†第3章† -13話-[エピローグ]
「なんでお前らもいるんだ?」
「姫として話をしておいた方がいいかと思いまして」
当初は俺とマリエルだけで行こうかと思っていたのだが、
いざ朝起きて、リビングへと顔を出すと、
何故かアルシェとメリーも一緒になってスタンバイしていた。
「いや、いらないからまだ寝ていて良いぞ」
「では、私はこれで」
「ちょ、ちょっとメリー!寝室に戻ろうとしないでください!
今年はおそらくこれで最後になるので、私も挨拶をしておきたいんですよ」
「まぁ、そういう事ならいいけど・・・。
じゃあ、さっさと朝ご飯を食べてしまおう」
食事は早めの時間帯なのにベイカー氏もライラス君も付き合ってくれた。
この屋敷での最後の朝食になるので、
感謝の言葉を伝えつつ今後の予定も教えておく。
「では、こちらに戻られたとしてもすぐ出発されるのですか?」
「はい。戻りは一瞬ですので、朝に戻れば日中を移動に使えますので」
「アクアちゃん、クーデルカちゃん。僕のこと忘れないでくださいね」
『うん、おぼえておくよ~』
『お友達ですからね』
「次の町までは国境を通る影響でどうしても長距離になります。
馬車を使わないのであれば十分気をつけてください。
街道と違って国境の道はどうしても夜は物騒になってしまいやすいので」
「その辺は抜かりありませんから大丈夫ですよ」
「今回はお世話になりましたね、ベイカー」
「いえ、お役に立てて何よりでしたよ、姫様」
俺達が回ったアスペラルダ国内は、
全体の20%程度でしかない。
それだけで各町に魔神族の残す問題を発見することとなった。
本来であれば国内全域を巡りたいところだが、
そんなことをしている間に勇者が魔王を倒してしまい、
問題の洗い出しをし終わる前に帰還してしまう。
我が儘を言ってしまえば異世界人をもっと召喚してほしいところだ。
朝食と挨拶を終え、ベイカー邸を後にする。
どちらかといえば、こちらがメインイベントであり、
一番面倒になると思われる。
それを察しているからか、
朝から当人のマリエルは口数が極端に少ない。
「まぁ、一回は怒られると思うぞ」
「ですよねー・・・」
「黙って出てきたんだから仕方ないわよ。マリエルが悪いわ」
「俺もアルシェも謝るから気負いすぎるなよ」
「そうですよ、マリエル」
今日はタユタナの操舵する舟に乗りネシンフラ島へと向かう。
朝一番で乗せてもらい、舟の上でタユタナも交えて、
マリエルを勇気づける為の言葉を投げかける。
可愛い娘には旅をさせろとは言うが、
旅先が王城ともなれば話が違いすぎて、どうなるか見当も付かない。
危険がないとはいえ、心配は心配だろう。
島からほとんど出たことのない1人娘が遠く離れた地へ行こうというのだ、
お土産よろしくねと言える身内がどれほどいるだろうか。
「おはようございまーす」
「ハーイ・・・・あら、姫様に水無月さん?
こんな朝からどうされたんですか?」
「朝食前にカインズ氏とウルミナさんにお伝えすることがございまして。
お時間をいただけますか?食事の用意はメリーが引き継ぎますので」
「はぁ・・・まぁ、メリーさんなら安心して任せられるしいいですよ。
少し居間で待っていてくださいな」
「ありがとうございます」
村長邸にはすでに朝食の良い臭いが漂っており、
食べて膨らんだはずのお腹を刺激する。
丁度調理中だったウルミナさんに話を通してから、
言われたとおりに居間へと進む。
「・・・」
「ほれ、座れ。今回の主役はマリエルだからな」
「・・・はい」
「私たちは一歩後ろに座りましょうか」
メリーはすでに姿を消しており、
クーもそちらへついて行ったようだ。
アクアも遊びに行って、
マリエルを頂点に俺とアルシェで三角形を作り、
今か今かと2人の登場を待つ。
「おう。姫様、水無月さん待たせましたかぃ?」
「いえ、問題ないですよ」
「マリエルも久しぶりだな、大きくなったか?」
「・・・変わらないわよ」
「それで、お話って何かしら?」
特に怒っているようには見えないカインズ氏。
ウルミナさんが上手く回したのか、
それとも始めから許すつもりだったのか、
はたまた嵐の前の静けさか?
「まず、私たちは今日この町を出ることとなりましたので、
そのご挨拶に伺いました」
「そうですか、結構すぐに動いちまうんですね」
「もっとゆっくり観光してほしいところですけれど、
姫様もしないといけないことがお有りなのですよね」
「なので、お預かりしていたマリエルをお返しに参りました」
「勝手に付いていったんだ。姫様や水無月さんは気にすんな」
「ありがとうございます。そこでもう少しの間、
娘さんに経験を積ませてみませんか?」
「どういうことでぇ、水無月さん」
挨拶と返還を終えたが、問題はここから。
おそらく、マリエルから一言を加えない事には成功はない。
「俺達は風の国ではなく、一旦アスペラルダ王都へと戻ります。
あちらで数日過ごす間に、今度はマリエルを招待したいと思っています」
「・・・ほう」
ウルミナさんもカインズ氏もしっかりとこちらの言葉を聞いてくれる。
「俺としてはマリエルにはいずれ、
アルシェの近くで働いてくれればと思っています。
友人として、臣下として王女になったアルシェを支えられる存在になればと思っています」
何故か、アルシェもマリエルも俺の方をみてくる。
何かおかしな事を言っているわけではないはずだが?
「この貴重な機会にお嬢さんに、
外の世界を見せるのも勉強になるかと思いますがいかがですか?」
「・・・お前はどうしたいんだ?」
予想通りカインズ氏は俺との対話の途中で、
マリエルへと投げかけた。
「・・・私も行ってみたいと思ってる。
この数日姫様達について回ったけど、このまま島に戻っても、
今までと何も変わらないと思った。
何かを変えないとずっと私たちカエル妖精は、
閉じ込められたままになる。
少しの間だけでもいいの、行かせてください」
頭は下げない。
お願いではあるが、我が儘でもあり、甘えでもあり、
彼女なりの意地でもあるからだ。
彼女の言葉を聞いてから俺達は再び視線を目の前の2人に戻す。
「・・・私はいいわよ。水無月さんが守ってくれるのよね?」
「はい、必ず無事に連れ帰ってきます」
「お母さん・・・」
「約束だからな、水無月さん。後は頼むぞ」
「お任せください。その後は、彼女次第ですけどね」
「お父さん、行っていいの?」
「いずれは島に戻ってもらうが、
戻った時に俺達の未来を変えられるモノをかならず吸収して帰ってこい」
「???」
「お兄さん、どういうことですか?」
「聞いたとおりだ。今後はマリエルも俺達の仲間になる」
実は昨夜のうちにネシンフラ島へと上陸して、
事前に話は通しておいた。
彼らとてネシンフラ島を愛してはいるが、
離れられるものならば離れたいと思った事も1度や2度ではない。
今の生活はほとんど変化もなく、
変わり者が生まれてきたとしても、
外に出れば1年持たずに死んだという報告が聞こえてくるばかり。
しかし、今回は俺達が一緒という事も手伝って、
条件付きではあるがカインズ氏とウルミナさんに許可を頂いた。
「その条件が、マリエルから直接行きたいと聞くことだった。
おめでとうマリエル、そしてようこそアルシェ護衛隊へ」
「そうだったんですね・・・。ありがとうございました水無月さん。
今後ともよろしくお願いします」
「良かったねマリエル。お兄さんもありがとうございました」
「いや、お礼はまだ早い」
「「え?」」
「そうだな。
お前は外に出ても変化の力をコントロールする必要がある。
もしも大事な場面で変化が起こって皆さんを危険な目に遭わせる可能性は十分にある」
カインズ氏に聞いた話では、
カエル妖精が島の中で自在に変化したり、
水に触れてもカエルにならないのは精霊石と呼ばれる鉱石が、
ご神体として島に奉納されているからで、
その効能が変化のコントロールなのだそうだ。
外に出てから水に触れると強制的にカエルに変化してしまうのは、
その精霊石の効果範囲から外れている為。
つまり、外でもコントロール出来るように訓練する必要がある。
「というわけで、追加の条件としてアスペラルダへは連れて行けないんだ」
「・・・」
「お兄さん・・・これはひどいです」
「クエスト!自分の力をコントロール出来るようになれ!って感じ?」
「・・・か」
「か?」
「感謝して損しました!!お城に行けるって聞いたのに!
すっごい楽しみだったのにぃぃぃ!!!」
「これを乗り越えれば島の外どこでもいけるんだから、
今だけ我慢してコントロール出来るようになってくれ」
「ぐぬぬ」
「さぁ、マリエル。ヴォジャ様のところへ行きますよ」
「え、なんで?お母さん?」
「クリア条件が姫様達が戻ってくるまでに、
コントロール出来るようになる事だからよ。
ちなみにこの条件を出したのはおじいちゃんとヴォジャ様だから、
文句は2人に言ってねぇ」
「ひ、ひめさまぁあああああああ!!」
ウルミナさんに引きずられながら奥へと消えるマリエル。
その悲鳴にも似た絶叫が聞こえなくなるのを確認してから、
改めてカインズ氏にお礼を言う。
「こちらの我が儘を聞いて頂きありがとうございました」
「いやぁ、こっちもいずれどうにかしたいとは思っていたんだ。
でもな、仕事をしないと食っていけない、
しかし無理に外に出ても死ぬだけ。
なら、このチャンスに掛けようと思うのは当然だろ」
「昨夜聞いた話を良く了承しましたね」
「この島でマリエルは村長の孫という立場に縛られていましたから、
話を聞いた時は確かに驚きはしましたが、
これも運命だと受け入れました。
マリエルが俺達を変える事が出来なければ、
一生ネシンフラ島はこのままだという覚悟も出来ました」
いつの間にか戻ってきていたウルミナさんが答えて、
カインズ氏も頷いている。
流石は次期村長夫婦。
決断力があってくれてすごく助かった。
まぁ、守る対象が増えたとはいえ、
メリーも戦力に加わったパーティーなら問題なく守れるだろう。
おもむろにカインズ氏から両肩を捕まれる。
「絶対守ってくれよぉ、水無月さんよぉ!」
迫真の顔で迫り、肩に指は食い込み、
目を見開いてお願いしてくるカインズ氏にカクカクと首を縦に振るしか出来なかった。
用も済んだのでお暇しようとした所でご飯を誘われたが、
済ませている事を伝え、
マリエルへの伝言をカインズ氏とウルミナさんに頼む。
「迎えに来るまでの期間は1週間程度。
がんばれば連れて行ってやるから、とにかくがんばれ」
「一緒に旅が出来るのを楽しみにしています。
世界には知らないことがいっぱいありますから一緒に知っていきましょう」
「かならず、伝えておく」
「次は食事を食べて行かれてくださいね」
本来ならこのままアクアポッツォを後にする所だが、
最後にオベリスクのあった所を確認しておきたくて、
みんなを抱えて竜で大移動した。
* * * * *
「みんな、違和感はあるか?」
「いえ、私は特に・・・。
先日もすぐ影響があったのは魔法と精霊達と、
保持魔力の少ない魚や動物でしたし」
「どうですか?クーデルカ様、アクアーリィ様」
『問題ありませんね。この一帯の魔力は戻っています』
『からだもだるくないよ~。さかなはもどってるかな~?』
「確認してみるか。各人周囲で適当に魔法を使ってみてくれ」
以前休憩した所へ着地してから、みんなを方々へ散開させる。
アクアは真っ先に海の中へと飛び込んでいき、
アルシェはセイバーを出して魔力拡散が起こるのかを確認。
メリーとクーは森の中に入って独自に分析を始めた。
あまりのんびりしてもいられないので、
簡単に確認したらさっさと離れないといけない。
「《氷質を宿した大気を集め、我が願いを満たせ!アクアボール!》」
様子を見やすいようにピンポン玉程度の小ささで水を集め、
待機状態でオベリスクの建っていた場所へと近づいていく。
いまは半ばから折れているオベリスクの目の前まで近づいてみたが、
待機中のアクアボールに減りは確認できない。
風を受け止めつつ腕をゆっくりと振ってみるが、
特に違和感らしいものも感じない。
やはり、このオベリスクは機能を完全に停止しているという認識で良いようだ。
「折れてしばらくしたら再起動するとかじゃなくて良かった」
流石に世界の一部の魔力を多少薄くした程度では、
大した影響もなく大気中の魔力もすぐに回復するんだな。
大気中の魔力?・・・なるほど、そういうことか。
「《コール》パーティー」
ピリ・・
〔どうしました、お兄さん〕
「ビックリするくらい早いなアルシェ・・。
そろそろ出発するぞ、一回エクソダスで戻ってから水源に移動する」
〔わかりました〕
〔かしこまりました〕
〔あ~い!あ、さかなもどってたよ~!〕
〔わかりました。こちらも小動物の姿を確認しました〕
アクアとクーも他の生き物が戻っているのも確認できたし、
ひとまずの調査としてはこれでいいか。
あとでカティナにも報告の連絡をしておこう。
数点のオベリスクの欠片を拾っておき、
念のため自分のインベントリに入れる。
「じゃあ、戻るぞ。こっからはアクアポッツォも見納めだからな」
「はーい」
* * * * *
「その認識で間違いないと思う」
〔なかなか厄介な存在になって来たデスカラ〕
「いや、最初から厄介な連中だよ。
とりあえず、折った後から何かが起こることはないみたいだ」
〔リョウカイデース!お疲れさまデシタカラ!〕
「あとな、揺蕩う唄を2つ用意してほしい。
ひとつはヴォジャ様でもうひとつはマリエルって女の子で、
アルシェと同い年の娘だ」
〔わかりましたデスケドォ、いつ渡せば良いデスカァ?〕
「アスペラルダを出る前に、
ギルドにも寄るからアインスさんに渡しておいてくれ」
〔リョウカイデース!また何かあれば連絡してくださいデスカラネェ〕
「あぁ、じゃあな」
とりあえず、この地で出来る事はやれたかな?
俺とカティナの考えが当たっていたとすれば、
魔神族が出てこなかったのが引っかかるが・・・。
「お兄さん?」
「ん?いや、何でもない。
王様方にどう報告するか整理していた」
「そうですね・・・。どの情報がどう繋がるのか、
上手く話を進めないと理解をしては貰えないですし」
「まぁ、俺の仕事だからアルシェは読む予定の本でも選んでな」
「はい、頼りにしてますからね」
まだ繋がっていない情報もあるけれど、
現状一番の問題はオベリスクで間違いない。
魔力霧散と魔法生物への弱体化効果・・・。
「はぁ・・・マジで神の重力に似てて嫌になる」
アインスさんにも連絡は済ませたから、
情報をまとめてはくれていると思うけど、
昨夜わかった情報の確認が遅れたのが一番痛い失敗だ。
世の中何もかも上手くいくわけではないということが骨身に沁みた。
『ますたー、いくよ~?』
「あぁ、頼む」
『あい。《われ、みなづきそうはちのすいせいがねがう。
みずわくいずみへわれをいざなえ!》』
アクアの詠唱により、
俺達が整えた水源から湧いた水の膜が俺達を包み込み、
ゆっくりと水深6cmの水の中へと沈んでいく。
「今のところはアクアしかこれに干渉できないから、
ひとまずスィーネの所まで頼むな」
『あい!まかせて~!』
これにて本当にアクアポッツォを離れる。
アスペラルダで報告を終えたら、
とりあえず俺の仕事はひと休みとなるから、
王と王妃がアルシェとの再会、別れの感情次第で国を出る時期が変わる。
その間に出来る限りの対策と情報の整理をギルドと協力して行う必要もある。
考えれば考えるほど面倒だなぁと思ってしまうので、
極力協力者を頼るようにしよう。
ひとまずいまは、ポルタフォールまでの7時間の時間つぶしに全力を尽くそう。
いつもお読みいただきありがとうございます