。
「こんにちわー」
「はい、いらっしゃいませ」
「この乳って何の乳ですか?」
「こちらはホルスタウルスの乳になります」
「アルシェ、解説を」
「えっとですね、私たちが飲料する乳はだいたい2種類に分かれていて、
ホルスタウルスという温厚で大きめの魔物から絞る乳か、
ホルスププクという中型の魔物から縛る乳のどちらかなんです。
時々、ホルスブルと呼ばれる凶暴な魔物の乳も出回りますが、
希少というわけではなくて、
それしか飲む乳がない地域という意味なんです」
「お嬢さん、物知りね。
うちの乳は自営の牧場で取れた乳だから、
取れたてで美味しいし安全ですよ」
「じゃあ、関所向こうの牧場で?」
「はい、そうですよ」
なるほどなぁ。
ここから国を超えて馬車に乗るなら受付が必要だけど、
物を売りに来るだけなら許可をもらう必要はないのか。
パスカードさえ持参しておけば、
国元へ戻るのも簡単なのか。
ここまで来るのに俺達でも3週間近くかかる距離を、
馬車なしで進もうとするのは自殺行為以外の何者でもないしな。
「関所を抜けたらお邪魔しようと思っていたんですよ」
「まぁ、そうだったんですね!宿泊ですか?」
「2~3日ほどですけどね。
周囲にブルププクが発生すると聞いて、
この子の教育に使おうかと思ってまして」
「まだ、若いように見えますけど・・・、大丈夫なんですか?
駆除してくれるのは助かるんですけど、
怪我をされては元もありません・・・」
「集団で行動するんですよね。
その辺は俺も怪我をさせるつもりはありませんから、
数は減らしてから戦わせますよ」
「そうなんですか?」
「お前・・・説明しただろうが・・・・」
マリエル自身にも教育行程は説明しているのに、
しっかりと理解をしないのは元の性格なのか、
それとも管理する俺を信頼してのことなのか・・・。
「とりあえず、今はその乳を3つ・・・、
アクア一本飲むか?」
『すこしのんでからでもい~い?』
「いいよ。じゃあ3つお願いします」
「かしこまりました、少々お待ちを」
乳の入った樽の下方に栓がされており、
コップをセットしてから栓を抜くと、
チョロチョロと中に詰まった乳が注がれる。
マリエルとアルシェに先に受け取らせ、
最後に俺が受け取る。
「いただきます」
「いただきま~す」
『いただきます』
各々が口を付けてゴクゴクと飲み干していく。
アクアは少し飲んでは味わっているのか、
テイスティングみたいな事を繰り返していた。
「美味しいですね!」
「うちで飲んでたのと違う気がします」
『みずのほうがすきかな~?』
「じゃあ、残りは飲んじまうな」
水精のアクアからすると、
水に近いほど美味しいと感じ、
他の素材が混ざる飲料はそこまで美味しいとは思わないらしい。
お茶も飲んではいたけど、
乳まで離れるとちょっと受け付けないみたい。
2人には好評で一気に飲み干してしまう。
「乳はカルシウムが豊富だから体に良いぞぉ~」
「そのカルシウムはどういう効果なんですか?」
「カルシウムは骨を強くしてくれる効果と、
イライラしづらくなるんだ」
「イライラ?」
「怒りやすいってこと。
ちょっとした事で騒がないし、
人に優しくなれるんだ。
アスペラルダなら魚も捕れるからカルシウムは良く摂取していただろうな。
たぶん他の国の人は多少アスペラルダに比べて怒りやすいと思うぞ」
「へぇ・・・隊長は物知りですねぇ」
『あくあもおこりやすくなる?』
「アクアも魚は食べてきたし大丈夫だよ」
胸が大きくなるかもとかは言わない方がいいかな?
最近はメリーが作り上げたブラジャーを胸部へ装備している。
なんで知ってるか?メリーが報告してくるからだよ?
「ご主人様、ただいま戻りました」
『戻りました』
「お帰り2人とも、お姉さん追加で2つお願いします」
「はーい」
2人が飲みきるのを待ってから報告を聞く事にする。
その前に・・・。
「その娘は?」
「何故かついてきまして・・・」
『喋ってくれないんですよ・・・』
メリーにというよりはクーに懐いているのか、
ふわりと浮いているクーの裾を掴んで離さない様子。
もう一つの手には何か植物を掴んでいて、
どこかで見たと思ったら、知っている植物のミニマム版だった。
「これトウキビかな?」
「こちらはフラクルと呼ばれる野菜でございます。
魔物の餌になる他、人も食せる万能野菜ですね」
「もしかして牧場の娘?
すみません、もしかしてこの子の知り合いですか?」
「え?あっ!メイフェル!
なんでここにいるのっ!?お留守番してたんじゃないのっ!?」
どうやら保護者で間違いはなかったようで、
牧場は労働力とする代わりに孤児を数名保護していて、
孤児院も兼ねているらしい。
その内の1人がこのメイフェルちゃん6歳で、
種族は頭に生える羊のようなグルグル角でわかるように、
メークル族の女の子で、保護者の女性はクシャトラさんという事が判明した。
メイフェルちゃんは商人へ卸す分のフラクルを食べたかったから、
荷物に紛れ一緒に関所まで移動してきて、
ちょうど自分のフラクルを確保してほくほく顔で歩いていた時に、
クーを見つけて捕まえたらしい。
「クシャトラさんはどのくらいこちらに滞在されるんですか?」
「私は今日一日関所で商品を売り切れば牧場に引き上げる予定です」
「なら、それまで待ちましょうか?」
「いえ、皆さんも予定があるでしょうし、
先に牧場へ行かれてください。
牧場には5組の家族が住んでいますから、
私の客だと言えば宿泊所へ案内してくれます」
『あの・・・メイフェルちゃんはどうされますか?
その・・・離してくれないのですが・・・』
「よろしければ牧場までこちらで連れて行きましょうか?」
「アルシェ・・・、どこに行ってたんだ?」
「担当が来たので対応してきました。
パスカードは受け取りましたので、
私たちはすぐに関所を越える事が出来ますよ」
ちょっと目を離した隙にアルシェは関所の担当者と話を付け、
全員分のパスカードを受け取ってきていた。
メリーもさりげなく一緒に離れていたようで、
遅れて俺の側に来る。
「連れて行ってもらえるのであれば助かります。
ご迷惑でなければお願いしたいくらいですけど、
よろしいんですか?」
「こちらは牧場に寄る予定でしたので問題はありません。
しかし、そんな簡単に私たちを信用して良いのですか?」
俺としてもそこが気にはなっていた。
孤児院という特別な施設を兼ねた牧場経営者が、
果たして孤児の1人を出会ったばかりの人に委ねるだろうか?
ただ、クシャトラさんの瞳からは悪感情も心配も感じない。
「詳しい事は話せませんが、
メイフェルは心に傷を負って以来、人を警戒しています。
でも、獣人由来の本能で安全な人は見抜けるようで、
時々出会ったばかりの人でもこうして懐く事があるんですよ」
「・・・お兄さん、どうしますか?」
「保護者も良いと言っているし、
離れないなら連れて行くしかないだろ。
本当にいいんですね?」
「はい、よろしくお願いします。
おそらくいま牧場でも、
メイフェルがいなくなったと騒ぎになっていると思います。
なので、早めに帰らせて皆を安心させたいという理由もありますので」
「わかりました。
では、少しの間メイフェルちゃんはお預かりします。
牧場までは馬車でどのくらいでしたか?」
「20分後の馬車に乗れば2時間ほどで到着出来ます」
「メリー、どうだ?」
「我々であれば1時間も掛からないかと」
「よし、じゃあ出発するとしよう」
「え、えっと・・どういう意味でしょうかっ!?」
クシャトラさんが慌てたように俺達に声を掛けてくる。
馬車を利用しないような発言に驚いたらしく、
自分たちが馬車を利用しないで旅をしている事を説明する。
「はぁ・・・そんな魔法があるなんて知りませんでした。
だからすぐに出発しようとしていたんですね」
「説明不足で申し訳ない」
「いえ、いいんです。
そういうことなら行かれてください。
重ねてメイフェルをよろしくお願いします」
「はい、まかせてください」
こうして、目的地の牧場へ向けて出発する事となった。
関所もアルシェのおかげですんなりと通る事も出来るし、
陽がくれる前にさっさと到着しておこう。
いつもお読みいただきありがとうございます




