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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第04章 -王都アスペラルダ編Ⅱ-
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†第4章† -01話-[ただいま、アスペラルダ]

『・・・っ!ずずっ・・・ますたー、おきて~』

「ん、あぁ・・・、着いたか・・ふぁ~~ああぁぁぁぁ」


 時間はおよそ20時を少し過ぎ、

 アクアに起こされて俺も目を覚ます。

 アクアポッツォでスィーネに見送られながら出発し、

 予想では6時間~6時間半で着くと思われ、

 アインスさん経由で俺達が、

 今日の今頃に到着するという事は伝えてもらっている。

 つまり、意図を理解しているとすれば、

 登城してすぐに会議が開かれることも予想された。

 だから、今のうちに仮眠を取っておこうと提案して、

 皆で移動中に眠っていたというわけだ。


「アルシェ、メリー。着いたぞ」


 いつの間にか俺の胸の中にいたアルシェと、

 そばで寝ていたメリーにも声を掛けて、

 アスペラルダに到着したことを告げる。


『くー、おきて。ついたよ~』

『んん、く、ぁぁぁぁぁぁぁあああ・・・・』


 隣で寝ていたクーもアクアに起こされて大きなあくびをしている。


「ん・・、お兄さん?」

「アスペラルダに着いたぞ。

 身支度を整えろ、すぐに陸に上がるぞ」

「はぁーい」

「姫様の身支度は私が」

「あぁ、頼む。アクア、クー。おいで」

『あい』『はい』


 アクアに作り出してもらったアクアボールで顔を洗い、

 3人で目を覚ます。

 あちらも身だしなみを整えて、

 メリーがマントを取り出してアルシェに装備させている。

 あれってフィリップ将軍がくれた、

 アスペラルダの紋章が入ったというマントか・・・。


『さぁ、お父さまもこちらを』

「やっぱり俺もか」


 アルシェ達を見ているうちに、

 横でクーがマントを広げて待っていた。

 ちゃんとメイドをしているじゃないか、クー。


「頼む」

『はい、失礼しますね』



 * * * * *

 到着した水源先はアルシェもメリーも知っている町外れの泉であった。

 なんでも、子供の頃に何度か外へ遊びに出かけた折に、

 訪れたことがあるらしい。


「子供が町の外に出かけるんじゃないよ・・・」

「メリーも護衛も一緒でしたから」

『それでも一国の姫様が外に出られるのは危ないと思います』

「クーちゃんだって今は外にいるじゃない」

『私はお父さまが守ってくれますから』

「私も護衛がいたって言ったじゃないですかぁー!」


 ぎゃあぎゃあと騒がしく上陸した。

 この泉なら掘って広げる必要もなさそうだし、

 時間と手間が省けたな。


 城下町の外壁をぐるりと回って町の入り口へとやってきた。


「なっつかしいなぁ・・・」

「私も、見慣れているはずなのにすごく懐かしいです」

「いえ、姫様は城下町の門を見慣れてはいないはずです」

「・・・」

「あ、アルカンシェ様!無事にお戻りになられたのですね!」


 眼光鋭く怪しい奴を探していた城下町の門番が目聡くアルシェを発見した。

 第一村人に見つかってからは続々と町の中にいる町民が、

 ひと目アルシェを見ようと・・・、

 数ヶ月姿を消したアルシェをひと目見ようと、

 怒濤のように押し寄せてきた。


「皆さん、おひ・・「アルカンシェ様が帰ってきたぞぉぉぉ!!!」」

「もう世界は救われたも同然ね!お帰りなさい姫様!」

「あの、みなさ・・「俺にも見せてくれぇぇぇ!ひと目!ひと目でいいんだぁぁ!!」」


 なんだこの暑苦しさ・・・。

 アルシェ教の信者はやばいなぁ・・・。

 町中でならこの沸騰具合も多少理解できるけど、

 この場所はまだ城下町の外だということを忘れてはならない。

 俺達は目的地の城への通り道である城下町を通る必要があるのに、

 未だに城下町の門すら通れていない・・・。

 アルシェも挨拶したいが進みたい、

 でもみんなが自分を心配してくれていた事や、

 こうして自分を見に集まってくれる事が嬉しいらしい。


「どうしようか?」

「さっさと登城してしまった方が良いですね。

 私どもは影に入りますので城の入り口までお願いします」

「了解。クー」

『はい、《闇纏(マテリアライズ)!》』


 メリーはさりげなくワヤクチャにされているアルシェの背後を取り、

 いつでも影の中に沈められる準備を整える。


「『シンクロ!《闇精霊纏(エレメンタライズ)!》』」


 瞬間、アルシェとメリーが影へと消え、

 天狗(テング)で城下町の門上部へと閻手を伸ばし、

 頭にしがみつくアクアと共に俺達は空へと跳ね上がる。

 集まった町民の前線にいた者達は消えたアルシェの行方を捜し、

 その後ろにいた者達は前線のしゃがみ込んだ町民に驚き、

 さらにその後ろの町民達は空へ飛び立つ人型を自然と目で追ったが、

 門の上部をその人型が通り過ぎたところで姿を見失った。


「流石に影は消せないけど、姿は見られてないっぽい?」

『ですね。《隠遁(ハイド)》は成功しています』


 クーが新しく考案した隠遁(ハイド)は、

 移動式セーフティーフィールドも目指した魔法で、

 一応成功作にはなるのだが、そのチート効果からか、

 消費MPと効果時間に難がある。

 今回は全力ダッシュ&ジャンプで屋根の上を駆けて、

 城下町を突っ切る。

 下で動き回る人々を見るとなんとも懐かしくなり、

 世話になった宿屋を見かけた時は挨拶に行きたくもなったが、

 実際滞在中にいつでも出来ることと割り切って我慢する。


「城まで結構距離あったんだな」

『クーはあまり城下町での生活をしませんでしたから、

 よくわかりませんね。

 アスペラルダにいた時はずっとお城にいましたし』

「そうだったな。時間がある時に一緒に散歩しようか」

『はい!』

『あくあもいく~!』


 ようやく城門前に辿り着いたが、

 出来ればこちらの事情を知っている奴であれば助かるんだけど・・・。

 チラリ

「見たことない奴だ・・・、あいつら今はどこに配置されてんだよ」

『しらないこですね~』


 懐かしの愚かな友人2人を思いながら悪態をつく。

 あいつらが門番を継続していてくれれば話も早かったのに、

 今いる奴は初めて見る兵士だ。

 つまり、俺が滞在中にいなかった兵士達が戻っているということで、

 このままアルシェがいない状態で城に入るのは難しい。


『どうしましょうか?』

 〔私の部屋はどうですか?〕

「アルシェの部屋って、俺行ったことないぞ」

 〔私が手を振って、お兄さんが見上げていた部屋を覚えてますか?〕


 そう言われれば、始めて城を出た時にアルシェが見送ってくれたな。

 その時のベランダは・・・あそこか・・・。

 正面から少し左寄りのベランダ。

 あそこがアルシェがあの時いた部屋だな。


 〔鍵は掛かっていますが、クーちゃんの魔法で開けられませんか?〕

「時間的にも影だらけだし閻手で開けられそうだ」

 〔では、それで行きましょう〕

『飛びます』


 影になっている城壁に飛びつき、跳躍する。

 一度で飛び越えることは出来ないが、

 壁が影になっているのでそこから閻手を生やして足場として利用する。

 飛び越えた瞬間にさっと壁の内側に入る。

 影に入ってさえいれば隠遁(ハイド)の効果が上がるので、バレ難い。


「部屋はあそこだな」

『飛びますか?転移しますか?』

「飛ぶ時に影が映る可能性があるし、ここは転移しておこうか。

 あの距離はいけるのか?」

『影に潜っていけるところまで進みます。

 あの影まで行ければ転移で届く距離です』

「わかった、行くぞ」



 * * * * *

 その後は計画通り移動は進み、

 鍵もすんなりと開けることに成功した。


「よし、掴まれ」

「ありがとうございます、ご主人様」


 アルシェとメリーを影から引き上げ、

 とりあえず場内に侵入することが出来た。


「なんで潜入ごっこになってんだ・・・」

「騒ぎになると面倒なのでしょう?」

「今この城にいるほとんどの兵士は、

 アルシェ様が外に出ている事は知っていても、

 ご主人様の存在はよくわかってないですからね」

「最悪、勝手に話が進んで牢に入れられてしまうかもしれません」

「・・・・それは面倒だな」

『ですね』

『まほうでたおせばいい・・・』


 まぁ、ここまで来れば謁見の間も近いし、

 扉の前にいる誰かに声を掛ければ問題ないだろう。


「じゃあ、アルシェを先頭にさっさと王様達に会おう」

「はい」


 アルシェがガチャっと自分の部屋から出ると、

 そこには槍と剣を装備して穂先をこちらへ向けた兵士達で廊下がびっしりと埋まっていた。


「っ!?ひ、姫様っ!?どうしてここから!?」

「どうしても何もここは私の部屋ですが?」

「それは、そうですが・・・しかし、姫様・・・」

「いつまでアルシェ様の通行を邪魔しているのですか?

 今すぐ道を開けなさいっ!」

「は、はい!!」


 彼らからしたら自国の姫の自室から物音がして、

 警戒レベルを上げて外で様子を伺っているうちに、

 まさかまさかのアルシェが出てきたから混乱したんだろうな。

 そこにメリーの怒声で思考する意識も失ったんだな。

 ご愁傷様です。


「お、おい!お前は何だ!姫様に近づくんじゃない!」

「それ以上この方に余計な口を開けば、

 ご家族揃って国にいられなくなりますよ」

「いっ・・!!も、申し訳ございませんでした・・・」

「お前、本当にただの側仕えかぁ?

 あの怯えようと従順さがすごい気になるんだが・・」

「気にせずとも良いのです。

 先を急ぎましょう、ご主人様」

「ご」

「しゅ」

「じ」

「ん」

「さ」

「ま」

「!?」


 驚愕?の顔で壁に張り付いて道を開ける兵士達。

 ポルトーもそうだけど、なんでメリーを一目置いているんだよ。


「お兄さん、何してるんですか?行きますよ」

「はいはい」


 その後は余計な声を掛けてくる兵士達も居らず、

 しかし今まで見たことのない兵士達が廊下という廊下の端に寄って、

 俺を凝視するこの状況は正直居心地が悪すぎる。

 にっこり笑顔を浮かべてみるが、なんでか「アァ!?」って顔をされる。

 彼らには俺の笑顔が優越感に浸る男のドヤ顔に見えるのだろう。


 もう、諦めてアルシェとメリーのあとについて城内を進んでいくと、

 以前見たことのある廊下に出てきた。

 そこには見知った顔が何人か居り、

 俺に気づくと軽く手を振ってくれた。

 いやぁ、こういうのだよね!人の繋がり!素晴らしい!

 ただし、人の名前を覚えるのが苦手な俺は気の良い彼らの名前を思い出せないまま別れることとなった。バイバーイ!また会おう!


「着きましたね。お父様はいらっしゃるかしら?」

「はい、姫様。ギルドマスターのアインス様もご一緒でございます」

「おぉ、本物の姫みたいだな」

「正真正銘アスペラルダ王国の姫ですよ!」


 謁見の間の前に辿り着くと、

 アルシェは近くに待機している兵士へ確認を取る。

 中には王様だけじゃなくてアインスさんもいるらしい。

 なんか久しぶりにアルシェの姫様モードを見たので、

 ついつい言葉にしてしまった。

 謁見の間への扉が開かれると、

 奥の椅子に座る王様と王妃様が目に入った。


「元気そうで良かった」


 しかし、王の側にいるアインスさんの顔は少々強ばっており、

 周囲から俺に向かって視線をものすごく感じる。

 横目で左右を確認すると、

 3人1組(スリーマンセル)が3組と3組に分かれて存在した。

 つまり合計18人の視線をものすごく感じるのだ。

 そのうちの1組は見覚えのある顔をしていて、

 視線も品評するような不快さがない好意的な物であった。


「フィリップ将軍達か・・・って事はこの人達って・・」

「アスペラルダ王国の6将軍と副将の方々です」

「やっぱりかぁ・・・」

「敵ではありませんから、気にしないでください」


 とはいえ、少なくとも俺よりLev.30近く差もあり、

 年齢や経験も段違いの方と、

 数々の修羅場を越えたであろう副将達に見られるのは、

 否が応でも緊張感が高まる。

 短くも長くも感じた謁見の間を進み、ようやく王様の前まで辿り着いた。


「元気そうだなアルシェ、宗八(そうはち)、メリー。

 それから小さな精霊達よ」

「お久しぶりです、お父様、お母様」

「もったいないお言葉ありがとうございます」

「・・・」


 とりあえず、この場はアルシェとメリーに任せて、

 俺は黙礼だけに抑えておこう。


「さて、顔を上げよ!

 再会を喜びたいのは山々だが、先に聞かせてもらいたい話もある。

 大まかにはアインスより聞いておるが、詳しい話を聞かせてくれ」

「はっ!」

「では、諸君!会議室へ移動せよ!」

「「「「「「はっ!」」」」」」


 将軍(シックス)は大声で返事をして、

 マントを靡かせながら扉に近い順に謁見の間を出て行く。

 始めから会議室で待っていれば良かったんじゃ?

 最後に王に近い場所にいたフィリップ将軍達が、

 俺達の横を通る時に目配せをしてきた。

 再会を喜んでいるのは俺だけではなかったらしい。

 ひとまず笑顔と黙礼を返し、彼ら全員が出て行くのを待機して待つ。


「よく無事に帰ってきたなアルシェ。

 私たちによく顔を見せておくれ!」

「はい」

「あぁ、アルシェ・・本当に見違えましたね・・・」


 一旦戻る事は正解だったようだ。

 アルシェが・・いや、今のメンバーの誰が欠けても各町での騒動を納めることは出来なかっただろう。

 出来れば1週間程度でアクアポッツォに戻りたいとは思うが、

 やはりこの家族次第になりそうだな。


「宗八もよくぞ仕事を果たしてくれた。

 アスペラルダの王として礼を言う」

「いえ、自分から言い出したことですし、

 アルシェやメリー、それに精霊達にも助けてもらいましたから」

「話は伝わっているわ。スィーネとヴォジャですね」

「アインスさんが伝えたんですか?」

「いえ、私が伝える前から知っておられましたよ」

「水精連絡網ですか?」

「そのようなものよ」

「さて、時間は有限だ。

 会議の場にて説明をしてもらおうと思うが大丈夫だろうか?」

「はい、仮眠もしてきましたので大丈夫です」

「よし、では我々も向かうとしよう!」



 * * * * *

 場所は変わり、軍議を行うような部屋へとやって来た。

 上座には王が座り、王妃は謁見のまで分かれて私室へと戻られた。

 王様の左右には先ほどはいなかった品の良いお爺さんが2人座っており、

 大臣職の老人達のようだ。

 そこから先のように3組ずつ分かれて将軍が座っており、

 各将軍の背後には各副将の2人が配置されている。


 メリーは控えている侍女隊の列へと移動し、

 クーも何故かそちらへと移動している。

 俺の右隣にはアルシェとその胸にアクア、

 左隣には資料を集めて用意してくれたアインスさん。

 俺達3人の背後には大きめに用意してもらったボードがある。

 これで説明をするようだ。


「では、魔神族対策会議を行う!

 宗八よ、順に始めてくれ!」

「はっ!

 まず、今回の役目を仰せつかることとなりました、

 水無月(みなづき)宗八(そうはち)と申します、以後お見知りおきを」

「進行サポートをいたします、アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダです」

「同じく進行サポート。

 ギルドアスペラルダ支店ギルドマスター、アインス=ヴォロートです」


 パチパチパチパチ・・

 申し訳程度の拍手をもらい、会議を始める。


「始めて魔神族の存在を確認したのは、アスペラルダ闘技場でした。

 その時に彼らが使用したのはこの禍津核(まがつかく)

 禍津核にはいくつか種類があり、当時使用された物は、

 浮遊精霊5人を吸収してモンスターを生成するという物でした」


 各自の手元にはアインスさんにまとめてもらった資料が渡されており、

 俺の説明と手元を交互に見て話を聞いてくれている。


「生成されたのはランク4モンスター、キュクロプスの亜種。

 体はオリジナルより多少小さかったですが、

 不利になると魔法にて棍棒を精製しました。

 その際の対処法としては私が丁度、核を用いた精霊召喚・・、

 精霊加階を行っていた事もあり、

 モンスターを倒すよりも核の破壊が現実的という判断を下し、

 アルシェ姫、セリア先生、契約精霊アクア、

 救出した土の浮遊精霊ノイ、

 その場にいた有志の冒険者と共に倒すことが出来ました」

「質問をしても?」


 手を上げて発言した人物を手元の資料で確認する。

 エドモンド=ラッセル卿。

 将軍は皆多大な功績が評価され、2級貴族に値する為、

 呼ぶ時は将軍もしくは卿で対応するようにと書いてある。


「なんでしょうか、ラッセル卿」

「具体的にどのようにキュクロプスを倒したのか伺いたい」

「わかりました。

 まず、その場にいた者は冒険者も含めてLev.20前後しか居らず、

 武器で攻撃しても効果がないという情報をセリア先生からもらい、

 前衛に大盾で耐えてもらっているうちに、

 後衛が風魔法で倒す方法を取りました。

 しかし、浮遊精霊の力で削った先から修復されて、

 別の対策を取らざるを得ませんでした」

「その時お兄さん・・宗八が試そうと言った方法が、

 ヒートショックと呼ばれる現象です」


 立場と面子的にお兄さんではまずいと思いなおしたのか、

 アルシェはこの場では宗八と呼ぶことにしたらしい。

 俺の後に補足説明をするアルシェの話を聞いても、

 皆の顔を見るにヒートショック現象についての知識はないらしい。

 ちらりと資料の下部を見ると、

 在席する方々は水無月さんの正体を知っております。と書かれている。


「ヒートショック現象は、

 急激な温度差によって膨張が起こり物質が耐えきれずに割れる現象です。

 お分かりになりますか?」

「膨張という言葉はわからないが、

 現象としては、理解した」

「今はそれで十分です。

 その現象を利用してキュクロプスの核を露出させる計画に変更し、

 外郭を高熱で熱してから一気に冷やす方法を取りました。

 それが私が戦闘に用いていた魔法剣になります」


 実際にインベントリから一部欠けたイグニスソードと、

 カットラスを取り出す。


「条件などの説明は省きますが、

 このイグニスソードでキュクロプスの前面を熱してから、

 当時はショートソードを使って急激に冷やしました。

 そこでヒートショックが起こったタイミングで・・」

「私が魔法の槍で吶喊(とっかん)をして脆くなった外郭を砕きました。

 禍津核へは残念ながら届きませんでしたが露出は成功、

 準備していたセリア先生が、

 風魔法ソニックを使用した矢を放ちましたが威力不足で弾かれました」

『そこであくあがえんちゃんとをかけました!』


 いきなり喋り出すアクアに皆が驚きはしたが、

 まぁ話としては続けられるので、気を取り直して続ける。


「続けて用意した次弾は、

 アクアがエンチャントしてさらに強化された矢でした。

 これにより禍津核にヒット、砕くことは出来ませんでしたが、

 一部を削り取る事に成功しました」

「その砕けた部分から救出されたのが、

 土の浮遊精霊ノイティミル様です」


 アインスさんの合いの手が入り、

 一息ついた。


「核が一部とはいえ砕かれた事で不利を悟ったのか、

 キュクロプスはこの時点で棍棒を精製。

 前衛で頑張っていてくれた冒険者と兵士のポルトー=サンクスがここでリタイア。

 交代で私とノイがコンビを組んで前衛を勤めさせて頂きました」

「ふぅむ・・・。この時点で戦闘できるのは後衛も姫様達だけか・・。

 正直、良く倒せたものだと関心する」


 俺も良く倒せたものだと思います。

 今の発言は将軍の1人、オーラン=クエイサー卿。

 まだ若く見えるけど、あのフィリップ将軍と同い年らしい。

 アンチエイジングなのか童顔なのか後で教えてもらおう。


「それはノイの適正魔法が防御力アップと篭手の精製だったこと。

 それにより、ランク差のある敵でも短時間ではありますが、

 正面から戦うことが出来ました。

 あくまで私とノイの役割は時間稼ぎと棍棒の無力化でしたしね」

「宗八とノイちゃんの奮戦とセリア先生のサポートにより、

 キュクロプスの小指の破壊、

 それに伴い棍棒の握りが甘くなり後方へ弾く事が出来ました」

「小指の破壊にはアルシェ様のサポートもありました」


 自分の功績を忘れるアルシェの事も忘れず伝える。

 アルシェの方を向くと目が合い、お互いに微笑む。


「棍棒を弾き飛ばせたのは運が良かったと思いますが、

 その際に再度ヒートショックを起こし、

 アクアとアルシェ様が援護して強化されたセリア先生の矢で禍津核の破壊に成功しました」

「話してくれてありがとう。続きを頼む」

「はい。キュクロプスと我々が戦うその騒動の裏で、

 メリーとその他の素早い冒険者で哨戒をしてもらい、

 そこで魔神族の介入を知ることになります。

 彼女の持ち帰った情報のおかげで私たちは、

 彼らに注意を向けることが出来るようになったのです」

「もったいなきお言葉。ご主人様の指示が合ったおかげです」

「「「「「ご主人様っ!?」」」」」

「あのメリーがご主人様だと・・・っ!?」


 なんだなんだなんだ!?

 メリーがご主人様と言っただけで将軍達だけでなく、

 ずっと黙っていた副将の方達までざわめきだした。


「静まれ!それには宗八とアルシェのサポートを命じているのだ」

「は、はっ!」


 戸惑いながらもその場は落ち着く一同。

 嫌だ、うちのメイドは何者なのよ!

 おっさん達までざわつくなんて相当やべぇんじゃないか!?


「その後私は魔神族を警戒し、

 王都を出てこの世界に存在する違和感を探す事にしました」

「私は宗八が動きやすいように隠れ蓑として、

 そしてこの世界の一員として宗八に協力する為に着いていくことにしました」


 フィリップ将軍を含めた全員が、

 驚愕の顔でアルシェと王の顔を交互に見やる。

 姫がなぜそんな役を?なぜ危ない役を許したのか?

 そんな言葉が発せられているように見えた。


「実際、ポルタフォールでもアクアポッツォでも、

 アルシェ様がいなければ解決出来なかったと思います。

 皆さんが言いたいことは理解できますが、

 彼女はただ守られるだけの姫ではありません。

 国だけでなく世界を守る為に王都を出たのだと理解して頂きたい」

「・・・お兄さん」

「・・・」


 彼らとて国を守る為に各地へ行く戦士なのだ。

 アルシェの心意気をわかってくれたのか、

 まぁ納得はしていないが難しい顔をしたまま椅子に座り直してくれた。


「王都で闇精霊のクーデルカと契約をして、

 つぎにポルタフォールへ移動しました」

「その精霊は今いるのかね?」


 王様の側に座る大臣の1人が声を上げる。

 トライゼン財務大臣。

 国庫を預かる重鎮にして古参の1人。

 齢80を越えていて、日課は朝の散歩。

 え?最後の情報いりましたかアインスさん?


「あちらのメリーの後ろにいる小さなメイドがクーになります」

『皆様、お見知りおきを』


 俺の紹介に綺麗なカーテシーで答えるクー。

 爺さんになるまで生きていても闇精霊と会う機会が少ないのか、

 目を見開いてクーを凝視する。

 やめて!うちの娘を凝視するのやめて!


「ほうほう、以前見た時は子猫であったと思うがのう」

『加階をしまして、人型を取りましたので』

「そうかそうか・・」

「トライゼン、続けてもいいですか?」

「おぉすみませんな、続けてくだされ」

「ポルタフォールでは水量が減るという事態が発生しており、

 我々はその解決の為に動きました。

 先行していたセリア先生とノイと合流、

 途中でポルタフォールの水源を守る水精スィーネと出会い、

 その場にいた冒険者、町民と協力して事に当たりました」


 ようやくポルタフォールに話が移った所で、

 やはり将軍の1人が手を上げた。


「今度も概要は資料にて知っているが、詳しい話が聞きたい」


 彼はポラリス=アガート卿。

 一番年上の将軍で60歳近いのにいつまでも後進に譲らないらしい。

 フィリップ将軍ですらパブロ副将に近々譲るというのに!

 と手元の資料には記載がされてあった。

 別に頑張ってるんだからいいじゃん。

 俺にとっては他人事だもん・・・。


「わかりました、詳しくご説明いたします」

いつもお読みいただきありがとうございます

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