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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第04章 -王都アスペラルダ編Ⅱ-
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†第4章† -04話-[実力テスト大将戦]

 悠然とした動きで日本刀を持ち上げて構えるアセンスィア卿の構えは、

 俺の世界で見た事がある、とある姿に似ていた。


「次元流のとんぼの構え?」


 あれって確かもっと近距離の5m程度が効果範囲のイメージなんだが、

 今の距離は30mくらいだけど、届くって事?

 俺も確かな構えを覚えているわけじゃないから、

 実質別物と考えた方が良いだろうなぁ・・・。


「俺の魔法剣は攻撃一辺倒で防御技はないんだぞ・・・」


 とにかく初撃は最速の攻撃である可能性が高い。

 フィリップ将軍がイカレタ防御力を持っていたことを考えれば、

 日本刀の切断力ととんぼの構えの爆発力。

 これを考慮した場合、

 アセンスィア卿は逆にイカレタ攻撃力も持っている可能性が高い。


 あちらも集中力を高めているように、

 俺のアイスピックも魔力を増幅して良い感じに冷気が漏れ始めている。下がっていた審判が戦闘開始の火蓋を切る為に手をあげる。


「《氷結加速(ひょうけつかそく)》」


 とにかく避ける事。

 初撃に当たればそのまま終わる可能性は十二分にあり得る。

 予想でしかない攻撃力に怯えていて端から見ればダサイかもしれないが、

 それだけ将軍というのは別格の化け物なのだ。

 あぁ~嫌だなぁ・・・。


 振るとシャンシャンと綺麗な風切り音を鳴らす相棒を構え、

 覚悟を決める。

 どんな動きをするか、どんな剣速か、

 どんな攻撃力か、どんな隙があるか見極めてやる。


「模擬大将戦!始めっ!!!」


 火蓋が切られた瞬間に爆発音が発生した。

 そして、いま、目の前には刀を振り上げている卿の姿が映っている。視界の端にはアセンスィア卿が刀を構えていた場所が、

 大規模な土煙を起こしている様がチラつく。


「縮地っ!?」


 冗談じゃない!!

 もっと理解が出来る認識の出来る範囲の接近だと期待をしていたのに、

 この人真剣(マジ)で模擬戦に挑んでやがる!!


 ゾクッ!

「・・っ!」


 半身を必死に下げて回避行動を取るが、

 一瞬の遅れにより、左腕に装備していたアイアンシールドの縁を掠る。

 カラァァンッ!

 掠った所が斬り飛ばされた!


「くっそ!」


 振り切った状態の卿へ向けて斬り付ける為に氷剣を振るうが、

 刀の返りもこの人は速かった。

 カラァァンッ!

 氷剣の半分から上を斬り飛ばして、

 ついでに俺も斬り飛ばそうと再び切り返してきた刀を飛び退いて回避する。


 この一連の流れにより、

 俺とアセンスィア卿との差が明確に理解させられた。

 まず武器のランクが違いすぎる。

 元のカテゴリが片手剣と両手剣という違いもあるが、

 武器自体の硬度の差もひどいものだ。

 加えてステータスの差と技術の差。

 これによって剣を交えることは不可能で、

 正面から接触すれば先ほどと同じく斬り飛ばされ、

 パリィしようにも剣速が速すぎて俺には対応が出来ない。

 そして、あの縮地法がどの程度気軽に出せるものなのか、だ・・・。


「俺が避けられなかったら死んでませんか?」

「・・・避けた」


 結果論じゃねえか!

 っていうか、最大の問題点はアイアンシールドが斬り飛ばされた事だ。

 基本的には防具と呼ばれる装備品は浮遊精霊を纏っている状態であれば、

 傷が付いたりはしても、

 それは摩耗していくという意味合いを持つのだが、

 盾が斬り飛ばされたという事は卿の攻撃力が、

 浮遊精霊の鎧を抜けるほどの威力を持っていると言う事。

 つまり、俺を殺す事も出来るし、腕を斬り飛ばす事も出来るという事。

 先の2回行った模擬戦を観戦して滾っているのかも知れないが、

 これが模擬戦だとちゃんと理性を保てているのか甚だ不安だ。


「《氷結融解(ひょうけつゆうかい)》《流水加速(りゅうすいかそく)》」


 流石に通常攻撃に浮遊精霊を抜くほどの攻撃力はないと信じて、

 ここまで近付かれたのであれば一太刀くらいはお返しをしたい!

 相手の剣を通り抜ける水剣なら斬り飛ばされても刀身が欠ける事なく攻撃を継続出来る。


 なんて思っていた時期が私にもありました!


「っ!ふっ!はっ!くっ!ふっ!」


 攻撃出来るタイミングが見つからないっての!

 剣速が卿の方が速いから、必死に避けるのが精一杯!

 剣に意識を割くなんてことをしたら、速攻で傷物にされちゃうよ!



 * * * * *

「う~ん、厳しいですねぇ」

「有効な攻撃が見当たりませんし、流れを変えたいところですね」

『武器を斬るってすごい攻撃力ですね』

「えっと、どなたも水無月殿を心配しないのですか?」

「心配はしてますよ?

 でも、まだ始まったばかりですし、

 お兄さんも私たちじゃ見切れない剣筋も、

 しっかり見て避けていますから」

『まほうけんもつかってないもんね!』



 * * * * *

「いっぽ、うっ!的す、ぎてっ!おっ、もっ、しっ、ろくっ!

 ないんっじゃn!ないんっ!ないですかっ!?」

「・・・こうも避けられると面白い」


 くっそこの親父!でも俺は面白くないんですよっ!

 一旦っ!一旦ブレイクしましょうよっ!

 攻撃はHIT出来なくとも、もうちょっと善戦するチャンスがほしい!


「・・・何かあるなら・・・一度離れようか?」

「おねっ!おっ!おねがぃ~っ!いしまっす!!」

「・・・了解した」


 言うとさっさと3歩で距離を取り、

 再びとんぼの構えのような構えをなされる。

 アセンスィア卿はブレイクを理由に一刀両断の再チャレンジを目論んだようだ。


「くっ・・・はぁあああああああ、

 はぁ、はぁはぁ、す~~・・・っ!」


 とりあえず、いま俺がやるべき事の順位付ける。

 1.息を整える

 詠唱もままならない程に息が乱れまくりなので、

 大きく息を吸い込み、すぐに吐き出さずに息を止める。

 意識としては、心臓への供給を止める事で動きをゆっくりにシフトさせる。

 例えば逆に心臓のテンポを上げる為には、

 息を短い間隔で吸って吐くを繰り返せばどんどん動きは加速するのだ。数度ゆっくり息を吸って3秒ほど止めてゆっくり吐くを繰り返し、

 息を急速に整える。


 2.剣の強化

「追加武装:《アイシクルエッジ!》セット:アイスピック!」


 足下に通常のアイシクルエッジが出現した直後に、

 水剣状態のアイスピックの剣身に纏わり付いていく。

 水剣を芯に据えたまま、

 両手剣の様な剣幅へと氷がその姿を変えていく。

 見た目だけであればタンバニア副将が持っていたクイックブレードに似ている。

 逆V字の複合剣へと変化して内蔵魔力の供給も開始され、

 意識的に氷の密度を俺に出来る限界まで引き上げていく。


 3.打ち払えるようにイメージと動きを符合させる

 あの刀を捌くイメージをしながら、

 実際に氷水剣を振るう。

 練習もしていたけど、あの刀を受けるのは初めての事。

 剣の重みと剣速を計算して数度振るう。

 先ほどまで命がけの回避を繰り返した事で、

 集中力は極限まで上がっており、おかげで剣速に慣れた。

 再び数度剣を振るってから構えを取る。


「よっし!もういっちょ行ってみよう!」

「・・・行くぞ」


 自分に言った言葉にアセンスィア卿が反応を返してくる。

 そして、宣言通りに爆発を置き去りにして、

 再び眼前に瞬間移動してくる卿の動きはしっかり捕らえていた。

 しかしながら、この一刀だけは視認出来ない速さで振り切られる為、

 眼前に移動したと認識した瞬間に半身を同じように引・・・っ!

 引くだけじゃダメだっ!刀身が・・・方向が微妙にさっきと違うっ!

 動き出すタイミングの遅れはない、

 刀身方向への反応も遅くなかった、

 なら、あと出来る事は全力で回避をするだけっ!!!


「うおおおおおおお!!」



 * * * * *

「どおおおおおいうううううううことだあああああああ!!!???

 優勢に攻めていたバイカル将軍が突如離れたああああああ!!

 劣勢だった水無月選手に塩を送ったということなのかあああああ!!??」

「どうなんですか、フランシカ?」

「確かに水無月殿は劣勢でしたが、

 実際にはまだ一太刀もHITしていません。

 でも、ほら。

 将軍はまた集中を始めて、水無月殿も剣を変化させました。

 どちらかといえば、小手調べが終わって仕切り直したという事では?」

『そう見えなくもないですけど』

「ご主人様の一閃がまだ出ていないのは、

 どういうことでしょうか?」

『けんをふれなかったからしかたないよ~』

「ここからですね、頑張ってお兄さん!」



 * * * * *

 体は!?腕は!?無事か!?

 生きた心地のしなかったあの高速の一太刀を避けられたか?

 アセンスィア卿の威力を物語る土煙の中で、

 指を動かし首を回し体を揺らす。

 特に失われた部位はなさそうで安心した。

 正直半身下げるだけじゃ避けきれないと分かった瞬間に、

 脳裏に浮かんだのは真っ二つの2文字だった。

 あの時聞こえた言葉が確かならば、俺は卿に逃がされたらしい。


 ヒュンッ!

「っ!!」


 ギギギィィィィィジャイィィィィンッ!!

「・・・反応はいいな」

「そりゃあどうも!」


 土煙で見えない状態はお互い様であったが、

 そんな事を露にも気にせず刀を俺がいる方向へと振るってきた。

 卿は当たればラッキー程度かも知れないけど、

 こっちは捌くか回避をしないと斬られちゃう恐れがあるんだよぉ!

 刀が起こす風の乱れにより位置と角度を把握して素早く剣を添えたが、

 アセンスィア卿の刀パリィ初手としてはまずまずかと。

 表面は少々削れてしまったが、しっかりと受けきらずに受け流す事が出来た。

 その一刀で土煙は爆散し、

 観客達にも俺達の姿を再びお目見えする。


 パリィ直後に距離を開けて氷水剣を構える。

 削れて失われた氷の刃はすでに修復されており、

 一部の欠けも存在していない。


「《水竜一閃!》」


 近距離で放たれる一閃は範囲も狭く、

 全面HITさせれば流石の将軍にも効果があるだろう。

 一歩離れた距離から放った理由としては、

 アセンスィア卿の方が剣速が速いので、

 同時に振り始めても斬り捨てられるのがオチだからだ。

 一閃はHITしたと考えてさらに一歩飛び退りつつ・・・。


「《水竜一閃!》」


 ここで始めてチラ見すると、

 卿は正面から刀で一閃と鬩ぎ合っていた。

 威力の凝縮した水竜一閃は切断力のある魔力の塊だ。

 卿が俺の氷剣を叩き切ったように振るった刀を受け止めたのであれば、

 十分に上出来な威力と言えよう。


「はぁあああ!!!」


 ついに1本目を切断した卿の元へ2本目が迫る。

 もちろん振り抜いた状態の為、

 さきほどと同じような威力は期待出来ない。

 刀という刃物といえど、

 所詮は鉄の塊で、重さと切断力を兼ね合わせた武器であるからして、

 見た目がかっこいいだけで斧と大して変わらない鈍器だもの。

 上から振り下ろすが基本で、

 刺す事が出来るように進化した斧のような物だwww


 それでも、直撃だけは防ごうと刀を縦に持ち上げて、

 一閃とぶつかる。

 再び一閃との鬩ぎ合いを演出する卿の、

 流石にタフ過ぎる姿にドン引きしつつ追加で一閃を放つ。


「《水竜一閃!》」


 合計二閃は無理だったのか、

 徐々に後ろに押され始める。

 一閃の接近速度は速い為、今更左右や下に避ける事も出来ず、

 アセンスィア卿はジリジリと後退を余儀なくされた。

 でも、俺は油断しない!ずっと俺のターン!!


「《水竜一閃!》」


 続けて放つだめ押しの三閃目。

 これにて卿との距離を離す事に成功する。

 いずれは、魔力の拡散が始まって消えてしまうけれど、

 とりあえず時間稼ぎとしては十分役に立ってくれた。

 まぁ、そんなに時間は掛けないけどね。

 次!行きまーす!!


「《水竜っ!・・・っ!》」


 風を纏いながら氷水剣を一回転させる。

 通常の一閃に風の制御を混ぜ込みながら、

 体にひねりを加えていく。

 混ぜ込みが弱いと対象に届く前に効果が弱まり、

 方々に力が逃げてしまい、

 強すぎると制御出来ずにあらぬ方向に流れてしまう。

 しっかりと風を制御して、違う属性同士を融合させ、

 新しい魔法剣を生み出す!


「《嵐閃(らんせん)!!》」



 * * * * *

「まさかっ!!まさかのまさかが起こったあああああ!!!

 土煙で見えなかったが、

 バイカル将軍の超接近をどうにか回避した水無月選手っ!!!

 怒濤の一閃二閃三閃が続きっ!

 距離が開いたバイカル将軍へ向けて、

 新たな魔法剣をぶっ放したあああああああ!!!」

「あれは・・・風と水・・渦?」

「姫様も初めて見るのですか?」

「そうですね。

 お兄さんは常に色々と考えて、

 私も知らない考えはかなりあると思います。

 そのうちのひとつでしょうけれど・・・、

 メリーとアクアちゃん達は知っていましたか?」

「私は知りませんでした」

『お父さまとは繋がりがあるので、

 多少は感づいていましたけど、

 実体は知らなかったです』

『あくあはしってたよ~。

 いつもますたーといっしょだったからねぇ~』



 * * * * *

 嵐と名付けてはいるけど、

 実物を見れば嵐ではなく木枯らしと思う事だろう。

 竜巻と言いたいところだけど、

 そこまでの規模はなく、

 本当に単体用の一閃といった感じだ。

 とはいえ使用魔力は大きく、

 対象に向かって小さな水竜一閃を大量に孕む小さな竜巻が、

 反撃の出来ないアセンスィア卿を一瞬で飲み込む。


「ぐあああああああああ!!!」


 野太い悲鳴が闘技場に木霊する。

 ようやく1撃を与える事が出来たのは嬉しいが、

 結局魔法剣有りきになってしまい、

 悲しい部分もある。

 卿を引き離すのに貢献していた三閃は、

 嵐閃と合流してその場で分裂して嵐閃の一部となる。


 補助魔法などは対象を選択するのに対し、

 攻撃魔法のほとんどは対象ではなく位置を指定する。

 ゲームで言えば、対象をターゲットにするを選ぶか、

 エリアをターゲットにするを選ぶかの違いだが、

 後者は明らかにテクニカルな事を要求されるから、

 結構練習しないと仲間に被害をだしてしまう。

 世の魔法使いは結構影で頑張ってるんですよ?


 対象を指定するのは風の中級魔法のウィンドブラストくらいか?

 あれは、風の弾丸を5つ対象に向けて飛ばす魔法で、

 端から見ると魔法使いの手から5つのレーザーで出ているように見えて、

 すっごいかっこいいのだ!


 そろそろ効果時間が切れる頃合いだ。

 ギリギリまでダメージを与える機会に与えてしまって、

 動きを止める狙いだ。

 刃を上に立てていつものように構える。

 右手の親指が肩に当たるのは、

 氷水剣が普段の水剣とも氷剣とも違って重いからだ。

 左手は刃に添えて横の一閃ではなく、縦の一閃を放つ!


「《氷竜一閃!》」


 エクス、カリバー!!!!

 と叫びたくなる魔力砲が嵐閃へと放たれる。

 地面も凍らせながら進んでいき、

 やがて嵐閃の渦へと到達し、すべてを凍てつかせていく。

 綺麗な氷のオブジェクトとなった元嵐閃inアセンスィア卿。

 いま、15分が経てば総合ポイント的に俺の勝利になるんだけども、

 まだまだ時間は有り余っている。


「・・・っ!」


 何かが聞こえた、と思った次の瞬間。

 氷のオブジェクトが砕け散り、

 その中心から俺に向かって何かが走り寄ってくる。

 何かをしたのはアセンスィア卿で間違いないけれど、

 本人が走っているわけではないらしい。

 よくわからないが、地面をめくりあげながら土煙が巻き上がる。

 そして結構な速度で俺に向かってきているソレは、

 魔法と見紛うほどの砲撃だった。


 慌てて地面にアイスピックを刺して、

 唯一無二の防御魔法を唱える。


「《氷柱舞(つららまい)!》」


 実は詠唱もいらないこの魔法は、

 この複合状態の時に地面に刺すと自動発動する魔法で、

 俺の正面にある地面から、

 まるでキノコのように氷柱が生えて俺を守ってくれる。

 つまり、格好付けているだけで俺自体は特に何も負担をしていない。


 幾重にも生えてきた氷柱は1本1本が逞しい太さを誇っており、

 簡単な魔法攻撃やブラックスケルトンの攻撃ですら耐えうる強度を持つ。

 その群集にぶつかった謎の砲撃はその進路を変えて右方向へと流れていく。

 しかし、その際に氷柱の隙間を縫って届いた強風により、

 その砲撃の正体を知る事となった。


「風?まさか・・・剣圧を飛ばしたのかっ!?」


 おーい、将軍異常すぎるだろ!

 剣圧で魔法剣の真似事してくるとか、

 俺の立場を考えろよマジで!!

 地面からアイスピックを抜けば氷柱群は姿を消す。

 次の攻撃に備えつつアセンスィア卿を確認すると、

 剣を振り切った状態、且つ、

 肩で息をしている姿であの場から動いていなかった。

 これは想像以上にダメージに繋がっている!

 アイスピックを軽く地面に触れさせてから上に振り抜く。


「《氷鮫の刃(ブレイドシャーク)!》」


 以前はアクアと一緒でないと使えなかった魔法である。

 これは複合でなくても氷剣であれば使用は可能なのだが、

 条件があって、地面を擦りながらヒレの高さまで剣を振り抜く必要がある。

 この動きをしないと魔法として発動してくれないのだ。

 まぁ、詠唱とか制御とか俺が負担する部分もない魔法剣ならではっぽくて、

 発動条件も結構気に入っている。


 発動シークエンスに則り発生した氷鮫の刃(ブレイドシャーク)は、

 動きの見られない卿に向かって全速前進で急接近していく。


「・・・ふんっ!」


 あわや当たるかと思われたその時。

 振り抜いたままの状態で動かなかった卿は突如機敏な動きで、

 迫り来る脅威を一刀の下に切り裂いた。

 残されたヒレがそのまま卿の股下を潜りぬけて姿を霧散させる。


 休憩していただけで、実際の所はピンピンしていたおっさんは、

 再び距離を殺す近接技の構えを取る。

 2度目でわざと外さないと避けられなかった俺に、

 何故3度目の挑戦をするのだろうかっ!?

 今度は自力で避けろとでも言うのだろうか・・・。


「その幻想をぶち壊す!

 《ヴァーンレイド!》」


 準備が完了する前に潰す事が出来れば、

 試すことも出来ないだろう!

 アセンスィア卿へ向けて放った炎の玉の後方へ付き、

 同じ速度で接近を始める。

 と同時に剣を持たない左手を吹き矢のように構えて、

 ヴァーンレイドへ向けて酸素を吹き込んでいく。

 撃った直後は全体的に赤いだけで中心が時々黄色く見えるだけの塊だったが、

 空気を吹き込んでかき混ぜる事により、

 顕著な色の違いが発生し、中心は完全に黄色へと変化した。

 さらに送り続けると近くにいるだけでも高温を肌で感じるようになった為、

 少し距離を開ける。

 短い時間で外炎は赤から黄色、黄色から青。

 内炎は赤から黄色、黄色から青、そして、青から薄い青になっていた。

 ヴァーンレイドの周辺はひどい陽炎が発生しており、

 俺からもあちらからもお互いが正確な位置を把握出来ないレベルであった。

 手間はかかるけれど、

 普通のヴァーンレイド程度では通常の斬撃で切り払われて終わりだ。

 この蒼いヴァーンレイドの仕事は3つあり、

 ひとつはアセンスィア卿が動き回れるくらいの体力が残っているか。

 ふたつはすでに卿も感じている熱量の危機へ対処をどうするのか。

 みっつはあわよくばこのまま終わってほしい。


 レベル差のある相手に全力で戦うとすぐ死んでしまうだろうから、

 かなり手加減というか技のレパートリーに制限を掛けていると思う。


 今まで見せた、とんぼ斬り(仮)と地烈斬(ちれつざん)(仮)しか、

 許可が下りていない可能性もある。

 あのヴァーンレイドを対処するならば、

 地烈斬か第3の技のどちらかだと思われる。

 どちらにしろ硬直時間が発生するので、

 その間にもう一回嵐閃を撃ち込めば勝てる見込みもあるだろう。


 なんて思っていた時間が俺にもありました。

 そのまま動かず当たるのかと思われたその時、

 アセンスィア卿が動き始めた。


 正面ではなく左手方向へ跳躍、

 ここで1度目の爆発と土煙が発生し、

 次に姿を表したのは元の位置からかなり離れた場所に現れた。

 とはいえ、認識が一瞬途切れたからかこちらをじっと見つめる時間があった。

 その間は1秒もなかったと思うし、

 卿は片足で着地している最中のように見えた。


 あ、もう1度飛ぶわ。

 そう思ったのは完全にカンではあったが、

 咄嗟に左の掌に書かれた文字を飲み込んで、

 集中力をブーストさせる。

 俺が編み出した闇魔法制御の文字魔法(ワードマジック)

 闇魔法の例に漏れず触れていなければ徐々に効果が落ちていく。

 だが、逆に言えば触れていれば発動を遅延させる事が出来るのだ。

 今回掌には「集中」と書いていたのだけど、

 人の字飲むように口に含んで飲み込めば発動する。

 効果内容は3秒間集中力が高くなる。

 具体的に言えば、

 いまから卿のもう1度の跳躍を経た先の斬撃を、

 通常よりもスローに見る事が出来る。


 1秒。

 予想通りに片足でさらに土煙をあげながら跳躍をして、

 今度こそ俺の正面に到達した。

 集中力爆上げ中の俺にすら、

 コマ抜けアニメのように見えるほどの速さで移動してきた卿。

 足下を砕きながら俺の前で停止した時には、

 構えをしっかりと取れている。

 2秒。

 そのまま一息のうちに俺へと刀を振り下ろしてくるが、

 軸となる足が違うからか2刀目にはほど遠く、

 1刀目よりもさらに速さが足りていない動きがありありと見えた。

 3秒。

 そっと氷水剣を刀の動きに合わせて添える。

 当然認識が出来るようになっただけで、

 俺自身の動きが良くなるわけではないけれど、

 ここまで落ちたならば捌く事も可能と判断して、

 最後の一矢を報いる為に攻める!


 シャイイイィィィィィィィィィィィンンンンンッ・・・・・!!!

 体をひねりながら弾く刀の行方も確認せずに、

 そのまま回転を加えながら氷水剣を持つ右手に左手を添えて、

 遠心力で少々大振りになってしまったが、

 意表を突いたパリィ込みならば防がれないはず。

 今度は俺からアセンスィア卿へ縦振りの剣技をお返しする!


「《氷竜・・一閃っ!!》」


 ほぼゼロ距離から鎧を斬り付けながらの氷竜一閃。

 密度の厚い氷が正面に張り付いて動きを止め、

 密度の薄い氷が後方へと広がって、

 芸術的な氷の翼のように卿の背後から生えていた。


「そこまでっ!!」


 ゼロ距離氷竜を斬り込み終わるのとタイムアップはほとんど同時であった。


「はぁ・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・・見事だ」

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・アセンスィア卿こそ化け物ですね・・はぁ」


 すぐさま俺と卿の元へ審判をしていた将軍が駆け寄ってきて、

 ダメージ状態から勝者を判断する。

 とはいえ、体力的に見ればアセンスィア卿の方がダメージを負っているが、

 精神的には俺の方がダメージが大きい。

 俺の場合は文字魔法(ワードマジック)でブーストした集中力が原因で、

 特に頭痛がひどく、立っているのがやっとだ。

 つまり、卿と俺を追い詰めたのは俺になるんだから、

 勝ちは俺で良いよな!ワッハッハ!

 んなわけねーw

 負けでも引き分けでもいいから、早く休ませてほしいです。


「勝者無し!大将戦は引き分けとする!!

 健闘した2人へ賞賛の拍手をお願いしたい!!!」


 ワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 観客のスタンディングオベーションに申し訳程度の対応をしつつ、

 魔法剣と氷竜と未だに燃え続けて地面を真っ赤にしている蒼いヴァーンレイドを解除する。


「《解除(パージ)》」


 解放されたアセンスィア卿は審判をしていた将軍が支え、

 俺はとりあえずじっと耐えて立っているだけだった。

 少し時間が経てば解説席からフランシカ副将とアルシェ達が駆け下りてきて、

 俺達の元へとそれぞれ寄ってくる。


「おつかれさまでした、お兄さん」

「ご主人様・・・顔色が・・・」

「すまん・・・もう無理だ」


 左手の平に[眠]と書いて口に含む。

 意識があるとどうしても頭痛に苦しむから、

 体は仲間に預けて意識を手放す事を選択した。

 実際、薬の文化もあるけれど、

 俺達の世界ほど進んでいないからどれもすんごく苦いのだ。

 そんな苦い薬を飲むくらいなら少しの間休む事を選ぶね!


「あっ!もう・・・」

「姫様、何でしたら私が運びますよ?」

「あぁ、大丈夫ですよ。

 お兄さんはこっちで運びますから、

 後始末をお願いします」

「はっ!」

『ますたー、がんばったねぇ~』

『使うつもりはなかったのでしょうけど、

 最後のアレでは使っても仕方なかったですね』

「メリー、手伝ってください」

「はい、姫様」

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